【ぱちゅりーとお姉さんとすぃー】
すぃー。
四角い板に車輪が付いただけのそれは、ゆっくりの自動車だった。
エンジンもハンドルもない。燃料を容れるところも存在しない。強いてあげれば、乗車するゆっくりの感情と思考が燃料であり、またハンドルである。
すぃーは一定数以上の群れに自然発生するが、適当な板におもちゃの車輪を付けたものでもすぃーとなる。要は、ゆっくりが「これは自分が乗って動かせるものだ」と認識できればよいのだ。
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ここはすぃー教習所。といっても建物が並んでいたりきちんと整備された道路があるわけではなく、適度に開けた場所に石や木の枝をそれっぽく置いただけの簡素なものである。
曲がり角や障害物の傍には教官のゆっくりがおり、各場所で運転のチェックをする。
しかし、何故これほどまでに整った設備が形成されたか。それには、このような背景がある。
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この群れにすぃーが発生して間もない頃は、事故も少なかった。だが、次第にすぃーが数を増やしてくると、速度の出し過ぎや不注意などでの事故が多発するようになった。
すぃーにより群れの行動範囲は広がったが、その弊害として、轢かれたり撥ねられたりして命を落とすゆっくりが出てきたのだ。
長ぱちゅりーは、教習所を設立して筆記と実技の学習およびテストを行い、合格した者に免許を発行することにした。
反対意見もあったが、みすみす仲間を事故で死なせるわけにはいかない。群れのゆっくりの大半は、長ぱちゅりーの案に賛同した。
かくして、
「免許を持たずにすぃーを運転したゆっくりは群れを追放」という
ルールが作られ、教習所は開始された。
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すぃーは操作の簡単な乗り物だ。思考によって動く乗り物だから、性格の穏やかな者や思慮深い者が乗れば安全な運転になる。
が、凶暴だったり浅慮な者が乗れば暴走をしかねない。そのための教習所であり、そこには以下のカリキュラムがあった。
1.操作や交通ルールの筆記学習
2.事故の対処の仕方、応急処置の実技学習
3.すぃーに乗り実技指導
の三つである。1から段階をおいて学習させることにより、安全を徹底させる。三つともそれぞれ一日をかけての勉強であり、勉強嫌いの者はそれだけで免許を取得できないが、もとよりそんな者に免許を与える意義はない。
受講料は果実や昆虫などの食料、もしくはすぃー用道路整備の労働でもよしとされた。
教官は長ぱちゅりーが選出した優秀なゆっくりたちであり、彼らと長ぱちゅりーが最初期に免許を取得したゆっくりである。
教官ゆっくりの持つ色付きのどんぐりが認可の証で、三つの色付きどんぐりを持った者が長ぱちゅりーのテストを受け、合格と見なされた者に長ぱちゅりー手書きの免許証が手渡される。
群れのゆっくりにとって、権威ある長ぱちゅりーから直々に渡される免許証とは栄誉の証であり、また信頼を置けるゆっくりであることを証明するものであった。
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「れいむ、長であるぱちゅりーの質問にしっかり答えてね。 ……すぃーにのるときに確認することは?」
「まわりをみて、ほかのすぃーがきていないか、ちかくにだれもいないか、しっかりかくにんするよ!」
「坂道をくだるときはなにをするのかしら?」
「おりますよー! っておおきいこえでいって、さかみちのさきのすぃーやゆっくりにしらせるよ!」
「すぃーを運転するときにこころがけることはなに?」
「あんぜんうんてんだよ! いくらいそいでいても、すぴーどをだしすぎてはいけないし、つねにまわりにちゅういしなきゃだめだよ!」
「……むきゅ! 合格よれいむ! 免許証さんをあげるわ!」
「ゆわーい!」
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長ぱちゅりーは満足していた。すぃーの発生と、それに伴う事故の発生には戸惑ったものの、教習所の設立によりかなり改善された。
ほとんどのおとなのゆっくりはすぃー免許証を持ち、群れの発展に多大な貢献をしていた。
すぃー用道路と歩行ゆっくり用道路はきれいに分けられ、標識も見やすく設置されている。
「お姉さん、ぱちゅりーがんばったよ……」
長ぱちゅりーは、かつての飼い主の顔を思い出していた。
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長ぱちゅりーは、子供のときに親に捨てられた。赤ゆっくりの頃から聡明で、たびたび両親に意見したため、
「生意気だ」
と疎まれたのだ。両親は自分たちよりも知能の高い子供に嫉妬していたのだ。
運動が得意ではない長ぱちゅりーにとって、一匹になることは死と直結していた。途方に暮れた長ぱちゅりーを見つけて拾い育ててくれたのが、お姉さんだった。
お姉さんは長ぱちゅりーの聡明さとかわいらしさに惹かれ、長ぱちゅりーはお姉さんの優しさに懐いた。
お姉さんはドライブが好きで、長ぱちゅりーも連れていってくれた。
窓を開けると、涼やかな風が肌をなぶる。残像となって揺らめく景色のなかに、黒い陰が見えた。
お姉さんとの楽しい生活は、不意に終わりを告げた。
衝撃が全身を突き抜け、空気がうなりをあげて、お姉さんと長ぱちゅりーは空を舞った。
飛び出してきた大型の車とぶつかり、一人と一匹は路上に投げ出されたのだ。
ゆっくりである長ぱちゅりーは体が軟らかい。衝撃を上手く吸収し、なんとか命を留めた。しかし、人間のお姉さんは違った。あらぬ方向に曲がった手足、裂けた衣服の奥からは血が流れている。助からないと一目でわかった。
それでも、お姉さんは気力を振り絞って長ぱちゅりーに言葉を遺した。
「お姉さん、ずっと一人だったんだけどね……ぱちゅりーがきてから、寂しくなくなったんだよ。……私はお父さんとお母さんに見捨てられちゃったけど……ぱちゅりーはかわいいし、あたまがいいから……。また、家族みんなと仲良くなれるよ」
眼は虚ろに、光は薄くなる。深く息をついて、押し出すようにして言葉を紡ぐ。
「ごめんね……二人で、ずっとゆっくりしようねって言ったのに、約束破っちゃったね……。ごめんね……また、会えたら」
何も見えなくなった瞳を動かし、震える唇でもう一度、約束する。
「……今度は絶対……ずっと、一緒に………………」
それきり、お姉さんは動かなかった。長ぱちゅりーがいくら声をかけても、約束の言葉を繰り返しても、お姉さんの大好きなお菓子を分けてあげると言っても、笑ってくれなかった。
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お姉さんの家族は顔を真っ赤にして泣いていた。見捨てられてなんかいない。自分も、そうだろうか。家族は、待ってくれているだろうか。
お姉さんは白い煙になって真っ青な空に昇っていった。
瞼の裏でほがらかに笑うお姉さんと再会を約束して、群れのある森へと帰っていった。
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それから紆余曲折があった。両親と和解し、群れをまとめ、制度を作る。優秀さを古老のゆっくりに認められ、初代の長となった。
忙しさのなかで、お姉さんとの思い出も悲しみもしだいに薄れていった。
すぃーは危険な乗り物だが、悪いことばかりではない。注意するべき点を熟知していれば、事故は未然に防げる。
それでも、避けられない不幸というものはある。背負わねばならない悲しみもある。だから、長ぱちゅりーは自分のように悲しむゆっくりも人も少なくなればいいと思う。
零が無理だとしても、限りなくその近くへ。
長ぱちゅりーは今日もせっせと、免許証発行の準備をする。
頑張る長ぱちゅりーの姿を見て、後ろでお姉さんが笑っている。そんな気がして振り返ってみても、そこには誰もいなかった。
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《すぃー運転免許証》
むきゅ!
合格おめでとう!
あなたは長ぱちゅりーが認めたゆっくりよ!
急がず焦らず、ゆっくり運転していってね!!!
完
最終更新:2010年10月27日 23:23