「ふう・・・」
ハマーンが今日何度目かのため息をつく。今日だけではなく、最近ずっとこの調子なのだ。
「ハマーン、大丈夫なのか?」
見かねたミネバが声を掛ける。
「最近どうしたのだ?ハマーンらしくないぞ。」
ミネバにとって、ハマーンは血こそつながっていないものの、自慢の姉なのである。
このような彼女の姿は見たくなかった。いつものように自信に満ち溢れたハマーンに戻って欲しかった。
「なあ、ハマーン。私に力になれることは無いか?」
ハマーンはミネバの方に向き直り、返事を返す。
「ご心配には及びません。私は大丈夫です。」
その声にはいつものような力は無かったが、ミネバに無力感を与えるに十分であった。
ミネバは少し考えた後、『お父様』に相談することにした。
「ふむ・・・あのハマーンがなぁ・・・」
「どうしたらよいであろうか?お父様。」
ドズルも考え込んだ。幼稚園の園長先生として園児から親しまれてはいるが、
幼稚園児は相談事など持ってくることは無い。
人の相談に乗るのはどちらかと言えば苦手なドズルであった。
「まあいい。俺が激励してやれば、ハマーンも少しは元気になるだろう。」
そう独り言を言うと、ミネバに笑いかけた。
「ハマーンのことは俺に任せておけ。悪いようにはせん。」
「ありがとう、お父様。」
ミネバはドズルにお礼をすると、ゼナの元に行く。
(お父様の笑顔って近くで見ると怖い・・)
夕食の後、ドズルがハマーンに話しかける。
「最近どうしたと言うのだ。ミネバも心配しておる。」
ドズルとハマーンの前にお茶が置かれる。ゼナが持ってきたのだ。
「おぬしの父親のマハラジャと俺は親友同士だった。俺を父親だと思って何でも相談するがいい。」
だが、ハマーンの様子は変わらない。
「申し訳ございません、ドズル様。しかし、これは私の問題ですので・・・。」
「むう・・・なんとも歯切れの悪い言葉よ。大体・・・」
「お待ちください、あなた。」
ゼナが口を挟む。
「あなた、ハマーンにも考えるところがあるのでしょう。少し一人で考えさせてあげたほうがよろしいのでは?ハマーン、もう良いですよ。」
ハマーンが一礼をして部屋を出て行く。ドズルはそれを呆然と見送ると、我に返ったようにゼナの方を振り返る。普段こういった差し出口をしないゼナである。何か考えがあるのであろうが、一言言わずにはいられなかった。
「ゼナ、お前どうゆうつもりだ!」
だが、ドズルの咆哮ともいえるその言葉に、ゼナは動じる気配は無かった。
「仕事のことであればハマーンもあなたに相談できるでしょうが、そうではないのでしょう。あなたの前でも言葉を濁したのはその証拠です。」
ゼナは何かを確信している眼でドズルを見る。
「ハマーンは私にお任せください。」
「ふう・・・」
自室でハマーンがなにやら考えている。そこに
「ハマーン、すこしよろしいかしら?」
ゼナの声だ。ハマーンがドアを開ける。
「すぐに済むから中に入ってもいいかしら?」
「・・・どうぞ。」
ゼナは椅子に、ハマーンはベットの上に腰掛ける。ゼナが口を開く前に、ハマーンが話し始めた。
「・・・ご心配をお掛けして申し訳ございません。ですが、本当に大丈夫ですので、もうお気になさらぬよう・・・」
しばらく、ハマーンの話を聞いているゼナ。だが、ハマーンの口から肝心の部分が出てきそうにない。
ゼナは自分の推論をぶつけてみる事にした。
「ハマーン、あなたの悩みって異性のことではなくて?」
絶句するハマーン。
そうなのだ。最近のハマーンの悩みとは、自分のジュドーへの感情であった。
確かにハマーンはジュドーを好ましく思っている。それはマシュマー等『ハマーン親衛隊』への好意とはまた違ったものである。
だが、その思いを表へ出すことに躊躇いがあるのだ。その原因は・・・
(私もあの男と・・・シャアと同じ人間なのだろうか・・・)という思いであった。
ミネバやシャクティの様な幼女から、ロランのような美少女?にまで手を出そうとする自分の元恋人。
あの男と同一視されるのは絶対にご免だが、実際にジュドーにこの思いを告白すれば、そういう人間が出てきてもおかしくなかった。
(こういうのをショタコンといったかな?私は少年であれば誰でもいいと言うわけではないのだが・・・)
自分はシャアのように幼女が好きなわけではない。ジュドーが好きなのだ。
だが、周りの人間はそうはとるまい。
黙り込んだハマーンをみてゼナが言葉を続ける。
「ねえ、ハマーン。人は見かけで人を好きになるものではないでしょう?その人の心や考え方をみて好きになるのではなくって?あなたがその人が好きならば、見かけや年齢などは気にすることはないのは無いかしら?」
(ニュータイプではないゼナ様にここまで心を読まれるとは・・・)
内心の驚きを隠すこともできず、ゼナに悩み打ち明けるハマーン。
すべての話を聞き終えると、ゼナは笑いながらハマーンに話しかけた。
「さっきも言いましたけど、人を好きになるのに年齢等の見掛けは関係ないでしょう。もし見掛けで人を好きになるのなら私はあの人を選んでいませんよ。」
ドズルの顔を思い浮かべるハマーン。そして得心する。
「なにか心の痞えが取れた気がします。ありがとうございます、ゼナ様。」
「そうですか。お話をした甲斐がありました。」
そういうとハマーンの手を取る。
「あの人があなたの父親であるならば、私は母親です。何か悩みがあるならばいつでも相談に乗りますよ。」
ハマーンの眼に涙が浮かんでいた。
次の日ジュドーが教室でぼやいていた。
「最近のハマーンってなんか元気が無いなって思っていたら、今日になっていきなり元気になりやがった。」
ガロードが苦笑しながら、ジュドーをみている。
「お前はハマーンのお気に入りだからな。まあ、いつもの調子に戻ったってことだろ。」
「まあ、鬱になっているハマーンより俺はこっちのハマーンのほうが好きだけどね。」
最終更新:2018年11月21日 11:23