放課後の学園内、体育会系部活の集る部室棟の前で
柔道着に身体を包んでいるサイがフレイを追い回す。
「フレイ?あのさぁ……俺達、ここのところ、お互い忙しくて、ゆっくり話せなかったけど………」

フレイは迷惑そうな顔付きで口を開き「何も話す事はないわ……部活、始まるんでしょう?行かなくていいの?」

「親同士の決めた事とは言え……俺達、一応は婚約者なんだぜ?それを……、最近じゃぁ……」
サイからしてみれば例え親同士が決めた、お仕着せの関係だったとしても
フレイがサイの友達であるキラに対して近付過ぎている事を心配し、内心焦っていた。
ここでフレイを引き止めて気持ちを確認しなくては……と

「あ、キラ……」フレイの声の先を見ると柔道着姿のキラが立っている。
少し険しい眼つきのキラ「サイ、何やってるんだよ?部活、始まってるのに」

「キラ!………これは、俺とフレイ……。二人の話なんだ。悪いけどさ………、外してくれないか?」

キラ「そんな訳にはいかないよ……。僕にも関係ある話だ」
サイ「 (;゚Д゚) キ、キラ!?………」
キラ「丁度良かった。今日は選考用の査定試合もあるし、それで決着つけようよ。
僕に負けたら、二度とフレイを付回さないで欲しい……」

自身満々のキラが恐ろしく思えたが……男として、ここで引く訳にはいかず
「………わ、判った!試合で決めようじゃないか」
恐る恐る承諾したが…しかし、サイに勝算など無い。それは自分が1番良く判っている。
売り言葉に買い言葉とはいえ、勝負を飲んだ事に後悔し始めるサイだった………………

学園の柔道場内、部活動中の柔道部員達の掛け声が響き渡る。

カミーユ「うぉりゃゃやぁぁあぁあああああ!!!!!」
ドスン!

ルー「うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
ドスン!
ルーは投げ飛ばした相手にアドバイスを贈る「キャスリン!!内股に入る時の引きが甘いわ!」

ナタル「よし!次!!ミリアリア行け!!」
ミリアリア「ハイ!お願いします!!」

柔道部女子顧問のナタル=バジルールと、男子顧問のアルゴ=ガルスキーは
部員達に乱取りをやらせ、週末に控えた地区大会に向けた各人の仕上がり具合をチェックしていた。
ナタル「男子はカミーユが安定してますね」
アルゴ「そうだな………(回りを見て)ん?キラは何処だ?」

ガラガラガラガラガラ~~~~~ッ

柔道場の戸が開き、キラとサイが入ってくる「すいません!遅れましたぁ!!」

ナタル「貴様等!遅い!!ここで鍛錬を怠ったら!今までの練習、全てが無駄になるのだぞぉ!!」
キラ「ハイ!すいませんでした!!」
サイ「すいませんでしたぁ!」

ナタル「罰としてぇ打ち込み100本だぁ!!分ったらさっさと練習しろ!!(隣のアルゴの方を向いて)
全く……、大会はもう直ぐだというのに……サイは兎も角、キラ=ヤマトは最近、弛んできてます」
アルゴ「………そうか」

ナタル「前もって伝えてある通り。これから男女地区大会出場者を決める査定試合を行う!
この試合での調子を見て、出場者を決めるつもりだ。全員、本番だと思って心して望め!!」

部員一同「押忍!!」

次々と対戦相手を替えつつ、部員同士での試合が進んでいく。
カミーユ「堕ちぃぃぃぃいいいろろろぉぉぉおおおお!!!」
ダン!!!!  投げ飛ばされたカツが畳みの上で受身を打つ音が道場に響いた。
審判を勤めるアルゴが腕を上げ「一本!!それまでぇ!!!」
カツ「くっ……糞。僕じゃ、カミーユには勝てないの?」

アルゴ「次!!キラとサイ。前へ!!」

他の部員達、勿論、顧問の先生等は知る由も無い、
キラとサイの二人による、フレイを賭けた愛憎入り混じる特別な試合が始まった。
サイ(いよいよだな………キラと。俺は………勝てるのか?………フレイ?)

試合の模様を見ている柔道部員達
カミーユ「やっぱり、キラが推してるな……サイは逃げ回るのが精一杯だ」
ルー「けれど、キラの多彩なコンビネーションと馬鹿力に、何時までも逃げ切るモノでも……」
キャスリン「あ!キラの大外狩り!!」

サイ「うわぁぁぁぁぁあああああああ~~~~!!!!(は、早すぎるっぅぅぅううう)」
ドスゥン!!!  サイが投げ飛ばされる。

アルゴ「技有りぃぃい!!」

カミーユ「サイ、助かったな。一本でも可笑しくなかったっ……。な、何!?」

大外狩りで技有りを取ったキラ。
しかし、攻撃の手は緩めず、すぐさま寝技へと持ち込む。
サイの上に身体を置くと横四方のポジションをキープ、おさえこみに入る。

アルゴ「おさえこみ!!」

カミーユ「や!?違う………。キラの奴、腕絡みで関節を決めてるぞぉ!?」
ミリアリア「え、関節!?ナタル先生が本番通りって言っても………、練習でそこまで………」

キラは腕絡みでサイの左腕を掴むと、アームロックへと移行し、
サイの左腕、左肩を捻り上げるように絞め続ける。
サイ「うあ゛ぁあ あ゛ぁぁぁあああ゛あ゛あ゛ぁぁあ!!!!」
肩の関節が捻れようとしているも、サイには【まいった】をする意思は無かった。
サイ(自分から……まいった……と…………言うもんかぁよぉ!!!)

大会出場者を決める査定試合とは言え、あくまで部員同士での練習である。
だが、この二人の試合はそれとは異なる、異様な緊迫感に包まれていた。

教師の勤めとして、練習試合で選手を壊す訳にもいかないと、
試合を見かねた女子顧問のナタルが止めに入る
「キラ=ヤマト!やり過ぎだ!!アルゴ先生、止めて下さい。勝負は決しています!!」

「そうだな………そこまで!!」キラの判定勝利を下すアルゴ。

「大丈夫か?サイ=アーガイル……」ナタルが確かめるように問う。
顧問をしている部活動において、怪我人が出るのは
自身の監督不足だという自責の念に駈られるのがナタルの性分であった。

「………へ、平気ですよ。この位は……。痛っ!……くぅ」
捻りあげられた左肩を抑えながら立ち上がろうとするサイ。
道着も肌蹴、上半身から凄い量の汗が出ている、満身創痍だ。

反対に道着の乱れも無く、汗も書いていないキラは離れ際、サイに向けて
「本気で僕に勝てると思ってたの?………相手にもならないよ」とボソっと呟く
判定も下ったし……と立ち去ろうとするキラを止める声が道場に響いた。

アルゴ「キラ、待て!!」
キラ「なんです?」
アルゴ「………礼が未だ」

アルゴ「礼!」
ヨレヨレのサイは、なんとか立ち上がり肩を抑えながら礼をした。
キラも不満顔ながら礼をする。


夕暮れのキャンパス内。
柔道部の練習も終わり、校舎の外の手洗い場には上半身裸のサイが居た。
先ほどの練習試合で痛めた左肩が熱を帯びてズキズキと痛む為、
左肩から背中、上半身全体を蛇口から出る水道水に身体を浴びせ、熱る身体を冷やしている。
水の冷たさで冷静さを保ちながらも、心の中はキラに負けた悔しさがマグマの如く込み上げていた。

水浴びを終えて身体を拭きながら部室に戻る途中、
遠くからキラとフレイが一緒に帰る姿を目撃する。
夕日に溶け込む二人の姿に、サイは堪らない衝動を覚えた。

体育教官室にて、
ナタル「(略)…女子はルーで決まりでしょう。
男子は………キラ=ヤマトは確かに強い選手ではあります。が………、
今日の試合をみても、何か危険な感じが………、今度の大会。私はカミーユを推します」

アルゴ「……そうだな。参考にさせて貰う………。ん、未だ……、何か?」
ナタル「アルゴ先生……、今日の試合をみて、何か感じませんでしたか?
私にはキラとサイの間に何かあったように思えるのですが…………」

アルゴ「それは彼らの中で解決すればいい事だ。私達、教師の出る幕ではないな」
ナタル「し、しかし……」

柔道部部室にて、
サイが部室に入るとカミーユが着替えを終えて帰るところだった。
カミーユはサイを励まそうと
「肩、大丈夫か?アイツ、最近、増長してるんだよ……。
フレイと付き合いだしてからは、ざらっとしたプレッシャーを感じる。
査定試合と言っても誰もアソコまではやらない…………御免な、兄として謝っておくよ」
サイ「や……、練習と言っても試合だし……。キラも、熱が入ってたんでしょう………」

カミーユ「それにしても、普通の試合って雰囲気じゃなかったなぁ……キラと何かあったのか?」
サイ「 (;゚Д゚) な、何もないです………」
カミーユ「……なら、いいけど。その肩。アイシングしとけよな!」バックを持って部室を出る。

独り、部室に残ったサイはバックを取り出し、帰り支度をしていた。
柔道着を折りたたみ、帯を巻きつけたところで………動きが止まる。

キラとの勝負に挑み、為す術もなくも無く惨敗した自分、
夕暮れの中に消えたキラとフレイの二人、
他、様々な事がサイの中でフラッシュバック現象を起し、堪えていた悔しさが途端に込み上げてくる。

感情が抑え切れなくなり、床に両手、両膝をついた土下座の姿勢で平伏し、嗚咽し始める。

「うあ゛ぁあ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ
うぅいぁうぁぅうううぁぁううぃあうぁうぅあぇぇぅぅぁゃぁあっぅぅぁぁぁ…………」

夕日も落ち、薄暗くなったキンャパス内を
女子の部室に置き忘れた書類を取りに戻っていたナタルは男子の部室に明りが灯っているのに気付く。
「残っている生徒が居るのか?…………」
明りを点けっ放しで部員達が帰った?
もしくは、この時刻まで残っている生徒が居るとしたら帰宅を促さなければ為らない。
どちらにしろ、確認する必要はあった。
男子の部室へ近寄ると、閉まりきっていない扉の隙間から泣き声が聞こえてくる。

「………人が、泣いてる?」
部室の扉を少しづつ開くと、床に突っ伏し土下座泣きをしている
男子柔道部員サイ=アーガイルの姿が見えた。

ナタル先生「サイ=アーガイル Σ(゚Д゚;) !? ど、どうした!?」
サイ「うあ゛ぁあ あ゛ぁ……バ、バジルール先ん……せぇぃ……ううぁぁううぃ、お、俺……」
土下座を泣きしてるサイに合わせて、しゃがみ込み、近寄るナタル
「今日の試合、キラとお前の間に何が有ったかわ、知らんが……」

サイ「うぅいぁ うぁぅうううぁぁ……どうしても……アイツに勝ちたかった………のにぃ、
俺は………俺ぁぁあ あ゛はぁぁ…………」ナタルにしがみ付く

ナタルはサイの肩に手を当てながら
「軟弱者!!練習試合で負けた位で泣くやつがあるか…………次が、あるだろう?」
サイ「先生ぃ………ううぃあ゛うぁう゛ぅあぇぇぅぅぁ………」

「いつまでも負け犬気分では……困るな」
部室の中の二人。暫しの沈黙が続き………

「そうだ!」ナタルは何かを思い出したように
ジャージのポケットからカロリーメイトを取り出し、サイに渡す。
「……部活が終わって…………腹が空いていないか?食べると元気も出るぞ」

少し落ち着きを取り戻したサイは部室のベンチに座り、
カロリーメイトを口に放り込んでいる。それを横に座るナタルが見守り

ナタル「ん、味はどうだ?私はチーズ味が好きなのだが」
サイ「モグモグ……なんだか……、少し…ショッパイ……です」泣き腫らした顔から笑みが零れる。
ナタル「元気が出てきたようだな………
強くなりたいのなら、私がビッシビシ!鍛えてやる……。ついて来れるか?」
サイ「………僕が……強くなる?……」
ナタル「男らしくない奴だ!返事はハイか、イイエか?」
サイ「ハ、ハイ!お願いします!!僕を強くして下さいぃ!!!」
ナタル「その言葉忘れるなよ!!明日から特訓だ」
サイ「ハイ!」



これをキッカケに、ナタル先生はサイに対して個人特訓を行う訳ですが
柔の道に打ち込みフレイに振られた心の傷が癒えていくのか?
コーチでもあり身近に居る年上の女性。ナタル先生にホノカナ恋心抱くのか?
もしくは色々あったも最後の最後は互いに許し合い、フレイと元の鞘に収まるのか?

は………SEED本編次第と言う事で(終了)



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最終更新:2018年10月26日 08:42