ヘンケン「ほう、カミーユの弟か」
カミーユ「すいません、こいつが店の中を見たいって」
ガロード「社会の科目のレポートで、ファーストフード店について書こうと思って。へへ」(なんつってでまかせ)
ヘンケン「部外者に店の中は見せられんな。年はいくつだ」
ガロード「15ッす」
ヘンケン「中学の年齢じゃないか。仕方ない、今回だけだからな」
そう言ってヘンケンは
マクダニエルの制服と清掃セットをガロードに渡した。
ヘンケン「店の掃除をするんだ。それなら見ていい。
その代わり、ちゃんとしたバイト代は出せんぞ」
こうして、俺、ガロードはマクダニエルの一日体験店員をすることになった。
厨房を掃除しながら、ハンバーガーを作っているところを見せてもらった。
作ってから10分経っても売れなかったバーガーは廃棄処分するらしい。もったいねえなあ。
もうちょっと見ていたかったけど、悪人面の店長は「これ以上は企業秘密だ」と言って見せてくれなかった。残念だ。
後は客席の方ばかり掃除させられた。
カミーユ兄貴はカウンターで接客をしている。注文が遅い客にいらだっているのがわかる。
兄貴は気が短いからな。家や学校なら絶対毒舌をかますとこだけど、客商売なのでこらえているようだ。
その隣でサラ・ザビアロフって人がてきぱきと注文を裁いている。
この人は16歳だったか、兄貴より一つ年下だけどバイトでは一番の古株だってさ。
ああ、そうそう、サラさんが16ってのは実年齢ね。兄貴によれば理由があって年齢を少しごまかしてバイトに入ったってさ。それでバイト歴が長いらしい。
ヘンケンさん、あの悪人面で女の子には親切なんだな。俺も高校生の年齢ってことにしてくれりゃ良いのに。
客席の掃除をしているといろんな客を見る。
金かかるからこういう店にはあまり
来ないけど、俺も友達と店に居座ってだべることがある。
うるさい、他の客の迷惑と店員が注意に来ても無視してたけど、いざ店員の立場になると確かにウザイ。
今度から少しは気にしてみるかな。
そんなことを考えていると、カウンターの方から大声がした。
「木星セット一つ!!」
頭にワッカをはめた白い服の男がサラにそんな注文をしていた。木星セットって?初めて聞くメニューだけど。
サラは慣れた様子でその注文を処理して品物を出した。普通のセットに何かチューブのようなものがついてる。
ガロード「兄貴、木星セットって何?」
カミーユ「あの客を見てればそのうちわかるさ」
言われたとおり見ているとワッカ頭はチューブの口を開けて中身を一気に吸い込み、
「スバラシイ!ヤハリモクセイチョクソウノヘリウムハサイコウダ!」
と甲高い金切り声で叫んだ。こんなのをずっと聞いてたらおかしくなっちまう。
何で他の店員は平気な顔してるのさ!?
…ワッカ頭が出て行くと、店員達はヤレヤレといった様子で耳栓を外してた。誰も言ってくれないなんてひどいじゃないか。
ヘンケン「オオ済まんな。あの客が来るとは思ってなかったので渡すのを忘れていた」
…本当かなぁ。
ガロード「で、木星セットって何なのさ」
カミーユ「わからなかったのか?あのセットは木星で取ってくるヘリウムガスをつけてんだよ」
ガロード「そんな珍奇なもの、誰が注文するんだよ」
カミーユ「話の種になるから結構注文する人は多いぜ?リピーターはあのワッカ頭のシロッコぐらいだけどな。
あ、この前はジュドーと友達が来て注文してたな」
ジュドー、俺はお前のこと信じてたのに…。
俺はヘンケン店長の命令で窓拭きもやらされている。
でも時間内でいくら頑張っても給料は同じだよな。適当に手抜きしよっと。
のんびりと窓をふきながらも、俺は後ろで話をしている二人のお姉さんに注目していた。
特に一方は…すごかった。目がそらせなかった。男としてあれに注目しないのは問題ありだな、うん。
二人組が出て行ってから、俺は早速カミーユ兄貴に話しかけた。
ガロード「兄貴、今の客見てた?すごいな、あの髪型。まるでチ○コみたいだ」
カミーユ「大馬鹿野郎!修正してやる!」
殴られた。兄貴はいつも手が早過ぎだよ。
ヘンケン「失礼なことを言う奴だ。客商売で客をネタにして笑うのは禁物だぞ!」
カミーユ「それにあの人は俺のクラス担任だ。エマ先生だよ!」
だからって、いきなり殴る必要ないじゃないか…ったく。
ガロード「ちぇっ。面白い話を聞いたんだけど、暴力的な兄貴に教えることは特ダネ売らないよ!」
カミーユ「何だと?」
ヘンケン「待てっ。君はあの人の話を聞いたのか?何を話していたんだ」
何でこのおっさんがエマ先生のことを知りたがるんだろう?もしかして?
ガロード「いやでも、客商売だから客をネタにして笑っちゃいけないんでしょ?」
ヘンケン「それも時と場合による。客商売としては、客がこの店についてどう考えているかなど知らねばならん」
ガロード「どうかなあ。報酬でももらえるなら考えなくもないですけど。あ、次の客来ましたよ」
俺は適当に店長の話を流して掃除をまた始めた。
俺は入ってきた客を見て、キャップを目深にかぶり直した。
同級生のカツ・ハウィン。ヤマ勘でマークシートテストを全問正解したばかりに、自分を天才と思い込んだ痛い奴だ。
実際はたいした実力もないのに自惚れ、他人の欠点や失敗を見つけて勝ったつもりになるヘタレのゲス野郎だ。
俺の年齢でのバイトは違反になるから奴に見つかるわけにはいかない。見つかったら、きっと大喜びでチクるだろうね。
俺が顔を隠して物陰から見ていると、カツはカウンターのサラにしつこく話しかけていた。
話しかけられてるサラよりもカミーユ兄貴の方が腹を立てていた。サラも明らかに嫌そうにはしているけど。
カミーユ「おいお前、ここをどこだと思ってるんだ!ここは店なんだよ。それで俺たちは仕事中だ。邪魔をするんだったらとっとと帰れ!」
カツ「何ですか、僕は客ですよ。この店はお客さんに帰れ、消えうせろって言うんですか?」
…それはまともな客の言う台詞だ。カツは注文もしていないし、するとしても50円バーガーや100円のアイスぐらいだ。
来る客は選べないとはいえ、ああいう客なら追い出したくもなるよな。
しかしカツはお城に行列している客からも文句を言われだし、サラにも仕事中と言われてしぶしぶ50円バーガーを買った。
やっぱりせこいヘタレだ。
カツ「それじゃ、仕事が終わったら待ってるからね、サラ」
…あいつ、人の話し聞いてないし、他人のことはお構い無しだよな。サラはすごく嫌そうな顔したぞ。
そんなこんなで、サラのシフトが終わった。
サラは俺たちより先にシフトを終えたけど、帰ったと思ったら顔を青くして戻ってきた。
サラ「あのガキ、まだ店の裏口をうろついてるわ。どうしよう…」
本当に待ってるのかよ。そこまでつけ回すなんて、まるでストーカーだな。あ、そうだ。
ガロード「サラさん、役に立つかどうか知らないけど、これどうかな?」
俺はサラに一枚の名刺を渡した。
サラ「『スペースウルフ』って書いてあるけど、これがどう役に立つの?」
聞いたカミーユ兄貴が口をあんぐりと開いた。
ガロード「ロラン兄貴が持ってたのを一枚分けてもらったんだけど、しつこく誘う人にはこれを渡して、
ここで待ってるって誘うように言えば良いんだって。ロラン兄貴はアムロ兄貴にそう教わったって言ってた」
サラ「それだけ?それで本当に効果あるの??」
ガロード「ロラン兄貴はそのしつこい人に付きまとわれなくなったって。相手が男なら良いみたいだよ」
それでもサラは半信半疑な顔をしたけど、カミーユ兄貴が合点したように「なるほど、アイツにはイイ薬だ」と言った。
一体カミーユ兄貴は何を知ってるんだろう…。
カミーユ兄貴に言われてもサラは迷ってたみたいだけど、カツが帰る様子がないので結局覚悟を決めて出て行った。
サラ「それじゃカツ。約束の時間にその場所で待ってるから。遅れないでね」
カツ「本当だねサラ。絶対行くよ!」
俺がトイレの窓からのぞくと、そんなやり取りが聞こえた。カツは狂喜して帰って行った。
(続く)
追記。
その日の午後10時、ゲイバー「スペースウルフ」。
カツ「サラ!来たよ!」
意気揚々とやって来たカツ・ハウィン(15歳)は、
ラカン「いらっしゃい、子猫ちゃん」
カツ「こ、子猫ちゃん?あの、サラって子は来ませんでしたか?」
ラカン「あらぁ、サラちゃんをご指名?サラちゃーん、子猫ちゃんを歓迎してあげて」
サラ?「は~~い♪」
カツ「サラじゃない!絶対サラじゃない!サラはこんなにマッチョじゃないしヒゲも胸毛も生えてない!」
サラと忘れられない一夜を過ごした…。
カツ「イヤァァァァァ!!!」
最終更新:2018年10月30日 15:03