「昨日すごくグゥレィトな夢を見たんだよ」
登校途中で珍しくディアッカと一緒になり、通学路を一緒に歩いているとディアッカがそんな話を振ってきた。
夢の中で俺は暗い一本道を必死に走っていた。
後ろから誰かの気配がするんだよ。
それで振り向くと手にナイフを持った女がこっちに向かって走ってくる。
もちろん俺も走ってるんだが足元はぬかるんでてスゲェ走りにくくい。にもかかわらず女はグゥレィトなスピードで走ってくる。
とうとうすぐそこにまで近づいた女はナイフを振り上げてこう言ったんだ
さあ 捕まえた
「…という所で目が覚めたんだよ」
「へえ、そりゃ恐いね」
他人の夢(しかも男の!)の話なんて別段興味は無い、僕はディアッカの機嫌を損ねないように適当に相槌を打っていた。
「それでな、夢の中で殺されるとその夢を見ていた奴は本当に死んじまうんだそうだ」
ああ、よくある話だね。
「だけどな、この夢は人に話すともう見なくなるんだ」
なるほど、そうなんだ。
「それで今度は話を聴かされた人がその夢を見るようになるんだよ」
ああ、つまり怪談でよくある「他人に話せば大丈夫」のたぐい…ん?
「ま、そーゆーワケだ。後はよろしく頼むわ」
ディアッカがニヤニヤ笑いながら僕の肩をポンと叩く。
「ち、ちょっとまってよ。なんだよソレ!」
「なあに気にするな、夢の中で捕まらなきゃいいだけの話だからな。それじゃ頑張ってくれ」
そう言ってディアッカは笑いながら去っていった。残された僕はまさかディアッカは僕にこの話をするためだけに一緒に登校したんだろうかと考えていた。
眠れない。眠ろうとしても目がさえてしまう。
別にディアッカの話を信じているわけではない。ただ「もしかすると…」と思うと目を閉じてもいつの間にか目を開けてしまう。
第一なんでディアッカも僕にこんな話をしたんだ。普段から仲がいいイザークかニコルに話せばいいじゃないか。
「この夢は人に話すともう見なくなるんだぜ。今度は話を聴かされた人がその夢を見るようになるんだ」
ふと朝のディアッカの言葉を思い出した。この夢は人に話すともう見なくなる。じゃあ夢を見る前に他人に話すとどうなるんだろうか?
反則かもしれないがやってみる価値はあるかもしれない。このままではとても眠れたものじゃない。
隣のウッソを見ると完全に熟睡していた。どんな夢を見ているのか知らないが、フレイの名前を寝言で呟いて幸せそうな顔をしている。
なんだか無性に腹が立ったのでウッソを叩き起こしてこの話をしてやろうかと思ったが、そんな事を話した日には明日何を言われるか分かったものではない。
最悪兄弟の間で「いい年して夜見た夢が恐くて兄弟を起こした男」のレッテルを貼られかねない。
とりあえずこの話をしても大丈夫そうな人間の顔を思い浮かべながら、僕は枕元に置いてあった携帯電話を手に取った。
「ギム=ギンガナムである!こんな時間に電話をするとは何の用かキラ=ヤマト!」
「いえ、ちょっと変わった夢を見てしまったんです。それで、それをどうしてもギンガナムさんに話しておきたくて」
「夢!?貴様今何時だと思っている!夢の話ごときで小生を起こしたというのか!まあいい、話してみたまえ。君が小生に話したくなるような夢、興味が無い訳でもない」
「あのですね、僕が暗い一本道で…」
「まったく、男児たるもの悪夢の一つ二つに怯えてどうするか!話が終わったのなら小生は寝かせて貰うぞ!」
「はい、どうもすみませんでした」
電話を切って安堵の溜息をつく。これで大丈夫だ。少なくともこれであの夢を見るのはギンガナムさんになる。僕はもう話したんだから大丈夫なはずだ。
安心しながら僕は眠りについた。
「あ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」
夢の中で僕は泣きながらナイフを持った女に追いかけられていた。ディアッカから聞いた通り、足元はぬかるんでいて走りにくく、
にもかかわらず女はそんな事は全く気にしていないような勢いで追いかけてくる。
夢の話はギンガナムさんにしたじゃないか、なのになんで僕の夢に出てくるんだ?出てくるのならギンガナムさんの夢に出てきてくれ。
やはり一度夢で見てから話さないと他人に言ってもだめなのだろうか?
そんな事を考えながら必死で走っていると、なにやら向こうから声が聞こえてくる。
なんだろうと思っていると、道の反対側からギンガナムさんが走ってきた。やはり彼も必死の形相で走っている。
よく見てみるとギンガナムさんも僕同様後ろからナイフを持った女に追いかけられている所だった。
僕達は一本道をものすごいスピードで擦れ違った。
最終更新:2018年11月27日 15:35