趣里(…八つ当たりじゃん………僕のせいなのに…双海さんに八つ当たり…してしまった…)
初めての自己嫌悪…これほどまでに気持ち悪いものだとは思わなかった。
教室に入るとすでに授業は始まっていた。
西垣先生「どうした古仲?顔色が悪いぞ?」
僕の顔を見て数学担当の西垣先生が心配していた。
趣里「……いえ、大丈夫です…」
僕はそう言って真ん中の列の1番後ろの席へ座る。
弓帳「大丈夫か?」
周「…」
趣里「弓帳、周…大丈夫だよ…」
弓帳はわかったと言って授業に集中する。周は無言だったが、数十秒僕を見るといつものように授業を受ける。
西沢「………」
窓側にいる西沢はチラッと見て、ため息をついていた。
趣里(………寝るか)
気分も機嫌も悪かったので寝ることにした。ぐっすり眠れるわけもなく、またあの夢を見た。
硬式テニス部の時の夢…いい加減にして欲しかった。
趣里(この夢は見たくない…やめてくれよ…)
今度は大会4日前、僕は里兎と喋っている。
趣里「最近、左肘が痛いんだよなぁ…腱鞘炎かな?」
里兎「兄ちゃん…大会4日前なんだよね?大丈夫なの?」
…今は前よりは痛くない左肘だが、あの頃の痛みを思い出し、つい押さえてしまう。
趣里「多分大丈夫かな…」
里兎「…一応処置はするからちょっと待ってて」
趣里(もう手遅れだよ…手遅れ…なんだよ……)
あの頃は、大丈夫だと思っていた。その日の晩に、左肘の限界がきたんだ。
僕は部屋で筋トレをしていた。腹筋、背筋、そして腕立て…その最中に…
趣里「25、26…」
急に左肘の力が抜け、そのまま肘を床にぶつける。ガッという音ともに激痛が腕全体に走った。
趣里「う、うわぁあぁあああぁぁぁ!!!ひ、ひ、肘が………」
肘から白い骨らしきものが肉を破り突き出て、黒い血がぼとぼとと流れる。
里兎「な、なに?どうしたの兄ちゃん!」
隣の部屋に居た里兎が僕の悲鳴を聞いて、駆けつけて来た。
里兎「!!!?」
趣里(う…)
思い出すだけでも最悪だ…
趣里「り、里兎…母さん…呼んで…」
慌てて母を呼びに行く里兎、僕はあまりの痛さに気絶してしまった。数分後、母の通報により救急車が来た。
次に目が覚めた時は、病室だった。医者に全治4ヶ月と言われ、僕はほぼ無気力だ。
今後、左肘に負担の掛かる運動、行動の制限、部活の禁止。
医者「古仲くん、君は左肘を過激に使う動きを一切禁止します…聞いていますか?」
趣里「………」
僕はずっと天井を見つめていた。医者も諦めたか、部屋から出ていってくれた。テニスが出来なくなった。
中学を卒業してやっと運動を許された体が、一年経たずの約2ヶ月で無期限の禁止を喰らった。
腕を使わないサッカーも、もしもの事があるといけないからダメ、マラソンも何もかもダメ。
髪が抜け落ちる。ストレスで精神が崩壊しそうになる。周と里兎と母さんは僕の毎日見舞いに来る。僕が暴れて拒んでも見舞いに来る。
辛かった。いっそのこと殺してくれたら楽なのに…この言葉に母は激怒した。初めて母が怒るところを見た。
何度も殴られた…数日経って、右手を使う練習をさせられるようになる。
趣里「……う、上手く動かないな…」
周「ほらほら趣里、俺はめちゃくちゃ上手いぜ!」
趣里「うるせーな…周は右利きだろぉ」
里兎「兄ちゃん、ちょっと下手くそだな」
いつしか、笑うようになっていた僕。
趣里「あ~あ…運動禁止とか、あのクソ医者ムカつくわぁ…」
周「お前はしゃぎまくってたもんな…人生、スポーツだけじゃねぇよ…お前に合う物事なんて世の中たくさんあるかわからないからな…」
趣里・里兎「また始まったな」
周の得意の説教を聞きながら、僕は里兎の右手を支えながら練習する。
入院して1週間と3日が経った。左手も少し回復し、リンゴを掴める程度までになる。
右手はペンや箸は上手く使いこなせないが、左手よりは動く。
趣里「……入院暇」
里兎「…だから毎日来てるじゃん…こんな暑い中をね」
周「趣里、そういや松並がテニスの大会で優勝したぞ」
趣里(あの話を聞いた時、無性にイラついたな…)
ハンドグリップを片手に僕は黙ってその話を聞く。
僕はなんの為に練習してきたのだろう。左腕を壊すために練習してたのかな?左肘の傷は今見ても残酷で吐き気に襲われる。
周「…里…起……きろ…」
ふと、声が聞こえた。
周「起………きろ!!」
バン、と机の叩かれる音に体がビックリし、飛び起きる。
趣里「ふぇあぁ!!?」
弓張「見ろよ古仲、雪降ってるぞ!」
雪?寝ぼけていてもおかしい事に気づく。空気が重い。周達の様子は普通だ。でもおかしい。ハッとして西沢の席を見る。
やっぱり居なかった。
僕は急いで聞く。
趣里「弓張、今何時だ!!?」
弓張「何時ってもう四時間目終わって昼休みだ」
あれから約四時間も寝ていたのか…ていうか誰も起こさなかったのかよ…それは良いとして、僕は弁当と飲み物を持って屋上へ向かう。
きっと西沢が待ってるはずだ。
趣里「…ふぅ…ふぅ…ついた…」
別に急がなくても良いのに走ってきてしまった。屋上には五人くらい人がいる。
西沢「川橋、この二人もイレギュラーか?」
川橋「うん…間違いないわね…」
川之内「双海さんはわかったけど、まさか桑坂さんもイレギュラーだったとは…」
萌緩「あたしずっと思ってたけどイレギュラーってなんなの?川之内くんに電話した時も聞いたんだけど…」
佐奈「それに…この傷が出来たらなんでイレギュラーになるの?」
えっ?僕の他に新しいイレギュラーが現れたのか…一人は双海さんでもう一人は桑坂さんか…川之内や川橋さんもいる…あの二人は古参って感じだな…
最終更新:2010年08月18日 02:17