【肥料作り】
農作業をしていると、彼方から喧騒が近づいてきた。
「ここにおやさいさんがいっぱいあるよ!」
「まりちゃのおやしゃいしゃんゆっくちでてきちぇにぇ!」
「ぱちぇはもりのけんじゃなのよ! おやさいさんはぱちぇのものよ!」
「とかいはなおやさいさんね。たべてあげてもいいわ」
ゆっくりの集団だ。二、三十匹はいるだろう。口々に好き勝手なことをほざいている。私は気にせず農作業を続ける。どうせ奴らは作物に被害を与えることはできない。
鍬を振り上げるたびに、声は大きくなる。
「さあ、いっぱいたべようね!」
「ゆっふん! まりさはてんさいなのぜ! おぼうしにいれてもちかえるのぜ!」
「れいみゅたくしゃんたべりゅよ! おにゃかぺこぺこだよ!」
「ありちゅのちょかいはなしょくじがはじまるわよ!」
一歩。
二歩。
三歩。
入った。
先頭のゆっくりが作物に近寄り口を開け、最後尾のゆっくりが範囲内に入ったとき。それは作動する。
「「「ゆっ!?」」」」
奴らは、もう動けない。就縛の結界が発動したのだ。口を開けたまま固まったもの、笑顔で固まったもの、跳びはねる直前で固まったもの。
「ゆっくり停止」の呪印が書かれた札なんて、こいつらには見えなかっただろう。まあ、見えていても理解はできなかっただろうが。
停止といっても、時間や存在の動きが止まるわけではない。見えない束縛、とでもいうべきか。考えたり、状態が変化することはあっても自ら動くことはできない。
さて。
今日の昼食をゆっくりたちの目の前で広げる。
(にんげんさん! れいむにもちょうだいね! それにこれをやめてね、ゆっくりできないよ!)
(どぼぢでまりざのうるどらびゅーでぃぶるなびぎゃぐがうごがないんだぜぇぇぇぇ!?)
(みゃみゃぁぁぁ! れいみゅのあんよがゆっくちうごきゃにゃいぃぃぃ!)
涙ぐむ饅頭の前で食べるおにぎりは格別だ。小さなものも大きなものも、自らの状態に戸惑いながら苦悶する。おいしいご飯が食べられるところだったのに、いきなり体が動かなくなってしまったのだ。可哀相だとはまったく思わないがな。
昼食を食べ終わる頃には、ゆっくりたちはみんな涎れをだらだら垂らしていた。
私は、泥がついた肌に涎れが混じってさらに汚くなった饅頭たちを放置して、農作業に戻った。
日が暮れる頃にもう一度ゆっくりのところに行くと、蟻がたかっていた。動かない甘味。蟻たちの絶好の餌だ。
(ありしゃんやめちぇぇぇぇぇ! まりちゃのおぼうちとらにゃいでぇぇぇ!)
(ありすのとかいはなぺにぺにをたべないでぇぇぇぇ!)
(むきゅぅぅぅ! ぱちぇはおいしくないわよぉぉぉ!)
身動きならぬゆっくりたちは、目、口、性器から侵入されて中身を削られていく。なかなかグロテスクな光景だ。
しかし、全てあげてやるわけにもいかない。二、三匹を蟻たちに分けてやり、他のゆっくりたちは籠に入れて移動させる。停止の効果は解除の呪法を施さないと解けないので、未だに硬直したままだ。
(せまいよ! だしてね!)
(もうおうちきゃえりゅぅぅぅ!)
(ありちゅのみゃみゃがたべられちゃったぁぁぁ!)
到着。籠をひっくり返し、ゆっくりたちをその中に投入する。
(くさいぃぃぃ! きたないぃぃぃ!)
(ぐるじっ……ぃぃ……)
(やべで……れいむしんじゃうよ……)
肥溜め。人や家畜の糞尿や、屑野菜などをいっしょくたにして溜めてある。ゆっくりたちは、生きながらにして腐り、おぞましい臭気と粘り気のなかで死んでいくのだ。
棒で古い肥料と新しい肥料を混ぜ合わせるように掻き回しながら、豊饒を祈った。
完
最終更新:2010年10月28日 14:19