【趣味】
母さんが手袋を縫ってくれた。冬にぴったりの、素朴で温かな手袋。母さんの体温が宿っているような気さえした。
「ありがとう、母さん。それじゃ行ってきます」
―――――
私は趣味で縫い物をする。簡単な衣服やアクセサリー程度なら、私でも造れる。
有り合わせの物で足した粗末な手袋でも、あの子は喜んで受け取ってくれた。それがうれしくて、私は再び針を手に取る。
「ゆぴぃぃぃ! いぢゃいぃぃぃ!」
針が無数に刺さったいがぐりのようなそれが奇妙にうごめく。大小様々な針が刺さったそれは、小さなゆっくりれいむだった。
眼球と咥内を貫きえぐり、針が表皮を穿つ。体内に至った針の痛みは推し量れない。
「たしゅけて……いぎぃぃぃぃぃ!?」
私は答えない。何故なら、これも私の趣味だから。抜き、刺し、突き立てるその度に泣き叫ぶこの玩具は、暇を持て余した年増女にはちょうどいい刺激なのだ。
―――――
糸がほつれている。人間、一つのことに集中し過ぎると周りが見えなくなるのだ。
小さな綻びから体温が零れ墜ちる。
趣味があるのはいいが、悪趣味が増えるのは嫌だな、と僕は思った。
完
最終更新:2012年04月01日 13:18