ガロードがカリスにあったのは偶然だった。公園を散歩していたらベンチにカリスが座っていたのだ。
最近ジャンク屋の仕事が忙しくてあまり顔を会わせることが無かった為に話は弾み、少し話し疲れた二人は何か飲んで一息つこうということになった。それでジャンケンの結果負けたガロードが二人の分を買ってきたというわけである。
「そら、カリスの分」
買ってきた二本の缶ジュースの内片方をカリスに放る。
「どうも…」
それを受け取ってプルタブを開け、中のジュースを一口啜るとカリスは大きく溜め息をついた。
「どうしたんだカリス?さっきからなんか元気無いみたいだったけど。ナナイさんやギュネイさんとうまくいってないのか?」
ガロードの問いにカリスは首を必死に振って否定する。
「いえ!そんなことはありません!ただ……」
「ただ?」
「最近僕はあのままあの家に居てもいいんだろうか、って思うようになって……確かにあの人たちは僕に良くしてくれますけど、逆にそれが不安なんです。僕なんかにこんなにしてくれていいのか、
もしかしたら気を使ってるだけなんじゃないかって……シナップスシンドロームの発作を起こして二人に迷惑をかける事も少なくないですし、それならいっそ…」
「それは杞憂というヤツだな」
「「!?」」
二人が声のした方を向くと、そこにはシャアが立っていた。手にはガロード達と同じく缶コーヒーを持っている。シャアはカリス達の隣に座ると、缶コーヒーのプルタブを開ける。
「あ、お久し振りです…その節はお世話になりました」
「それよりもアンタ何してんだよ、こんな所で。まさか仕事を干されたとか?」
「ご挨拶だな。少し仕事が煮詰まってきたので息抜きに来たのだよ。別にそこの噴水の所でパンツ一枚で水遊びをしている女の子達を見て(;´Д`)ハァハァしに来たというわけではないぞ」
725 名前: カリス更正話 その2(中編) 投稿日: 03/01/18 21:32 ID:???
「…まあそれはそれとして、カリスの悩みが考えすぎだって一体どういうことさ?」
「それについては私がカリス君を引き取る事になった経緯から話す必要があるな」
そう言ってコーヒーを一口飲み、話を続ける。
「正直に言わせて貰うと私が君の身柄を引き取り、ナナイに預けたのには理由がある。ノモア―ドーラッドと呼ぶべきかな―が君を強化するためにつぎ込んだ様々な技術の中には我々に利益をもたらすであろう物も含まれている。
それを調査し解析すれば将来的に我が社の利益になると判断したからだ。」
「な!あんた……!」
「怒るな、ガロード君。私も善意だけで動く程には人間が出来てはいない。それに世の中がそのような甘い物ではないという事は君も分かっているはずだ。」
「そ、そりゃあ…」
「しかし、だ。私は単に手元に置いておいた方が観察もしやすいだろうと考えてナナイに預けたのだが、どうもこれがギュネイとナナイにとっては良い影響を与えたようなのだ」
「というと?」
「君が来てからギュネイの精神状態が以前よりも高い位置で安定するようになった。保護者以外…この場合はナナイだな、彼女以外の人間が日常的に近くに居る事で増された緊張感が良い方向に動いたのだろう。
ナナイも変わった。どのように変わったのかと聞かれたら少し説明に困るが…あえて言うなら自分のプライベートについては一切喋らなかった彼女がよく日常の事を話すようになった。大半はカリス君…君の話だがな」
「僕の話…ですか」
「そう。最初は打ち解けようとしてくれなかったカリスが最近はよく笑うようになった、自分の作った食事を美味しいと言ってくれた…それこそ自分の子供の事を話す母親のようにね。ギュネイに関してはどちらかというと弟のように扱っている所があったからな」
「母…親……」
726 名前: カリス更正話 その2(後編) 投稿日: 03/01/18 21:34 ID:???
「カリス君、君があの二人をどう思うかまでは私は知らないが、少なくとも二人は君の事を自分の家族として扱っている。その事は忘れないでくれ」
そう言って缶コーヒーの残りを飲み干すとシャアはチラリと噴水の方に目を向ける。そこに誰もいないことを確認するとゆっくりと立ち上がった。
「さて、私はここで失礼させてもらうよ。そろそろ戻らないと今日中に片付けるべき仕事が片付かなくなる」
「あ、あの…ありがとうございました。なんというか、その、話を聞いて不安が無くなったような気がします」
礼を言うカリスにシャアは小さく微笑を浮かべる。
「そう言ってくれると私としても嬉しいよ」
手にしていた缶を放り投げる。缶は二人の頭上を越えてベンチの脇にあったゴミ箱に入り、中の缶とぶつかってカン、と小さく音を立てた。
727 名前: カリス更正話 その2(エピローグ) 投稿日: 03/01/18 21:36 ID:???
「そこかっ!」
そう叫んでアムロは手にしていたハンマーを投げる。投擲されたハンマーの飛んでいく先にはやはり右手に鎖を掴んだシャアの姿があった。
「甘いなっ!」
シャアもまた右手の鎖を振る。鎖の先にはジオングの腕がついており、ハンマーと腕は空中で衝突した。ハンマーは鎖が千切れて地面に落ち、腕は鎖が千切れはしなかったもののその衝撃で吹き飛ばされる。
「まだだっ!もう一撃!」
アムロは地面に置いてあった水撒き用のホースを掴んでシャアに振るう。すると地面が盛り上がりそこからハンマーがもう一つが現れ、シャアに向かって直進していった。
「二つ目だと!?鎖をホースに擬装させていたというのか、やるなアムロ!」
「落ちろっ!」
「だが、まだ甘いっ!」
シャアはそう言うと左腕を背中に回し、右腕と左腕を同時に振るう。左手には鎖が握られその先にはもう一つのジオングの腕。そして直進してくるハンマーを両腕で挟み込むようにして抑える。
「切り札というものは最後まで残しておく物だ。そしてこれで貴様の切り札は全て無くなった。私の勝ちだ、アムロ!」
「ああ、確かにお前の言うとおりだなシャア……切り札というものは最後まで残しておく物だ!」
「何!?」
アムロが全力で鎖を引き、ガチン、という音がして鎖が鉄球から外れる。次の瞬間鎖の外された鉄球のブースターが点火され、ジオングの手の中で凄まじい勢いでスピンを始めた。
「このハンマーの回転…まさか∀のものだというのか!?」
それがシャアの最後の言葉だった。回転の凄まじさに耐えられなくなった両腕を弾き飛ばし、そのまま直進してきた鉄球の直撃を食らって吹き飛んでいくシャア。それを自室の窓から眺めながらガロードは呆れた様に呟いた。
「しっかしこうやって兄貴の風呂除こうとして失敗ばかりしてる人間がカリスの悩みを解決しちまうなんて世の中ってのは分からないねぇ。ま、それでアイツが元気になったんだから別にいいんだけどさ」
ボフ、という電子レンジに放り込んだ卵が爆発した時のような音と共に夜空に小さく赤い華が咲く。それを見たガロードは何故かロードランナーを捕まえ損ねたワイリーコヨーテが谷底へと墜落していくシーンを思い出していた。
最終更新:2017年06月16日 19:50