1 [エルザス] [編]
†登場人物†
スガーリン:主人公。いちゃつきを見せつけられる被害者
翔:澪と付き合ってはや2年くらい?
澪:見られて感じる性癖なので最近は翔との露出プレイに興じている
エルザス:和の旦那。
和:エルザスの嫁。
レベッカ:燃焼系魔法少女
神 長門:黒猫警備隊隊長
???:スガーリンの夢に出てくる幽霊。
2011-06-22 08:41
URBANO
2 [翔] [編]
おいコラ貴様ぁぁぁぁぁあっ
俺が嫁を強姦られるリスクを自ら上げると思ってんのかぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ
2011-06-22 10:32
W61CA 3 [エルザス] [編]
2
ただのいちゃつきだとマンネリ化するだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!
2011-06-22 11:00
URBANO 4 [駄] [編]
良いから早く始めろやタk
此処が思わずツッコミたくなる新スレか
2011-06-22 12:15
W61SA
5 [第一話] [編]
「ちょっ、やめ…!」
「大丈夫だって」
スガーリンの見つめる先には、公衆の面前でふしだら行為に及ぶ澪と翔の姿があった。
ここはTSUTAYAの店内、アダルトコーナーの近くだ。スガーリンは友人に勧められたアニメを借りるためにこの店に来ていたが、思いがけず知り合いの姿を見るはめになった。
「そんなとこ!指、入れるなぁっ…///」
「しっ!静かに!誰かに聞かれる」
すでに聞かれている。
そんなことを内心にツッコミつつ、スガーリンは二人に近づいていった。
と、その時、目の前のアダルトコーナーから、一人の汚ならしいオッサンが出てきた。いきなり現れたオッサンに澪は羞恥心を極め、一方で翔は得意満面になっていた。
「ひゃあっ!私、見られて…////」
あっけにとられたオッサンは一瞬だけ澪の恥体を見やったが、すぐに不愉快な顔をしてその場を立ち去った。オッサンの手にはAVが握られたままだった。
「にゃはははははwwww見たかあの顔wwwwwざまぁwwwwww」
翔はオッサンを見送ってバカ笑いし、澪は伏し目がちに頬を赤らめていた。
「あまり関心しないな」
スガーリンは二人の背後から声をかけた。
「スガーリンww見てたのかwww」
翔はにやつきながらスガーリンを振り返った。澪は翔に隠れるようにしてもじもじしている。
「なにをしてたの?」
「AV借りてでてくる奴らの目の前でいちゃついたらどんな顔すんのかなーとか思ってwww」
「ふーん」
スガーリンは澪を見つめた。頑なに目を反らす澪は、こんな行為がいやではないのだろうか?
「まぁいいや。ほどほどにしなよ?」
「はいよwww」
スガーリンは二人と別れ、TSUTAYAをあとにした。
2011-06-22 16:25
URBANO 6 [あずにゃんをひたすらペロペロする人] [編]
何これ翔ぶん殴りたい
2011-06-22 19:16
SH001 7 [翔] [編]
多摩湖さんと黄鶏くんみたいなの期待してたのに
何コレ
ちなみに俺はこんなことする度胸なんざない肝っ玉の小さい人間です
2011-06-22 20:03
W61CA 8 [エース篠原] [編]
スガーリンの行く先すべてでイチャコラしてる、世にも奇妙な物語みたいな展開に期待
2011-06-22 21:20
W54S 9 [ここから厨二展開加速] [編]
5
スガーリンは特に目的もなく町中をぶらついた。
本屋やCDショップを一通り見て回ったあと大通りを歩いていると、突然ダァーンという銃声のような音が響き渡った。
「逃げろぉぉぉお!」
どこかから叫び声が聞こえ、それと同時に悲鳴が耳に届いてきた。
大通りは一瞬にして騒然となった。人々は異変に気づいて右へ左へ逃げ回る。その間にも銃声のような音は連続する。
「銃を持った男が暴れてるぞ!」
「警察を呼べ!」
喧騒の中で叫び声がこだました。人々はいよいよパニックになった。
スガーリンは人の波を押し分け、銃声の方向に進んでいった。
「危ないぞ!こっちに来ちゃダメだ!」
警官がスガーリンに向かって叫んだ。銃声はその先の路地から聞こえてきていた。
「私は黒猫警備隊の隊員です。何事ですか?」
スガーリンは警官に歩み寄って尋ねた。
「黒猫警備隊?あの超能力部隊の?!」
黒猫警備隊――世の中に生まれた数少ない超能力者を集め、治安維持を目的に活動している超法規的組織である。スガーリンは、その黒猫警備隊の戦闘要員であった。
「そうです。自分は能力者です。それで、この銃声は?」
「この路地を入った所です!若い男が銃砲店におしいって、ライフルを奪って乱射してます!」
2011-06-23 01:21
URBANO
10 [翔] [編]
あ、これ俺死…
何コレ
2011-06-23 12:07
W61CA 11 [翔たん死なない大丈夫大丈夫] [編]
「拳銃だけのあなた達では手に負えないでしょう。私に任せてください」
言うが早いか、スガーリンはそこから飛び出して路地へ突っ込んでいった。
「あ!ちょっと!!危ないですって!」
警官の制止を無視して、スガーリンは銃砲店の真正面におどりでた。
「なにしてる!下がれ!」
店を取り囲んでいた機動隊員が叫ぶ。だがスガーリンは耳を貸さなかった。目を閉じ、意識を店内に集中させる。禍々しいオーラがあるのを感じた。こちらを狙っている。
「くる…!」
スガーリンが目を開け、それと同時に体を少しだけ横へ反らした。刹那、凶悪なライフル弾が彼の耳元を駆け抜けていった。
次の弾丸が放たれるよりはやく、スガーリンは行動を開始していた。獣のようにすばやく店に近づき、正面のガラス戸を破って突入する。
ガラス片が頬を切るのもいとわず、スガーリンはライフルを持った男に向き合い、息をのんだ。
「翔…!?」
そこにいたのは翔だった。いつもの陽気な調子は影もなく、狂気にぎらつく目が荒々しい息づかいとともにスガーリンを威嚇していた。
「なぜお前がここに…?」
スガーリンの問いに翔は答えなかった。彼はライフルをスガーリンに向け、間髪入れずに引金をひいた。飛び出したライフル弾はスガーリンの左腕をかすめたが、右の腕はすでに翔にのばされていた。ライフルを払いのけ、流れるような仕草で強烈なパンチを見舞う。
「ぐあっ?!」
翔はあっさりと気絶し、銃砲店の床に転がった。
2011-06-23 13:31
URBANO 12 [待望の和登場!] [編]
一時間後、スガーリンは現場検証に立ち会っていた。彼の傍らにはやはり黒猫警備隊に属する和が立っていた。
「お手柄だったわね。怪我も大したことなかったし、一件落着だわ」
和がスガーリンに言った。彼女の能力は治癒。怪我や病気の回復を促進する程度の能力を持っている。骨折くらいの怪我など、彼女の手にかかればものの一時間で治ってしまう。
スガーリンも彼女の治癒を受け、すでに傷跡も綺麗に消え去っていた。
「一件落着とはいかない。なぜ翔がああなったのか突き止めないと」
スガーリンの表情は暗かった。友人が突然狂気にかられ、大事件を引き起こしたのだ。ショックは大きかった。
「たしかにね…あなたも辛かっただろうけど、でも事態の対処にあたったのがあなたでよかったと思うわ」
「なぜ?」
「あの時私とエルザスもここの近くにいたの。屋内にいたから事件には気づかなかったけれど。エルザスの能力は狙撃でしょ?銃を持った犯人と撃ち合うのが大好きなのよ。彼が対処してたら、翔さんは射殺されてたかもしれないわ」
「……」
スガーリンは背後に止まっている警備隊のジープを振り返った。助手席に座って、愛用のM14ライフルを磨いている男がエルザスだ。その表情は子供のように浮かれている。
「……困ったもんだ…」
スガーリンはため息をついた。
2011-06-23 13:42
URBANO 13 [] [編]
和が運転するジープに乗って、スガーリンは黒猫警備隊の本部に戻ることにした。当然助手席にはエルザスが乗っている。
「和と二人でドライブしたかったのに…(´・ω・`)」
エルザスはスガーリンの同乗が嫌だったらしい。
「私は二人ではドライブしたくなかったし、ちょうどいいわ」
「(´・ω・`)」
和はいつものようにエルザスには厳しい。そんなやりとりを微笑ましく思いつつ、スガーリンは車窓から外を見やった。すると、見慣れない形の自動販売機が目についた。
「あんな所に、あんな形の自販機あったっけ?」
スガーリンはその自動販売機を指差した。円筒形で下のほう3分の1は茶色、そこから上は白く塗装されている。
「お、ほんとだ。タバコの自販機らしい。ちょうどいいや、買ってくる。和、ちょっと止めて」
「買うのはいいけど、車内では吸わないでね」
「わかってるよ」
和が車を止めて、エルザスはタバコを買いに行った。
2011-06-23 14:03
URBANO 14 [黒猫警備隊の隊長は黒猫ではなく神 長門] [編]
スガーリンたちは黒猫警備隊の本部に戻ってきた。
ここで事件のあらましを隊長の神 長門に説明したあとで、翔の様子を見に行こう。スガーリンはそう考えていた。
「ご苦労だった。戻ったばかりのところ悪いがさっそく話を聞かせてくれ」
黒猫警備隊隊長の神 長門は頭脳派のやり手として有名であった。彼の能力は未来予知で、彼が立てた作戦の数々は予知に基づく正確な結果予測によって毎回成功をおさめてきた。また神 長門は好戦的な性格のタカ派司令官であり、警備隊の上部組織である内務省とはしばしば悶着を引き起こしていた。
スガーリンは神 長門に事件を解決に導いた経緯を話した。その場にはエルザスと和も同席していた。
「…最後に自分が翔のライフルを弾き飛ばして、彼を気絶させました。その後は警察に引き継いでもらいました。以上です」
スガーリンは説明を終えた。その話を聞いた三人の表情は冴えない。なぜ翔が銃を乱射するような凶行に及んだのか。翔は彼らにとっても共通の友人だった。
「にわかには信じられないな…まさかあの翔が…」
エルザスが呟き、さっき買ったタバコに火をつけた。煙を吐き出し、灰を落とす。
「まったくだ。だがなにか原因があるはずだ。翔の今日一日の行動を洗い直してみよう。奴の嫁を取り調べるんだ」
長門が言った。その時、エルザスが勢いよく立ち会った。座っていた椅子が倒れて大きな音が響いたが、エルザスは机上の一点だけを見つめて荒い呼吸を繰り返した。
「エルザス…?」
様子がおかしいエルザスに、スガーリンは声をかけた。
「っ!」
突然エルザスと目があった。その瞳は明らかに狂気を帯びていた。あの時の翔とそっくりに。
「があっ!」
エルザスはいきなり奇声を発し、そばに置いてあったM14に手を伸ばした。スガーリンはエルザスの異変を察知し、その背中に飛びかかった。
「エルザス、やめろ!」
「うがぁっ!」
ズダァンと鈍い音がして、ライフルが発射された。銃口は天井を向いていたが、放たれた弾丸は跳弾となって和にあたった。
「きゃあっ!」
「エルザス、やめるんだ!エルザス!」
スガーリンはエルザスを組み伏せようとするが、エルザスは狂ったような力で抵抗した。いや、明らかに狂っていた。
「スガーリン、どいて!」
2011-06-23 17:48
URBANO
15 [レベッカたん登場] [編]
不意に声が聞こえて、スガーリンはとっさに身をかわした。刹那、爆煙がほとばしったかと思うと、誰かがエルザスに強烈なパンチを叩き込んだ。
「どぅふっ!」
エルザスは不気味な声を声を出して気絶し、床に転がった。
「レベッカ、すまない助かった」
立ち上がったスガーリンはそこにいる仲間に言った。彼女の名前はレベッカ。炎を自在に操る能力者だ。彼女は繰り出した炎の塊を拳にみたて、エルザスの体に叩きつけたのだ。彼女の得意技、「灼熱☆ぱんち」であった。
「エルザスどうしちゃったの?それに和大丈夫?」
レベッカはあたりを見回して言う。和は長門に介抱されつつ、早くも自分への治癒を開始していた。
「擦り傷よ。だけど夫婦喧嘩にしては激しいわね」
平静なもの言いだったが、それでも和が動揺していることはわかった。
「いったいエルザスに何があったんだ…よりによって和を傷つけるとは…」
長門がみんなの疑念を代弁した。
「よくわからないけど、とりあえず一服させてもらうよ」
レベッカが言って、エルザスが買ったタバコに火をつけた。ライターやマッチは使わず、指先から炎を出して。
「隊長、エルザスの様子は翔にそっくりでした。なにか関係があるのでは?」
スガーリンは思っていたことを口にした。
「どういうことだ?エルザスも翔と同じだったというのか?」
「そうです。二人の目は同じ光を発していました。狂気に満ちた邪悪な…」
「ぴぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
スガーリンの言葉はレベッカの絶叫に遮られた。長門とスガーリンは驚きのあまり絶句した。レベッカの目は、狂気に駈られていた。
「いかん!」
長門が叫んだ次の瞬間、スガーリンの右腕が炎上した。
「ぐああああああああっ!」
苦痛のあまりスガーリンの顔が歪む。
「レベッカ!どういうつもりだ!」
長門の言葉には答えず、レベッカはスガーリンへの攻撃姿勢をとった。そうなのだ、いまスガーリンの右腕を燃え上がらせたのは他ならぬレベッカだったのだ。
レベッカは狂気に汚染されている。殺らねば殺られる。スガーリンはそう判断した。
2011-06-23 18:17
URBANO 16 [今日もやられやく翔] [編]
死なないと思ったらかませでした本当にありがとうございました
てか俺の能力何よ
…また登場するよね?
正気で
2011-06-23 21:19
W61CA 17 [新感覚燃焼系魔法少女れべっか☆] [編]
僕だけ萌えコテのままなんですかい
2011-06-23 23:09
W53T 18 [通りすがり] [編]
17
スガーリンの性別は明記されていないからまだ分からん
2011-06-24 03:06
W61CA 19 [スガーリンの能力は肉体強化] [編]
「許せ、レベッカ」
スガーリンはそっとつぶやき、自分の内側に神経を集中させた。
彼の能力は肉体強化。アドレナリンを故意に過剰分泌させることで、本来ならば引き出せない体の能力を限界まで発現させる超能力だ。
だがそれには制約もある。肉体を酷使しすぎれば寿命が縮むだけではすまない。スガーリンは必然的に短時間で決着をつけねばならないのだ。
「ぴぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
レベッカがまたしても奇声を発し、あたりに火炎が広がった。スガーリンは常人ではありえない速度で反応し、レベッカの側背に回り込んだ。
「ごめん!」
スガーリンの掌底がレベッカの首筋を強打し、レベッカの華奢な体は崩れ落ちた。
「次から次に…まるでキチガイ病院だ」
長門が静かな声で言った。
「隊長、レベッカの目もやっぱり…」
「あぁ、今度はたしかにオレも見た。エルザスがイカれた時と同じ目をしていた。狂人の目だ」
「翔も同じだったんです。やっぱり何かがおかしい」
「これが怪しいと思わないか?」
長門はそう言って、エルザスのタバコを取り上げた。
「エルザスもレベッカも、こいつを吸った途端おかしくなった。ひょっとしたら翔も同じタバコを吸ったんじゃないか?」
長門の推理にスガーリンは納得した。たしかにあのタバコは怪しい。見慣れない自販機で売られていたあのタバコ。
「今から翔に会いに行って、このタバコを吸わなかったかどうか聞いてきます」
「まぁ待て。お前はもう疲れているだろう。今日はもう休め。1日に二度も戦闘したんだ。体をいたわれ」
「しかし…」
「命令だ」
長門にぴしゃりと言われてしまってはどうしようもなかった。仕方なくこの日は帰って寝ることに決めた。たしかに二度の能力発露は、スガーリンに大きな消耗を強いるものだった。
「このタバコは科学鑑定にまわしておく。翔の取り調べにはオレが直接出向こう。お前はゆっくり休め。いいな?」
「了解です」
長門と敬礼を交わし、スガーリンは黒猫警備隊本部をあとにした。
2011-06-24 09:46
URBANO
20 [スガーリンの夢] [編]
その夜、和から電話がかかってきた。
「今日本部で起こったことなんだけど…」
「どうしたの?」
「エルザスの撃った弾が私に当たったこと、彼には黙っていてほしいの。私が怪我したこと知ったら、彼傷つくと思うから」
「……傷はもう大丈夫?」
「とっくに治癒を施したわ。傷跡もきれいに消えてる。黙ってればまずわからないはずよ」
「わかった。エルザスには黙ってる」
「ありがとう。あなたって優しいのね」
「別に。和の優しさに協力してるだけだし」
「そう。それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そしてスガーリンは眠りに落ちた。
夢を見ていた。
桜の花びらが乱舞する庭園。その真ん中で、美しい女性が舞っていた。両方の手に扇子をもち、ゆらゆらと舞い踊る。
スガーリンは彼女をじっと見つめていた。彼女は淡いブルーの衣を身にまとい、一心不乱に踊っていた。
何が彼女をかきたてるのか。この桜か。あるいは頬を流れてゆく爽やかな風か。
かなり長い時間、スガーリンは舞い踊る彼女を見つめていた。
不意に彼女が動きを止めたとき、スガーリンは意識せず一歩を踏み出していた。
彼女がこちらを向いた。整った顔立ち。物憂げな瞳。透き通った白い肌。彼女は幽霊のようであった。
「あなたには力がある。すべてを守り、すべてを壊すだけの力が」
声が聞こえた。彼女の声か?しかしその声はスガーリンの内側からわきあがってくる気がした。
「その力をどう使うかは、あなた次第」
彼女がすこし微笑んだ。刹那、桜の花びらが視界を埋め尽くすほどに舞い散った。意識全体が桜色に染まり――――スガーリンは目を覚ました。
「夢か」
何度か見たことのある夢だった。あの女性が誰なのか、スガーリンは知っている気がした。
2011-06-24 09:48
URBANO 21 [進展] [編]
翌日、スガーリンは神 長門に呼ばれ黒猫警備隊本部に出頭した。エルザス、和、そしてレベッカも集まっていた。エルザスとレベッカは正気を取り戻したが、昨日の出来事はほとんど憶えていないという。
「みんな来たな。実は例のタバコな、やっぱり黒だったよ。」
神 長門が部屋に入ってきて言った。彼は一人の博士を紹介した。
「こちらはミャンマー博士。我が警備隊のメカ開発から科学捜査までなんでもこなす天才だ」
「どうぞよろしく」
白衣を着たミャンマーはいかにも理系と言った風貌で、細身のメガネをかけていた。
「さっそくだがミャンマー博士に説明してもらおう。」
「はい。エルザスが買ったこのタバコですが、中にある植物の実が混入していました。その植物とは『宇宙芥子の実』」
「宇宙芥子の実?」
聞きなれない単語に一同は顔を見合わす。
「左様。体内に入ると極度の興奮状態を引き起こし、人を乱暴かつ凶悪な性格に変えてしまう作用があります」
「そんなものがどうしてタバコに?」
スガーリンの質問には長門が答える。
「実はあの自販機、当局の認可を受けたものではない。何者かが勝手に設置したらしい」
「なんと…」
「情報によれば、件の自販機には毎週金曜日の昼頃に若い男がタバコの補充にやってくるらしい」
「金曜日って…」
「今日だ。従ってスガーリン、レベッカの両名はこれより現場に急行し、自販機の監視にあたれ。オレの予知ではあと30分で補充の男が現れることになっている。その男を尾行し、アジトを見つけるんだ」
「了解!」
スガーリンはレベッカを伴い、本部の建物から飛び出した。
2011-06-24 23:12
URBANO 22 [] [編]
30分後、件の自販機に若い男が現れた。男は長門の予知通りに自販機のタバコを補充しはじめた。
「来たよ。若い男!」
「静かに。車で来ているらしい。私たちもジープで待機しよう」
物陰から自販機を見張っていたスガーリンとレベッカは、和から借りたジープに乗り込んだ。
「あっ、男が車に戻ったよ!」
「後をつけよう。本部に連絡して、自販機の処理を頼まないと」
「了解」
ジープは走り出した。前をゆく乗用車を追う。それに男が乗っているのだ。
「こちらレベッカ。タバコの補充に来た男を尾行中。自販機のほうはまかせたよ!」
「こちらエルザス、了解だ。これ以上狂気が広がらないようにしないとな。それと、援護が必要だったらいつでも言ってくれ。和と二人で駆けつける」
「了解。通信終わり」
車は街の郊外にさしかかっていた。住宅街が広がるこの地区は、再開発に取り残された古風なアパートが多かった。
そしてそんなアパートのひとつの前で、目標の乗用車は停車した。中から降りてきた男は建物に入っていった。
「レベッカはここで待機してて。私が中に入って確かめてくる」
「了解。気をつけて」
スガーリンは男の後を追ってアパートに入っていった。
アパートの内部はどこか郷愁を覚えるように古めかしく、赤茶けた壁は日に焼けて色褪せていた。二階に上がると、男が入ったと思われる部屋があった。
その前にスガーリンが立った瞬間、突然ドアが開いた。
「うわっ?!」
不意をつかれたスガーリンはなすすべもなく部屋に引きずり込まれた。
「お前は?!」
そこには例の若い男が座っていた。古風なちゃぶ台の前にあぐらをかいて、お茶を飲んでいるではないか。
2011-06-25 14:49
URBANO 23 [] [編]
「やぁ同志スガーリン。私は君を待っていたのだ」
「なに?!」
「歓迎するぞ。なんなら、レベッカ隊員も呼んだらどうだ?」
男からは敵意らしきものが感じられなかった。スガーリンは警戒を解かぬまま、男の正面に座った。
「君の企みはすべて明るみにでたぞ。大人しく降伏しろ」
「ハッハッハ、我々の実験は十分成功したよ」
「実験?」
「そうだ。宇宙芥子の実が、人類の頭脳を狂わせることに十分効力があることがわかった」
「いったいお前は何者なんだ」
「我々はヴェータ星人。我々の目的はこの地球をのっとることだ」
「地球を?バカな、できるはずがない」
「教えてやろう。我々は人類が互いに
ルールを守り、信頼しあって生きていることに目をつけた。地球を壊滅させるのに暴力をふるう必要はない。人間同士の信頼感をなくしてやればいい。人間たちは互いに敵視し、傷つけあい、やがて自滅していく。どうだ、いい考えだろう?」
「そうはさせない。私たち黒猫警備隊がいるんだ!」
「黒猫警備隊?」
ヴェータ星人は不意に立ち上がった。
「我々が恐れるのは同志スガーリン、君だけだ」
瞬間、スガーリンは危険を察知した。反射的に体をのけぞらせると、背後の壁に大穴があいた。
「さすがだな同志スガーリンっ!私の攻撃をよけるとは!」
「貴様に同志と呼ばれる筋合いはない!」
「同志さ!君は私と同じ、超能力者なんだからなぁ!」
ヴェータ星人との壮絶な戦いが幕をあけた。ヴェータ星人は部屋のなかにあるあらゆるものを宙に浮かび上がらせ、スガーリンに投げつけてきた。椅子、ミシン、ナイフ、そして熱湯の入ったやかん。
どうやらヴェータ星人の能力は物を自在に操ることらしい。飛んでくるあらゆるものをよけながら、スガーリンはヴェータ星人に肉迫していった。
「むっ!」
ついに肉弾戦距離にまで迫ったとき、ヴェータ星人は戦法を変えてきた。ヴェータ星人につかみかかろうとしたスガーリンの背後から、大きな箪笥が飛んできた。
「ぐぁっ!?」
背後からの攻撃に不意をつかれたスガーリンは、箪笥攻撃をまともにくらってしまった。箪笥はスガーリンの体を壁に叩きつけ、スガーリンは壁と箪笥との間に挟み込まれた。
「ぐぅ…っ!」
強烈な力で圧縮してくる箪笥が、スガーリンの体を壁にめり込ませる。呼吸も出来ないほど強く押しつけられ、スガーリンの意識が遠のいていく。
2011-06-25 14:51
URBANO 24 [] [編]
「ハッハッハ!箪笥に圧死させられる気分はどうだ?同志スガーリン!こんなに愉快な死に様がほかにあるかね?ハッハッハ!」
高笑いするヴェータ星人は箪笥の圧力をさらに強めた。
グシャっと言う鈍い音がして、箪笥は壁面にぴったりと張り付く形になった。
「ハッハッハ!さらばだ同志スガーリン!地球はいただくぞ!」
その時、異変に気づいたレベッカが部屋に飛び込んできた。
「スガーリン!?」
「おや、レベッカ隊員ではないか。君の大切な仲間なら、そこの壁と箪笥の間で潰れているよ」
「そんな?!嘘だっ!」
「嘘ではない。たった今私が押し潰したのだ。断末魔ひとつなく、あっさりと死んだよ」
「そんな…」
レベッカの両足はわなわなと震え、力が入らない。
「スガーリンが死んじゃうなんて、そんなの…」
レベッカの瞳に涙が浮かび、彼女はその場に崩れ落ちた。
「いやだ!いやだよスガーリン!ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
レベッカはわんわん鳴き始め、ヴェータ星人は意地の悪い笑みを浮かべた。
「仲間の死を知って戦意喪失とは、かわいらしいお嬢さんだ。殺すには惜しいな…どうだ?一緒にヴェータ星に来ないか?地球を征服したあとで連れていってやるぞ」
「死んでも絶対にいや!」
「聞き分けの悪い子だ。ならば力ずくで連れていくまで」
「いやぁ!」
ヴェータ星人はレベッカの燃えるような赤髪を乱暴に掴んだ。
「やめて!はなして!」
「いいから来るんだ!」
ヴェータ星人がレベッカを無理矢理連れ去ろうとした、まさにその瞬間。
「その手をはなせ」
「!?」
2011-06-25 14:53
URBANO
25 [実はまんざらでもないレベッカ] [編]
メトロン星人乙
2011-06-25 16:15
W53T
26 [ヴェータ星人] [編]
ハッハッハ、ウルトラ>>1、
怖いのは君だけだ!
/\
/Y 丶
O)i(O |
| i /|
ハ i ∧|
/MM/∥i トイ丶
| |∥i レ/ヽ|
丶_丿∧__ムム |
ノ Z三__ノ
/⌒\ V/⌒ヽ
(二旦二二二)、 _ノ
|| || || ||⌒)
U U U U ̄
いやでも本当にありがたいっす。こんな美味しいポジションだとは……
2011-06-25 17:18
K002
27 [翔] [編]
スレタイとは何だったのか
2011-06-25 21:47
W61CA
28 [通りすがり] [編]
夕日の町並みをバックに戦えるのか。胸熱
後>>24の制服は誤字じゃね
2011-06-25 22:49
W61CA
29 [エルザス] [編]
28
直しといた。指摘Thanks
2011-06-26 00:11
URBANO
30 [] [編]
「私を圧死させるには、ここの壁は柔らかすぎた」
「スガーリン!」
レベッカとヴェータ星人の見つめる先、さっきまで箪笥があった場所には決然と立ち上がるスガーリンの姿があった。
「バカな、お前は確実に潰れたはず…あの圧力で人間が無事なはずが…」
「並の人間なら潰れていただろう。だがヴェータ星人、お前は大事なことを忘れていた」
スガーリンは一歩踏み出し、ヴェータ星人をまっすぐ指差した。
「私は超能力者だ」
次の瞬間、スガーリンの体がバネのように跳ねて、ヴェータ星人にぶち当たった。体勢を崩したヴェータ星人に馬乗りになり、スガーリンは鋼鉄のように強化した拳を何度も降り下ろした。
ヴェータ星人の頭はみるみるうちに膨れあがり、あちこちに色の濃い痣ができていた。
「次は忘れないようにすることだ」
スガーリンがヴェータ星人から離れた時、哀れな宇宙人は見る影もないほどに殴られ尽くしていた。
「スガーリン!レベッカ!大丈夫か?!」
突然部屋の扉が開き、エルザスと和が入ってきた。
「もうすべて終わったよ。こいつの仕業だった」
スガーリンは冷静だった。すべては終わった。
「こいつの処置は任せろ。スガーリンとレベッカはもう休んでくれ。長門隊長からの命令だ」
「ありがたくそうさせてもらおう」
スガーリンはまだ泣きじゃくっているレベッカの手をとった。
「帰ろうか、レベッカ」
レベッカは泣き腫らした目でスガーリンを見た。
「……うん!」
二人は連れだってアパートを出ていった。
†
その夜、スガーリンは近所の公園を散歩していた。小さなベンチのそばにさしかかった時、誰かがそこにいることに気がついた。
「星に手がとどきそうだな…」
「澪ってばやっぱり詩的な台詞が似合うなぁ」
「な!?わ、私は別に詩的な台詞なんて言ったつもりは…!」
「はいはい。まぁ詩的じゃなかったとしても、澪の台詞はなんでも素敵だけどね」
「……」
翔と澪であった。あまりにもくだらない翔の言葉にスガーリンは眉を潜めたが、澪のほうは誉められたと思ったのか、頬を赤らめて照れている様子だった。
スガーリンは小さくため息をついた。なんというか、この二人は救いようがないと思った。
2011-06-26 00:12
URBANO
31 [] [編]
二人は夜空の星をつなげて好き好きな星座をつくりはじめた。ギター座、ベース座、けいおん星雲――
次々に勝手な命名をしている二人を残し、スガーリンはひとり歩き始めた。最後にもう一度空を見上げる。素晴らしい夜空。満天の星。
今度はレベッカでも呼んでみよう。
スガーリンはそんなことを思いつつ、家路を急いだ。
†
最後にエルザスがこちらを向いて、読者諸兄に語りかける。
「ヴェータ星人の地球侵略計画は、こうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは、恐るべき宇宙人です。でも、ご安心ください。このお話は遠い遠い、未来のお話ですから。え?何故って?
今の我々は宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼しあってはいませんから。」
第一話 完
2011-06-26 00:14
URBANO
32 [第二話「日本人のルーツ」] [編]
黒猫警備隊の一行は、久々の休暇に揃って客船による船旅に出ていた。
「洋上から見る夕日はまた格別だなぁ」
客船のデッキ、澪と並んで立つ翔が言った。
「陸から見るより太陽が大きく見えるのはなんでだろうね」
和と並んで立つエルザスが言った。
「海が真っ赤に染まってる。レベッカの髪みたいだ」
レベッカと並んで立つスガーリンが言った。
「今はスガーリンの髪も赤く染まって見えるよ。みんなの髪も!」
燃えるような赤髪を持つレベッカは、他のみんなも自分と同じ髪の色になっていることにはしゃいでいた。
「あ、太陽が水平線に沈むぞ」
澪が消えてゆく夕日を指差した。
「そろそろ部屋に戻りましょうか。なんだか目が痛くなってきたわ」
メガネをかけている和が言って、一同は広いデッキをあとにした。
2011-06-26 13:40
URBANO
33 [翔] [編]
まさか続くとはいいぞもっとやれ
2011-06-26 13:56
W61CA
34 [構想は五話くらいまであるがあとはやる気の問題] [編]
†
宵闇が色を深めるころ、スガーリンは隣の部屋から聞こえてくる声に目を覚ました。
「やっ、ん!……ふぅあっ!あっ!……」
隣の部屋にはエルザスと和が寝ているはずだ。どうやら声の主は和らしい。
「んんっ!あ、…あぁっ!」
スガーリンは同じ部屋になったレベッカの方を見た。純真無垢な彼女はぐっすりと眠っているらしい。スガーリンはとりあえず安心したが、このまま再び眠りにつくのは不可能に思われた。
仕方がないので船内を散歩してくることにした。夜風にあたっている間にエルザスと和の情事が終わることを祈ろう。
スガーリンは夕日を見ていたあのデッキにやってきた。意外にもそこには先客がいた。
「公園で見た星もすごかったけど、これにはかなわないだろうなぁ!」
「あっ!あれ!南十字星!」
「南十字星?」
「南半球でしか見えない星なんだ。日本は北半球だから絶対に見えない」
「へぇ~。澪は何でも知っているなぁ」
「そ、そんなことはない。たまたまパパに…お父さんに教えてもらっただけだ」
「ふ~ん」
翔と澪は楽しそうに話していた。
二人の邪魔をしたくなかったスガーリンは、こっそりとその場から去ろうとした。その時、声が響いた。
「私は篠原。エース星人です」
「ひゃあっ!?」
突然聞こえた声に驚き、澪は泣きそうになりながら背後を振り返った。
「なんだスガーリンか、おどかすなよまったく…」
同じように振り返った翔が言う。しかし、スガーリンは一言も声を発していないのだ。
「今のは私じゃない。その辺りから聞こえたが…」
スガーリンはそう言って、澪の足元を指差した。
「ひぃぃっ!?」
今度こそ涙を浮かべて、澪がとびあがった。
「な、なんだこれ?」
翔が澪の足元から、小さな日本人形をつまみあげた。
2011-06-26 14:24
URBANO
35 [] [編]
「私は篠原。エース星人です」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!しゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
突然声を発した人形に驚くあまり、翔は日本人形を放り投げてしまった。
「おっと」
スガーリンがそれをキャッチすると、人形は再び喋り始めた。
「地球人に警告します。怪獣ワッフルが宇宙から侵入しました。とても危険な怪獣です」
「君は何者なんだ?」
スガーリンは日本人形に話しかけた。
「私は篠原。エース星人です。宇宙指令M775によって地球に派遣されました」
「なぜ日本人形の姿を?」
「その人形はあなた方と話すためのスピーカーに過ぎません。必要ならば私の姿を見せます」
「是非とも直接会って話したい。その、怪獣ワッフルというのは?」
「では客室の405号へ来てください。警備隊のみなさんも一緒に」
「わかった」
会話を終えて、スガーリンは日本人形をつぶさに観察した。無線機らしきものが内蔵されているわけではなさそうだ。なんらかの能力によるものと見て間違いないだろう。
「なんなんだ?いったい?」
翔が澪の介抱をしながらスガーリンに訊いた。澪は驚きのあまり、白眼をむいて失神していた。
「また宇宙人の仕業らしい。だけど今度の宇宙人はどうやら敵ではなさそうだ」
「これだけ人をおどかしといて?どうも怪しいなぁ」
「直接会って確かめよう。澪を部屋に送ってから、客室405号の前に来てくれ。私はレベッカとエルザスを呼んでくる。和に澪を見ていてもらおう」
「わかった。じゃあ後で」
翔は気絶している澪をお姫様だっこし、足早に去っていった。
2011-06-26 14:26
URBANO
36 [] [編]
†
スガーリンが部屋に戻ると、レベッカは目を覚ましていた。
「あっ、よかった。スガーリン戻ってきた。ねぇ、隣の部屋から変な声が聞こえるよ?和の声だと思うんだけど、なんだか苦しそう…」
「レベッカはここにいて。隣の様子を見てくる」
「わかった」
スガーリンは隣の部屋の前に立った。一度深呼吸してから、思い切って呼び鈴を鳴らす。
ややあって、ドアが少しだけ開いた。
「エルザス、取り込み中すまない。問題が起きた」
「こっちも大問題が起きた。ゴムに穴があいていた。オレはどうすればいい?」
「少子化問題に貢献できたな。それより、武器を整えて客室の405号に来て欲しい。大至急」
「緊急事態か?」
「そうなる可能性が高い」
「わかった」
「それから、澪の具合が優れない。和に言って、彼女の様子を見ていてもらいたい」
「それも了解だ」
「頼んだ」
ドアが閉まり、スガーリンはレベッカのもとに戻った。
10分後、スガーリン、レベッカ、翔、そしてエルザスの四人が、客室405号の前に集合した。
「つまり、この部屋の中にその篠原って宇宙人がいるんだな?」
サブマシンガンを構えたエルザスが言った。
「その通り、部屋に入ったらまず、翔に相手のマインドをスキャンしてもらう。その時点で敵とわかれば、私たちが片付ける。それまでは攻撃はやめておこう」
「まずは外交交渉か」
スガーリンの作戦を全員が納得し、彼らは405号の呼び鈴を鳴らした。
「どうぞ中へ。ロックはしていません」
先ほどの日本人形の声がした。スガーリンは意を決し、ドアを開けた。
2011-06-26 14:26
URBANO
37 [エース篠原] [編]
なんか面白いポジションktkr!!
エルザス「つまり、この部屋の中にその篠原って宇宙人がいるんだな?」
軽くシュールだよねこれ
2011-06-27 01:18
W54S
38 [] [編]
「はじめまして、皆さん。私は篠原、エース星からきたものです」
そこにいたのは黒ずくめのスーツを着た、華奢な男であった。
「あなたがこの人形の声の主か」
スガーリンはさっきの日本人形を投げた。篠原はそれをキャッチして言う。
「その通り、回りくどいやり方をして申し訳ない。私の星では、初めて話すときは相手に姿を見せないことが礼儀なのです」
「それはわかった。ところで、あなたが言っていた怪獣ワッフルについて聞きたい」
「お話しますとも。まぁまずはお掛けください。椅子が足りないので、そちらのベッドにでも」
篠原はスガーリンたちに座るよう促し、自分は細い脚の小さな椅子に腰掛けた。スガーリンたちは言われるまま、やけに広いダブルベッドに並んで座った。
『スガーリン、エルザス、レベッカ』
不意に頭の中に声が響いた。翔の発する念話だ。
『篠原のマインドをスキャンした。今のところ悪意らしきものは感じられない。宇宙指令M775というのもほんとの話らしい』
翔の能力は心理読解。相手の心理を読み取り、その裏に隠れている企みを暴露できる能力だ。
「ワッフルは海洋に生息する巨大なエイのような怪獣です。その卵が先日、地球に落下し、すでに孵化したものと思われます。」
「巨大って、どのくらい?」
「孵化した直後でも体長は30mをくだらないでしょう。ワッフルは音に反応して相手を攻撃します。船のエンジン音、ソナーの電波音などです。そしてワッフルの卵が孵化したのは、この海域なのです」
「なんだって?!」
スガーリンたちは顔を見合わせた。そんなに巨大なエイに体当たりでもされたら、いかに大きな豪華客船でもただではすまない。
「レベッカ、すぐに船長に会って、針路を変更して引き返すようにいってきてくれ」
「わかった!」
スガーリンはレベッカを送り出し、再び篠原と向かい合った。
「ワッフルを倒す方法はないんだろうか?怪獣と言うくらいなら、生半可な攻撃ではダメなんだろう?」
「その通り、ワッフルを倒すには、奴の鼻先にある神経が集中している部分を潰す以外にありません」
「そこが弱点か…」
その時、船のエンジン音が聞こえなくなった。それから間もなくして、レベッカが駆け戻ってきた。
「遅かったよ!右舷3000mの距離にワッフルが!こっちに向かってきてる!」
「なに?!」
一同は部屋を飛び出し、デッキへと向かった。
2011-06-27 12:24
URBANO
39 [] [編]
「ほら!あそこ!」
レベッカが海上を指差した。そこにはまさに怪獣と呼ぶべき生き物が浮上していた。体は三角形で、その底辺にあたる部分からながいしっぽが伸びている。巨大なエイそのものであった。
「船長はあいつをやりすごすためにエンジンを止めたみたい」
レベッカが言う。その時、狙撃ライフルのスコープを覗いていたエルザスが叫んだ。
「右舷後方に大型タンカー!ワッフルのほうに進んでるぞ!」
一同は身を乗り出して船の後方を見やった。
「いけない、今すぐエンジンを止めさせないと」
篠原が言った。
「船長にそう言ってくる!」
レベッカが駆け出したが、すでにワッフルはタンカーに向かって進み始めていた。
「やばいぞ!」
エルザスはライフルを構え、ワッフルに向けた。間髪入れずに銃声が響く。距離は3km以上あった。
「くそっ!遠すぎる!」
エルザスが毒づく間にも、ワッフルはタンカーに迫りつつあった。そして次の瞬間、ワッフルは水上高く飛び跳ねると、そのままタンカーの真上に落下した。
タンカーの船体は一瞬折れ曲がったように見えたが、直後に大爆発が起こり、オレンジ色の炎と黒煙がもうもうとわきあがった。
2011-06-27 12:26
URBANO
40 [] [編]
「なんてこった…」
爆沈してゆくタンカーを睨むように見ながらエルザスがもらした。
「これからどうする?」
「とにかく長門隊長に連絡して、指示をもらおう。私たちだけじゃ手におえない」
スガーリンの提案に一同が賛同し、翔がさっそく念話を試みた。
『長門隊長、応答願います』
『翔か、連絡を待っていた』
『緊急事態です!』
『わかっている。怪獣ワッフルだな?こうなることは予知していた』
『本当ですか?』
『オレの出張さえなければこんなことにはならなかったんだが』
『どうすればいいですか?』
『こんなこともあろうかと、エルザスの鞄にアンチマテリアルライフルを入れておいた。この念話をみんなにもつないでくれ』
『わかりました』
翔がうなずき、長門との念話にスガーリン、エルザス、そしてレベッカが加わった。
『作戦を説明する。お前たちは今から2チームに別れてもらう。スガーリンとレベッカ、エルザスと翔のチームだ。両チームはモーターボートで洋上にでて、ワッフルをおびき寄せる。ワッフルが浮上した時点で総攻撃。エルザスと翔のチームは援護、スガーリンとレベッカがとどめをさせ。各員のチームワークが重要だ。しっかりやれ』
長門の指令を聞いたスガーリンたちは行動を開始した。エルザスは自室に戻り、自分の鞄を開けた。
「……道理で重いわけだ」
鞄の底には、強力なアンチマテリアルライフルが分解された状態で入っていた。エルザスはさっそく組み立てにかかる。
その間、スガーリンたちは船長からモーターボートの使用許可を取りつけていた。船長はこの非常事態にも冷静に対処していた。彼はスガーリンの手を握り、言った。
「この客船に乗る1000人からの人間の命があなた方にかかっています。どうかよろしくお願いします」
スガーリンは船長の眼差しをまっすぐ見返し、しっかりとうなずいた。
2011-07-07 20:20
URBANO
41 [] [編]
二隻のモーターボートが発進した。一隻は翔が操縦し、隣には長くて太い銃身のアンチマテリアルライフルを持つエルザスがいる。もう一隻は宇宙人の篠原が操縦している。献身的なエース星人は自らボートの操縦士を買って出たのだ。スガーリンとレベッカは小さなガソリンのタンクのようなものの蓋をせっせと開けていた。
『ワッフル浮上のタイミングはオレが予知してお前たちに知らせる。そのあとはお前たち次第だ。頼んだぞ』
長門の声が念話で聞こえた。四人の隊員は緊張しながらも堂々とふるまっていた。彼らは仲間を信頼していた。こんなモーターボートなどワッフルに狙われたらひとたまりもないだろうが、そんなことは関係なかったのだ。
『来るぞ!エルザスの前方1500mだ!』
長門が叫び、エルザスは一瞬で重いライフルを構えた。篠原と翔はそれぞれのボートを目標地点に向けた。
次の瞬間、巨大な水柱が天高く立ち上がり、怪獣ワッフルが姿を現した。
「くらえ!」
耳をつんざく銃声が響き、アンチマテリアルライフルが火を噴いた。高速で飛翔した弾丸は目に見えるほど大きく、飛び上がったワッフルの表面に突き刺さった。
エルザスはすばやく次弾を装填し、第二撃を放った。弾丸は水中に潜ろうとするワッフルの尻尾に当たったが、ワッフルはそのまま姿を消した。
「出番だレベッカ!」
エルザスが叫んだ。
2011-07-07 20:23
URBANO
42 [] [編]
「自分が決められなかったのに偉そうにするなぁ!」
レベッカとスガーリンは重りをつけて蓋を取った燃料タンクを海へ投げ入れ始める。疾走するボートから投げられた燃料タンクは、ガソリンの尾を引きながら水中に沈んでいく。
「いくよスガーリン!」
「待って!これで最後!」
二人は合わせて10個以上のタンクを投下した。海上には点々とガソリンが浮いている。
「着火ぁ!」
レベッカが叫び、その指先から炎が飛び出した。火炎放射機と化したレベッカは、海上のガソリンめがけて炎を浴びせかけた。
点火された炎はガソリンを伝って水中を走り、燃料タンクにたどり着いた。その瞬間、タンクは水中で爆発した。轟音と共に水面が白く逆立ち、巨大な水柱が膨大な量の海水を持ち上げた。
「やったか?」
雨のように降り注ぐ海水を浴びつつ、スガーリンは水中に目を凝らした。燃料タンクを機雷に見立てたレベッカの攻撃は、果たして有効だっただろうか?
『ワッフルのマインドをスキャンできた!奴は苦しんでる!浮上するぞ!』
翔が念話で叫び、はたして次の瞬間、怪獣ワッフルは再び洋上に姿を現した。スガーリンたちの乗るボートの真正面だった。このままでは激突しかねない。
「退避します!」
篠原がたまらず舵をきろうとする。しかしスガーリンはそれを止めた。
「このまま進んで!奴の弱点は鼻先なんだ!」
ハッとした篠原はボートを加速させた。ワッフルもこちらに向かってくる。
「スガーリン!無茶だよ!」
レベッカの声を無視して、スガーリンはワッフルと向き合った。目の前に迫ったワッフルが飛び上がった瞬間、スガーリンもボートの床を強く蹴って舞い上がった。
「りゃああああああああっ!!」
2011-07-08 09:38
URBANO
43 [] [編]
スガーリンとワッフルは空中で交錯し、一瞬あとにすれ違った。ボートはワッフルの下をくぐり抜け、スガーリンはそこに着地した。
手応えがあった。
刹那、ワッフルは耳をつんざく金切り声をあげた。鼻先の神経が集中している部分を潰されたワッフルの、おぞましき断末魔であった。ワッフルの巨体は海面に叩きつけられ、そのまま水中に没した。重油のようにどす黒い液体が浮いてきた。ワッフルの血液だろうか。
「スガーリン、その手…」
レベッカに言われ、スガーリンは自分の右手を見た。肘から先がどす黒く染まっていた。
「ワッフルの皮膚を拳で貫いた。これは奴の体液だろうね」
淡々と述べたスガーリンは腕を海面に突っ込んだ。しばらくして引き抜くと、少しだけあざのような黒い痕ができていた。
「お~い!スガーリン!」
エルザスたちのボートが近づいてきた。
「お手柄だったな!一撃であいつを倒すとは」
「運がよかっただけだよ」
「運も実力のうちさ。さぁ、客船に戻ろう。お腹がすいた。和も心配してるだろうし」
「そうだね。戻ろう」
2011-07-08 09:42
URBANO
44 [] [編]
その夜、スガーリンは客船のスイートルームで床についた。船長のはからいで、この豪華な船室に滞在することが許されたのだ。
戦いの疲れが大きかったのだろう、スガーリンはあっという間に眠りに落ちた。
そして、いつもの夢を見た。桜舞い散る庭園。そこにいる女性は、今日はいつもよりスガーリンのそばに立っていた。
「気づいてる?」
青い着物をきたその女性は、スガーリンのほうを見ないまま喋る。
「あなたの中に、よからぬものが入り込んだわ。それはある意味で私と同じものだけれど、決定的に違うところがある。」
スガーリンは口を開かない。この女性を前にすると、なぜだか言葉が無意味なものに思えてくるからだ。
「私は意味もわからないまま現世に姿を保っている。だけどあなたの中に入り込んだものはそうじゃない。はっきりとした目的を持っているわ。それがなにかわかる?」
女性はこちらを振り向いた。口元を隠すように広げられた扇。頭には不思議な形の帽子。その間から覗いている物憂げな瞳は、いつもと変わらない。
スガーリンは黙っていた。その沈黙を否定ととったのか、女性は答えをスガーリンに教えた。
「あなたへの復讐よ。あなたのなかに入り込んだよからぬもの、邪悪なるものは、自分を滅ぼしたあなたへの復讐を果たしたいの。もしそれにあなたが心をゆるせば、あなたはもう二度と人間には戻れない。そして死ぬだけよ。気をつけなさい」
スガーリンは目を覚ました。妙に頭が冴えていて、ずっと起きていたかのようだった。
右手を見たときも、スガーリンは冷静だった。ワッフルをほふったその右手は、見るもおぞましい黒いアザに犯されていた。
2011-07-08 10:05
URBANO
45 [] [編]
翌日、客船は港に戻ってきた。桟橋に降り立ったスガーリンたちは、その足で黒猫警備隊の本部に向かった。神 長門に戦闘の報告をしなければならない。エース星人の篠原も一緒だ。
「その手、ほんとになんともないの?」
本部へ向かうハイヤーの車内、レベッカがスガーリンに訊いた。
「今のところ痛みもないし、原因がわからない以上下手に治療しないほうがいいだろう」
「やっぱりあのワッフルの体液がいけなかったのかなぁ?」
「だとすればあの海域の生態系に大きな影響がでるかもしれない。はやくこの傷を調べないと…」
「ミャンマー博士ならきっと治療法を見つけてくれるよね?」
「たぶんね」
ハイヤーは警備隊本部の前に止まった。急いで長門の部屋へ向かう。
「スガーリンは先にメディカルルームへ行ったほうがいいわ。報告は私たちがしておく」
和がスガーリンに言った。反論を許さない口調だったので、スガーリンはそれに従うことにした。
メディカルルームにはすでにミャンマー博士が控えていた。前例のない症状を確かめたミャンマー博士は、スガーリンを心配するどころか目をらんらんと輝かせていた。
「素晴らしい!こんなのは見たことがない!」
ミャンマー博士は様々な器具を用いた治療を用意しはじめた。スガーリンは頭を抱えた。どうやら自分は人体実験の被験者になってしまったらしい。
2011-07-08 11:19
URBANO
46 [] [編]
その頃長門の部屋では、翔が長門への報告を完了していた。
「任務ご苦労だった。休暇だったのにとんだ目に会ったな。だがお前たちの働きは勲章ものだ」
「正直勲章より休暇が欲しいよ」
翔は肩をすくめてみせた。
「まぁそう言うな。明日から全員、普段通りの任務についてもらう。いいな?」
「了解」
一同の敬礼が揃う。
「さてエース星人の篠原氏だが、氏はこれからどうするおつもりだ?」
長門は品のよいスーツを着た篠原に向き直った。
「私は宇宙指令M775を遂行し、任務は完了しました。このまま地球に住み着こうと思っています。中でもこの日本に」
「宇宙移民第一号と言うわけか」
「いえ、第一号ではありません。人類の歴史が始まって500万年になりますが、その長い年月の中で、数多くの宇宙人がこの地球に住み着きました」
「そうなのか?」
「はい。人類の歴史に残る発明や発見の多くは、彼ら宇宙人によってもたらされたのです」
「ワットやエジソンは宇宙人だったってことか」
「いえ、彼らは宇宙人の持ち込んだ技術を解明したに過ぎません」
「ずいぶん突拍子もない話だな。まぁいい、氏が地球に住むことを望むなら、戸籍などの手続きはこちらでなんとかしよう」
「ありがとうございます」
「さて、スガーリンの見舞いにでも行ってみるか。ミャンマーにあれこれ実験されていることだろうし」
一同はぞろぞろと部屋を出ていった。
†
最後にエルザスがこちらを向いて、読者諸兄に語りかける。
「日本人は単一民族だと言われています。しかし実際には、大陸から陸伝いに渡ってきた人々や、南洋の島々から舟でやってきた人々がそのルーツと言えるのです。そして日本人はその歴史の中で、多くの移民を受け入れ、同化して来ました。ならば、地球人類も同じではないでしょうか?人類は単一の種族ではなく、様々な種類の人間が同化して構成されているのかもしれません。人類の中には、エース星人の篠原氏のように、地球以外の惑星からやってきた人もいるのです。
あなたの隣にいる人、宇宙人かもしれませんよ?」
第二話 =完=
2011-07-08 11:20
URBANO
47 [故郷は地球] [編]
スガーリンとレベッカは、黒猫警備隊本部の一室でテレビを見ていた。
「有人探査船が火星に到達するのは、これが人類史上初めてであります」
テレビではNASAからの宇宙中継が放送されていた。
「すごいな~、ついに人類が火星に立つのか~」
目を爛々と輝かせ、レベッカは中継の画面に見入っている。
「探査船タマゴ・ボーロ号の船長を務めるヒク・ジャミラ飛行士は…」
「あっ、ヒクさんだ!」
画面に映し出された飛行士の顔写真を見て、レベッカは興奮した様子で叫んだ。
「有名な人なの?」
スガーリンはレベッカに尋ねた。
「超ベテランの宇宙飛行士だよ!子供のころから憧れてた!」
「そういえばレベッカって元々は宇宙工学を勉強してたんだっけ?」
「そうだよ。そのきっかけになったのも、このヒクさんの伝記を読んだからなんだ」
「宇宙少年ならぬ宇宙少女か」
レベッカはえへへ、とはにかみながら、テレビ画面に目を戻した。その時、レポーターが緊迫した様子で叫んだ。
「何事でしょうか?!現在タマゴ・ボーロ号との通信が乱れております!なにかトラブルでしょうか?!」
見れば、たしかに中継画面は乱れに乱れ、そこになにが映っているのかもはやまったくわからない状態になっていた。
「どうしたんだろう?」
レベッカは不安げな顔つきだ。テレビのレポーターは押し黙り、タマゴ・ボーロ号とヒューストンとの緊迫したやりとりだけが聞き取れる。
2011-07-13 16:03
URBANO
48 [] [編]
「こちらヒューストン。タマゴ・ボーロ号、なにがあった?」
「わからないが、重力バランス安定装置が故障したらしい。高度が一気に下がっている」
「よしヒク、落ち着いて状態を確認してくれ。このままだと火星の地面に激突してしまう」
「やってるが…ダメだ!機体を制御できない!」
「こちらヒューストン、落ち着けヒク!非常用のブースターに点火して高度をあげろ!」
「ダメだ!墜落する!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」
ヒク・ジャミラの絶叫を最後に、中継は切断された。
「いったいなにが…」
レベッカの表情は青ざめていた。スガーリンは彼女を気遣い、言葉をかける。
「レベッカ、大丈夫か?」
「うん……でもヒクさんは……」
「続報を待つしかない。あれは遠い火星の出来事だしね。とにかくいまは、ヒクさんの無事を祈ろう」
「……うん」
テレビ画面では先ほどのレポーターがヒステリックな叫びを発していた。
「前代未聞の事故が発生した模様です!タマゴ・ボーロ号とヒク・ジャミラ飛行士の安否はどうなったのでしょうか?!現在NASAは一切の情報を公開しておりません!」
スガーリンはやかましいテレビのスイッチを切った。レベッカの表情は暗かった。
2011-07-13 16:04
URBANO
49 [排紅] [編]
これはまさかの良ポジション…!
2011-07-13 17:58
W64SA
50 [神 長門] [編]
49
51 [] [編]
スガーリンがその夜見た夢は、いつもとは少しだけ違っていた。
桜吹雪の庭園は夕方を迎えていて、花びらは夕日に染まって色を濃くしていた。
「あなたは仲間のことを心配しているけれど」
そこにいる女性は疲れたように桜の木によりかかっていた。
「自分のこともかえりみなくてはだめよ」
スガーリンはいつものように黙っている。彼女がなにを言わんとしているかはわかっている。
「あなたの中に入り込んだよからぬもの、その正体にあなたもそろそろ気づいているはずよ。それは怪獣ワッフルが宇宙から持ち込んだわけではない。この地球にもいにしえの時代から存在していた概念」
女性は物憂げな視線をスガーリンの右腕に向けた。肘から先はどす黒いアザに犯され、その色はあきらかに邪気を孕んでますます濃くなっているのだった。
「あなたがそこに宿しているのは、そう……『祟り』よ」
その瞬間、スガーリンは目を覚ました。いやな汗をかいていた。はっとして右腕を見る。
アザはしっかりとそこにあった。
2011-07-15 09:29
URBANO
52 [] [編]
†
「近日、市内で奇妙な放火事件が頻発している」
黒猫警備隊の司令室で、神 長門が言った。司令室にはスガーリンたち警備隊の隊員と、ミャンマー博士が集まっていた。
「出火場所は様々で統一性はないが、その燃え方の特殊性からして同一犯の犯行とみてまず間違いない」
「燃え方の特殊性?」
レベッカが首をかしげた。炎のエキスパートだけに興味があるようだ。
「ミャンマー博士に解説してもらおう。博士、よろしく頼む」
「ではまず、出火した現場の写真を見て欲しい」
博士は数葉の大判写真を取り出した。
「これは監視カメラがとらえた出火直後の現場だ。燃えているのは火の気のない倉庫で、この時点ではまだ炎はそれほど大きくない」
隊員たちは写真を覗き込む。たしかに火の燃え方はそれほどはげしくない。地面に置くタイプの花火で1mほど火花を噴き上げるものがあるが、それと大差ないものだった。
「これはその30秒後」
ミャンマー博士が新たな写真を差し出す。それを見た一同は目を丸くした。
「これが30秒後?!」
翔が驚嘆の叫びをあげた。そこに写っていたのは、大規模な爆発を伴って建物全体を飲み込もうとしている巨大な火柱だった。
「倉庫には爆発物が保管されていたの?」
エルザスがミャンマー博士に訊いた。
「そうではない。むしろ燃えにくいものばかりだった」
「それじゃあなぜこんなに早く火が?」
「まぁ待て。これも見て欲しい。さらに30秒後の写真だ」
「!?」
今度こそ一同は息をのんだ。そこに写っているのは、すでに燃え尽きて黒焦げになっている廃墟であった。辛うじて立っているのは数本の鉄柱だけで、他のものはすべて焼け落ちていた。
2011-07-15 10:37
URBANO
53 [] [編]
「ありえない…」
レベッカが呟いた。
「出火から一分でここまで焼けるなんて…誰かが炎を操っていたとしか思えない」
「それはつまり、レベッカと同様の能力を持った誰かってことよね?」
和がレベッカに問う。レベッカは神妙な顔つきになり、うなずいた。かと思うと取り乱したように言う。
「だからって、ボクがやったんじゃないからね?!」
「わかってるわよ」
和はレベッカに微笑む。
「さて諸君、ここからが本題だ」
長門が威厳をもって語り始めた。
「我々はこの放火事件の犯人が能力者であると断定し、捜査を開始した。予知の結果、犯人は明日の夜にも新たな犯行に及ぶことが判明している。場所は町外れの浄水場。犯人と接触した場合、抵抗されることは確実だ。各員には完全武装して犯人の捕縛に向かってもらう。相手がレベッカ並の能力者ならかなり厄介だ。チームワークが重要になるぞ」
隊員たちの表情が引き締まる。戦意は十分だ。
「チームを発表する。スガーリン、レベッカがフォワード。敵への直接攻撃。エルザスは援護。浄水場の隣にある廃ビルから狙撃しろ。和はエルザスに観測員として同行。負傷者の手当ても頼む。翔は出火した場合に備えて高圧放水車に待機しろ。各隊員との連絡もお前の担当だ。質問は?」
一同は首を横に振る。長門の指示はいつだって単純にして明快だ。
「よし!では今日は解散する。今夜は明日に備えてゆっくり休め。以上!」
2011-07-15 10:39
URBANO
54 [] [編]
その夜、翔は澪とラブホテルにやって来ていた。
「明日は決戦だ。レベッカ並の強者と戦うことになるよ」
澪に語って聞かせる翔の表情は自信に満ちている。澪はやや心配そうな面持ちだが、一方でやんちゃな子供を見守る母のような心境でもあった。
「気をつけてな。翔が帰ってこないと私は…」
「?」
澪はそこで言葉を切った。
「俺が帰って来なかったら、澪はどうなるの?」
翔は意地悪く澪を問いただした。澪の頬がみるみるうちに紅潮していく。
「ねぇねぇ、澪はどうなるの?」
翔はニヤニヤ笑いながらさらに澪に詰め寄る。
その途端、たえられなくなった澪が叫んだ。
「帰って来なかったら、私が許さないからなっ!」
顔を真っ赤にして声を荒げる澪は猛烈に可愛くて、翔はある衝動をこらえきれなくなった。彼は澪をベッドに押し倒し、言った。
「今日はいっぱいいっぱいしような!」
「なっ!ちょっ?!」
澪は抵抗を試みたが、無駄であった。
「カラダが熱い…」
澪は呆けたように吐息を漏らす。
「俺も熱いぜ…」
「翔も燃えてるんだな…」
「澪がそうさせるのさ」
「んっ…」
二人の体はじゃれあう犬のように激しくもつれ合い、交わりあった。
だが、二人は気づいていなかった。実はこの時、翔が吸って消し忘れたタバコがベッドのシーツを焦がしていたのだ。二人が熱を感じたのも当然である。翔と澪が愛し合っているすぐそばでは、本物の炎が音を立てて燃えていたのだから。
「なぁ翔、いくらなんでも熱すぎるんじゃないか…?」
「いいから目を閉じて…澪への想いが、俺を熱くさせる……って、あちちちちち!!!!!!!」
ついに炎が翔の指先にまで到達し、二人は我にかえった。
「火事だっ!」
翔がそう叫んだ瞬間、けたたましい非常ベルが鳴り響き、スプリンクラーが作動した。
「ひゃあっ!」
冷たい水に打たれた澪が短く悲鳴をあげる。
「やばいっ!逃げよう!」
「えっ?!私はまだ裸だぞ!」
「いいから早く!」
「えええええぇぇぇぇぇぇえええええ!!!」
翔は嫌がる澪の手を掴み、半裸の彼女を無理矢理引っ張っていった。
2011-07-18 12:32
URBANO
55 [] [編]
†
スガーリンは夜遅くに警備隊の本部をあとにした。ミャンマー博士はスガーリンの右腕をなんとか治そうと試みてくれたのだが、この日も目立った成果は得られなかった。博士曰く、「このアザには物理法則を凌駕した原因があるはず」らしい。
スガーリンには心当たりがないわけではなかった。それは怪獣ワッフルの怨念。あるいは祟りのようなものだ。
だが、スガーリンはそれをミャンマー博士に話したことはない。夢で得た知識など信じるに値しない。少なくとも博士はそう判断するだろう。
「あ、スガーリンお疲れ様」
本部のエントランスを出たとき、スガーリンは不意に声をかけられた。
「レベッカ、待っててくれたのか」
「うん。そのアザが気になって…」
「そうか。ありがとう」
「どういたしまして。で、治りそうなの?」
「まだわからないなぁ。博士はまだ原因を特定できていない」
「そっか……痛みはないの?」
「全然ないよ。明日の戦いに支障はないはずだ」
「無理はしないでね」
レベッカがそう言った直後、数台の消防車がサイレンをやかましく鳴らして通過していった。相当な勢いだ。
「まさか、また放火事件が?!」
レベッカが緊張した声で言った。
「長門隊長の予知では明日のはずだけど……とにかく行ってみよう。犯人と接触できるかもしれない」
「うん!」
二人は連れだって走り出した。
2011-07-18 15:57
URBANO
56 [] [編]
†
火事の現場は繁華街の一角にあるラブホテルであった。建物は一部が燃えただけで、比較的軽度の火災だったようだ。スガーリンとレベッカは野次馬でごった返す現場にようやくたどり着いた。
「スガーリン!レベッカ!」
驚いたことに、現場の規制線の内側にはエルザスが立っていた。和も一緒だ。
「エルザス!?和も!?二人ともなぜここに?」
スガーリンは警官に身分証を見せ、規制線の中に入っていった。
「たまたまこのホテルにいたんだ。そしたら非常ベルが鳴って、慌てて飛び出してきた。火事はほとんどスプリンクラーだけで消えたみたいだけどね」
「私もエルザスも疲れてたし、消火作業は本職の消防隊に任せたの。いまは現場検証に立ち会っているところ」
エルザスと和はたしかに疲れている、というよりはやつれているようだった。
「それでこの火事、放火なのか?」
スガーリンはエルザスに訊いた。彼は首を横に振った。
「その線をまっさきに考えたけど、どうやら違うみたいだ。原因はタバコの不始末と見てまず間違いない」
「そうか」
スガーリンはほっと肩を撫で下ろした。火事も立派な事件だが、幸い死傷者が出た様子もなく、放火事件とも関係がなかった。今夜はこのまま帰って寝ることができそうだ。
だが、スガーリンの淡い期待は、レベッカの一言によって拭い去られる。
「スガーリン、エルザス、それに和も、視線を動かさないで聞いて」
レベッカの声は低く抑えられていた。途端に緊張感がもどる。
「私たちの後ろにある雑居ビル、その横の路地裏から、誰かがこっちを見てる」
「なに?」
「見ちゃダメ!」
思わず振り返りそうになったエルザスを和がとめる。
「そいつ、怪しいのか?」
スガーリンがレベッカに尋ねる。
「そりゃあもう!見るからにコソコソしてるし、明らかに火事の現場を気にしてる。それにボクたちのことも」
「放火犯だろうか?」
「わからないけど、話を聞くくらいのことはしたほうがいいよ」
「よし、じゃあこうしよう」
四人の警備隊員はスガーリンの周りに頭を寄せた。
「エルザスはあの路地の反対側に回り込んでくれ。私がそこに奴を追い込む。和は念のため本部に連絡。レベッカは私と一緒に。いいね?」
一同がうなずき、まずはエルザスが足早に去っていった。
続いて和が本部へ通報するため離れる。
2011-07-18 15:59
URBANO
57 [] [編]
「そろそろいいだろう。素知らぬふりをして近づいていって、あの路地の前まで行ったら一気に追い込む。行こう」
スガーリンとレベッカはあさっての方向を見ながら歩いていった。視界の端でチラっと見ると、確かに不審な影がこちらを伺っていた。
「一気にいくよ。3、2、1…」
ゼロとは言わずに、スガーリンは駆け出した。レベッカも俊敏についてくる。
怪しい影は見るからに慌てて引っ込んだ。次の瞬間、「きゃあっ!」という悲鳴が聞こえ、なにかが倒れ込むような音がした。
「大人しくしろ!」
スガーリンは薄暗い路地に駆け込んで叫んだ。レベッカが追いつき、指先に炎を灯した。それに照らし出されたのは…
「翔?!それに澪まで!」
スガーリンは驚愕の声をあげた。路地の反対側からエルザスがやってくる。
「お~いどうした…って、うぉわ!何してんだこいつら!?」
そこに倒れていたのは、半裸の澪と彼女にしがみつくように気絶している翔であった。どうやら翔はスガーリンの接近に驚き逃げようとしたが、彼の背後にいた澪に激突してしまったらしい。
「み、み、見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
澪は涙目になってうずくまった。すかさず和が上着を脱ぎ、裸でいる澪にかけてやる。
「ここで話を聞くわけにはいかないわね。エルザス、車を回して」
「わかった」
エルザスが去っていき、スガーリンとレベッカは顔を見合わせた。いったい何がどうなっているのだろうか?
2011-07-18 15:59
URBANO
58 [エース篠原] [編]
翔さん何やってんすか…
2011-07-19 00:21
W54S
59 [翔] [編]
俺は死んでもタバコは吸わねー
2011-07-19 01:37
W61CA
60 [じつはオレもタバコは吸わねー] [編]
†
「あの火事の原因は翔のタバコぉ?!」
警備隊本部の一室。スガーリンは呆れた声をあげた。
「いやぁ面目ない」
「面目ないと言ってもなぁ…」
翔もさすがに反省しているらしく、服を着た澪と並んで神妙な面持ちだ。
「まぁ警備隊員の不祥事を揉み消すのはいつものことだ」
神 長門がさらりと言ってのけると、途端に翔は元気になる。
「さすが隊長!俺たちに出来ないことをさらりとやってのける!そこにシビれる憧れるぅ!」
「だが、本来なら謹慎ではすまない失態だぞ。明日の決戦があるから今回は不問にするが」
「………」
「いいか、オレは明日に備えてゆっくり休めと言ったんだ。子作りに励めとは言ってない」
「子作り?!」
なんとなくずれた長門の物言いに、澪が恥辱の声をあげた。
「自重します…」
翔が再び神妙な口調になって言った。
「だいたいこのご時世によく性欲がわいてくるな?」
エルザスがニヤニヤしながら翔に言った。その隣の和は無表情だ。
「性欲とか言うな!愛情と言え!」
「似たようなもんだろ」
「なにをッ!」
「やめろ二人とも」
危うく喧嘩になりかけた二人を長門が制止する。
「エルザス、お前だってあのホテルにいたんだろうが。人のことを言える立場か?」
「ッ!?なぜ隊長がそれを?!」
「和から報告があった。お前といかなるプレイに興じたかまで詳細な報告だ。一つ忠告しておくが、直腸の洗浄は怠るなよ。それから痔には気をつけろ。和は加減してくれないだろうしな」
「~~~っ!?」
エルザスは顔を真っ赤にして黙った。ほとんど涙目になって和のほうを見るが、和は素知らぬフリを決め込んでいた。
「今日はこれで解散する。今度こそゆっくり休め。以上」
2011-07-19 08:35
URBANO
61 [殺意の波動に目覚めたレベッカ] [編]
___
/ __⌒丶
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| ノ\_ く_
(_) ( 翔 )
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2011-07-19 11:44
W53T
62 [翔] [編]
62
理不尽ひでぶっ
2011-07-19 13:17
W61CA
63 [] [編]
†
翌日。夕日ははやくも西の彼方に沈み、間もなく夜の闇が辺りを支配した。
『各員、配置完了したか?』
翔の念話がスガーリンの脳内に聞こえた。
『こちらスガーリン、レベッカと共に所定の位置についた。指示を待って待機する』
スガーリンとレベッカは浄水場の巨大な沈澱池のほとりにいた。水源から引いてきた水を一定の間保管し、水中に含まれる比較的大きな不純物を取り除くための施設だ。水はこの沈澱池を経てからさらに濾過や薬物を用いた処理を施され、水道水として送り出される。
『こちら和、エルザスと共に配置完了。ここからスガーリンとレベッカの姿がよく見えるわ』
和とエルザスのチームは浄水場の隣にある廃ビルに布陣していた。二人はその屋上に身を潜め、犯人が出てきたときは和が観測員を勤め、エルザスが狙撃を行う。
『よーし、放水車も準備完了。いつ火が出ても大丈夫だ』
翔は装甲車でスガーリンたちの後方に控えていた。装甲車の上部には放水ノズルが斜めに突き出た砲塔があり、もしもの時はここから20気圧の勢いで水流がほとばしる。浄水場だけに放水用の水は無限大だ。
黒猫警備隊はこの他にも、浄水場の周りを取り囲むようにして15台もの消防車を用意していた。この消防隊は神 長門が直接指揮をとる。態勢は万全であった。
暗闇に包まれた浄水場は、回転するいくつもの赤色灯に照らされてチカチカと姿を見せていた。
その他の照明はすべて消灯されている。不気味な静寂が、浄水場の敷地内にたちこめていた。
2011-07-19 16:57
URBANO
64 [] [編]
異変は午後10時頃に起こった。最初に気づいたのは和であった。
「んっ?」
廃ビルの屋上から双眼鏡を覗いていた和は、浄水場の制御施設で誰かが動くのを目にした。
「どうした?」
その隣でライフルのスコープを覗くエルザスが訊く。
「制御施設には誰もいないはずよね?」
「職員はみんな避難させてある。無人だよ」
「だとしたらおかしいわ。一階の窓のところ、誰かが横切っていった」
「そんなバカな…」
「本当よ。ほら!」
「おっ!」
今度はエルザスも見た。制御施設の白い建物の一階、出入口のすぐ近くを、誰かが、いや何かが横切っていった。
「しかし、今のは人間か…?たしかに大きさはそうだったけど…」
「シルエットは明らかに不自然だったわね。とにかくみんなに警報を。連続放火の犯人かも知れないわ」
「だな」
†
スガーリンとレベッカは沈澱池のコンクリートでできた縁取りに腰かけていた。待機時間が長かったため、レベッカは頭をスガーリンの肩にあずける形で寝息をたてていた。
「むにゃむにゃ…暑いからって……パンツくらい履いてよ……むにゃむにゃ…」
一方でスガーリンは、まんじりともせずに周囲を警戒していた。スガーリンは身体強化の能力を駆使し、闇の中でも物がはっきりと見えるようになっていた。水を送り出すポンプやパイプ、金網の通路や手すり。怪しいところはない。
聞こえてくるのは池の水の音だけだ。
その時、エルザスの声が念話で聞こえてきた。
『制御施設内に不審な影が見えた。スガーリン、レベッカ両名は警戒せよ!』
「ふぇっ!?」
突然聞こえた声にレベッカが跳ね起きる。
「行こうレベッカ。どうやら犯人が現れた」
「えぇっ!?」
「制御施設だ。さぁはやく!」
言うが早いかスガーリンは駆け出した。レベッカは慌ててついてくる。
『目標は制御施設から屋外に出たわ。どうやら人間ではなさそうよ!』
和の声が聞こえた次の瞬間、スガーリンの前方に見えていた建物が爆発した。
「うわっ!?」
爆風がスガーリンをなぎ倒す。少し後ろではレベッカが腕をX字に組んで衝撃に耐えていた。
スガーリンは素早く身を起こした。制御施設は窓と言う窓から炎を噴き上げていた。その燃え方は尋常ではない。
2011-07-19 17:32
URBANO
65 [通りすがり] [編]
63
支持→指示
取り除くたむ施設→取り除くための施設
かと
2011-07-19 19:34
W61CA
66 [エルザス] [編]
65
Thanks.
2011-07-19 23:29
URBANO
67 [] [編]
そしてその爆炎に照らされて、奇妙な形のシルエットが浮かび上がっていた。人間の頭が肩と一体化したような、不気味な影。それがゆっくりとこちらに近づいてくる。
『消火開始する!犯人確保は任せた!』
翔の声が聞こえた。装甲車がのろのろと前進してきて、制御施設の建物に放水を開始する。
『いま見えている目標を連続放火犯と断定。攻撃を開始するわ』
和が凛とした声で言った。すぐさま銃声が響き、エルザスの放った弾丸がビシッという鋭い音を立てて影にぶつかった。
『ヒット!』
エルザスが嬉々とした声で叫んだが、影はなおもしっかりとした足取りでスガーリンに近づいてくる。
「効いてない!?」
レベッカが愕然として叫ぶ。
『エルザス、スナイパーライフルじゃダメだよ!もっと強力な武器を!』
『アンチマテリアルライフルを使う!くれぐれも射線に入るなよ!?体の半分はもってかれるぞ!』
レベッカとエルザスが言葉を交わしている間に、スガーリンはじりじりと接近してくる影をつぶさに観察した。
体の表明はカサカサになった泥のようで、身長はスガーリンより高い。頭部はぬりかべのように四角く、そのまま肩につながっている。そして真っ黒な影の中で、犯人の両目だけは異様に光っていた。
「止まれ!お前は何者だ?」
スガーリンは影に向かって叫んだ。言葉が通じる相手とは思えないが、とっさの判断であった。
「ガウゥゥゥゥゥウ…」
影は低い唸り声を発しただけだった。そして次の瞬間、影は全速力で突っ込んできた。
「おっ!?」
スガーリンは横っ飛びにこれをよける。影はそのままレベッカに突進してゆく。
「レベッカ!行ったぞ!」
「任せて!」
レベッカは両足を踏ん張り、右腕をぐいと後ろへひねった。
「灼熱☆ぱんち!」
2011-07-20 16:00
URBANO
68 [] [編]
刹那、猛烈な炎が辺りにほとばしり、レベッカの必殺技が影に向かって繰り出された。影は炎に照らされ、その表情が初めて明るみの下にさらされた。
「えっ!?」
それを見たレベッカは拳を止めてしまった。彼女の攻撃は影をとらえる直前で消え、影は後ろへ跳ねとんで距離をとった。
「レベッカ!無事か?!」
スガーリンはレベッカに駆け寄る。彼女の表情は蒼白になっていた。
「レベッカ?何を見たんだ?なぜ攻撃しなかった?」
レベッカは答えない。様子がおかしい。その時、強力な銃声がスガーリンの耳をうった。先ほどのものより明らかに強力だ。そして一瞬の間をおいて、エルザスの新たな攻撃が影に直撃した。弾丸は着弾と同時に発火する。どうやら焼夷弾らしい。
「がぁううぅぅぅぅぅう!!!!」
影は炎に包まれた。そしてスガーリンは見た。影の正体は―――
「どうしてだよ…」
レベッカが消え入りそうな声をだした。
「どうしてあなたがこんなことを…?」
レベッカはスガーリンに支えられるようにしながら、影のほうを、いや今は炎に包まれているその敵のほうを、しっかりと直視した。
「なにがあったらそうなるんだよっ!ヒクさん!!!!!」
そう、影の正体は、宇宙での事故以来行方不明となっていた宇宙飛行士、ヒク・ジャミラだったのだ。
「ガアアァァァァァアアア!」
ヒクは不気味な声で咆哮する。その姿にはかつての面影はない。炎に包まれても意に介さぬ様子は明らかに人間のそれではなかった。だが、彼の表情だけはそのままだった。目は血走り、唇は血に染まったように紅い。だがそれでも、彼をヒク・ジャミラだと断じるのは難しいことでなかったのだ。
『焼夷弾を連射するわ。二人とも気をつけて』
和の冷静な声が聞こえた。スガーリンは慌ててそれを止めようとする。
2011-07-20 16:01
URBANO
69 [] [編]
『待て和!この人は…!』
しかしスガーリンの声は銃声に遮られた。エルザスは強力な武器から焼夷弾を撃ちまくり、弾丸は一発の例外もなく目標に命中した。
ヒク・ジャミラは狂った操り人形のように踊らされた。だが、本来ならその程度の衝撃で済む攻撃ではない。普通の人間ならばバラバラになってしまっただろう。にもかかわらず、ヒクは炎に包まれたまま唸り声を聞かせただけであった。
『エルザス待ってくれ!この人はヒク・ジャミラ!行方不明の宇宙飛行士だ!』
『この化物が?!冗談言ってる場合か!』
『本当だってば!』
『なぜわかる!?』
『顔の部分だけ人間のままだ!』
『そこが弱点か!よぅし!』
『待て!撃つな!』
スガーリンは叫んだ。だが次に聞こえて来たのはエルザスの銃声ではなく、炎がほとばしる轟々とした響きであった。
「うわっ!」
スガーリンとレベッカは炎の発する熱風に思わず身を伏せた。見れば、ヒク・ジャミラは口をあんぐりと開けてそこから炎を吐き出していた。
炎は空中を駆け抜け、浄水場のとなりの廃ビルへと一直線に飛んでいった。
『なにっ!?』
エルザスの声が一瞬だけ聞こえた気がした。廃ビルは一瞬にして炎に包まれていた。
2011-07-20 16:02
URBANO
70 [] [編]
『スガーリン!なにがあった?』
翔が話しかけてきた。彼は制御施設の消火に集中していたため、今の出来事を理解していなかったらしい。
『エルザスと和がやられた…』
『な、なんだって!?』
『はっきりとはわからない…廃ビルごと炎に包まれて…翔はそっちの鎮火を頼む。エルザスたちが逃げおおせているかも…』
『スガーリンとレベッカは無事か?』
『大丈夫。私たちは目標の行動を抑える』
『わかった。頼んだぞ!』
スガーリンはヒク・ジャミラに向き直った。ヒクもまたスガーリンを睨んだまま、相変わらず低い唸り声を発していた。
「レベッカ、この人はもうヒク・ジャミラではない」
スガーリンは自分の背後に立つレベッカに向かって言った。
「こいつは凶悪な能力者だ。エルザスと和を歯牙にかけ、このままではさらに犠牲者が増える。ここで止めなくては」
「でも…」
「レベッカはなにもしなくていい。私が片付ける」
「でも、だってその人は、もともと人間だったんだよ?宇宙時代に生きてるボクたちの、大先輩なんだよ?なにも悪いことなんてしてないのに…」
「たしかに、こんな体になるまでは、なにも悪いことなんてしていなかったかもしれない。だけど今は違う。彼は罪を犯した。私たちの仲間を傷つけた」
「だけど…」
「わかってるさ!!」
スガーリンは声を荒げた。レベッカはびくっとして立ちすくみ、言葉をのんだ。スガーリンは尚も叫ぶ。
「本当はヒクさんが悪くないことくらい、私だってわかってる!だけど今は戦うしかないだろ?!このまま放っておけば、レベッカ自身が殺されるかもしれないんだぞ!」
その時、ヒク・ジャミラが口を開けた。途端に炎が噴き出してくる。スガーリンは俊敏な機動でそれをかわした。そのまま相手との間合いをつめる。
2011-07-22 09:58
URBANO
71 [] [編]
「はぁっ!」
肉体を強化して打ち出されたスガーリンのパンチは、しかし儚くもよけられてしまった。ヒク・ジャミラは大きく飛び上がる。
「レベッカ!行ったぞ!」
スガーリンはレベッカに警告した。ヒクは空中で口を開くと、レベッカめがけて炎を噴き出した。
「くぅっ!?」
レベッカは自分でもとっさに炎を出し、それをバリアのように展開した。そこにヒクの炎がぶつかり、辺りに灼熱の火の粉が飛び散った。
「レベッカ!?」
スガーリンはヒクの背後から飛びかかった。炎は寸断され、バリアの向こう側にレベッカの姿が見えた。
「無事か!?」
ヒクに殴りかかりつつ、スガーリンはレベッカに向かって叫んでいた。
「どうしてこんなことを…」
レベッカは嗚咽まじりに言った。
「どうしてこんなことするんだよぅ!ヒクさん!人間らしい心は無くなっちゃったの?!」
その時、スガーリンと渡り合っていたヒク・ジャミラは動きを止めた。不意に我にかえったかのように辺りを見渡し、そこここで火の手があがる惨状を呆然として眺めていた。
「ヒクさんは宇宙時代の先駆けとして、ボクたちの憧れの存在だったんだよ?!だけどこれじゃ、ただの破壊者じゃない!」
ヒクは見るからに動揺していた。頭を抱え、苦しそうな唸り声を発した。スガーリンはそれを見て攻撃を止めた。もしかしたら、彼にはまだ人間性が残っているのかもしれない――!
その時、不意の放水がヒクに向かって投げかけられた。見れば、翔の装甲車が猛烈な勢いで突っ込んできていた。
「エルザスと和の、かたきぃ!」
翔は絶叫した。彼は廃ビルの焼け跡を見てきた。ねずみ一匹生き残っていなかった。
「やめろ翔!彼にはまだ…!」
「下がれスガーリン!放水は効いてるぞ!」
「えっ?!」
スガーリンはヒク・ジャミラの方を見た。ヒクは水を浴び、身悶えしながら苦しんでいた。
「奴の弱点は水だったんだ!ちくしょうめ、思い知らせてやる!」
翔は放水の勢いを強くした。ヒクは猛烈な勢いの放水で投げたおされ、地面に這いつくばってもがき始めた。
2011-07-22 09:59
URBANO
72 [] [編]
「やめるんだ翔!もういい!もう彼は抵抗できない!」
「邪魔するなスガーリン!こいつはエルザスと和を焼き殺したんだぞ!」
「お願い翔!もうやめて!」
スガーリンもレベッカも、翔を止めようと必死だった。いまやヒクはこの世のものとは思えない声で絶叫しつつ、泥にまみれて転げ回っていた。
「息の根止めてやる!絶対に殺してやる!」
翔は尚も放水をやめなかった。スガーリンは決断した。こうなれば実力行使だ。
「どうしてもやめないのならっ!」
スガーリンは駆け出す。装甲車の後ろには、貯水池へと伸びるホースが横たわっていた。スガーリンはそれを持ち上げると、全身全霊をかけて引きちぎった。
「なっ!?」
突然水が出なくなり、翔は驚きの声をあげた。
「スガーリン!よくもっ!」
「これ以上攻撃する必要はない!彼はもう虫の息だ!」
「その息を止めてやるって言ってんだよぉ!」
「そんなことになんの意味がある?!彼にはまだ、人間の心が残ってるんだ!」
「だったらなぜエルザスと和を…!」
「翔!!うしろ!!」
翔とスガーリンの会話を遮る大声でレベッカが絶叫した。翔が振り返った瞬間、彼が乗る装甲車は炎に包まれていた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!澪ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
その絶叫を最後に、翔の声は聞こえなくなった。
「ヒク・ジャミラ…」
スガーリンはわなわなと震えていた。その視線の先には、ふらふらとよろめきながらも、口から最後の炎を吐いたヒク・ジャミラが立っていた。
2011-07-22 10:00
URBANO
73 [] [編]
「レベッカ」
スガーリンはヒクを見据えたまま言った。
「私のことは恨んでくれていい」
「スガーリン…?」
「それでも私は、あの人を倒さなきゃいけない」
「…っ!」
「その罪は許されないだろうけど」
スガーリンは自分の右腕を見た。黒いアザに犯された右腕は、なにか邪悪なオーラを発していた。
「いまはヒク・ジャミラを許すことができない…!」
「スガーリン!」
レベッカが叫んだ時、スガーリンの体はすでにヒクと激突していた。ヒク・ジャミラはスガーリンの体当たりをよけられず、弾き飛ばされた。
「たしかにあなたは無実だった」
地面を弾むようにして転がるヒクにゆっくりと歩みよりながら、スガーリンは言い放った。
「何の罪もないまま、今のおぞましい姿になってしまった。たしかにそれは理不尽だ」
スガーリンは這いつくばったまま立ち上がれないヒクの前に立つ。
「だけど、だからといって、自分の不幸に他人を巻き込む権利は、あなたにはないはずだ」
ヒク・ジャミラは懇願するような眼差しをスガーリンに送った。その仕草にはある種の人間らしさが垣間見えた。だが、スガーリンの決意は揺るがなかった。
「あなたは人を傷つけた。いまとなっては罪を犯した」
スガーリンはヒクを掴みあげる。もはやヒクには抵抗する力もない。
「それを私が断罪しようと言うのだ!」
その瞬間、スガーリンの右腕のオーラが解き放たれ、彼の躰を包み込んだ。
「ヒク・ジャミラ、お別れだ」
刹那、スガーリンの躰は紅く燃えあがり、熾烈なパンチがヒクの体に叩き込まれた。ヒクは数十メートルの距離を吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
スガーリンはそこまでゆっくりと歩いていき、またヒクを掴みあげる。
「スガーリン…」
レベッカは恐怖にかられていた。スガーリンはいまや全身から真紅のオーラをほとばしらせ、あきらかに正気を失っていた。今のスガーリンはもはやただの超能力者ではない。憎しみと恨みを力として戦うあの姿は――
「祟り神…」
2011-07-23 12:13
URBANO
74 [] [編]
†
そのころ神 長門は、消防隊をたくみに指揮して火災の延焼を食い止めていた。
「浄水場敷地内、制御施設の鎮火に成功しました!」
「廃ビルの鎮火にはあと5分ほどかかりそうです!」
順調な消火活動を裏付ける報告が次々に入ってくる。
「廃ビルには部下がいたはずだ。彼らの捜索を頼む」
「ハッ!」
部下に指示を与えた長門は、浄水場の内部にプレッシャーのようなものを感じていた。ヒク・ジャミラのそれとは違う。明らかにさっきまでは存在していなかった強烈な殺気だ。
「ふむ…」
長門は考える。状況を整理すると、いま浄水場の敷地には三人の能力者がいる。スガーリン、レベッカ、そしてヒク・ジャミラだ。翔は音信不通になり、生死もわからない。この殺気がヒクのものでないとすると、スガーリンかレベッカのものということになる。
「あまりいい兆候とは思えないな」
その感覚は長門得意の予知ではなかった。もっと漠然とした、予感めいたものだった。だが、長門はそれがどうしても気になった。こうなれば自ら現場に赴き、悪い予感の正体を確かめる。
「延長放水の準備にかかれ。ヒク・ジャミラの弱点は水だ。敷地内までホースを伸ばし、目標に大して直接放水を行う」
「了解!」
神 長門は戦いが行われているほうを見た。火の手があちこちにあがり、時折大きな破裂音が聞こえてくる。
「何が起こっている?」
長門はそう呟くと、ゆっくりと歩き始めた。
2011-07-23 12:14
URBANO
75 [] [編]
†
レベッカは身動き一つできなかった。それは怪我をしていたからとか、敵に捕まっていたからとか、そういう理由によってではない。ただ単に、恐怖のためだった。しかもその恐怖の相手とは、敵であるヒク・ジャミラではなく、味方であるスガーリンだったのである。
いまやスガーリンは完全に正気を失っていた。少なくともレベッカにはそう見えた。スガーリンは力なく横たわるヒクを乱暴に掴みあげ、何度も何度も殴打していた。ヒクを殴るスガーリンの腕は、真紅のオーラで禍々しく光っている。その様はあまりにも残酷で、レベッカは正視に耐えなかった。
「レベッカ、大丈夫か?」
不意に声をかけられ、レベッカは閉じていた目を開けた。見ると、消防隊の指揮をとっているはずの神 長門がそこに立っていた。
「隊長!?なぜここに?」
「ここの様子が気になってな。予想よりはるかに酷いな」
長門はそう言って辺りを見渡した。点々と立ち上る炎は衰えることもなく、浄水場の施設はスガーリンとヒクの戦いによってあちこち破壊されていた。鉄製の手すりは途中で寸断されてねじまがり、その尖端は炎が焦がす空に向かってのばされていた。水を送る太いパイプは歪んでしまい、接続部分からちょろちょろと水が滴る。翔が乗っていた装甲車はすでに燃え尽き、真っ黒に焦げたボディがこの場に不釣り合いな彫刻のように地面から屹立していた。
「これだけの破壊をもたらす者。生かしてはおけない」
長門は呟き、スガーリンのほうに歩を進めた。
「スガーリン、敵をなぶるのはそこまでだ。とどめを刺す。水責めにするんだ」
ちょうどそこへ、延長放水の準備を整えた消防隊がやってきた。
「長門隊長!延長放水いつでもいけます!」
消防隊の一人が長門に報告する。長門は手をあげてそれに応じ、スガーリンに告げた。
「聞いたかスガーリン?もうそいつに抵抗する力は残っていない。お前の役目は終わった」
スガーリンは殴るのを止めた。ヒクを放すと、憑き物が落ちたように表情が変わった。怒気と狂気が薄れ、呆然とした様子だ。
「私は…いままでなにを…」
我にかえったスガーリンは自分の右腕を見た。邪悪な黒いアザは、今や指先から肘にかけてを覆い尽くしていた。
「お前はよくやった。敵を無力化したんだ。さぁ、下がれ」
2011-07-25 12:09
URBANO
76 [] [編]
長門はスガーリンの肩を掴み、二歩三歩と下がらせた。そして消防隊に合図を送った。
「放水始めぇ!」
号令がかかり、ホースの筒先から勢いよく水が噴き出した。
「がぁううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!!」
ヒク・ジャミラはもがき始めた。地べたを這いずりまわり、悶絶の絶叫をあげて苦しんでいる。
「ぐぅぅぅぅぅぅあああうううぅぅぅぅぅぅう!!」
その声は赤ん坊の泣き声にも似ていて、スガーリンはたまらない気持ちになった。あの人は人間だった。宇宙時代の混迷期、先頭に立って地球から飛び出していった。自分達に道を示してくれた。だがある時、彼は遂に帰ってこなくなった。そしてようやく彼が故郷の星に降り立ったとき、彼は怪物になっていた。
「こんな理不尽なことが!」
レベッカが叫んだ。彼女は泣いていた。自分の憧れの人が目の前で悶え死にしていく様子は、彼女には耐え難いものだったのだ。
「放水を続けろ。目標が完全に沈黙するまで油断するな」
長門が冷徹に言い放った。その語気にほんのわずかな私怨が混じっていたことに気づいた人間は少ない。長門は部下を傷つけられ、静かに怒っていたのだ。
かくして、放水は徹底的に行われた。ヒク・ジャミラは間もなく唸り声を発しなくなり、ついには全く動かなくなった。放水が止んだとき、そこには泥にまみれて地面に転がっている無惨な死骸が残されていた。
スガーリンはがっくりと膝をついた。自分のしたことは間違っていない。正しいはずだ。なのに、後悔と自責の念をおさえることができなかった。
自分がヒクを殺してしまった。この右腕が、かつて立派な人間だったヒク・ジャミラを殺したのだ。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!!!!」
地面に拳を叩きつけ、スガーリンは絶叫した。叫んでみたところで、この気持ちはなにも変わらなかった。
2011-07-25 15:53
URBANO
77 [] [編]
「お前は自分を責めているのかもしれないが…」
長門の冷静な声が聞こえた。
「お前のやったことはまったく正しい。仲間と世界を守るために、お前は立派に戦った。称賛にこそ値するが、責められる必要はまったくない」
「…あの人には人間性が残っていました。まだ更正できたかもしれない……」
「彼はすでに罪を犯していた。その罪を償うことはできるかもしれないが、新たな罪を犯しかねない状況だったんだ。割りきるしかあるまい」
「そうでないと、黒猫警備隊は務まりませんか」
「そうだ。一つの正義を掲げた時点で、それに相反する事態にぶつかることは避けようのない運命だ。どこかで一線を引くしかない」
「……」
スガーリンは膝を地面についたまま、口を閉ざした。神 長門はそれを一瞥すると、ヒク・ジャミラのほうに近づいていった。ヒクの亡骸の横に立つと、長門は静かな口調でこういった。
「ヒク、許してくれ。オレにとっても不本意な結末さ。だけど本望だろう?お前が愛した故郷の、地球の土に帰れるんだから」
2011-07-25 15:55
URBANO
78 [] [編]
†
浄水場のあちこちで復旧作業が始まった。ほぼ全焼してしまった制御施設はすぐには元に戻せないが、それ以外の設備にはそこまで深刻な被害は出なかった。
スガーリンは装甲車の残骸を見ていた。装甲車もやはり完全に燃え尽き、黒焦げの箱に成り果てていた。
「妙です。運転席には遺体らしきものは…」
装甲車の内部を調べていた消防隊員が言った。運転席には翔が乗っていたはずだ。
「なら翔はいったいどこに?」
スガーリンは怪訝な表情を浮かべた。その時、装甲車の荷台から、なにか巨大な箱のようなものが転がり落ちてきた。見るとそれは水槽であった。
「ぶっはぁぁぁぁぁあああ!」
そして水槽の中から、血走った眼の翔が飛び出してきた。
「翔!?無事だったのか!」
「無事なことあるかっ!危うく窒息するところだったわ!」
「だけど、よく助かったな」
「装甲車のなかに水を貯めてたから、そこに飛び込んだんだ。こんなこともあろうかと酸素ボンベも用意してたし」
翔は得意げに語った。そこへ神 長門がやってきた。
「廃ビルの捜索に行った部隊から連絡があった。エルザスと和だが…」
スガーリンと翔はごくりと喉を鳴らした。
「奇跡的に生きているそうだ。耐火服を着ていたのがよかったらしい。二人とも火傷は負っているようだが、命に別状はない」
スガーリンと翔はお互いに顔を見合わせ、微笑んだ。みんな生きていた!
2011-07-26 08:11
URBANO
79 [] [編]
†
レベッカは一人でたたずんでいた。スガーリンが彼女を見つけたとき、彼女はじっと夜空を見上げていた。
「レベッカ」
「…スガーリン……みんな生きてたんだってね。ほんとによかった」
「あぁ、本当に……だけど一人だけ命を落とした」
「…ヒクさん」
「私のことを恨んでくれ。ヒクさんを殺したのは私だから」
スガーリンはそう言って自分の右腕を見た。すでに禍々しいオーラは消えている。だが黒いアザはその範囲を着実に広げていた。
「スガーリンを恨むなんて、できないよ……スガーリンがしたことが間違ってないのは、ボクにもわかってるもん…」
「だったら…」
「あんまりそのことは言わないで欲しいな」
レベッカはスガーリンに微笑んだ。今にも涙がこぼれそうな、悲しい悲しい微笑みだった。
「まだボクも、自分の気持ちが整理できてないんだ。だからもう少し、時間をちょうだい」
「……すまない」
二人は黙った。黙って空を見上げた。夜空に広がる星々はどこまでも美しく、二人の心を静めた。
2011-07-26 08:11
URBANO
80 [故郷は地球 終] [編]
後日ヒク・ジャミラの遺体は、広い浄水場の敷地内に埋葬された。埋葬にはヒクを宇宙へ送り出した某国の大使も立ちあった。
大使はヒクを埋葬するにあたり、彼の功績を称える言葉を記した立派な碑石を用意していた。それに書かれている文章は、こう読めた。
ヒク・ジャミラ(1960~1993)
人類の夢と
科学の発展のために死んだ戦士
ここに眠る
†
レベッカはその碑石を見下ろしていた。彼女の周りにはもう誰もいない。埋葬に立ちあった人々はあっと言う間に帰ってしまった。帰り際、この碑石を振り返った人間が一人でもいただろうか?否、一人もいなかったのだ。人々はヒクの犠牲を忘却の彼方に押しやり、科学のさらなる発展のために邁進してゆくだろう。そのための犠牲となった人たちを、省みる者は一人としていない。
「犠牲者はいつもこうだよ…文句だけは、美しいけれど……」
レベッカの瞳から、はらりと涙が溢れた。
2011-07-28 13:30
URBANO
81 [排紅] [編]
彼は犠牲になったのだ…
2011-07-28 16:45
W64SA
82 [通りすがり] [編]
てっきり地面蹴り砕いて地割れでも起こすかと
2011-07-28 19:55
W61CA
83 [宇宙忍者、襲来] [編]
スガーリンの腕は、ますます広がる黒いアザで覆い尽くされていた。今やアザは肩にまで迫り、時に焼けつくような痛みを発するのであった。
「いっそ切り落とそうか?」
スガーリンの診察を終えたミャンマー博士は、こともなげにそう言った。
「ちょっと待ってください。利き腕を切り落とされたら、戦いようがありません」
冗談なのか本気なのかわからないミャンマーの言葉に、スガーリンはとりあえず真面目に返答した。
「最近はかなり高性能な義手もあるんだが…まぁいい。しかしな、先日のヒク・ジャミラの一件で、君の腕は暴走したらしいじゃないか。ヒク・ジャミラを虫の息にするまで、君は正気を失っていたんだろう?」
「たしかにそれはそうですが…」
「戦闘中に正気を保てないんじゃあ、どっちにしろ勝負にならないじゃないか」
「はぁ……」
スガーリンは答えに困った。ミャンマーの言うことはいちいちもっともだ。しかし腕を切り落とすのには賛同できなかった。
「とにかく今は待ってください。必ず解決策を見つけてみせます」
「そうか。切ると決めたらいつでも言ってくれたまえ」
スガーリンはミャンマーのラボをあとにした。ここに来ると寿命が縮む。
「はぁ……」
「スガーリン、どうしたの?」
廊下の向こうから近づいてくるのは和である。
「ミャンマー博士は私の腕を切りたくて仕方ないらしい」
「そう。じゃあ私、生徒会行くね」
「えっ?」
「あ、ごめんなさい。エルザスがいないから、つい癖で」
「エルザスはいつもこういう仕打ちを受けてるのか…」
エルザスと和は先日の戦闘で火傷を負っていた。特に和をかばったエルザスは重症で、当分の間入院していることになったのである。
「この間火傷した時も、エルザスったら私をかばおうとするから…」
「勇敢な行為じゃないか」
「彼が抱きついてきて気持ち悪かったから、思いっきりつきとばしたの。そしたら炎の中に飛び込んじゃって…テヘッ☆」
和はいたずらっぽくウィンクして、ペロッと舌を出した。
「あわれエルザス…」
スガーリンはエルザスに同情した。もっとも当の本人は、炎の中に突き飛ばされたことを一種のごほうびと考えていたのだが。
「そろそろ行かなくちゃ。それじゃあ和、また後で」
「えぇ。右腕、お大事に」
スガーリンは和と別れ、任務のパトロールに出発した。
2011-07-29 10:07
URBANO
84 [久々に翔と澪がいちゃつくよ] [編]
†
その頃、翔は澪とともに遊園地でいちゃついていた。
「次は観覧車に乗ろう!」
翔は澪の手をとり、観覧車の列に並んだ。澪と翔の前には、中学生らしい少年と少女が言葉少なく並んでいた。少年と少女は時々目を合わせては、恥ずかしそうに笑って、視線をそらすのであった。
どうやら二人の初デートらしい。
「なんかいいなぁ…」
それを見ていた澪がうっとりして言った。
「いいって、なにが?」
翔は澪に尋ねる。
「前の二人。初々しくて、見てるこっちも緊張する」
「あ~確かに」
中学生カップルはお互いに緊張しているらしかった。少年は少女にどんな話をしようか必死に考えている。少女は少年がどんな話をしてくれるのか、期待している。そんなちょっとした時間も、二人には幸せに感じられるのだ。
「私たちもあんな風だったんだろうか」
澪が呟いた。翔と付き合い始めて二年。最初はなにもかもが恥ずかしかった。まともに目を見て話すことも、手をつなぐこともできなかった。
翔の手が澪の肩にかけられた。澪は自分の手を翔の腰に回す。
今はもう恥ずかしくない。こうして翔を肌で感じられる。それが凄く嬉しい。
澪は目を閉じて、躰を翔に預けた。幸せだった。
と、その時、翔の手が肩から下にさがってきた。
「?」
その手つきがなんとなくいやらしく、澪は目を開けた。翔はニヤついた笑みを浮かべた。
「翔、なにを…ひゃあっ!」
突然翔の手がスカートの中に入ってきた。
「ちょ!なにを…あぁっ!」
「しーっ!静かに!声を出さなきゃバレないって」
「だけど……んっ!」
澪は必死に声を抑えた。翔の手はスカートの中で暴れまわっている。
澪は前にいる中学生二人を見た。幸い二人ともあさっての方向を向いていた。気がついていないようだ。澪の後ろには誰も並んでいない。
「は、恥ずかしい…!」
「いいから」
「あっ!そこはダメだ!ひゃあああっ…!」
遂に翔の手は、澪の下着の中にまで入ってきた。
「あれぇ?澪のここ、こんなに濡…」
「次の方前に進んでください!」
翔の声は、係員の叫びに遮られた。中学生二人が前に進んだ。翔は澪から手を引いて、列を詰めた。
「見られた…!ぜったいに見られた…!」
澪は恥ずかしさのあまり涙目になって言う。
「大丈夫だよ。係員は前の二人に向かって言ったんだし」
「だけど……うぅ……」
2011-07-29 10:08
URBANO
85 [] [編]
そうこうしている内に、翔と澪がゴンドラに乗る番になった。中学生二人はすでにゴンドラに乗り込んでいる。
「さ、行こう」
「うん…」
翔は澪の手をとり、やさしくエスコートする。
「足元に気をつけて」
「あ、ありがとう」
一転して紳士的な翔に戸惑いつつ、澪はゴンドラに足をかけた。翔は澪の手をとったまま彼女を支える。レディファーストを完璧に心得た動きであった。
澪は無事にゴンドラに乗り込み、翔も後に続いた。
「ではいってらっしゃい!」
係員がドアを閉め、翔と澪はゴンドラで二人きりになった。
「今日は天気いいし、遠くまで見えそうだね」
翔が言った。
「私の家も見えるかな?」
「見えるかもね。警備隊の本部は確実に見えるはず」
「そうなのか?」
「あの建物でかいし、真っ黒で目立つし」
そうこうしている内に、ゴンドラは最高地点に達しつつあった。ひとつ前のゴンドラが見えるようになる。そして澪は見た。中学生の二人は、最高地点に達したところで目を閉じ、不馴れなキスをしていた。恥ずかしさにあふれた、くすぐったいようなキスだった。
「わぁぁ…」
澪は何故か自分も赤面してしまい、前のゴンドラから目を反らした。
「最近の中坊はマセてやがるなぁ」
翔が苦笑しながら言った。澪はそんな翔の顔を遠慮がちに見た。
「なぁ、翔」
「ん?」
「わ、私たちも、その…キスしないか?」
「!?」
「そんなに驚くことないだろ!いつもしてるんだし…」
「たしかにいつもしてるけど…澪の方から言ってくれるのは初めてだ」
「そ、そうか?と、とにかく、私たちも…んんっ!」
翔ははやくも澪のくちびるをふさいでいた。見せつけるようなキスだ。
二人は自然と抱きあっていた。翔の手つきが不穏な動きをしていることに、澪は間もなく気がついた。
2011-07-29 10:10
URBANO
86 [] [編]
「お、おい…」
「ん?」
「どこを触っているんだぁっ!」
「胸だけど」
「…ッ!さ、触るなぁっ!」
「出来ない相談だぁ!」
「ひゃああああっ!」
翔は澪の躰を抱き上げると、ゴンドラの窓に向かって押しつけるような姿勢を取らせた。窓の向こうには前のゴンドラが見えている。そこでは中学生の二人が初めてのキスを終え、あたりをキョロキョロと見渡していた。
「翔!待って!見られるぅ!」
「見せてやるのさぁ!」
「ふわぁぁぁぁぁああっ!」
翔は慣れた手つきで澪のスカートを捲りあげ、蒼いボーダーの縞パンが露になった。その中に翔の手が侵入していく。
「翔!それ以上はダメだ!あんっ!…ダメだって…ひゃあっ!」
その時、ついに中学生二人がこちらを向いた。顔を真っ赤にして涙目になっている澪と目があった。二人の顔から血の気が引いてゆくのがはっきりとわかった。
「見られ…てるぅ……」
その瞬間、澪の躰をかつてないほどの快感がほとばしった。膝がガクガクと震え、肌はゾクゾクと逆立つ。
「あぁぁぁぁああ……」
澪は呆けたような表情になりながら、翔に躰を預けた。もはや立っていられなかった。
2011-07-29 10:11
URBANO
87 [Lv.57] [編]
∧_∧
(´_>`)
/ mn \
〈 (n ̄)ィ )
丶(ソ丶L/ ノ
/|\_/
〈 | | \
V ノ \ \
/ ∧ 丶 |
/丶_/ /_) | |
L_/ ∧_∧/⌒i( 丶
丶(´翔`)ノ| | \_)
/ ノ ノっ しミ>
〈  ̄ ̄メ ))
 ̄ ̄丶`つて バンバン
)/vヽ(
2011-07-29 12:43
W53T
88 [エース篠原] [編]
87
いいぞもっとやれ
2011-07-29 18:03
W54S
89 [] [編]
†
スガーリンはレベッカと共に遊園地をパトロールしていた。若者に人気の遊園地は、カップルでいっぱいだった。人が多くてまっすぐに歩くことすら至難の技だ。
「レベッカ、はぐれないようにね」
スガーリンはそう言って、レベッカに手を差し出した。
「ボク子供じゃないんだよ?」
レベッカはふてくされたように言ったが、結局はスガーリンの手をとった。
「さ、行こう」
スガーリンが先に立って歩き始める。レベッカは後についてゆく。
それにしても随分な人出だった。二人は観覧車のそばにさしかかる。その時、レベッカが何かに気づいた。
「あれ?スガーリン、あそこにいるのって翔と澪だよね?」
「本当だ。そういえば今日は非番だって翔が言ってたな」
「翔~!澪~!」
レベッカが手を振ると、観覧車から降りてきた二人もこちらに気がついた。
「レベッカ!それにスガーリンも」
翔が澪の手を引いて近づいてきた。澪はどことなく朦朧としている。
「澪?大丈夫?」
澪の様子を見たレベッカが訊く。
「あぅ…大丈夫、だ…」
「熱中症とかじゃないよね?」
「うぅ……そうじゃないけど…」
確かに澪はなんとなく熱っぽい表情をしていた。
「涼しい所に連れて行った方がいいな」
スガーリンが翔に言った。
「涼しい所、か…だけど今はどこの店も行列になってるしなぁ」
「お店じゃなくて屋内のアトラクションへ行けば?外にいるよりマシだろう」
「なるほど…」
スガーリンの言葉を聞いた翔は、なにか意地の悪い笑みを浮かべた。
「よし!あそこしかない!行こう、澪!」
「ちょっ、どこへ行くんだ?」
「いいからいいから!」
翔はさっさと澪を引っ張って行ってしまった。
「大丈夫かなぁ?」
二人を見送りつつ、レベッカが心配そうに言った。
「一応ついて行ってみよう。翔が無茶苦茶やってないとも限らないし」
「どういうこと?」
「翔って時々、澪に対して強引なことがあるから」
「あ~…その、エッチな意味で?」
「まぁそうなんだけど。とりあえず二人を追いかけよう」
「うん」
スガーリンとレベッカはパトロールを中断し、翔たちの後を追った。
2011-07-30 12:18
URBANO
90 [] [編]
†
翔が澪を連れ込んだ先は、あろうことかお化け屋敷であった。全力で抵抗する澪を無理矢理引っ張り、翔はお化け屋敷に入って来た。
「無理だ!これだけは無理だ!」
「大丈夫大丈夫、怖くないって」
「怖いっ!!!!!!!」
澪は泣きながら叫んでいた。いくら翔と一緒でも、お化け屋敷なんて無茶苦茶だ。なにしろ澪は、そういった類いのものが大の苦手なのだから。
「仕方ないなぁ。じゃあ澪はそこで待っててよ。俺はちょっと先を見てくるからさ」
「こんなところで一人にするなぁっ!」
二人がいるのは、まだお化け屋敷の中に入って数mのところである。入口からは多少の光が入ってきている。しかしここから先は真っ暗で、妙に凝った純和風の内装が不気味さを演出していた。
「すぐ戻ってくるよ。待ってて」
「あっ、待て!翔!待って!」
翔はさっさと行ってしまった。澪は彼の後を追いたかったが、足がすくんで動かなかった。
澪は薄暗い通路で一人ぼっちになった。
途端に全身が震え始め、背筋がひんやりと冷たくなってくる。
一秒一秒がとてつもなく長い時間に感じられ、外から聞こえてくるかすかな音すら恐ろしい。
「翔…?いるのか…?」
蚊の鳴くような声で絞り出す。返事はない。
「うぅ……」
恐ろしさのあまり、目から涙があふれてきた。澪はぎゅっと目を閉じ、自分を抱きしめるように腕を組んだ。
怖い!はやく翔に帰って来て欲しい。
自分でも気づかぬうちに、澪はその場にしゃがみこんでいた。じっと恐怖に耐え、翔の帰りを待つ。その時だった。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!」
翔の叫び声だった。澪の鼓動が止まる。目を開くと、相変わらず通路は薄暗いまま、翔の姿は見えない。
「翔…?」
澪は暗闇に向かって言った。それに返事をするかのように、背後からコツリ、という足音が聞こえてきた。
澪は目を見開く。足音はコツリ、コツリと近づいてくる。怖くて後ろを振り向けない。ますます近づいてくる足音。そして――
「澪?」
何者かが澪の肩を叩き、澪の視界は真っ白になった。意識が遠退いていく。かすかに見えたものは、燃えるような赤髪のツインテールであった。
2011-07-30 12:19
URBANO
91 [] [編]
†
「澪?!しっかりして!澪!」
レベッカは慌てていた。背後から近づいたのがいけなかったのか、澪は驚きのあまり失神してしまったのだ。
「なんでお化け屋敷なんかに入るんだよぅ」
澪の躰を支えつつ、思わず不満を漏らす。しかし、澪をお化け屋敷に連れ込んだ張本人の姿は見えない。
「翔はどこに行ったのかな?」
レベッカは傍らにたつスガーリンに言った。
「澪を驚かすために先に行ってしまったんだろう」
「だけどさっきの悲鳴、たしかに翔の声だったよね?」
「間違いないと思う。私はこの先の様子を見てくる。レベッカは澪の介抱を。それから係員に言って、これ以上お客さんが入ってこないようにしてもらって」
「わかった」
レベッカは小さな躰を精一杯動かし、澪を引きずるようにして出ていった。
薄暗い通路に残ったスガーリンは、その先に続いている暗闇を凝視した。身体強化の能力をつかい、夜目が効くようにする。そしてゆっくりと、暗闇の中へ歩を進めていった。
スガーリンは緊張していた。この闇の中には、たしかに邪悪な意志が感じられるのだ。
あらゆる方向に注意をはらいつつ、スガーリンは進んでいく。火の玉のアトラクションが作動し、あたりがぼうっと明るくなった。しかしそれもつかの間、すぐに暗闇に戻る。刹那、頭上に気配を感じたスガーリンは、後ろへ飛び退きながら上を見た。骸骨がカチカチと歯を鳴らしていた。これもアトラクションの一つだ。
「紛らわしい…」
気を取り直してさらに進む。闇の中に井戸らしきものがあり、そこから真っ白な手が突き出ている。不気味だがこれもアトラクションだろう。
構わず先へ進もうとしたその時、スガーリンは自分の行く先に人影を見た。真っ暗な中からこちらに歩いてくる。ぎこちない歩き方で、壊れたぜんまい人形のようだった。
スガーリンはいつでも戦える体勢をとりつつ、相手を抜け目なく観察した。背格好も服装も、見たことがある。というより、ついさっき会ったばかりだ。
「翔!」
スガーリンは警戒を解いた。歩いてきたのは、他ならぬ翔だったのだ。
だが、翔はスガーリンに応えなかった。彼は相変わらずぎくしゃくと歩き、目の焦点は定まっていない。
「翔?」
改めて声をかけた瞬間、翔はこちらを向いて静止した。
2011-07-30 15:40
URBANO
最終更新:2013年01月24日 17:26