バレンタインも終わり、季節も春に入ろうとしている頃のとある土曜日。家の庭でツナギを着、機械油にまみれてMSをいじっていたガロードとジュドーが
訪問外交に出掛けたリリーナの護衛で一週間近く家を留守にしていたヒイロが疲労も露に家の門を通ろうとしている所を目に留めた。
「ヒイロ!?お前一体何やってたんだよ!三日前に『これから帰る』って連絡が入ってから音沙汰が無かったもんだから皆心配してたんだぞ!」
今にも倒れそうな危なっかしい足取りで歩くヒイロに駆け寄りながら、ガロードが声をかける。
「すまない……護衛中に要調査すべき対象が見つかって、調査を終えるのに予想外に時間がかかった…俺の…ミスだ……!」
ふらつきながらも懐を探って自爆装置を取り出し、スイッチを押そうとするヒイロをジュドーが必死に押し止めた。
「だあーわかった!わかったから自爆スイッチを取り出すな!押すな!とりあえず家の中に入るぞ!そろそろロラン兄が昼飯作る頃だし!」
「あ、そうだ。それでちょっと頼みたい仕事があるんだけど……おーいロラン兄ちゃん!ヒイロが帰ってきたぞー!」
ガロードが玄関から奥に向かって声を張り上げ、パタパタという音とともにエプロンで手を拭きながらロランが走って来る。
「ヒイロが!?一体今まで何をやって…って二人とも何ですかその格好は!これからお昼ですけどその前にお風呂に入ってください!」
「えーっ、別にいいじゃんこのままで」
「そうだよ、どうせ昼飯食べた後もまた仕事で汚れるんだから…」
口々に文句を言う二人だったが
「 い  け  ま  せ  ん  !入らないのなら二人とも御飯抜きにしますよ!」
二人に顔を近づけ、伝家の宝刀「やらないのなら御飯抜き」を使ったロランには逆らえず、渋々と承諾する。
「ちぇ…それじゃヒイロ、さっき言ってた仕事の話は俺らが風呂入ってからで…」
「いや、構わない。今聞こう」
「今って…しょうがねぇな、んじゃ風呂入りながら話すとするか」

「で、だ。さっき言った仕事の話、さっき庭でいじってたMSあったろ?あれを売ろうと思うんだ」
シャワーの水音の混じったガロードの声を、ヒイロは風呂場からガラス一枚隔てた脱衣所でガラス戸に背を預けて麦茶の入った湯飲みを片手に聞いていた。
湯飲みを傾けて中身を飲み干すと、傍らに置いてあるヤカンから再び湯飲みに麦茶を注ぎ足す。
「庭にあったMS…外部装甲を見る限りではGX-9900ガンダムエックスに見えたが…まさかあれを売るつもりか?」
「そうだよ。流石ヒイロ。見てないようでよく見てる」
茶化すようなジュドーの声を背中で聞く。
「しかしあれにはサテライトキャノンとFシステムが搭載されている。迂闊に売却すると…」
「んなこたぁこっちだってわかってるよ」
咎める色を含んだヒイロの声を遮るようにガロードが返事をした。
「そりゃあね、俺だってこんな下手すりゃ後ろに手が回ることはしたかないよ。でもホワイトデーも近くてティファにお礼しなきゃならないってのにその前に先立つものもありゃしない状況なんだから、
もう主義云々言ってられないのが現実なんだよ」
悟りというか諦観というかそんな感情が入った声で世知辛い話を言う。因みにそうなった原因はカズィの情報提供によるスーチーパイちゃん(20)の新商品登場(>>443参照)の発覚である。
本人は「この前偶然見ちゃったんだけど~」などと言ってはいたが信用できたものではない。それが自分にとってどういう意味を持っているかを確実に分かっていて情報を流したとガロードは見ている。
「それで?売る相手は誰だ」
これ以上言っても時間の無駄と判断して脱線しかけた話を元に戻し、ぬるくなった麦茶を口にする。売却に際して自分に頼み事をしようというのだ、まともな相手でないことだけは確かである。
「え~と…何つったっけか、ガロード?」
「アイム…アイム…何だっけかなあ?確かイットだかザットだかそんな名前だったんだけど…」
「! アイムザット・カートラルか!」
アイムザット・カートラル。非合法的なNT関連技術者として裏の社会でもそれなりに名を知られている人物である。思ってもみなかった人間の名前を出されて思わず声を上げる。
その拍子に口の中に残っていた麦茶が気管に入り、ヒイロは大きく咳き込んだ。



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最終更新:2018年10月31日 21:22