271 名前:268 唐揚げ珍騒動1投稿日:03/12/01 00:29 ID:???
ミケル「ホバークラフト片付けました…あっずるいっ。皆さん先に食べてるなんて!」
カレン「来るのが遅いんだよ。片付けくらいさっさとやんな」
小さな事件で出動していた08署第一MS隊の面々は、いつもよりかなり遅めの夕食兼夜食をとっていた。
ミケル「エレドアさんが僕一人に押し付けるから…」
エレドア「文句あんのか?だったらお前にゃこの唐揚げはやらんぞ」
ミケル「要りませんよ!僕には僕のお弁当がありますから」
サンダース「やめろ2人とも。ミケルも食え。隊長からだぞ」
それぞれが弁当やらインスタントラーメンやら抱えながら、大きめのバスケットを中心とするように座っていた。
中には唐揚げ、卵焼き、茄子の南蛮煮やツナサラダなど、つまみ易い大きさで詰め込まれている。
夜勤の日は大概シローは夕食&夜食用にと、こういうバスケットを持って来るのだが、これがまた美味しいく、小隊の面々には楽しみの一つでもあった。
ただ、最近ミケルはあまりこれを食べに来なくなっていた…。
サンダース「いつもいつも、こんな美味しいものをありがとうございます、隊長」
シロー「いや、作っているのは弟だから俺は何もしていないんだが…、弟に伝えておくよ、うん」
若い隊長の不器用だが誠実な返答にサンダースは慣れない微笑みを返した。
シローお茶を啜りかけた時、サンダースが渡した唐揚げを口にしたミケルが「あぁーっ!」と奇声を上げた。
ミケル「これ、ローラさんの手作り唐揚げじゃないですか!」
シローは思いきり茶を噴き出した。
272 名前:唐揚げ珍騒動2投稿日:03/12/01 00:33 ID:???
カレン「隊長…」
エレドア「汚いッすよ隊長」
シロー「す、済まない。大丈夫か?」
幸いなことに被害はシロー個人の制服だけにとどまったようだった。
エレドア「いきなりでかい声出すな。びっくりするじゃねーか」
ミケル「す、すみません。でも、これローラさんの手作り唐揚げですよね?隊長。わざわざ買って来てくれたんですか?」
シロー「…?」
突然出て来たローラの名前に、シローはどう返事を返せばいいのか分からなかった。
カレン「これは確か、隊長の弟さんが作ってるんじゃなかったか?」
ミケル「なら、その弟さんが何処かから買って来たんでしょう?こんなに沢山、高かったでしょう。何処に行けば売ってるん…」
ミケルはシローの顔を見て最後まで喋るのをやめた。どうやらシローは自分で思った以上に不機嫌な顔をしたらしい。
サンダース「ミケル、今の言葉は隊長にも、隊長の弟さんにも失礼だぞ。わざわざ作ってくれたものを売り物だなどと…」
ミケル「でも…」
自分の発言の不味さを認めた上でも、ミケルはローラの手作り唐揚げについては譲ろうとしなかった。
エレドア「唐揚げなんて誰が作っても同じだろ。」
ミケル「全っ然違います!皮に一工夫してあるんです。鶏肉の漬込みもきちんとしてあるし、とにかく丁寧なんですよ!ほら、冷めてもこんなに美味しいでしょう?」
シロー(ロランはいつも丁寧だしな…)
カレン「たまたまそいつが弟さんと同じ作り方なだけだろ。隊長の持ってきてくれる夜食は前からずーっとこういう味だ。全部旨い。毎回これらを全部買っているっていうのか?!」
カレンは大きなバスケットを指差した。これを毎度出来合いのものを買って来て埋めるとしたら、膨大な出費となるのは明らかだ。そして、シローが大勢の兄弟を抱えて、好きな女性とも結婚できないでいる程に貧乏であることは隊員全員の共通認識だ。
ミケル「…すみませんでした…」
シロー「いや、いいんだ」
こうして場が収まりかけた時、エレドアが言った。
エレドア「大体、いつも食ってるだろ。何で今日に限ってそんなに反応するんだよ?お前の舌おかしいんじゃないか?」
ミケル「…いつもなんて…食べてませんよっ!」
273 名前:唐揚げ珍騒動3投稿日:03/12/01 00:37 ID:???
突然声を荒げるミケルに他の者達は面喰らった。
その隙にミケルは今まで溜まっていた鬱憤を吐き出すように抗議した。
いつも片付けを自分一人にやらされている事、
そのせいで今日のように食事に出遅れている事、
自分が来た時には差し入れの半分はすでに無くなっている事、
それでも残ったものをもらおうとする度、エレドアやカレンやサンダースや整備のジダン、時には気まぐれに遊びに来るキキにまで、どういう訳か邪魔をされて結局食べれない事、
あまりにそういう事が続き、何だかひどく情けない気持ちになり、自分の夜食は自分で用意してひっそりと食べるようになった事…。
最後には泣き出して上手くしゃべれなかった。
シロー「…そうか。それは気付かなくてすまなかったな」
カレン「食べたいならそ言やいいだろ。一人でグジグジうじうじ悩んでんじゃない」
そういってカレンは大分減ってはいるがまだまだ中身の残っているバスケットをミケルに差し出す。
カレン「食べる分だけさっさと取りな」
ミケル「・ぁ、・ぁりがどおございまず…っ…っ。」
むせびながら、卵焼きを取り上げるミケル。
エレドア「ああっ。それ狙ってたのに!」
慌てて戻そうとするミケルを止めて、サンダースはエレドアに今回は諦める様言った。
サンダース「こんな調子だから今までミケルがこの差し入れを食べられなかったんだろう」
そう言って、サンダースは初めて食べるならあれが旨い、この順番が良いとバスケットの中身の解説を始めた。
ミケル「ありがとうございます。僕も、ローラさん手作り弁当を皆さんにお裾分けしますね」
今度は茶を噴き出しはしなかったものの、少しむせてしまった。
シローには、何故ここでローラの名前が出てくるのかさっぱり分からなかった。
274 名前:唐揚げ珍騒動4投稿日:03/12/01 00:41 ID:???
サンダース「…そのローラさんという人は料理人か何かか?」
ミケルとエレドアが一斉にサンダースの顔を見る
ミケル「知らないんですか?!あのシルバークイーン、ローラ・ローラを?」
エレドア「ローラちゃんを知らない奴がいるなんて嘘だろ…」
2人の反応に面喰らったサンダースはカレンの方を見た。
カレン「知ってるよ、それくらい」
この2人はともかく、カレンまで知っているのか?!と思っていると、今度はシローの方へサンダースの視線が向って来た。縋るような顔をしている。
シロー「…俺も…、名前くらいは知っている」
がっくりと項垂れるサンダースの元へ、ミケルとエレドアが自分のロッカーから各々の雑誌を持って来て広げて見せた。
ミケル「この人がローラさんです」
サンダース「美しい人だな…。しかし、これはまだ子どもじゃないか?」
エレドア「17だってよ。しかしいいよな、この折れそうな細い腰。」
サンダースに便乗してシローが雑誌を覗いてみると、そこには若草色の絹のドレスを着て舞踏会でハリーと踊っているロランの姿があった。
ミケルの持って来た雑誌「ランラン」4月号には、特集「抱いてみたい女性」部門で見事に一位を獲得したローラが載っている。
潤んだ瞳でこちらを見つめるローラはシローの目から見ても充分魅力的だった。
ただし、これらの女装は総てロランの不本意ながらの仕方なくやったものだ。
サンダース「で、この女性は何をしている人なんだ?」
一同、返答に窮した。ローラは未だに謎の美少女なのだ。
エレドア「芸能人ではないことだけは確だぜ」
カレン「月の関係者だろ?そっち方面でよく見かけるよ」
ミケル「いえ、グエン卿の関係者ですよ。この舞踏会だってグエン卿に同行して月の人たちをもてなしたんです。」
エレドア「ってことは、デキでんのか?この2人」
シロー「それはないっ!
275 名前:唐揚げ珍騒動5投稿日:03/12/01 00:45 ID:???
断言するシローに一同怪訝な顔をした。
エレドア「どうして分かるンすか?隊長」
ミケル「そうですよ、お気持ちは分かりますけどね、グエン卿とローラさんの仲は結構前から噂になっているんですよ」
シロー「それは、グエン卿が・ローラに・気があるだけで、ローラ本人は何とも思っちゃいない!」
シローとしては、たとえ赤の他人の想像の上ででも、ロランがグエンにいいようにされるなど我慢ならないことだった。
が、シローの発言と態度は別の誤解を生んだ。
エレドア「隊長って、ローラちゃんのファンだったんっすか…」
ミケル「そうだったんですか?隠す必要なんてないですよ。嬉しいな。後でローラさんについて一緒に語りましょう!」
シロー「違う!」
カレン「それにしたって、ちょっと危ないよ、隊長。アイドルに執心しすぎて犯罪に走らないで下さいよ」
サンダース「隊長にはアイナさんがいるでしょう?」
シロー「そうだ、俺にはアイナが」
エレドア「いいや、分かってないな、サンダース君。アイドルってのは彼女がいようといまいと関係なく萌えるもんなんだよ」
サンダース「燃え…そうか…」
ミケル「そうですよ。僕もB・Bとローラさんは可愛いね、っていつも話してるんですよ」
エレドア「お前、彼女にそんな話してんのかよ」
ミケル「いけませんか?元々、ローラさんのファンだったのはB・Bの方で、僕にローラさんを教えてくれたんですよ。今じゃ一緒にファンをやってます」
エレドア「…幸せなこって」
ミケル「B・Bは夜勤の僕のためにローラさんの手作り弁当を買ってきてくれるんです。競争率が激しくてなかなか手に入らないけど、その心遣いが嬉しくて…」
シロー「それだ、その手作り弁当ってなんなんだ?!」
今や、危ない程熱烈なローラファンと認識されてしまったシローが叫んだ。
276 名前:唐揚げ珍騒動6投稿日:03/12/01 00:48 ID:???
ミケル「月曜から金曜に一日限定4個だけ販売される超レアもの弁当です。でも4個きっちり売られる日は少ないし、一つも売られない日もあって手に入れるのがすごく難しいんですよ。滅茶苦茶高いし。でもその分すっごく美味しいんですよ。」
ミケルは同士であると認識したシローにあっさりと教えた。
シロー「高いって、幾らするんだ?」
ミケル「一個4000円です。おまけがついて7000円」
金額を聞いてカレンとサンダースが怪訝な顔をした。が、シローはそれを無視して熱心に話を聞く。
シロー「で、何処で売ってるんだ?」
ミケル「それは内緒ですよ。隊長、買う気でしょう?これ以上ライバルは増やせません。代わりに、今日手に入ったローラさんのお弁当をお裾分けしますから」
ミケルが持って来た弁当袋を見てシローの顔はさらに引きつった。
ジュドーのものだ。
弁当を開けると、そこにはシローが今日食べた昼食と同じものがそのまま入っていた。
カレン「なんか、普通の弁当箱だけど、他人の弁当じゃないんだな?」
ミケル「あなたのために作りましたって感じでいいでしょ?このお弁当箱は洗って返す仕組みなんです。」
ジュドー、ガロード、ウッソに時々ヒイロまで、よく弁当箱を学校に忘れてくる。
なくす事もしばしばだ。お陰で彼等の弁当箱は複数あるのだと以前ロランがこぼしていた。
シロー「…3000円も割増するおまけってのは?」
ミケル「生の写真が付いてくるんです。雑誌とかHPに載ってるやつじゃなくて、未公開のものがほとんどですよ。寝姿になるとさらに値段が跳ね上がりますけどね」
エレドア「そんなもん持ってるのか?!」
ミケル「これは高かったですよ~」
シロー「他にもあるか…?」
テーブルの上にかなりの量の写真が並べられた。
ミケルのコレクションを見ながらローラ話に花を咲かせるシローとミケルとエレドアを残し、カレンとサンダースはその場から離れた。
カレンは呆れた様子でさっさと自分の食事を済ませ、サンダースはシローをどう理解するべきかと、深い悩みの淵に立たされてしまっていた…。
277 名前:唐揚げ珍騒動7投稿日:03/12/01 00:52 ID:???
エレドア「うあっ、これイイっ。頼む、これくれっ!1万…いや3万出すから!」
ミケル「だめです!これは僕のベスト中のベストなんですからね!汚したりしないで下さいよ!」
エレドアとミケルが取り合っているのは朝靄の中でロランが着替えをしているシーン、胸が見えるか見えないかの際どさで体のラインも綺麗に出ている。エロチズムと神秘性が見事に共存した写真だった。
シローは頭が痛くなるのを感じた。ロランにはとても教えられない。
ミケル「こっちのお風呂上がりもいいでしょう?」
エレドア「は~、うなじがたまらねえ~。」
ぼやかしてあるが、背景には紛れも無くシローの家の脱衣所が写っている。
シロー「…これ、盗撮じゃないよな?」
シローのつぶやきにエレドアはキョトンとし、ミケルは一瞬ギクリとして慌てて否定した。
ミケル「そんなものが売りに出されるわけないでしょう?嫌だなあ、もう」
シロー「売ってる連中も正規の人間じゃないだろう?」
ミケル「そんな訳ないでしょう?大体、これはB・Bが買ってきてくれるんです。誰が売っているかなんて僕は知りませんよ」
シロー「嘘だな。こんな写真まで彼女に買ってこさせるのか?写真の枚数分、自分で買ったんだろう」
ミケル「違いますよ! 普通の写真は5枚一組なんです!」
ミケルは言ってから、ハッと自分の口を塞いだ。
シロー「まあ、そうだろうな。でもこの…ヌードっぽいやつは一枚物だ。値段も破格。違うか?」
ミケルは直感でシローがローラファンではない事に気付いた。
エレドアは、シローがただのローラファンではなく、ローラが穢されるのを極端に嫌うタイプのファンだと思った。
シロー「売っている場所は学校…」
ミケルは身動き出来なかった。
シロー「中学生が売ってるだろう…?」
ミケル「…なんで知ってるんです?」
ここでミケルは落ちた。
どんなに突っ込まれてもここはシラを切り通せば良かったのだ。
真相を想像出来る人間はシローくらいのものなのだから。
シロー「盗撮だって、気付いてたのはいつからだ?」
ミケル「いえ、はっきりそう思った訳じゃないですけど、ローラさんの視線がいつもカメラを向いていないから、もしかしてそうかな?ってだけで…。でもこれ全部がそうって訳じゃないでしょう?こんなにあるんですよ?」
確かに他人では無理だろう。が、シローの家にはプロ級の盗撮マニアがいる。被写体であるロランはかなり鈍い。
シロー「数の問題じゃない。自分の知らない間に写真を撮られて知らない所で売られていたら誰だって嫌だろう?おまけにその…彼女は芸能人じゃない。厳密に言えば一般市民だ」
エレドア「なんか、ローラちゃんを知ってる風な口ぶりですね、隊長」
シロー「…」
ここで知らないと言うのも不自然に思えたので、弟のロラン-ディアナ-ローラという経由で関節的に知っているということにした。
シローが警察官なので、盗撮に困ったローラから相談を受けたとでっち上げた。
実際のロランは盗撮自体に気付いてすらいない。
278 名前:唐揚げ珍騒動8(終章)投稿日:03/12/01 01:04 ID:???
ミケル「そんな…、彼女、困ってたんですか?」
シロー「相当に参っていたぞ。それとグエン卿との噂も思いっきりデマだからな」
突然知らされた真実(実際はシローのでっち上げ)にミケルはうなだれた。
盗撮かもしれない、弁当も赤の他人のものかもしれないと、薄々気が付いてはいたのだ。
が、実際にローラが嫌な思いをし、その原因の一端を自分が犯していたのだと思うと、やるせない気持ちになった。
ミケル「ごめん、ローラさん…」
誰にではなく、ミケルはローラに小さく、深く、謝った。
エレドア「んじゃ、これは没収な」
ミケル「ああっ、返し……、いえ、いいです…」
ミケルのコレクションを取り上げたエレドアにシローは言った。
シロー「返してやれ。それとも、没収した写真を俺の代わりに全部焼き捨ててくれるなら話は別だが?」
案の定、エレドアは笑いながら首を横に降った。
エレドア「でも、それじゃ、ミケルはお咎めなしですか?」
シロー「取りあえずこれらの写真を絶対に売るな、他人に見せびらかすな。この2つを守れ。本当は没収して焼き捨てたいんだからな。
こういうのは売る方も悪いが買う方も悪いこと位知っているだろう。そうやって高い金だしてでも買う奴がいるから売る方もつけあがるんだ。
まして、ミケルは警察官だ。市民を守る側なんだぞ。もっと自覚を持て」
ミケルは無言で首を縦に振った。あんまり激しく振るので体自体が揺れ、お辞儀をしているみたいになった。
シローはこれ以上ミケルを追求しようとは思わなかった。
彼はどうやら真のローラファン(あまり使いたくない言葉だが)のようだから、半ばローラに誓うようにしたこの約束事は守るだろうし、怪しい道へこれ以上足を踏み外すこともないだろう。
逆に、これだけのコレクションが万が一外へ流出して、グエンやシャアに渡ったらと思うとそっちの方が嫌だった。
そして、問題はむしろジュドー達にある。
家に帰ったら問いたださなければならない。
ロランの唐揚げに端を発した騒動(?)はここでひとまず収束を見た。
この後、カレンとサンダースから「シロー隊長は熱烈ローラファン」の誤解を解くのに小一時間はかかったが。
ミケルが差し入れの夜食を食べる度に「これはローラさんの…!」と騒いだのは言うまでもなく、最後には「ローラ手作り弁当を作った人間」と弟のロランは同じ先生から料理を習ったのだ、という話しまでシローはでっち上げることになる。
シローは取りあえず、ミケルとエレドアには絶対にロランを会わせまいと、そう心に固く決めた。
おしまい
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08MS小隊 シロー・アマダ 警察
最終更新:2018年12月07日 17:14