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プロローグ

U.C.0079、宇宙コロニーサイド3がジオン公国を名乗って始まった戦争は、ジオン、連邦双方に甚大な被害をもたらしつつも、未だにおさまる気配もなく戦火は拡大の一途をたどった。

だが、ホワイトベース隊とガンダムの奮戦により壊滅の危機を脱した地球連邦はガンダムの後継機の開発をすすめ、いまここに新たなガンダム、「RX-79BC ブラックキャット」が完成した。

ジオンは新型MS完成の情報をキャッチし、これを破壊するために新型MSが保管されている連邦軍北米オークリー基地に工作部隊を送りこんだ。
時を同じくして、武功をたて昇進ばかりのパイロット、シン・ナガモンがオークリー基地に着任した。物語はここから始まる。
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北米随一の穀倉地帯のど真ん中にある基地のゲートには、任官されたばかりの士官達が集まってセキュリティチェックを待っていた。
誰も彼も皆鍛え抜かれた体格をほこり、制服の袖をまくりあげて遮るもののない日差しに太い腕を晒している。
かくいうわたしもまたそんな士官にまぎれて、誰と話すわけでもなく順番を待っていた。日差しが強い。
地面のコンクリートからの照り返しもキツい。じっとしていると暑さのことしか考えられない。わたしは話し相手を探して、周囲を見渡した。
どの士官も暑さに負けずに意欲むき出しの表情をしている。ご苦労なことだ。

戦争の形勢は徐々にではあるが連邦側に傾きつつあった。
これまで連邦はジオンのザクになすすべもなく叩かれ、国力で言えば30分の1に満たない相手に敗北直前にまで追い込まれた。
だが新兵器ガンダムの登場が流れを変えた。
ガンダムの一騎当千の活躍でMSの製造に自信をつけた連邦は、後継機と量産型の製造に乗り出していた。
もっとも新型機についてわたし達一般の士官が知っていることはごくわずかで、噂では新型機はこの基地にあるらしかったが、その性能はおろか正式名称すらわからなかった。

それはさておき、わたしは話し相手を見つけていた。気だるい暑さにもかかわらず、一人だけ凛とした涼しさを釀している人影があった。
後ろから見ても明らかに女性のそれとわかる、華奢ながら均整のとれた体つき、周りの男たちより頭ひとつ低い背丈。銀髪のロングヘアーで、連邦の制服を着ていなければとても軍人には見えない。
わたしは彼女の正面に回り込んで声をかけた。

「ねぇキミ、キミも新任の士官なの?」

うつむき気味だった彼女の視線がわたしをまっすぐ捉えたとき、彼女のあまりに綺麗な顔立ちにわたしは一瞬あっけにとられてしまった。淡い青と黄色のオッドアイがわたしを見つめていた。

「オレのことなら、答えはノーだ。昇進はしたが新任じゃない。お前は?」

男みたいな話し方をする。無理しているような印象を受けた。

「実はわたしも昇進したところ。良かった、仲間がいて。わたしは黒猫。よろしくね。」
「オレはシン・ナガモンだ。よろしく。」

右手で握手。シン・ナガモンのほうがわたしより10センチは背が高い。わたしは終止彼女を見上げて喋っていた。
出身や戦歴などききたいことはいろいろあったが、セキュリティチェックの順番が来てしまった。
簡単なチェックの後、二人で連れだってゲートをくぐった。偶然にも、わたし達の目的地は同じ格納庫だった。
こんなに早く同じ女性の士官と知り合いになれて、私は素直に嬉しかった。

† † † † † †

オレは自分より背の小さな女性士官と歩いていた。彼女はその名を黒猫という。ついさっき偶然に知り合い、目的地も偶然に一緒だ。
少女じみた口調と、何よりもその可愛らしい見た目のせいだろう、彼女はとても軍人には見えなかった。
オレ達の目的地、L-12格納庫には今時大戦の行方を左右しかねない代物が保管されている。彼女はそれを知っているのだろうか。
いや、そうは思えない。
だが、彼女もL-12格納庫に召集されたということは、オレはひょっとすると彼女と共に戦うことになるのかもしれない。

L-12格納庫は真新しい建物だった。閉じられている巨大な搬入口は、明らかにMSの出入りを想定しているのだろう。
オレ達は搬入口の横のある小さなドアから中に入っていった。
内部の照明は足元にわずかに光るだけで、ほとんど暗闇に近い。その暗闇の向こうから、聞きなれた声が聞こえてきた。

「お待ちしてました。ナガモン先輩。」
「乃人か。久しぶりだな」

薄明かりの中に、後輩の乃人の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。

「そちらの方は?」
「黒猫中尉だ。さっき知り合った。同じ部隊に配属らしい。」
「そうですか、自分は乃人准尉です。これからよろしく。」

乃人はそう言って一歩前に進み、黒猫に握手を求めた。それでようやく乃人の姿が多少ははっきりしてきた。

「こちらこそよろしく。ナガモン中尉とは知り合いなの?」
「あぁ、依然同じ部隊に所属していました。士官学校の先輩でもあります。」
「そういうことか。ところで、ここが真っ暗なのは?」
「最高機密ですからね、基地内の人間がうっかり見てしまっては困りますから。」
「乃人、説明は後回しにしてくれないか。オレははやく現物を見てみたい。」
「了解です。ではこちらへ。」

乃人はそう言ってくるりと振り返ると、暗闇のただ中へ向かって歩き出した。足下のわずかな灯りを頼りに、オレと黒猫も跡に続く。

「ここです。度肝をぬかれますよ!」

乃人は立ち止まってそう言うと、何かの端末を操作した。すると、真っ暗だった格納庫内が急に明るくなった。

「ッ!!」

黒猫が息を呑んだ。何があるか知っているオレですら、圧倒される心地がした。
目の前には高さが18メートルにもなる巨人が直立していた。

「これが・・・、ガンダムか。」
「その通り、RX-79[BC]、通称BlackCatガンダムです。」

RX-79[BC]、BlackCatガンダム。RX-78の細身で流れるようなボディラインとは異なり、BlackCatのそれからはかなりがっしりとした印象を受ける。
機体はその名の通り全体に黒っぽく塗装されており、頭部の黄色いV字アンテナだけが妙に目立っている。

「それで?」

呆然と立ちつくしていた黒猫が、不意に口を開いた。

「誰がのるのかな?」

同刻、オークリー基地司令室に監視塔からの緊急有線が飛び込んできていた。曰く、

「オークリー基地より北東約5キロ地点、敵MS3機接近中。」

基地司令は直ちに警戒態勢をとる旨を指示し、基地内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

黒猫の質問に誰かが答える前に、格納庫内に警報を知らせるサイレンが轟いた。敵襲らしい。状況を知らせるアナウンスが続く。

「総員、第一種戦闘態勢!敵MS3機がこの基地を目指して進撃中!61式は全車、基地を出て迎撃態勢を整えよ!繰り返す、・・・」

状況は一刻を争うらしい。だが着任したばかりのオレ達に配置につくべき部署はない。この場合は待避壕に行くのが正解だ。

「敵はここにこれがあることを知っているんでしょうか?」

乃人が怪訝な表情で言った。

「わからんが、とにかく退避しよう。乗ったことの無い機体でいきなり実戦と言うわけにもいかない。」

オレはそう言いながら黒猫を振り返った。彼女は搬入口の方を睨むようにしながら立ちつくしている。

「さあ、黒猫中尉、行こう。」
「・・・来る!」
「え?」

刹那、ものすごい爆音と同時に搬入口が爆砕した。オレ達は爆風でなぎ倒され、地面にはいつくばった。耳鳴りがひどい。
乃人がこっちを向いてしきりに何かを叫んでいるが、何を言っているのかまったくわからない。しきりに外を指さしている。
オレはそちらに目を向けた。灼熱の炎の中、悪魔か化け物のように、一つ目の巨人がこちらを睨んでいた。

「ザク!!」

もうこんな所へ、早すぎる。友軍は足止めもできなかったのか?

「退避するぞ!バンカー目指して突っ走れ!」

乃人に向かって叫んだ。彼女は大きくうなずき、すぐに走り出した。

「黒猫中尉、はやく・・」

逃げろと言いかけて、オレは黒猫がその場にいないことに気がついた。一体どこに?すると、頭上でウィンチが巻き上げられる音がした。
まさかと思って上を見ると、黒猫の小柄な体がBlackCatのコックピットに消える瞬間だった。こいつを動かそうというのか?

「バカな真似はやめろ!いきなり動かせるはずがない!中尉!」

必死で叫ぶが、黒猫は返事をするどころか、コックピットのハッチを閉めてしまった。その時、背後でズンッ、と地響きが起こった。
振り返ると、ザクが格納庫内に一歩足を踏み入れ、マシンガンでBlackCatに狙いを定めていた。

† † † † †

わたしは無我夢中だった。ただこのMSを破壊されるわけにはいかない。その考えだけが頭を支配していた。主電源は生きている。

「こいつ、動くぞ!」

武装は頭部バルカンとビームサーベル。ザク相手なら十分だ。メインカメラをオンに。姿勢制御も問題ない。
目の前にはザクがこっちを狙っている。足下ではシン・ナガモンが何かを叫んでいる。だがもう戦うしかない。覚悟は決めた。

† † † † †

ザクのパイロットは、すでに勝者の優越感を感じ始めていた。奇襲は完全に成功し、連邦軍が体勢を整える前にこの格納庫に到達できた。
そしてここには、情報通りに新型MSが保管されていた。あとは目の前のMSを粉砕すれば、彼は間違いなく勲章を授与されるであろう。
だが、彼は新型MSの性能については何も知らなかった。
彼のザクが手に持つザク・マシンガンが、ガンダムの装甲の前にはまったく無力であることを。
そして彼は今ガンダムに乗り込んだパイロットについても、何も知らなかったのである。

† † † † †

ザクは、ついにマシンガンを発射した。オレはとっさに近くの作業台の影に身を隠した。爆音が頭上ではぜる。
目を閉じ、ぐっと身を固くして耐えた。何かを叫んでいたかも知れない。また耳がおかしくなりかけたとき、不意に爆音がやんだ。
マシンガンの弾が切れたのか?目を開けたそのとき、先とは比べものにならないほど近くで、ズンッ、と地響きが起こった。
空間そのものが振動したようだった。そして、オレの体のすぐ横を、巨大な足唸りを上げて通り過ぎた。そしてまたズンッと響く。
作業台の上にあったスパナが5㎝は跳ね上がった。
BlackCatが動いていた。黒猫は初めて乗る機械を見事に操り、ザクとの間合いを一歩ずつ詰めていった。
ザクの方に焦りが生まれたのが手に取るようにわかった。

「なんてMSだ。ライフルをまったく受け付けなかった!」

BlackCatは今やザクに躍りかかろうとしていた。頭部バルカンが火を噴き、ザクの持っていたマシンガンがザクの手の中で砕け散った。
ザクはたまらず身を引いたが、すぐにBlackCatに捕まった。BlackCatはザクの腰部にある動力パイプを掴むと、それを引きちぎった。
そしてついにビームサーベルを抜くと、真一文字に切り払った。
一瞬、時間が止まったかのような静寂がながれ、次の瞬間ザクは大爆発を起こした。オレは再び作業台の影に隠れた。
爆風が格納庫内を吹き荒れる。ようやくそれがおさまった時にはBlackCatは格納庫から完全に姿を現し、日差しの中にその勇姿をさらけ出していた。と、新たなザクがBlackCatの前に姿を現した。
ヒートホークで武装したザクは、BlackCatの真正面で大きなスイングで斬りかかった。だがBlackCatの動きはザクを完全に凌駕していた。
BlackCatは身を低くかがませてザクの攻撃をやり過ごすと、今度はしたから真上に向かってザクの腕を切断した。
両手を失ったザクは、それでもなお戦闘をやめない。右肩を突き出して、BlackCatに体当たりを試みる。

「まずい、避けろ!」

思わず叫んでいた。ザクのタックルはたとえ外部に損傷を受けずとも、内部のデリケートな配線などを破壊する危険があるのだ。
だが、BlackCatはタックルをひらりとかわすと、すれ違いざまにザクの首を切り落としていた。胴体と頭部が同時に地面に落下し、ザクは燃え上がった。

オレはその光景を唖然として眺めていた。目の前の光景が信じられなかった。まずBlackCat自体の性能が驚異的だった。
ザクの主武装であるマシンガンはその装甲の前にまったく歯が立たなかった。
だが、なににもまして驚異的だったのはパイロットの、黒猫の操縦センスだ。常人離れした順応性、反射神経、一瞬での判断力。
奴には未来が見えているのだろうか。そんな空想すら頭に浮かんだ。だが、果たして空想と言い切れるだろうか。

「ニュータイプ・・・。」

ぽつりとつぶやいた自分の言葉に、オレはなぜだかひどく納得したような気持ちになっていた。

† † † † †

わたしは疲れがどっと湧き出してくるのを感じていた。
まず頭に浮かんだのは「生き残った」という、素朴で、だけど何か後悔を感じさせる想いだった。
戦死したザクのパイロットに懺悔したいのだろうか。実戦は初めてだった。初めてこの手で人を殺した。だから後悔するのだろうか。
だけど、モニターの片隅にこちらに走り来るシン・ナガモンを見つけたとき、もう後悔の気持ちは消え失せてただ安堵だけが残っていた。
つまり、生き残れて良かったと言うことなのだろう。わたしの戦いは始まったばかりだ。

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最終更新:2010年06月01日 15:50
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