【残飯処理生物】
「れいむはまりさのことがすきだよ!」
「まりさもれいむのことがすきなんだぜ! いもむしさんやばったさんよりもすきなんだぜ!」
とある公園の片隅で、二匹の饅頭が愛を語っていた。
感情を確認しあったら、晴れてカップル成立だ。さあ、柔らかな頬を擦り寄せて愛を燃え上がらせようと互いに駆け寄ったときだった。
「つっかまーえた」
浮遊感。
れいむとまりさの明るい未来が永遠に引き裂かれた瞬間だった。
―――――
「ここからだしてね! まりさにあわせてね!」
「ばかにんげんはさっさとまりさたちをかいほうするんだぜ!」
二匹はそれぞれ別の箱に入れられた。多少のスペースはあるが、動き回れるほどの広さではない。天井は高く、がんばってジャンプしても届かない。いくら暴れても箱が壊れるようなことはなく、それは脱出不可能を意味していた。
これからようやく二匹でゆっくりできると思っていたのに。突然現れた人間は、何が目的で自分たちをこんな目に遭わせるのだろうか。
「まりさぁぁぁ!」
「れいむぅぅぅ!」
思いきり声を出してようやく聞こえるくらいだ。互いの声を聞き、二匹は安心した。
いくらか気持ちが楽になって、そのうち出してくれるだろうと思った。
―――――
どれくらいの時間が経ったのか。光も風もない密室。ときおり互いの存在を確かめるために声を出していたが、今となってはそんな体力は尽きていた。
食料はおろか水もない。暗く狭い箱のなかで、二匹は絶望していた。
―――――
「おいーっす。おまえらゆっくりしてたか?」
俺は二つの箱を同時に開ける。久しぶりの光が眩しいのか、しきりに眼をしばたかせている。
「まりさ……だいじょうぶ……?」
「れいむ……まりさはだいじょうぶだぜ……れいむは、だいじょうぶなのぜ?」
「ゆゆう。いきてるよちゃんと……」
餓死寸前、ってとこか。さあて、こいつらの信頼関係にひびをいれてやろうかな。
「おまえら、これをみろ」
「「ゆっ?」」
俺が取り出したのは、おいしそうなケーキと腐りかけの鼠の死骸。
「おまえら二匹に聞く。……どちらを食べたい? ケーキを選んだら、相手に鼠の死骸を食わせることになるが」
「「……ゆ」」
腹が減っている。
眼の前には、舌がとろけそうなほど美味そうなケーキと、腐臭を漂わせる鼠の死骸。
だが、自分がケーキを選んだら相手に腐った鼠の死骸を食わせることになる。蛆が湧いているかもしれないものを、食べたくはない。
れいむは迷っていた。
まりさも迷っていたが、れいむよりも早く判断して、言った。
「まりさはけーきさんをたべるのぜ! れいむにはしんだねずみさんをあげるんだぜ!」
おーおー。死にかけだったのにケーキを食べられるとわかったらこれかよ。
「どぼぢでぞんなごどいうのおぉぉぉ!?」
れいむは涙を滝のように流して絶叫する。
「んじゃまあ、そういうことだから。れいむには鼠さん、まりさにはケーキさんをあげようね」
「ゆわーい! まりさのけーきさ……」
「うっそぴょーん」
「ん……」
死骸を「まりさの箱」に落として箱の蓋を閉める。
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ぎぼぢわるいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
嫌悪の叫びが聞こえてきたが、箱は特殊な素材だから音はあまり響かない。
「まりさぁぁぁ……どうしてなのぉぉぉ……」
かわいそうに。裏切られたれいむはえづきながら泣いていた。そんな姿に、俺は憐れみを感じてケーキを……
「ぺっ!」
あげる、なんてことはしない。溜まった唾を吐きつけた。こんなヤツらにケーキなんてやらん。
れいむの箱も蓋を閉めた。
―――――
「ごはんだぞ」
蓋を開け、生ゴミを落とす。中にいるれいむとまりさは少しだけうれしそうだ。食料がもらえ、生を繋げられるからではない。このときにだけ、二匹は互いを感じあえるのだ。
まりさは、れいむに謝った。自分がケーキを食べたかったから、れいむに鼠の死骸を押し付けた。れいむは、そんなまりさを許した。自分だって迷っていたのだ。いつまでも責める気は起こらなかった。
そんな二匹を見て、人間は約束した。
「十日経ったら、二匹をそこから出してあげる。あまあまもプレゼントして、住んでいた公園に帰してあげる」
だから、二匹は待っている。おいしくない、ときには腐った生ゴミを我慢して食べる。いつか来るゆっくりした未来のために、暗闇のなかで今日も生きている。
―――――
「『3』以上は数えられないのよね? ……悪趣味だわ」
「んー。最初はホントに約束どおり出そうかと思ってたんだがな、思いの外便利で…………なーんて」
完
最終更新:2010年10月27日 23:52