気がつくと見知らぬ場所に立っていた。周りにはお祭りで見るような射的の屋台が一軒あるだけで他には何も無く、屋台の前には口髭をたくわえた男が立っている。
「坊主、射的をやっていくか」
男がそう言った。手にはコルク弾を撃ちだすタイプの古いおもちゃの銃を持っている。
「代金は弾一発でお前の命一年分だ」
一瞬何を言っているのか分からなかった。弾一発で命一年分。どういう意味だろう?それになんで射的にそれだけの代金を払わなければならないんだろう?
「高いと思っているようだな。なら、あそこにある物をよく見てみることだ」
男にそう言われて見てみると、射的の景品を乗せる台にはMSの人形が3体置いてあった。
赤と黒のキュベレイMk-Ⅱとトールギス2。
一見何の変哲も無い人形だったが、何故かすぐにわかった。
プルと
プルツー、それにマリーメイアだ。
そう理解した瞬間、全てを思い出した。そうだ、3人とも死んでしまったんだ。
僕のせいで。
そもそもの原因は僕だった。
一緒に学校から帰っていて、急に降り出した豪雨の中一番近い僕の家で雨宿りしようという事になり、早く帰ろうと近道の公園の中を走っていた。
その公園に立っていた大きな木の下で雨宿りしようと僕が言い出し、マリーメイアは雷が危ないから止めた方がいいと言った。
プル達もそれに同意したけれど僕が無理に押し切って雨宿りをする事にした。
まさかその木に雷が落ちるとは思っていなかったのだ。
木の下についた瞬間轟音と一緒に雷が落ち、みんな吹き飛ばされた。3人とも死んでしまったが僕だけは生き残った。
僕のせいで3人とも死んでしまったのだ。
388 名前:射的2/2投稿日:03/08/29 13:54 ID:???
「どうだ坊主、友達を助けてやりたいだろう」
男の言葉で我に返る。
「この弾を当ててあの人形を倒せば生き返る。料金はさっきも行った通りお前の寿命だ。さあ、どうする?」
考えるまでも無かった。一年や二年の寿命がどうした。それでみんなが助かるのなら安いものである。
無言で頷くと男の持っていた銃を受け取り、先端にコルク弾を詰めた。
「しっかりと狙え。焦ると狙いが外れるぞ」
男の声を横で聞きながら引き金を引く。気の抜けた音と共にコルク弾が飛び出て人形に飛んでいく。しかし人形にはかすりもせずに後ろの壁にぶつかった。
「あ」
「そら、もう一発」
放り投げられたコルク弾を受け取ってもう一発。しかしやはり当たらない。
「下手糞め、外せば外すほどお前の寿命がどんどん縮まっていくぞ」
もう二・三発発撃ったところで弾が赤いキュベレイMk-2の肩に当たった。安定が悪いのか少し揺れた後であっさりと後ろに倒れる。
「やった!」
「よし、うまい。後二体だ」
更に数発で黒いキュベレイMk-2も倒れる。
「いいぞ、調子が出てきたな。さあ、残りは一体だ」
残ったトールギス2に狙いを定めて引き金を引く。しかし当たっても人形はなかなか倒れない。当たっても揺れはするのだがなぜか倒れる所までは行かない。
そして人形の下のコルク弾だけが増えていくにつれて息が荒くなり、足がガクガクと震えてくる。
「そら、坊主の寿命はもう後が無いぞ。諦めるか?」
「嫌だ、もう一発」
そう言って男に手を差し出す。
「そうか、これが最後の一発だ。よく狙って撃てよ」
震える手で渡された弾を詰め、霞む目で狙いを定める。引き金を引くと同時に弾が飛び出して人形に当たる。
人形が大きく揺れると同時に気が遠くなっていき、男の「ようし坊主、よくやった」という言葉を聞きながらそのまま前のめりに倒れこんだ。
「おいアル、大丈夫か?」
目を覚ますとそこは公園の中だった。目の前には晴れ上がった空と傘を二本持った兄、それにプルとプルツー、マリーメイアが自分の顔を覗き込んでいる。
「あれ…ドモン兄ちゃん、なんでこんな所にいるの?」
「お前今日傘を持っていかなかっただろう。だから持っていってやろうと思って歩いてたら公園でお前等が倒れているのを見つけたんだ」
そう言って背後の焼け焦げた切り株に顎をしゃくる。
「どうやらこの木に雷が落ちたショックでみんな気絶していたみたいだな。」
仰向けになったまま心配そうに自分を見ている顔を見回す。兄とプルとプルツーとマリーメイア。
つまり最後の一発は人形を倒したんだ。僕はみんなを助けたんだ。そう思うとなんだか嬉しくなり、笑いたくなってきた。その衝動に身を任せて声を出して笑い出す。
怪訝な顔で頭でも打ったかと心配そうにしている兄達を見上げながらアルは延々笑い続けた。
――でも、なんで僕は生きているんだろう?
ふとそう思うと、それに答えるように何処からともなく声が聞こえてきた。
坊主 お前はよくやった
人形を一体おまけしよう
最終更新:2018年11月27日 15:33