962 名前:乙女の雛祭り(前編)1/4 :2009/02/20(金) 18:26:44 ID:???
春一番も吹き、日に日に風の温む季節。
スミルノフ「ふう…」
晴れ渡った空を見上げながら、ため息を漏らす男、一人。
ティファ「………」
ガロード「ん? どうかしたのか、ティファ」
ティファ「あの人…」
ガロード「へ? ありゃあ…“荒熊”のおっちゃんか?」
ティファ「なんだか悩み事があるみたい…」
ガロード「まあ、そりゃ、おっちゃんも大人なんだから、悩み事の一つや二つ…」
あって当然、そっとしておこう――と続けようとしたガロードであったが、
心配そうなティファの横顔に、声を飲み込む。
ガロード「ああ、もう…」ガシガシ
足を踏み出すガロード。
向かう先はそれまでの進路と直交している。
ティファ「ガロード?」
ガロード「気になるんだろ? だったら、話、聞くだけでも聞いてみようぜ。
俺たちに何ができるかわかんねーけどさ」
ティファ「ガロード…」
ガロード「まったく、ティファも人がいいよな。
おっちゃんも大人なんだから、自分で解決できるだろーに」
口ではなんのかんのと言いつつ、
それでも自分の行きたいと思った所へ道をつけてくれるのは誰あろう?
“人の良さ”では、前を行く少年も相当なものである。
ティファ「ガロードには、かなわない…」ポソッ
ガロード「んぁ? 何か言った?」
ティファ「うん… でも、ナイショ」ニコッ
ガロード「い゛っ… ん、そ、そか…」(////)
963 名前:乙女の雛祭り(前編)2/4 :2009/02/20(金) 18:27:54 ID:???
ガロード「雛人形~~?」
ティファ「ソーマさん、ですか?」
スミルノフ「ああ。 私は一応、ピーリス君の親代わりだからな。
この国では親は子の壮健を願って用意してやるものなのだろう?」
ガロード「まあ、それはそうだけどさ…」
ティファ「…」
かつてこの国へ腰を落ち着けたばかりの頃、やはり同様の事で大騒ぎしていた
養父ジャミルを思い出し、なんとも言えない表情になるティファ。
ガロード「けど、それならおもちゃ屋とかで売ってるだろ?」
スミルノフ「それが、ちゃんとしたものは予約がなければ、間に合わんと言われてな」
ものによっては、12月に予約を入れても間に合わないのだという。
スミルノフ「小さいものならまだあるとは言われたが…
――――詳しいことは話せないが、あの子はこういった事とは無縁な生い立ちだ。
親代わりとして、大人として、できる限りのことをやってやりたかったのだが…」
そう言って、深々とため息をつく。
スミルノフ「なんとも情けない親代わりだと思ってね」
ティファ「そんなこと…」
スミルノフ「?」
ティファ「そんなこと、ありません」
スミルノフ「アディール君…」
ガロード「そーだぜ。 いつもそばに居てくれる。
それだけでも、ありがたいもんだ」
スミルノフ「ラン君…」
ガロード「えっと、俺のことはガロードって呼んでもらえる?」ナンカクスグッタイ…
ティファ「ガロード、何とかできないかしら?」
ガロード「う~ん、セレーネ姉のは、ジュドーがリィナちゃんにあげちゃったしなぁ…
中古を探すのも、確実じゃねーし。 となると、手は一つか…」
スミルノフ「手があるのか!?」
ガロード「ん。 買えないとなったら、作るしかねーよな」
スミルノフ「作る? …自分で作るのか?」
ガロード「そ。 まあ一流の人形職人が作るようなモンは無理だろうけど、
金だけ出して終わり、ってのよりは、
よっぽどレイケンアラタカってもんだと思うぜ?」
スミルノフ「しかし…私は手先が不器用でな…」
ガロード「誰もおっちゃん一人でやれって言ってないだろ?
ティファの友達なら、俺のダチでもあるんだぜ?」
ティファ「ガロード…」
964 名前:乙女の雛祭り(前編)3/4 :2009/02/20(金) 18:28:54 ID:???
ロックオン「話は聞かせてもらった!」ガサッ!
ガロード「うわっ!」
ティファ「きゃっ!」
スミルノフ「! …どこから出てくるのだね、君は」
ロックオン「まーまー、細かいことは気にしなさんな。
とにかく、俺も手を貸すぜ、熱血小僧!」
ガロード「ロックオン…」
ロックオン「代わりと言っちゃ何だけど…」
ガロード「え?」
ロックオン「フェルトの分もヨロシク!」
ガロード「あんたもかよ…(脱力」
(♪BGM:「特攻野郎Aチーム」のテーマ)
ガロード「台のフレームはアルミで行こうって思ってるんだ」
カミーユ「市販品はスチール製だろう? 強度が足りるのか?」
ガロード「なんでも、あれはちっちゃい子供が登っちゃったりするのを想定してるらしいんだ。
どっちもそんな年じゃないし、最悪今年をやり過ごせれば十分。
それよかは加工の手間と軽さを優先したいワケ」
カミーユ「なるほどな。 それで、その設計図を俺に引けって?」
ガロード「いちおう、強度計算もやっといて頂けたらなーって…」
カミーユ「…まぁ、人助けだしな。 わかった。 ただし、これは貸し一つだからな!」
ガロード「感謝します、お兄様!」
カミーユ「まったく、こんな時ばっかり調子いいんだからな、お前は」
ガロード「いやははは」
ジュドー「ガロードー、あったぜ~」つ【捨てられた雛人形】
ガロード「おお!サンキュー!」
ジュドー「んで? ついにドーラーでびう?」
ガロード「やんねぇ!!」
ウッソ&キラ オイデヨ…コッチニオイデ…タノシイヨ…
ガロード「行かねっつってんだろ!」
ジュドー「まぁ冗談はさておいて、どうすんの、そんな壊れた人形」
ガロード「ゼイゼイ…あ、いや、分解して、パーツと構造を調べるんだ。
でないとコピーもできないからな」
ジュドー「……やっぱり」
ガロード「違う! 違うから放せっ! ちょっ、待っ、いっ、いやあああああ!」
965 名前:乙女の雛祭り(前編)4/4 :2009/02/20(金) 18:30:04 ID:???
ロックオン「ティファ、キモノ手に入れてきたぜ」
スミルノフ「上質のシルクに見えるが…ずいぶん安かったな」
ロックオン「言われたとおり、人形を作るからって言ったら、
店のおねーさんが出してくれたんだけど…」
ティファ「多分、どちらも着物としては着れないんだと思います。
…こちらは虫食いの痕がありますし…こちらは目立つ所に大きなシミがありますね」
ロックオン「ほんとだ。 なんとまぁ」
スミルノフ「む…これは気づかなかったな…」
ティファ「でも、生地はいいものを使ってますし、染めもはっきりしてます。
これで人形の着物を作ります」
ロックオン「へぇ… 上手いこと考えるじゃないの」
ティファ「もともと、雛人形はそうやって作っていたそうなんです。
着れなくなった晴れ着でも取っておいて、子供の着物に仕立て直したり、
端切れで人形を作ったり。
だから、ちゃんとした古着屋さんではこんな着物も取ってあるんです」
ロックオン「まさにリサイクル、だな」
スミルノフ「ふむ。 大したものだ」
ティファ「型紙はガロードが用意してくれましたから…
こちらの着物はここの柄を生かすようにして…」
スミルノフ「縫い合わせるのは私も手伝おう」
ロックオン「ミスターが?」
スミルノフ「炊事と裁縫、身の回りの整理整頓は軍で徹底的にやらされたよ。
軍服のサイズ直しは自分でやらなくてはならないのでね」
ロックオン「へぇ…なんか意外な特技だな…とか言いつつ、俺も裁縫は得意だったり」
スミルノフ「ふむ。 君も、色々と苦労したようだな」
ロックオン「あっはっは、判りますか。 ま、今となっちゃそれも楽しい思い出ですがね」
ティファ「お内裏様と三人官女、五人囃子、左大臣右大臣が一般的ですから、人形は十二体。
それが二組みで合計二十四体分になります」
スミルノフ「ふむ、それを3月3日までに、か…」
ロックオン「こぉりゃ大変そうだな、どうにも」
ティファ「ええ。 がんばりましょう」ニッコリ
最終更新:2013年10月15日 18:30