505 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 1/7 :2011/05/05(木) 06:33:15.06 ID:???
【―― 帰還(1)】

ミンチから回復したジャック=ヘイルに、「偶々散歩していた」と言い張るグラハム警視正が手錠を填めた。
ジャックの上司であるガーノー総督は全てを彼に押しつけて、この事態をやりすごすかも知れない。
世界に争いを呼び込む根は断たれた訳ではない。
それでも……

「取りあえずは一件落着、かな」
「キンケドゥ、今回は君の事を見逃しておく。だが敢えて言うぞ、首を洗って待っておけと!」
「本当は、機械兵士であるシナプスをクロスボーンに預けるのはイルミナーティの主義に反するんだけどな」
「彼はシナプスじゃありません。俺の依頼人の恋人ですよ」

ジャックの罪状にはMW計画の首謀者というだけでなく、シナプス計画も含まれているのだが
彼に関してもグラハムは見逃し、キンケドゥに任せる事にしたようだ。
事情を聞けば、グラハムもフィリッペもそれぐらいの気を利かせる良心はあった。
シナプスを回収した警察がその技術を悪用しないとも限らないと考えていたフィリッペは、最悪、グラハムと戦うことも考えていたのだが。
その心配が杞憂に終わったフィリッペは、冗談めかしてパイロットスーツのまま顔を隠している怪盗に語った。

「オーケー、今回はクロスボーンバンガードに随分助けられた。
 本当なら報酬に色をつけようと思ったけど、シナプスに関して手を引くって事でチャラにしよう」
「ええ?!」

トビアは悲鳴を上げた。それでは今回の出撃でつかった弾薬や、修理費は
イルミナーティの依頼金でギリギリ賄えるかどうかといった所になってしまう。
つまり実質タダ働きである。

「キンケドゥさん……」
「な、なんだよ、何時からそんなにケチになったんだ?」
「ボクは別にいいですけど、他の人達がなんて言うか……」
「この件はベラ様に報告させて貰うからな、キンケドゥ!!
 だいたい、お前はどうして一人で別の依頼を受けているんだ!」
「う……そ、それは……」

シナプスはそんな海賊達のじゃれ合いを、車椅子に座りながら眺めていた。
昔、ああいう風な人間のコミュニティの中に自分もいた気がする……と彼は回顧する。
彼が人の心を取り戻すのはまだ時間が必要だろう。身体も、あるいはバイオテックで再生することができるかも知れない。
その側には、彼を愛する者が支えとなっているだろう。
シーブックはそんな未来に思いを馳せ、依頼人にメールを送った。

‐‐ 依頼の物、確かに取り戻しました。  海賊より

507 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 2/7 :2011/05/05(木) 06:34:50.81 ID:???
【―― 帰還(2)】

戦いが終わり、大地にはMWやMSの残骸が横たわっている。
オレンジ色の土は、冷たい鋼の彼らを温かく受け止めているようだった。
かつてこの地を襲った災厄も、この大地はこうして癒していくのだろう。
事後処理を一通り終え、一人外で休んでいたギュネイの元に、カミーユが少年達を連れてやってくる。

「弟が迷惑をかけたな」
「俺がゼブラゾーンの連中にやったことは迷惑どころじゃないさ」
「いや、元はアタシがネオジオン社に忍び込んだから……」
「ホント、ごめん!」
「反省しろよーお前らー」
「なんでお前が偉そうなんだよ、パーラ!?」

ガロードとレイラの謝罪を受けたギュネイは、ネオジオン社のトレーラーを指さした。
その中には除去フィルターが積み込まれている。

「あのフィルターは今回の件で破壊されて破棄した……そういう事にしてくれ」
「ギュネイ……」
「その代わりって言っちゃ何だけどな、ゼブラゾーンに侵攻した事は無しにしてくれ。
 これはネオジャパンのカラト委員長や、ウチの社長も同意してくれてるんだけどさ
 不法居住者を攻撃したってのはいいイメージが無いし、
 そっちもコロニーに住んでるってことを公式記録に残すわけにはいかないだろ?」

レイラは頷くと、ギュネイに向かって手を差し出した。
ギュネイは少し照れながら、彼女と握手をかわした。

「コロニーの整備が終わったら、必要なくなったソーラーパネルはオーストラリアに送るよ」
「それはゼロの方にやってくれ。俺からは受け取らないから」
「ふん……こんな状況で意地を張るほどボクも馬鹿じゃない」

ギュネイから視線を逸らしたゼロは、間に耐えきれなかったのか小石を蹴った。
石が転がる先に、ニヤニヤとそんなTHEツンデレな態度を取る彼を見守るデュオが立っている。
その隣のトロワとカトルが、彼に別れの挨拶をした。

「サーカス興業をオーストラリアでやれないか、団長に掛け合うつもりだ。その時はよろしく頼む」
「その時は、もっとオーストラリアに人が増えてればいいんだけどな……」
「大丈夫ですよ。この地を蘇らせたいっていう思いがあれば。
 撲も各コロニーでオーストラリア出身者やその縁者を捜してみます。
 もしかしたら、ゼロと一緒に頑張りたいって人がいるかも知れません」

ウィナー財閥はコロニーに基盤を持っているので、オーストラリアの手助けをするのは難しい。
それでも、カトルは自分にできる限りの事を協力すると約束した。
イルミナーティやクロスボーンバンガード、それに呂布はドコとも知れずに消えたが
ジャックを連行する為、国際警察のルートで帰還するグラハムを除いた他の面子は、ギガフロートを使い宇宙に戻ることになっている。
オーストラリアに設置したマスドライバーは、今回の戦いで復旧に時間がかかるからだ。
ギンガナム旗下のマヒロー部隊含め、搭乗するMSも一緒に運ぶのだから大変な数、量である。
本来、その費用はネオジオン社が用意する予定であったが、カトルが引き受けることになった。
「ネオジオン社はこれからオーストラリアの復興作業があるでしょうから」とカトルは爽やかにポケットマネーを使ったのだった。


508 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 3/7 :2011/05/05(木) 06:35:54.61 ID:???
「デュオ、お前もアイツらと一緒に帰れ」
「おいおい、まだエネルギープラントの建設と、バルチャーからの警備のお仕事終わってないぜ」
「それはお前の手を借りなくても大丈夫だと言ってるんだ」

ゼロはギュネイを横目で見ると、一つ咳払いをしてから続けた。

「意地を張らず協力することにしたからな」
「お前……」
「まだ礼を言ってなかったな。ギュネイ=ガス、感謝する」
「俺に礼? なんの事だよ」

今度はギュネイが視線を逸らして、ぶっきらぼうに訊ねた。
オマエらいい加減にしろ。

「戦いに駆け付けてくれたろう」
「そりゃぁ……オーストラリアにはネオジオン社の施設だってあるからな」
「それでも感謝する。お前も、デュオ達も……この地とはなんの関係もない人間だ。
 だから信用してなかった。エネルギープラントだって、利権の為にやってると」
「……間違っちゃいないさ」
「正解でもないってか?」

茶々を入れるデュオにギュネイは眉を顰めた。
このままでは、またギュネイが意地を張って台無しになるような気がしたのでカミーユは仕方なしにフォローを入れた。
助け船を出そうという気持ちになったのは、カミーユ自身もギュネイという男に対する偏見が少し和らいだからかも知れない。

「まぁ純粋な気持ちで全ての物事をやれる人間って、少ないだろうな」
「お、大人な発言じゃーん、カミーユ兄」
「お前はまだ怒られ足りないみたいだな、ガロード」
「そうだ……どんな魂胆があれ、オーストラリアを守るのに全力を尽くしてくれたのは変わらない」
「魂胆って、もうちょっと言い方選べよ」
「口が悪いのはお互い様だろ、ギュネイ」
「そーそー」
「アンタ達は調子が軽いわね……」

カミーユに首根っこを押さえられたジャンク屋少年二人を見、レイラはガロードを一瞬でも尊敬した自分を張っ倒したくなった。
その騒がしさにトロワも頬を弛めたらしいが、それが分かったのはカトルだけである。

「逆だったんだな」
「ん?」
「縁もゆかりもないのに、力をかしてくれた……だから信じられる」
「バーカ、縁ならあるじゃねえか」
「そうだぜ。私達ダチじゃん」
「あー! パーラ! 人のセリフとるんじゃねえ!」
「盗るぜぇ……デュオのセリフを聞いた奴は、みんな盗っちゃうぜえ!」
「ガロード、てめえまで!」
「よかったじゃないですかデュオ。みんなからデュオには文才があるって認められている証拠ですよ」

別れの間際だというのに喧騒の絶えないその様相に、ゼロは肩を揺らして笑った。
それは彼が普段家族に見せるような、ただの少年の顔であった。

(もう、悪夢だけを見ることはない……この地での思い出がもう一つ増えたから……)




509 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 4/7 :2011/05/05(木) 06:36:51.50 ID:???
【―― 帰還(3)】

ゼブラゾーンの電気分解装置は正常に作動した。
その間にリーアム達は環境管理装置の修理を行うことになる。

「ホントは最後まで見届けたいんだけど、流石に家に帰らないと怒られるからさ」
「元々ガロードはロウの代役ですからね」
「うん。色々ありがと」
「今回はいいとこ無しだったぜ? 俺」
「まるで普段はいいとこがあるみたいじゃねーか、ガロード」
「アレだろ? ガロードのいいところってティファが彼女なところだろ?」

珍しく謙虚というか、反省をしているというのに、それを茶化されちゃ堪らないとガロードは友人達と口喧嘩をし始める。
その有様をいつものことと受け入れているリーアムやカミーユに対し、レイラは眩しそうに眼を細めた。

「楽しそうだな」
「そんな風に見るようなもんじゃないだろ」
「いや……ゼブラゾーンには私と同い年の子なんて居ないからさ」

岩肌の大地に一輪だけ咲き揺れる華のように、レイラは寂しげに首を振った。
そんな彼女の肩に手を置き、カミーユは切り返した。

「ゼロにガロードが言った事を忘れたのか? もうレイラと俺達は友達だろ?
 いつでも遊びにこいよ、友達の家にさ。宇宙って意外と狭いんだぞ?」
「そうか。そうだな」
「またコナかけてら」
「女と見たらすぐこれだよ、カミーユ兄は」
「写メをファ達に送信っと」
「人の事を色魔みたくいうな!」
「日頃の行いですね」
「リーアムさんまで!?」


   ×   ×   ×   ×   ×


それは海中に眠る巨大な命であった。
遥か昔、この地球にやってきて、同胞が訪れるのを待ち続けた――羽根を持ったクジラ。

511 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 5/7 :2011/05/05(木) 07:06:55.15 ID:???
「獣の分際でぇ、このターンXに勝てるわきゃぁねぇだろぉぉぉ!!!」

ターンXの身体を9つに分解し、それ自体をサイコミュで操る必殺技――ブラッディ・シージによる三次元の攻撃を
羽根クジラは巨大な尻尾を動かし、平面攻撃で押しつぶす。
共に外宇宙を旅してきた者同士の激突は、海面に水柱を生む。

「賞金首みーっけ♪」
「なんだぁ、女?!」

闘争による高揚に水を差されたギンガナムは、その元凶であるハイゴックのパイロットに向かい吼えた。
普通の人間なら、厳ついギンガナムの怒声だけでも竦むものだが、数々の修羅場を越えてきた賞金稼ぎのキャロルには通じない。

「ここら辺は捕鯨禁止区域なのよね。環境保護団体のメタトロンから賞金がかかってるわよ、月の御大将さん?」
「はん! ハイゴックでなぁ、このターンXに立ち向かうってのは文明の差を理解してないってことだろうが!
 わかっているのか、賞金稼ぎぃ!! それでもこのギム=ギンガナムは闘争を欲しがっている!
 それがターンXと同調するから、お前のような奴でも食い散らかしてやるということはあるんだよ!!」

ターンXのシャイニングフィンガーを、キャロルのハイゴックのクローが受け止める。
旧式なのは外見だけだ。このハイゴック、ハイドラガンダムやサイコガンダムMk-Ⅲともドンパチできる規格外品なのである(大人の事情で)

「いい腕だ! ギンガナム艦隊に入れてやらなくもないぞ!」
「部下に地球に置いてかれた癖に、強がってると可愛くないわよ♪」

銃刀法違反でギンガナムはシャトルに乗船できなかった。
兵器であるMSをコンテナに乗せて発射させたのだから、ギンガナムの日本刀だってしかるべき所に預ければ乗船できたのだが 
ギンガナムは侍の魂である刀を手放すことに抵抗した。
結果、船はギンガナムを手放した。
これ幸いとばかりにムーンレイスもギンガナムを見捨てた。
現在ギンガナム艦隊はメリーベルによって運営されているらしい。
ギンガナムはターンXと共に地球を彷徨っているのである。
この件について月のディアナ女王は「そろそろロランのお家のご飯が恋しくなって帰ってくるでしょう」との見解を示している。

513 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 6/7 :2011/05/05(木) 07:10:27.30 ID:???
【―― ただいま】

「頼むデュオ! 俺を匿ってくれ!!」
「往生際が悪いぞ、ガロード」
「そうそう」

家に近づくと、イヤでもお怒りのアムロとロランの姿を想像してしまい
ついにはデュオに縋り付いてしまったガロード。ティファには見せられない姿である。

「っていうか、俺ン家きたって怒られんのがヒルデになるだけだぞ……」
「それでもアムロ兄やロラン兄よりマシだって!」
「いーや、お前の兄貴達の方がマシだ。むしろ俺がお前ン家に泊めて欲しい」
「へー、そんなに怖いんだぁ?」
「そりゃもう、怒った時のヒルデといったらヴァイエイトとメリクリウスよか怖……え?」

背後から聞こえた少女の声に、デュオは立て付けの悪い戸のように首を動かした。
振り返るとベレー帽がよく似合う少女が、ニッコリと三つ編みを掴んでいた(←逃げられない)

「ヒル、ヒルデッ! ヒルデさん!?」
「ヒイロから連絡を受けたわよ。貴方、コロニーを襲ってガロードと喧嘩したんですって!?」
「違っ…違わないけど、それは端折りすぎ……ヒイロの奴、ワザとだろ!?
 お、おいガロード! 兄貴の方でもいいから、説m……ヒルデ、待て、引っ張るなって……ドナドナー」

ヒルデに引き摺られていく親友に手を合わせながら、明日は我が身と思うとガロードは身が引き締まる思いだ。
まあ、彼女もガロードと喧嘩したことや、コロニーを襲撃したことは建前で
いつもいつも、プリベンターの仕事で無茶をするデュオに対して怒っているのだろう。
それぐらいの事はガロードにも分かる。
自分も同じだからだ。
アムロやロランは、ガロードが盗みをしたことも勿論だが、それ以上に危険な事に一人で首を突っ込んだことに怒るだろう。
それは大切な家族であるガロード自身を心配しているからだ。

「ガロード、逃げても無駄だぞ」
「わかってるって、カミーユ兄。それから……」
「ん?」
「ありがと。助けにきてくれて」
「当たり前だろ、家族なんだから」




514 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.05) 7/7 :2011/05/05(木) 07:12:53.82 ID:???
一人、また一人とそれぞれの家路をゆくために別れていった。
最後の一人であるデュオと別れたガロードは、同じ場所に帰るカミーユと共に歩みを進める。
早くもなく、遅くもなく、歩きなれた道を一緒に。

「ガロード! カミーユ!」
「シーブック? バイトの帰りか?」
「あ、ああ。まあね」
「その割りには匂いしないけど」
「匂い!?」
「バイト帰りのシーブック兄って焼きたてのパンの匂いがするんだぜ」
「どこまで食い意地張ってるんだ、お前は」
「痛っ……何も叩く事ないだろぉ、カミーユ兄!」
「あははは」
「シーブック、お前笑って何か誤魔化そうとしてないか?」
(う……鋭い。流石最高クラスのNT)

シーブックの窮余を嘲笑うかのように、空でカラスが鳴いていた。
既にクロスボーンの仲間からこってり絞られた後だというのに、シーブックの苦難は続くらしい。


   ×   ×   ×   ×   ×


「だからカミーユ、別に俺はずっと街に居……」
「あれ? 家の前で誰か待ってる?」
「え?」

中々追求を止めてくれないカミーユに苦戦していたシーブックは、ガロードの言葉にこれ幸いと乗っかった。
首を伸ばして家の前にいる人物を確かめようとする。
カミーユはそんな双子の兄弟を怪しみながらも、同じく待ち人に目をやった。
始めはアムロとロランが、頭に角を生やして仁王立ちしているのではないかと思ったガロードだったが
そこに待っていたのは腕組みをし、眠るように壁に寄りかかっているヒイロと
地べたに座り、スナック菓子をかじりながらノーパソでネットに興じるキラであった。
二人は家に帰ってきた三人の兄弟を認めると、お決まりの挨拶をした。


「「おかえり」」


三人は家族に向かい、応えた。


「「「ただいま」」」






                                       > FIN .

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最終更新:2015年02月21日 21:33