597 名前:通常の名無しさんの3倍 :2015/09/04(金) 13:36:46.49 ID:4T/siOuo0


艦の後部に「GG」のマークが施された、戦艦エイジャックス。Gジェネ社が買い取ったこの船は、地球への進路を取っていた。

「この隕石群を抜ければ、地球まであとわずかですか」
「ああ」
副官の問いに、艦長ガルン・ルーファスは答えた。
「今回ばかりは死ぬかと思いましたが、どうにかなりそうですな」
この船の"積み荷"はとても重要なものだという。事実、サイド2からここに来るまでに幾度も襲撃を受けていた。
わざわざ戦艦であるエイジャックスを用意したのも、敵の攻撃を想定してのことである。
「しかし、ここまで襲撃が多いなんてね。一体何を運んでるの?」
やってきたのはこれまたパイロットのラビニア。中身はガルンにもわからなかった。教えられていないからだ。
積み荷に関して船員が知っているのは、"MSである"というだけだ。どうやら最新鋭の機体らしいが
コンテナに入れられた状態で格納庫に収まっているため眺めることもかなわないと、船員の何名かは落胆していた。
その時だった。
「高熱源体が多数、こちらに向けて接近! MSと思われます!」
ブリッジに警告音が鳴り響き、オペレーターが状況を報告する。ラビニアはすでに姿をけし、格納庫に向かっていた。
「通信は!」
「繋がりません!」

「方向と数の報告を急げ!」
「数は十、二十…五十…百…うそ、まだ来る!? 三百六十度、あらゆる方向から反応あり! このままでは囲まれます!」
軍隊と言っても通じるであろう数に、オペレーターが驚きの声を上げる。宇宙海賊としても規格外の数だ。
これほどの戦力ならば、金持ち向けの客船でも襲撃したほうがよほど金になるだろうに
それでも欲しい積み荷というのはどういうものなのか。疑問がよぎるが、そんな場合ではないと思考を切り替える

598 名前:光の翼(1) 2/5 :2015/09/04(金) 13:38:32.80 ID:4T/siOuo0
「各隊、準備が済み次第出撃しろ! ――オグマ隊準備遅いぞ、何やってる!」
Gジェネ社は人材派遣会社や傭兵団としての顔も持つ。政治的に不安定な地域に用心棒として雇われたり
悪質なバルチャーの退治を行うこともしばしばだ。おかげで練度もMSの質も非常に高い。
いくら敵の数が多くともしのぎ切れる自信があった。
「敵襲ですか」
混乱する中、背後から男の声がした。Gジェネ社の社員ではない。
道中、マシントラブルで身動きが取れなくなっていたところを捕獲――もとい救助したのだ。

「ああ。だが心配はいらない。必ず逃げ延びる」
艦内のただならぬ気配を察してやってきたのだろう。宇宙海賊というのは一般人にとっては大きな脅威だ。
不安になるのも無理はない。ガルンは男の不安をぬぐうように声をかけた。
「それは困りますな」
「なに――!?」
苦笑した男が発した不穏な言葉について問いただす前に、大きな爆音。
「き、機関室で爆発です!」
「なんだと!?」
「さあ、積み荷を頂こうか。艦長殿」
打って変わって邪悪な笑みを浮かべた男は、拳銃を片手にそう言った。

それから数日後、近くの宙域でエンジンと通信機を破壊された状態で漂っているエイジャックスが発見された。
乗員は無事だったものの、彼らが運んでいた積み荷は何者かによって奪われた後だった。

599 名前:光の翼(1) 3/5 :2015/09/04(金) 13:39:58.94 ID:4T/siOuo0
病院の一室。目の前で少女が泣いていた。
『お母さん、起きてよ。もうお昼だよ。寝坊なんてだめだよ…』
少しでも慰めになるかと思い、"ぼく"は少女のそばに寄り添った。
目に涙をため、嗚咽を漏らしながら母の亡骸に縋り付くその姿にいてもたってもいられず、"ぼく"はその少女に声をかける。
『シャクティ…』
『嫌だよ、一人ぼっちは嫌だよ。わたしを一人ぼっちにしないでよ。ねえ、お母さん!』
『シャクティ!』
少女の肩を掴み、こちらを向かせる。少女は驚いた様子でこちらを見ている。少女の眼は泣き腫らし、真っ赤になっていた。
『シャクティは一人ぼっちになんかならない!』
『なんで…そんなこと言えるの? あなただって、どうせいなくなって…』
『そんなことないよ! ぼくは、ぜったいにいなくならない! ずっと、ずっといっしょにいるから!』
『…ほんとう?』
『ほんとう。だから…泣かないで』
『約束だよ…?』
『うん、約束だ!』
『ありがとう、ウッソ…』
少女が笑った。そして、視界が光に包まれる。

  •  ・ 

次に目にしたのは、見慣れた自分の部屋の天井。時計を見ると、五時を指していた。畑の世話をする時間だ。
「…なんか、懐かしい夢を見た気がする」
あくびをして、ウッソはそう呟いた。相部屋のキラを起こさないようにそっと立ち上がり、着替えを始める。
着替えが終わったころには、夢の内容などすっかり忘れていた。

600 名前:光の翼(1) 4/5 :2015/09/04(金) 13:40:58.31 ID:4T/siOuo0
数十分後。ウッソはキャプテンや劉備とともに配膳を手伝いながら、他の家族が食卓に着くのを待つ。
まずはマイ、それに次いでアムロ、シロー、セレーネ、早朝トレーニングから帰ったドモンとセカイ、それに巻き込まれたベルリ
刹那、ヒイロ、アセム、コウ、シーブック、カミーユ、シン、バナージ、セイ、アル、シュウト、フリット、キオ、キラ
ガロード、ジュドー…と続く。
家族が全員食卓に着いたところを確認し、全員で手を合わせて
『いただきます』
朝に家族が全員そろっている時は必ずこれをする。一種の儀式のようなものだ。こういう日はキラも自発的に起きる。
この時ばかりはギンガナム達も空気を読むのか、割って入ってくることはない。

「ふはははは! 今日の朝食も美味そうであるッ!」
「パン食で育った私としては、ジャポニズムな魅力を感じずにはいられない!」
「やあ。宿命のライバルと一緒にご飯でもどうかな」
「マイ椅子とマイ箸、マイコップは持参してあるのでそのあたりの気遣いは必要ない」
「てめーらは来んな!」

まあ終わったら遠慮なしに入ってくるのだが。こうなってしまえば平和な家族のだんらんの時間はおしまいである。
フロスト兄弟を出て行かせようと怒鳴るガロード、当然のごとく意に介さないフロスト兄弟、キラの食事を奪うギンガナム
ギンガナムに食事を奪われ泣きながらシンの食事を奪い取るキラ、それに激怒するシン…騒がしいながらも、いつもの光景だ。

『先日、Gジェネ社所有の輸送船が襲撃された事件について、警察は未だ手がかりを掴めておらず――』
テレビでは、最近起きた貨物船襲撃事件について語られていた。
どうせ何の進展もないとか、警察は何をやっているのかとか、そんなことを言うんだろう。
シロー兄さんの苦労も知らないで。なんとなく苛立って、ウッソはチャンネルを切り替えた。

601 名前:光の翼(1) 5/5 :2015/09/04(金) 13:43:35.72 ID:4T/siOuo0
その夜。ジェリドは家へと向けてガブスレイを飛ばしていた。
恋人のマウアーとつい話し過ぎてしまい、彼女を家まで送った時には夜の十時を過ぎていた。
そんな時、機体に警告音が鳴り響いた。レーダーは何かがこちらに向かって接近してきていることを示していた。
このままでは衝突する――機体を移動させてもまだ警告音はやまないことから、明らかに自分を目指している。

「なんなんだ、あれは…!」
どうやらMSのようだが、レーダーを見ると驚くほどのスピードでこちらに迫ってきている。
何が何だか知らないが、こうなれば力づくで止めるしかない。
「くそっ」
レーダーを頼りにフェダーイン・ライフルを打ち込むが、手ごたえがない。かわされたようだ。
敵が迫る。夜の闇の中、不気味に輝く真っ赤な光の翼をはためかせて。
「くっ!」
ビーム・サーベルを取り出して格闘戦に備えるが、予想に反してMSは自機の真横を通過した。
その意図をつかみかねている間に、轟音を伴う衝撃がジェリドを襲った。
ガブスレイのボディは、胸部から真っ二つに切り裂かれていたのだ。
「なに…!?」
緊急脱出装置を作動させてコックピットごと機体の外に出る。コクピットから這い出て、外を見た。
敵のMSは背中から翼のような形の赤い光を発し、いずこかへと飛んでいくところだった。
「光の翼…!?」
思わず呟く。ジェリドはあんなものを出せるMSに乗っている人間を一人、知っていた。



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最終更新:2017年05月23日 22:38