ある日の夕方、台所で夕飯の支度をしていたロランに、何やらいつもより汚れたドモンが歩み寄ってきた。
「ロラン、これ、今日の夕飯に使ってくれ」
と、ドモンが差し出したのは黒いビニールのゴミ袋。開いてみると、中には大量の生肉が入っていた。
「ありがとう、助かります兄さん」
笑顔で袋を受け取るロラン。ドモンが山で修行した帰りに熊やイノシシの肉なんかを取ってくるのは
これが初めてではないため、今回もそんな感じだろうと特に疑問は抱かなかった。
「お風呂は沸いてますから、どうぞ」
「すまん」
台所を出て行くドモンを見送ったあと、ロランは早速その肉を調理し始めた。
(……そういえばどこ行ってたのかな、ドモン兄さん。なんだか潮の匂いがしたみたいだけど)

「いやー、食った食った」
「ごちそうさま、ドモン兄さん」
夕食後、居間で膨れた腹をさする兄弟たち。
何せ人数が多いのでいつもなら食卓は戦場だが、今日はドモンが持ってきた肉のおかげで、
全員が満足する量の食事を取ることができたのである。
「ねーねードモン兄ちゃん、今回はどんな修行してきたの? 教えてよ」
瞑想中のドモンにまとわりつくアル。
「こらアル、ドモン兄さんは修行の途中なんですから、邪魔しちゃ駄目ですよ」
と、ロランが注意したが、ドモンは目を開いて、
「いや、構わん。聞きたいなら話してやるぞ」
その言葉に、アルのみならず居間にいた兄弟たちの視線が集まる。
MSを素手でぶっ壊してみたりといろいろぶっ飛んだエピソードを持っているドモンの武勇伝は、
本にすればベストセラーになるのではないかという面白さなのである。
「最近は水中戦の修行をしていてな」
「水中戦?」
「ああ。MFは水中でも活動できるが、やはり地上とは勝手が違うからな」
「ほうほう」
「だから今日は太平洋に出て潜水訓練をしていた」
果たしてそれはMFの操縦に関係があるのかという突っ込みは誰もしない。何せドモンだし。
下手をしたら水中で呼吸しかねない男、それがドモンなのである。
「あれ、ちょっと待てよ」
と、最近存在をアピールしようと必死なシンが、ここぞとばかりに呟く。
「今日の肉って、魚肉とかじゃなかったよな。でもドモン兄さんは海に行ったんだろ?」
「そういえば……牛肉とか豚肉とかでもなかったし」
「食べたことない味だったよな」
ジュドーやガロードも同意する。そのとき、つけっぱなしになっていたTVからニュースが流れ出した。
『……本日午後7時頃、〇〇県東部の海岸に鯨の遺骸が漂着しました。
 えー、なお、この鯨は体の大半を何者かによって抉り取られており、ほとんど骨と皮だけに等しい状態で……』
「……鯨?」
兄弟の視線がドモンに集中する。ドモンは感心した様子で頷きながら、
「もう流れ着いたのか」
と、言ったものである。

後日、ドモンが持って帰ったその肉を友人知人におすそ分けする兄弟の姿が確認されたという。
せめて共犯者を作っておこうという狙いがあったかどうかは定かではない。


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最終更新:2019年01月22日 15:29