ハマーン「薬が効いてきたようだな。熱が下がっている。ン、唇が蒼いな・・・この薬の特性上、
最初の1,2時間は寒気を催すのだ。電気毛布などで対処するのだが、そのようなものは・・・無いか。
大丈夫、代わりのものがある、それを以って、暖めてみせよう。」
そう言うとハマーンは服を脱ぎ始めた。見る見るうちに柔肌をさらけ出し、下着だけの姿になった。
ハマーン「怖がる事は無い、人の肌は最適の暖房器具なのだよ。今そこに行く・・・ン、冷たいな、寝汗か、
何、私が濡れる事など気にするな。こうやって抱きしめていればやがて暖かくなる・・・こら、そう身じろぐな
どこを触って・・・嫌、構わぬよ。もし、お前は男だからなんというかその、その気になったとして、あらぬ行為に及ぶのだとしても、
いいのだぞ・・・熱いな・・・吐息が・・・バカ、そっちを向かずとも良い。・・・硬いな・・・体中が。もっと気を楽に持て。そう緊張しては
体に障るぞ。今お前は母の胸に抱かれる赤子のようにして居れば良い。」
そのような事を言いながら実は自分が悦に入っているハマーンだった。
プル「ねぇ、今ジュドーの事、感じた!?」
プルツー「何か、恥ずかしいみたいな、怒ってるみたいな、嬉しいみたいな、ちょっぴり厭らしいみたいな感じ!」
プルs「急げーっ!!」
更に速度を上げるプルs。学校を出て一時間、本来ならとっくの昔に兄弟宅に着いているのだが途中、立ち寄った洋菓子店で
見舞いのケーキをあれこれ選んで遅れたのだ。今もプルツーが小脇に大事そうに抱えている。
目的地の家が目前となった。プルが一気に突貫しけたたましくドアを開ける、2人とも飛ばすように靴を脱ぎ、ロランの制止を振り切って戦闘機のズーム上昇のように
階段を駆け登る。先ほど感じたジュドーの気配がより強く伝わる。微妙に危険だ、プルsはそう想った。そしてジュドーの部屋の扉を想いきりよく開けた。
プルs「ジュドー大丈夫!?あぁ、変なおばさんがいるぅっ、こらーっジュドーから離れろーっ!!」
ハマーン「なんだ貴様等は!?ジュドーの風邪に障る、出て行け!」
プルs「2人でベッドに裸だぁー!やらシー、ジュドー困ってるんだぞー、おばさんこそ出てけーっ!」
ハマーン「私は二十歳だ!それとこの行為はジュドーの体温が低下するのを押さえる為の医学療法だ、何も分からぬお子ちゃまの出る幕は無い、立ち去れー!」
プルs「何よー、そーいうことならあたし達がやる!ジュドーとはお風呂も寝るのも一緒なんだから!」
ハマーン「くぅっ、しかし、私はジュドーの婚約者でもある!見ろ、この指輪を。ジュドーがはめてくれたのだぞ!?」
プルs「自分で買ってきた指輪をジュドーにはめてもらうならあたし達にだってできるぞー!」
ハマーン「ギクッ、だがジュドーは私の為に色々尽くしてくれる。ジュドーは私だけの者だ!」
プルs「ならジュドー、あたし達にもやさしいもん、ジュドーはあたし達の!」
ハマーン「何だとっ!」
プルs「なにようっ!」
だがその時、にらみ合っていた三人が一斉にジュドーのベッドを飛び退った。とてつもないプレッシャーを感じ取ったのだ。
見ればジュドーは鬼のような形相で、全身から怒りのオーラを放っていた。
ジュドー「お前等、いいかげんにしろーっ!!」
ジュドー「病気のときくらい静かにできないのかー!ゴホッ、ゴホッ!」
介抱しようと近づく三人。しかし、ジュドーは腕を振って止める。
三人「きゃあっ!」
彼の手がそれぞれの体に当たる。力が無いので痛くは無いが、何故か心に痛い。
ジュドー「なんでこんな時までお前等の迷惑受けなきゃいけねーんだよ!?ほんとに、お前等の存在そのものが鬱陶しいんだよ!」
冷水を浴びせ掛けられたような衝撃を受ける三人。ハマーンなどは立っていられずその場にへたれ込む。
私が、ジュドーには、好かれていない・・・鬱陶しい・・そんな・・・
プル「ジュドー、ひどい・・・」
プルツー「あたし達こんなにジュドーの事好きなのに・・・」
プルs「・・・そんなジュドー嫌いだーっ!」
プルsが目にためた涙を一気に流し出そうとしたその時、とある異変が起き、三人は心底驚くのであった。
ジュドー「うるせい、うるせ・・い、うるせ・・う、うう、ぐ、ううっ、うあ、うあぅ」
なんとジュドーが嗚咽を漏らし始め、表情が怒りから悲しみに変わり、双眸から一滴、二滴と涙がこぼれ始めた。
呆然とするハマーンとプルs。
ロラン「・・・始まったようですね。大丈夫ですよ、ジュドー。」
突然、ロランが現れ、ジュドーの前で肩ひざを着いた。我が手で弟の頭をなでて胸に軽く抱き、背中を優しくたたく。
ロラン「誰も貴方をいじめてたりしてないですよ。安心して、大丈夫大丈夫。」
するとジュドーの嗚咽がはっきりとした声に変わった。
ジュドー「兄さん…
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」
プルs「・・・ジュドー、泣いてる・・・」
更にほけーっとする三人に振り向いてロランは言った。
ロラン「プル達、下に行ってジュドーの着替えを取ってきて。台所のテーブルにたたんであるから。
先生、今のうちに着替えて、布団とシーツを取りかえるのを手伝ってもらえますか。」
プルs「う、うん。」
ハマーン「わ、分かった。」
訳のわからぬ態で三人はそそくさと動き始めた。
しばらくして・・・
ロランの指示のもと、ジュドーの世話をこなした三人は、すっかり落ち着きを取り戻し、屋すらかな寝息を立てるジュドーの寝顔を確認して
一階に降りてきた。ロランの入れてくれたお茶をいただく為、三人はテーブルの席に着いた。
それぞれに一息つくと、最初にロランが口を開いた。
ロラン「驚いたでしょう、あの子は風邪を引くといつもああなるんです。」
三人「え・・・?」
ロラン「子供の頃からなんです、熱が出て意識が朦朧とすると、訳も無く怒って、わめいて最後には泣き出すんです。誰でもあるみたいですね、小さい頃には。」
プル「え、じゃあそれって・・・」
ロラン「最後に風邪を引いたのは九つの時ですけど、成長してないんですね。なりは大きくなっても。」
プルツー「うふふ、ジュドーおっきな子供だって。」
ロラン「僕等兄弟がいくらあやしても暴れっぱなしだったんですけど、母が来ると途端に抱き着いて泣き出していたものですよ。実は兄弟の中では一番のあまえんぼうだったんです。」
そう話すロランを見ながらハマーンは思い出した。今彼が弟の事を語っている時の目が、ジュドーを我が胸に抱きしめていた時の目と同じ、慈愛に満ち溢れている事を。
我々が近づこうとすると追い払おうとしていたが、あの時私の目はジュドーにはさぞかし浅ましい物に見えていたのだろう。
そう恥じ入る途端、顔が見る見る熱くなるのが自覚できた。
ロラン「でも、次の日には必ずけろっと治ってしまって、昨日の事なんかちっとも覚えていないんです。その代わりいつも以上に明るく振舞って・・・実は自分のした事を少しは覚えていて
謝るのも照れくさくてそうなるのかもしれないですね。彼は、人に嫌われるのが大嫌いなんです。病気の後は必ず兄弟に対して気を回していたものです。」
プルsがはっとする。彼女等は自分が一時ジュドーを嫌いになってもジュドーは自分達をずっと好きでいてくれる、そう思う節があった。そういうジュドーに着け込んで自分達はさぞかしわがままをしていただろう、と悟った。
の両側に三人三様にうなだれてしまった。自責の念が募る。ロランはそれを見て慰めるように言った。
ロラン「さっきジュドーがひどいことを言ったかもしれませんが、気にしないでください。全然本心なんかじゃないですよ。さっき言った通りですから明日は必ず皆さんのところに合いにきますよ。お見舞いの御礼を言いに。」
そう言われた時、三人の心が軽くなった。ロランが、あの慈しみの眼差しで見つめていたのだ。
ハマーン「かなわぬな、貴公には。もしも女であったならお互い違う形で相対していただろう。・・・もしも聞こえが悪かったら謝る。」
ロラン「いいえ。ジュドーと同じような言い方ですね。そういう所が引き合うのかもしれないですよ。」
ジュドーと同じ、引き合う!?ハマーンの胸が高鳴った。
ロラン「そういえばプル達、ジュドーが貴方達を心配してたんですよ。自分の風邪をうつしてないかって。妹達に迷惑はかけられないって。」
プルsの表情に明るさが戻った。自分達が妹!揶揄であってもこんなに嬉しい事は無い。
兄弟宅を出て、三人一緒の帰り道。あんなに敵対していたのに、今はプルsがハマーン寄り添い、ハマーンもそれを許している。
プル「ジュドー、早く良くなるといいね。」
プルツー「エー、だって明日には良くなるって言ってたもん、ねー、ハマーン!?」
おばさんからハマーン、呼び捨てだが不快に感じない。純粋な子達だ、ハマーンは思った。
ハマーン「そうだな、お前達が心配で風邪など患ってばかりも居れぬだろう、明日には必ず元気な姿で二人の前に現れる事だろう。」
不遜な口調だが嫌な感じがしない。優しい人だな、プルsは思った。
プル「ねぇ、ハマーンはほんとにジュドーと結婚するの?」
ハマーン「ふ、婚約の事は実は勝手に私が言ってる事だ。法律で決まったわけでもない。」
プルツー「なーんだ、よかったー。」
ハマーン「だがこの先は分からぬぞ。いきなり明日にでも私がジュドーの元に嫁いでいるかもしれない。」
プル「じゃあ、あたし達ライバルだね。どっちが先にジュドーのお嫁さんになるか競争!」
競争、か。まっすぐな言い方だ。この先の事は本当に分からない。この娘達のどちらかとジュドーが添い遂げるかもしれない、でもそうなったとしても
恐らく自分は心から祝福できるのではないか、そう考えるハマーンだった。
ハマーン「さて意地悪な質問だが、2人のうちどちらがじゅどーの 花嫁になるつもりだ?」
プルs「2人で一つだから、一緒にお嫁さんになるーっ!」
ハマーン「は?・・・ぷっはははは、それはいい。」
プルs「ああー、バカにしてるーッ」
ハマーン「いやすまない、ではライバルとしてこれからもよろしくな。・・・ン、そのケーキ、渡してこなかったのか?」
プルツー「アーッ渡し忘れたー!・・・もう渡せない・・・」
プル「・・・仕方ないから2人で食べようか。でも三つ買ってきたから一つ余る・・・そうだ、ハマーンも一緒に食べよう!」
ハマーン「そうか、ならいただこう。丁度この近くに私の行き付けの喫茶店がある。そこでお茶と共にするか。まぁ、マスターには許してもらおう。」
ビーチャ「あーあ、今日はジュドーがいなくてつまんねーかった。何か、ハマーンも午後からいなくなって自習になったから良かったけど、関係あんのかな?
意外とジュドーん家行ってたりして・・・明日聞いてみよう。ン、どうしたエル、何見てるのってそこの喫茶店、あ、ハマーンがいる。誰か知らない女の子達といるぞおい!学校サボってお茶かぁ!?
しょうがねぇなぁ、ったく。明日ジュドーに教えたろ。しかし、いつものハマーンと違ってすッげー優しそうだな、女の子の口拭いてやったりして、あれ、笑ってる!おいエル、あんなハマーンお前知ってたか!?
ハマーンって優し綺麗なひとだったんだな。何だか急にジュドーが羨ましくなってきた・・・っててて、つねるなよ!ま、なんにしても、ジュドーに教えたろ!」
了
最終更新:2017年06月22日 14:36