それはある春の日、日曜日の午後、
ウッソがようやく10歳になった頃の話。
居間でTVを観ていたシローの、何気ない一言がキッカケだった。
シロー「ウッソ、髪伸びたな…」
ウッソ「そうですか?」
シロー「コウはどう思う?」
( Σ(゚д゚lll)ギクッ!? )
「ぼ、僕は…未だ、大丈夫だよ!も、もう少し伸ばそうと思ってるんだ!」
コウの顔付きが一瞬にして青ざめる。
シロー「お前の事じゃないよ……ウッソの頭が伸びてきてないかな?って聞いてんだろ……?」
「あ、ああ……僕じゃないの…」
コウは深い溜息が出た後、言葉を続ける
「確かにウッソは髪の毛伸びてるかもね……って……まさか……散髪する気じゃ?」
コウの顔が再度、青ざめる。
シロー「ウッソの髪、俺が切ってるやるよ」
ウッソ「え?いいんですか」
シロー「新聞紙と椅子を持って庭で待ってろ。俺も直ぐ行くから」
「分りました~」ウッソは部屋を急いで出た。
ドモン「兄さん、ハサミなんか持ち出して…もしかして……散髪するのか?」
シロー「ああ、久し振りにな。ウッソの髪が長くなったから俺が切ってやろうと思ってさ~」
ドモン「…ロランに任せた方がいいんじゃないか?ウッソはロランがいつも髪の毛切ってるだろう…」
「リクリエーションだよ。リクリエーション♪…偶には俺がウッソの髪を切ってもいいだろう?」
シローはウキウキ顔でハサミとバリカンを持ち、ウッソが待つ庭へと出る。
ドモンが慌てた様子で居間に入ると、コウがお茶を啜っていた。
「おい、シロー兄さんがウッソを散髪するって言ってるぞ!!」
「知ってるよ……僕には止める勇気が無かった……シロー兄さんはあれで頑固だから」
暫くして、ガロードも上の部屋から降りて来た。
「あれ?居間に居ないや……兄さん、ウッソ知らない?」
コウ「……散髪中」
ガロードの隣りから顔を出すジュドー
「散髪……あれ?ロラン兄さん帰ってきたんだ。今日はハイム家の用事があるから帰りは夜遅くなるって言ってなかった?」
ドモン「……いや、ロランは未だ帰ってない」
ジュドー「もしかして… (゚Д゚;) 」
ガロード「シロー兄さんが… (゚Д゚;) 」
コウはお茶を啜ると
「……その通り。シロー兄さんの腕が疼いたらしいよ」
その表情は諦めきっていた。
庭では新聞紙を敷いた上に、椅子にウッソが座っている。
シローがウッソの首に散髪用のカバーを巻きつけていた。
「首、苦しくないか?」
「大丈夫です」
「前はさ、俺がガロードやジュドーとかの髪の毛を切ってやってたんだぜ!」
「へ~そうなんですか、僕はロラン兄さんにしか、切って貰ってないや」
シローはハサミを取り出してウッソの頭を眺めている
「頭、どんな感じにするんだよ?」
「短くして下さい、あ、前髪は少し残して…」
「なんだよ、色気づきやがって」
「いけませんか?」
シローはウッソの髪に触りながらおどけた調子で
「了解、オーダーお受けしましょ~♪」
と言い終わるとシローはウッソの髪にハサミを入れた。
チョキ、チョキ、チョキ、チョキ
小気味良いハサミの音が庭に響く…
チョキ、チョキ、チョキ、チョキ……
(あれ……?おかしいなぁ……)
チョキ、チョキ、チョキ……
(あ、ヤベ……左切りすぎたか?じゃ~それに合わせる形で、右をもうちょい切れば…)
チョキ、チョキ、チョキ、チョキ、チョキ……
(ううっ……左右のバランスはまぁ…後回しだ……後ろの襟足を先にバリカンで刈っちゃうか?)
ブィィィィイイイイイン、ブィィィィイイイイイン…
「Σ(゚д゚lll)あ!?」
「え?ど、どうしたんですか!?」
「いや、なんでもない。なんでもない。ははははっ…いいから、じっとしてろよ。動くと怪我するぞ」
(ふぅ~……バリカンを深く入れ過ぎたな……こりゃ、目立つよ……仕方ない。全体的に短く刈上げるしかないな……)
ブィィィィイイイイイン、ブィィィィイイイイイン、ブィィィィイイイイイン…
(で、前髪とサイドは残すんだよな……)
チョキ、チョキ、チョキ……
散髪を終えたウッソの髪型は、みっともないオカッパ頭になっていた。
シロー「……………」
ウッソ「あ、終わったんですか?」
シロー(糞!完全な失敗だ!俺の腕が鈍ったか?…我ながら凄い髪型になっちゃったよ……)
「どんな感じなんだろ…」
ウッソが下に置いてある鏡を取ろうとすると
「おおっと!!」
シローはウッソから鏡を取り上げると庭の塀に投げつけて
ガシャーン!!
鏡が粉々に砕けちった。
ウッソ「……シ、シロー兄さん?」
シロー「え?え~っと……あ、毒蜘蛛!毒蜘蛛が塀にいたんだよ。
春は変な虫が湧いて出るからな~ウッソも気をつけろよ…ははははっ」
シローが散髪の後片付けをしている中、ウッソは自分の頭を撫でて感触を確かめてみた。
「わぁ~頭、サッパリしましたね」
シロー「そ、そうだろ~……(´∀`;)」
(ま、ウッソが後でぐちゃぐちゃ文句言うようなら最後は丸刈りにしちゃえばいいか……)
居間ではドモン、コウ、ガロード、ジュドー等がTVの『笑点』見ていた。
ガロード「シロー兄さんには何度、虎刈りにされたかな……?」
ジュドー「俺なんか、毎回坊主だったもんな。シロー兄さんの『髪伸びたな』を聞くと、未だに背筋がぞくぞくするよ……」
ドモン「分ってるだろうが……ウッソの髪型を茶化すような事はするなよ!
お前等も昔はシロー兄さんの散髪のおかげで学校で散々からかわれただろ?」
ガロード「分ってるって」
ジュドー「俺らが1番身に染みてるからね」
今でこそ各々が床屋に行ったり、ロランに散髪して貰っている兄弟達だが
昔はシローが弟達(コウ以下のジュドーまで)全員の散髪を行っていた。
散髪代を浮かす為…と言うのは建前であり、本当のところはシローが好き好んで弟達の散髪をしていた。
と、言うのが正しかった。
シローの自己満足な散髪行為の被害に1番逢っていたのはガロード、ジュドーだった。
「あ、笑点始まってたんですね」
散髪を終えたウッソが居間に姿を表すと、場の空気が一瞬にして凍りついた。
一同「……………………」
ドモン(こ、これは…)
コウ(なんて、こっけいな…オカッパ頭とは!)
ガロード(幾らシロー兄さんでもこれは酷過ぎるぜ)
ジュドー(坊主の方が千倍マシだよ……正直、どうリアクション取ればいいか分んないや…)
ウッソ(何時は五月蝿いのに…なんて静かな居間なんだ……)
「……あの、シロー兄さんに切って貰った僕の頭どんな感じです……?未だ、鏡で見てないんだけど…」
ピンポ~ン♪ピンポ~ン♪……気まずい静寂の中、玄関の呼び鈴の音が鳴る。
コウ「あ!僕。出るよ」
玄関の外には近所に住んでいるマーベットが立っていた。
コウ「…あ、マーベットさん。こんばんわ」
マーベット「ウッソ君に貰った大根でべったら漬けを作ったから、お裾分けを…と思って、持ってきたの」
コウ「わぁ、ありがとうございます」
「マーベットさん来てるんですかぁ!?」
家の中からウッソの声がすると、廊下を走る音がして……ウッソが玄関に来た。
コウ「Σ(゚Д゚;) あ!ウッソ…」(出て来ちゃったよぉ……)
「……………」マーベットはウッソの髪型を見て絶句し
コウに手渡す筈だった、べったら漬けを入れたタッパを床に落としてしまった。
ウッソ「……マーベットさん?」
マーベット(ウッソの髪型……なんて滑稽なおかっぱ頭……笑いをとる為のモノ……?私、笑っていいの?
……や、この子はスペシャルなのよ!!伊達や酔狂でこんな妙ちきりんな髪型に、している筈ない!!)
ウッソ「あの…この髪型、どうです?」
マーベット(やっぱりそうよ!この子は私を試しているんだわ……
ウッソの髪型はキッズの間で最先端を行くモードなのよ!そう!そうに違いない!!
危うく笑って恥をかくところだった……危ない、危ない。なんて油断のならない子…)
「うん、ウッソに……よく似合ってると思うわ」
ウッソ「本当ですか!?」
マーベットは引き攣る顔を取り繕って、ウッソに最上級の微笑みを見せる。
「え、ええ……ほ・ん・と・う・にカッコ良いわよ」
ウッソは以後、マーベットのその言葉を信じ続ける事になる。
翌日、兄弟達の暖かい眼差しを感じながらもウッソは学校に向かった。
ウッソ「シャクティおはよう!」
シャクティ「(;゚ -゚) おは……ウッソ、その頭?」
ウッソ「昨日、シロー兄さんに切って貰ったんだ。自分じゃ、似合ってると思うんだけど?」
シャクティ「………」
ウッソ「シャクティ?」
校舎の中では、
ウォレン「おわっ!ウッソ……その頭さぁ…」
ウッソ「何?」
「う……上手く言えないけど…少し…」ウォレンが何をどう言ったらいいのか途惑っていると
オデロ「よう!って二人とも……って、ウッソ?なんだよ、そのキノコみたいな髪型は?(;゚Д゚)」
ウォレン「オデロ、それ言い過ぎだよぉ……」
ウッソ「キノコ?……オ、オデロさんにはこのヘアスタイルのカッコ良さが分んないんですよ!ヽ(`Д´)ノ」
オデロ「だって……どうみてもキノコだぜ?」
ウッソ「ウォレンもそう思うの?」
ウォレン「………( #・∀・)」
ウッソ「あ、エマ先生!」
エマ「あらウッソ君、おはよう……髪型変えたの?カッコ良いわね」
ウッソ「……そ、そうですか ( *´ⅴ`)ヾ 」
エマ「ええ、素敵よ」
オデロ(おい、あの二人…キノコ頭同士、気が合ってるようだぜ…)
ウォレン(そうだね。美的感覚が似てるのかも?…)
ウッソ(エマ先生もマーベットさんも良いと言ってくれている!
やっぱりこの髪型は大人のお姉さん達にウケがいいんだ ( ̄ー ̄)ニヤリ )
ウッソは以後、髪型に関して笑い者にされても平気だったし
暫くすると回りも馴れてしまいウッソの髪型を馬鹿にする者は居なくなったとさ 終
最終更新:2018年11月12日 15:41