【虐待No.589
――癒遊病――】
「きょうはおえかきするんだど~♪ れみぃはげーじつかだど~♪」
仕事へ行く飼い主を見送ったら、日中、れみりゃはいつも一匹で遊んで過ごす。れみりゃに与えられた専用の部屋には、数々の玩具とお絵かき用具が揃っている。
「ごしじんさまのにがおえをかくど~♪」
画用紙を広げ、クレヨンを握りしめて飼い主の顔を描く。幼児以下の知性しか持ち合わせていないが、それでも親しい飼い主の顔くらいは思い出しながら描ける。
「できたど~!」
数十分かけて、ようやく一枚の絵が完成した。粗雑な色づかいと均整の取れていない顔のパーツがあいまって、不気味な人相の顔が表れていた。それでも、れみりゃにとっては今までで改心の出来だった。
飼い主が帰ってきたら、すぐに見せて褒めてもらおう、そう思った。
「おえかきしたらおなかがすいたど~♪」
餌は、昼食の分のゆっくりフードとおやつであるカスタードプリンが部屋の隅に用意されていた。ゆっくりフードを満足げに平らげ、プリンもぺろりと食べ尽くした。
「おなかがいっぱいになったらねむくなったど~♪」
ごろりと横になり、そのまま夢の世界に落ちていった。
―――――
夢の世界では、れみりゃは王様だった。城には、食べ切れない量のおいしいご飯と遊び尽くせないほどの玩具があり、それは全てれみりゃのものだった。遊んで飽きては捨て、食べて汚して満足したら寝る。
起きたらまた遊んで……それをずっと繰り返した。
―――――
部屋は惨憺たる有様だった。壁紙は剥がれ、ガラス窓は割れ、机はひっくり返り、その上にあった花瓶も小物も壊れて床にぶちまけられている。冷蔵庫の中身は掻き出されたように散らばり、食器棚の中の皿も全て割れていた。
全ての鍵は施錠したのだから、強盗でも押し入ったのかと思った。いや、思いたかった。事実は違った。金品が盗られていないのだ。多少は値の張る腕時計もアクセサリーも、床に転がってはいたものの失くなってはいない。
だとしたら、れみりゃがやったとしか考える他はないのだが、その当ゆっくりであるれみりゃが何処にも見当たらない。
れみりゃの部屋はもちろん、風呂もトイレも物置も天井裏も捜したが、れみりゃを見つけることはできなかった。
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うっうー♪
れみぃはこーまかんのおぜうさまなんだど~♪
みんなれみぃにぷっでぃんもってくるんだどー!
ぷっでぃんもってこないやつはぽい! しちゃうんだど~!
―――――
まばゆい光が、瞼に優しく射した。朝だ。露に濡れた草がきらきら輝いている。
「うー? れみぃのこーまかんとぷっでぃんがなくなっちゃったんだど~?」
―――――
れみりゃは、近くの公園で見つかった。しかし、近いとは言えゆっくりの行動範囲を大きく超えたところだった。公園の管理者が、飼いゆっくり登録証である連絡先の刻まれたバッジを見て、保護してくれていた。
「最近は物騒な事件も多いからね、気をつけたほうがいいよ」
管理者である初老の男性はそう言いながら、れみりゃの入ったケースを手渡してくれた。
厚く礼を言って、立ち去ろうとした時だった。
「ゆっくりは案外、溜め込む生き物だからね。精神的にだって、過度に負担をかけるのはやはりよろしくないよ」
男性は、口元を醜く歪めて笑っていた。同族の、嫌な匂いがした。
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睡眠時癒行症
通称・癒遊病
(ゆゆうびょう)
ゆっくりが過度に精神的、肉体的ストレスを感じたときに現れる症状。症例として、記憶の忘失や限定的な万能感がある。
癒行する目的はストレスの発散であり、外部への緊急信号の伝達である。
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家に帰る。
れみりゃをケースから出して様子を見る。れみりゃは、自慢げに一枚の画用紙を持ってくる。
大作のようだが、私にとってその絵は「破いてれみりゃの泣き顔を見る」程度の価値しかない。
びり。
びり。
びり。
れみりゃが泣きわめく。頭に血が昇る、気持ち良い感覚。腕を掴んで、思い切りガラスの海に打ち付けた。ガラスの砕かれる小気味よい音と、れみりゃの悲鳴が響き渡った。
完
最終更新:2010年10月17日 02:29