今日の天気は雲一つない晴れ。昨日あんな事があったから複雑な気分だった。僕は、部屋に津田さんの上着を飾っている。絶対に忘れない。
僕は制服を着て、学校へ行く準備をする。
第3話【イレギュラー】 第1部 変わる日常
母「趣里ー、朝ご飯出来たよー」
下から母さんの声が聞こえる。いつもの朝なのに、元気が出ないなぁ…僕、津田さんの事好きだったのかな…上着をぼんやり見つめる。
里兎「朝飯だって言ってるじゃん!早く起きてきてよ兄ちゃん!」
廊下から里兎の声。
趣里「わかった…すぐ行くから…」
急いで一階へ降りる。台所から目玉焼きの良いにおいが胃を刺激する。昨日は晩飯食わないで寝たからな…めちゃくちゃ腹減った。
下らない会話をしながら朝飯を食べ終わる。
里兎「兄ちゃ~ん早く早く!学校遅刻しちゃうよ?」
歯磨きを終えた里兎が玄関先で待っている。どうしたんだろう?いつも一人で行ってる里兎が、今日は待っているのだ。
何かあるのかな、と思ってしまう。
趣里「どうした?」
里兎「話があんの!早くしてよ!」
話…?いったいなんだろう…気になったので素早く準備を終わらせ、玄関へ向かう。
里兎「昨日のお母さんがおかしかったんだ」
趣里「母さんがおかしいのはいつもの事じゃん」
通いなれた通学路を今日は里兎と歩いている。
母さんがおかしいのは、いつもの事だ…でも、里兎が真面目な顔をしておかしかった、と言っている。昨日何があったのか、凄く気になる。
里兎「兄ちゃんさ、昨日の彼女と出掛けたよね?」
趣里「か、彼女って…違うよ…津田さんと言って僕の友達だよ…」
里兎「まぁ良いじゃん。でね、その話してたんだけどね…お母さんね、いきなりその津田って人の事忘れたっていうか…そんな感じになっちゃって…意味わからなかったの」
そういえば西沢が言ってたな…「イレギュラー以外は存在を忘れる」って…イレギュラー以外!?………まさか、里兎…いやなんで?でも忘れていないということは、やっぱり里兎もイレギュラーなのか?
里兎「兄ちゃん…?」
趣里「…あ、なに?」
里兎「怖い顔してたけど…何か考え事?」
集中し過ぎて、怖い顔をしていたらしい。でも、里兎もイレギュラーならどこかに気味悪い傷があるはずだ。確かめてみるか…
趣里「おい、お前どこかに気味悪い傷あるか?」
里兎「えっ?傷?」
趣里「そうだ。体のどこかにあるか?」
里兎「………ある…それがどうしたの?」
やっぱりあったか…ていう事は、こいつも危ない…僕は昨日の出来事を思い出した。
西沢「…で、古仲…お前明日の昼休み第二多目的教室に来い」
趣里「な、なんで…」
まだ落ち着かない。息を整えながら、なんとか喋る事が出来た。
西沢「…その傷があると、必然的になのか魔物と遭遇しやすくなるんだ…理由は不明だ」
趣里「魔物…?遭遇…?」
そうか…僕はイレギュラーなんだ。死んだら存在自体が消える…そして、これ以上の犠牲を増やさないためにも戦う…津田さんの分まで…
西沢「わかったら昼休み来いよ」
そんな話を思い出しながら、僕は里兎を見た。
里兎「兄ちゃん?」
趣里「ん?あぁ、ごめんな…なんだ?」
いつもとは不自然な雰囲気の僕に、里兎は難しい顔をする。
里兎「だから、傷があるとなんなの?」
そうか…里兎もまだ知らないんだ。当たり前だよな………でも、こいつを巻き込む訳にはいかない…たった一人の僕の妹なんだ。
絶対守るからな…
趣里「…ん、まぁあれだ…傷があると…体育の時とか着替える時に友人に見られたらあれだろ?気を付けろってこと」
里兎「…………うん」
話を誤魔化そうと適当に答えたら、里兎は悲しい顔をして…俯いてしまった。でも誤魔化せたから良いか…あまり気にしないで歩く。
里兎は次の交差点を曲がるまで、俯いていた。交差点で別れた後、読書しながら通学路を歩く男を見つけた。
趣里「お~い!周!」
僕の声にゆっくり振り向く彼は、宍戸周。クラスは違うが、僕の友人である。
周「あ、おはよ」
読書をやめて、軽く挨拶をしてきた。
趣里「おはよ…読むか歩くかどっちか1つにしろよ」
なんかこいつを見ると、元気が湧いてくるなぁ…幼馴染みは良いわぁ…女だったらもっと良いけど。
周「幼馴染みって良いよな…なんか元気が出てくるってか、また今日も朝が始まったって感じする…女だったらもっと良いけどな」
周も同じことを考えていたらしい。ていうかなんかキモッ!男同士で意思がシンクロとかキモッ!
趣里「てか、何読んでたの?」
周「ん?昨日発売された【貧乳戦乙女の悩み】だ!」
朝から何読んでこいつは…家帰ってから読めよ…
趣里「ふーん…面白そうだね(棒読み)」
ファンタジーとかだったら読もうかと、思ったけど…っていうかこいつめちゃくちゃイケメンなのに…こういう趣味が有るなんてな…
かわいそう。
周「ああ!スゲー面白いんだよ!この貧乳な主人公のフィーナが、何で自分が貧乳なのか?理由を知るために旅に出るんだよ」
周りの学生達がかわいそうな物を見る目で僕らを見ていた。
趣里「貧乳貧乳うっせぇんだよ!何が、何で自分が貧乳なのか?だ!親の遺伝なんだろうがオラァ!」
周「デスティニーに抗う乙女の旅…終わりはあるのだろうか?」
趣里「知らねぇよ!わざわざ英語使うなよ…だいたい、そいつが親に聞けば終わるだろうがよ」
僕らは靴箱に着くまで訳のわからない漫才みたいなことをずっとした。
弓張「あ、出た…」
趣里「出たじゃないよ…もっと他に言うことあるだろ?」
弓張「え?じゃあおはよう」
この人は、弓張華乃。珍しい名字だ。ゆみば、と読むんだが、最初は読めなかった。一応断っておくが…アミバとは違う。
趣里・周「おはよう」
僕は昨日の出来事を全て忘れたみたいに元気が出てきた。
複雑な感じだけど、うじうじしていても仕方ないし…教室までゆっくり歩くが、何か人だかりができていた。隣のクラスだ。
趣里「どうしたんだろうね?」
気になって、僕たちも急いで向かう。
周「豊原先生。どうしたんですか?」
周は教室でため息をついているこのクラスの担任に聞いている。
豊原「えっと…また変な事が起きたんだよね…前に何回かあっただろ?机が一つ増えているっていうやつ」
趣里「確かにありましたね」
周「またかよ…気持ちわる…」
この学校ではたまに不思議な事が起きる。いつの間にか机が増えていたり、クラスの人数が合わなかったり…
弓張「そうなの?」
弓張は2学期後半に転校してきたからこの事を知らない。
豊原「…とにかく、皆自分の教室に戻れ!もうすぐでホームルーム始まるぞ!」
そう言って豊原先生は教室に入っていき、人だかりもなくなった。
周「俺たちも行こうぜ。遅刻扱いされたら面倒だからな…」
弓張「そうだな…」
趣里「先行ってて…トイレ行くから」
何故か無性に気になった。職員室まで走る。そして、隣のクラスの女子の名簿を確認した。
11番:住川 藍子
12番:中山 加奈
津田さんの名前が消えていた。西沢の言う通りだった。存在がなくなる…だけど、どうして机は残るのだろうか…
明樹「何やってるの趣里?女子の名簿なんか見て」
後ろに明樹がいた。
科野明樹…僕の元彼女である。別れてからも普通に接しているため、周りからはまだ付き合ってると勘違いされてる。
趣里「あ、明樹か…驚かすなよ…」
明樹「驚かしたつもりはないけどさ…プリント運ぶの手伝ってよ」
趣里「なんで僕が手伝わないといけないんだよ…」
プリントの量はそこまでなかったが、面倒だった。
明樹「良いじゃん良いじゃん…ほら持って持って」
趣里「……ん…わかったよ」
半分くらい持ってやるか、遅刻の言い訳も出来るしな。
明樹「あたしたちなんで別れたんだっけ?」
趣里「………お互いの気が合わなかったからじゃない?」
明樹「趣里はまだあたしのこと好き?」
趣里「さあ…なんとも言えない」
なんで元彼女とこういう話してるんだろう。てか、告白してきたのお前だし、振ったのもお前だろ…
明樹「んで、趣里は今彼女いるの?」
趣里「いないよ…お前は?」
明樹「あたしは…いないんだけど…趣里いないの?好都合だぁ」
嫌な予感がした。
明樹「じゃあ、放課後付き合ってよ…久々にデートしようよデート」
こいつも変な奴だな…なんで僕なんだよ…
趣里「やだよ…」
明樹「……だよね」
気まずい雰囲気のまま僕らは教室へ入った。もちろん遅刻扱いをされた僕は再び職員室へ行かなければならなかった訳です。
職員室へ向かう途中、一つの影が第二他目的室に入っていくのが見えた。
こそこそと窓から覗いて見ると、そこには隣のクラスの双海さんがいた。何やら喋ってるらしい。よく聞こえないけど…
萌緩「か、勝手に覗かないでよ!困るよ~」
こちらに気づいたのか、仕方ない。ドアを開けて入る。
趣里「ごめん…入ってくのが見えたからさ…で何喋ってるの?」
双海さんはポカーンとした表情で僕を見た後、顔を赤らめて俯いた。
萌緩(ど、どうしよ…別に好きじゃないのに意識するんだけど)
雪葉(ん………双海さんは古仲くん好きなんじゃない…の?)
萌緩「ちょっ…ちょっと誰も好きって言ってないじゃん!」
双海さんどうしたんだろう…独り言なんか喋って…なんか怖いな。
趣里「どうかした?何が好きじゃないの?」
萌緩(なんで…津田さんが………あたしの心の中にいるの~?)
それは、昨日の事だった。あたしは津田さんの声が脳内に響いた後、決心をして終わったはずだった。なのに…なんで?
その日の夜は何もなかったはず。だってすぐ家に帰って風呂入って寝たし。しかし、翌日の朝
???(ん…そろそろ起きたら?)
誰かに起こされているのがわかった。だけどお母さんでもお父さんでもない。いったい誰だろう。寝ぼけ眼を擦って起き上がる。
だけど、誰もいなかった。
萌緩「え……」
少し不気味だったが、寝ぼけていたんだと思い込み、立つ。その時また声が聞こえた。
???(ん…お腹空いたね)
萌緩「そうだ…ね……え…」
返事をしてしまった。ていうか部屋には誰も居ない…これって………怪奇現象?凍る背筋を撫でるように風がなびく。
???(ん……早くご飯食べよう…私お腹空いた)
萌緩(えっ…誰なの?どこに居るの?)
辺りを見渡すが、やっぱり誰も居ない。
???(ん…津田雪葉…だけど。双海さんの脳内に居るの)
萌緩「ちょ…ちょ………えぇー!!!!!」
母「萌緩~起きたの?学校の支度しなさいよ~」
台所からお母さんの声。昨日の事は何もなかったようにしてるけど…夜になったらいつもおかしくなる。
雪葉(ん………双海さんもイレギュラーなんだね)
とりあえず脳内に居る津田さんをどうにかしたい。
萌緩(そういえばそのイレギュラーってなんなの?)
昨日、川之内くんも言ってたような…
雪葉(ん…ようするに…普通の人間じゃなくなった…そういうこと)
言ってる意味が理解出来ない。疲れてるのかな?いや、憑かれてるのは確かだけど。
雪葉(ん…誰が上手いこと言えと)
パシィン。なんか頭を叩かれたような衝撃が脳内をめぐる。
萌緩(も、もしかしてだけどさ…あたしが考えてる事とか筒抜けだったりとか…)
雪葉(ん…この会話だって口には出さないで出来てる…何もかも筒抜け…………双海さん、いつも楽しそう…だから…辛いことなんて無いと思ってたけど…)
どこかの記憶を見られたのかな?まぁ良いけど。制服に着替え終わり、部屋から出る。
雪葉(ご飯なにかなご飯なにかな~?)
萌緩(ちょっと頭の中で歌わないでよ!響く!)
何をハイテンションなのか、津田さんめちゃくちゃノリノリだ。
雪葉(ん…ごめん。私一度も両親からご飯とか作って…貰えなかったか)
萌緩(はい!わかったぁ!そうだね!朝ご飯楽しみだね!)
雪葉(ん…まだ最後まで言ってない)
不機嫌になる津田さんをよそにあたしは台所へ向かった。そんな悲しい話聞きたくないからね。
雪葉(ん……双海さん優しいね)
ボソッと一言呟いて、静かになった。
ていうか、そこまでは何も思わなかった。だけどね、さすがにあの話題はアウトだね。無理だね。
朝食を済ませてお茶を一杯、不意に津田さんが話し掛けてきた。
雪葉(双海さん、古仲くん好きなの?)
萌緩「ブブーーーっ!!!!!」
盛大にお茶を噴き出した。目の前のお父さんが茶まみれに…なんと残酷な…ごめんなさい。
雪葉(え?ブブーーー?違うの?でも…)
テーブルをふきんで拭きつつ、あたしは答える。
萌緩(ち、違う…お茶を噴き出したの。津田さんいきなり何を言うの?)
母「萌緩は…朝から元気ね」
父「そうだぞ。まさか娘がお茶を噴き出して父さんにかけるなんて…父さん、ちょっと幸せだぞ」
萌緩「ブブーーーっ!!!!」
口にしたお茶を再び、盛大に噴き出した。変態発言は自重してほしい。夜にならなければ、この両親とても良い人なんだけどな…
という事があったらしい。そういう事。
萌緩(んで、津田さんは何でいるの?昨日死んだんじゃ…)
今、教室内にはあたし、古仲くん、津田さん?の三人。古仲くんは何やら疑いの目であたしを見ている。
趣里「双海さんは何でここにいるの?授業始まるよ?」
萌緩「あ、うん、今ね、遅刻届けを書いてるの!」
何とか普通を装って答えようとするが怪しまれる…
雪葉(ん……確かに死んだはず…わからないけど…何らかの干渉が……起きた?)
詳しい事は津田さんもわからないらしい。ていうか、あたしの考えは筒抜けなのに、津田さんの考えが何もわからない。
明らかに不公平だと今気づいた。
趣里「そうなの?じゃあクラス違うし…僕行くね」
あ、古仲くんが行ってしまう…昨日の出来事だけでも聞かなきゃ…
萌緩「ま、待って古仲くん!」
趣里「うん?なに?」
萌緩「昨日の…事なんだけどさ…夜の出来事…」
古仲くんの眉間がぴくっと動いた。表情が少しずつ変わっていくのがわかる。
趣里「…昨日の事………」
僕は昨日の事を思い出す。津田さんが死んだ日の事を…。
あの時は僕と西沢しかいなかったはず…なんで双海さんが昨日の夜の件を話すんだろう…まさか
萌緩「うん…昨日の事……でもそんなに落ち込まなくても良いんだよ…」
その言葉に僕は苛立った。八つ当たりだ。わかっていても僕は…双海さんに怒鳴ってしまっていた。
趣里「何が…何が落ち込まなくても良いんだよ、だ!ぼ、僕は津田さんを殺しちゃったんだよ!!?それに、見ていたんなら助けてくれよ!!傍観してただけのくせに…」
萌緩「そ…そういう意味じゃなくて…津田さんは…」
趣里「笑えない事を言う奴は大嫌いだ!」
カッとなった僕は頭を冷やすため、自分の教室へ戻ることにする。
萌緩「な…なに…あ、あたし…悪く無いのに…何であたしが悪いみたいに言われないといけないの!?」
1人教室で叫ぶあたし…そのまま屋上へ行くことにした。
雪葉(ん…気まずい…)
最終更新:2010年08月18日 02:13