693 名前:光の翼(9) 1/5 :2015/09/24(木) 01:18:27.11 ID:0fk2f2aI0
数日後。ウッソは退院し、学校へとやってきた。
最近まったく音沙汰がなかったジェリドだが、きちんと謝りに来た。
根性曲りゆえになかなか素直になれず、態度こそ悪かったが気持ちは伝わったのでウッソは許した。
むしろ、礼儀がまったくなっていないと一部の兄弟が激怒し、最後には刹那とセイにどこぞへと引きずられていったので逆に心配だった。
(少し来てないだけでも、ずいぶん懐かしく感じるものだなぁ…)
そう思いながら、校門をくぐると――
ぱぁん! 破裂音とともに、色とりどりの紙屑がウッソの体に降りかかった。
「婚約、おっめでとぉぉぉぉぉぉう!!」
「さあみなさん。悪人からカサレリアを守り、我らがお姫様と婚約までしやがったこのスペシャル小僧に惜しみない拍手を!」
ウォレンとオデロが叫び、クラッカーが派手に打ち鳴らされる。周囲の生徒達からも歓声やら拍手やら野次が飛ぶ。
真上を見上げると、巨大なくす玉が割れた状態で浮かんでいた。くす玉の垂れ幕には、『祝・婚約』と書かれている。
「…は?」
状況が呑み込めないウッソを見て、オデロが語りだす。
「何とぼけてんの! 俺見たんだぜ? お前が目を覚ました日、病室でシャクティと抱き合ってたの!」
「なあッ――!?」
ウッソとしては泣いていたシャクティを慰めていただけなのだが、確かに事情を知らない者が遠目から見れば
抱き合っているようにしか見えなかっただろう。実際抱き合っていたわけだし。
あの時はシャクティを慰めることに必死でほかのことに注意が向いていなかった。まさか見られていたとは。
「いやあ、前々から仲がいいとは思ってたけど、そこまで進んでたなんて!」
「僕だって、いつかは…」
「幸せになれよー!」
「え、ええっとぉ…」
なんだかすごいことになってしまっている。見たこともない生徒から声援をもらっているし。この状況で弁解するのは不可能だろう。
(…なら、することは一つ)
人ごみをかき分けて、ウッソは学校の中に入っていった。行く先は一つ。職員室だ。ここの教師たちはくだらない噂などに惑わされる人間ではないし、こんな騒ぎなど一声で納めてしまえるだろう。
「む、お前はジュドーの弟の…」
職員室に入り、最初に出てきたのはハマーンだった。
「た、助けてください! 大変なことに――」
「そうだよね。大変なことだよ、これは」
女の声。気付いた時には、ウッソは後ろから抱きあげられていた。
「る、ルペシノ先生…」
「まったく、私の見てないうちに婚約なんていい度胸してるじゃないか。罰としてお風呂に入れてやろうか」
ハマーンらとは違った意味で危険な教師、ルペ・シノだった。
「じゃあ僕を離そうよ。二人もいらないよね?」
一緒に抱き上げられているのはデシル・ガレットルペ・シノ先生のお気に入りらしい。

694 名前:光の翼(9) 2/5 :2015/09/24(木) 01:19:14.36 ID:0fk2f2aI0
「でもまあ、大活躍だったみたいだしね。あんたがそこまでする価値のある女の子なんだろ? よかったじゃないか!」
なんということか。頼れるはずの教師たちはくだらない噂に思いっきり惑わされていた。
「いやですね、そうじゃなくて――」
「そ、そうですよ。13歳で婚約なんて非常識では…」
最近ちょっと慣れてきたせいか染まり始めているが、まだまだ常識人のナトーラが援護に入った。
だがフォローの仕方がなんか違う。
「いいじゃないの、愛があれば」
しかし、万年新婚気分のファラはそれを一蹴。
「それに、まだ婚約だ。結婚というわけじゃあない。特に問題はないさ。許嫁と同じようなものだ」
「い、言われてみればそんな気も…」
「待って! お願いだから僕の話を聞いて! ――そうだ、カトック先生! カトック先生は!?」
無法地帯のこの学校において大きな発言力のある常識人教師、カトックの姿を探す。彼ならば自分の話をわかってくれるはずだ。
「カトック教諭なら、そこで笑っているが」
ハマーンの指差す先には、腹をおさえて笑っているカトックの姿。
「か、カトックせんせええええええ!?」
「うは、ははははは! すまん! くっふ…! いや、久々にツボに入った…! 面白すぎるぞ、お前ら! ふ、はははははは!」
「生徒の不幸を笑わないでくださいよ!」
「むしろ幸せだと思うけどねぇ?」
ファラが口を出す。ウッソとしては他人から勝手に婚約者同士にされてしまったのだ。幸せであろうはずがない。
「幸せなもんですか! そ、それに、そういうのは当事者が言い出すべきで――」
「ああ、なるほど。自分から言い出す前に他人に婚約者扱いされたから怒ってるわけだね。なんだい、ただのエロガキと思えば意外と…」
カトックの笑い声がさらに大きくなった。このままでは酸欠で倒れてしまうのではないか。
「ちがいますよおおおおおお!」
「ま、それはそれとして。そろそろ離してやったらどうだ、ルぺ教諭」
「そうだね」
「僕も離してほしいんだけど…」
「あんたはだめ。お風呂刑がまだだろ?」
「いやああああああ!」
「まあ、婚約は問題ない。――しかし。相手を納得させないまま勝手に婚約破棄などしたら…わかっているな?」
床に降ろされたウッソの肩を掴んで、ハマーンが言った。目が怖い。というか濁ってる。シャアに振られた過去があるため
この種の話題には非常に敏感らしい。間違っても"まったくのデタラメです"なんて言える雰囲気ではなかった。
もうだめじゃないかな、これ。絶望する中、ウッソの携帯電話が鳴った。絶望のあまり震える手でそれを取る。
「…ウッソです」
『少年! よくぞ決意してくれた!』
電話の相手はクロノクルだった。何やら感極まった様子である。

695 名前:光の翼(9) 3/5 :2015/09/24(木) 01:20:01.73 ID:0fk2f2aI0
「シャクティの婿になるということは、必然的にマリア姉さんの後継ぎとなるわけだ! 君のような男が社を背負ってくれるなら 我が社の将来も安泰! 期待しているぞ! 君の兄上たちにもよろしくな!」
こちらの返答を待たずに電話が切れる。まあ忙しいのだろう。会社の副社長だし。事情はわからないでもないが
こちらの言い分も聞いてほしかった。というか彼が知っているということはもう学校外まで噂が広まっているということで。
ウッソにのしかかるプレッシャーはそこで限界を迎えた。
「………」
ふっ、と。糸が切れたようにウッソはその場に倒れ伏した。
助けを求めるデシルの悲痛な叫び声がどんどん遠くなっていくのを感じながら、ついに意識を手放した。

「あっはっはっはっはっはっはっは!」
その日の夜。食卓で事の顛末を話すと、アムロは大声で笑った。他の兄弟たちも大なり小なり笑っている。
「笑い事じゃないですよ!」
ウッソは憤慨した。この一件のせいで学校のどこにいても好奇の視線を浴びるのである。
聞いている方は楽しいかもしれないが、ウッソとしてはたまったものではなかった。
「いや、すまない。しかし、まあ…三日で何があったんだろうな」
笑いを漏らしながら言うアムロに、ウッソは不機嫌に返した。
「知りませんよ! 付き合ってるんじゃないか、とかならまだしも婚約なんて――どれだけ話が飛躍してるんですか!」
「人のうわさなんてどう変化するかわからないからな。俺が聞いたのともだいぶ違ってる」
割って入ってきたのはカミーユだった。
「兄さんたちのクラスにも届いてたんですか…」
「そりゃあ同じ学校だからな」
「嫌な予感しかしませんけど、どんな内容だったんです」
「ウッソがシャクティと裸で抱き合ってたってさ」
それを聞いてウッソが噴き出した
「な、なななな!?」
「あーらら、ウッソちゃんてば顔真っ赤」
「事実だったらアムロ兄さんに告げ口してやろうと思ってたけど、やっぱただの噂だったみたいだな」
「事実なわけないでしょう! 僕らいくつだと思ってるんですか!」
「俺としても信じたいんだが、普段が普段だからな」
「ぐ…」
「まあ、いいじゃないか。人の噂も七十五日。しばらくすればいつも通りの生活に戻れるさ」
「うう…七十五日がすごく遠い…」
「それじゃあみんなの勝利と無事とウッソの退院、そして婚約を記念して――乾杯!」
「やっぱり楽しんでますよね!? 楽しいですか? かわいい弟をいじめるのがそんなに楽しいですか!?」
「「かんぱーい!」」
「乾杯じゃありませんよおおおおおおおお!」
ウッソの悲痛な叫びは家の外まで響き渡ったという。

696 名前:光の翼(9) 4/5 :2015/09/24(木) 01:25:10.23 ID:0fk2f2aI0
その頃、もう一方の被害者であるシャクティはアスカ一家に居た。
野菜のおすそ分けに来たら、夕食に呼ばれたのである。決して夕食時を狙ってやってきたわけではない。
「ねえねえシャクティ、ウッソ先輩と婚約したって本当!?」
「そんなことはないわ。もう、みんな噂に乗せられ過ぎよ」
「えー、違うの? でもシャクティ、なんかにやけてるし。実は嬉しいんでしょ」
「そ、そんなことは…」
「シャクティも、もっと素直に感情を表に出したらいいのに。同人活動だってウッソと同じ趣味を持ちたいから始めたんでしょ?」
マユは同人活動というものにもわずかながら理解があった。女の子の成長は早いのだ。
「なななな、なんでそれを!?」
「友達だから! あと、乙女の勘! それで、どうなの?」
「あの…だから…それは、まあ…嬉しいけど…私なんか」
「大丈夫だよ! ウッソ先輩、絶対シャクティのこと好きだもん!」
「そうだったら、本当に嬉しいな…」
この時のシャクティは友人ティファ・アディールもかくやと言わんばかりの、まさしく乙女の顔をしていた。
よし、この二人を絶対にくっつけてやる。シャクティの呟きを聞いたマユは内心でそう決意したという。

そしてさらに後。噂が収まるまで豹変(キラ曰く「デレた」)したシャクティにドギマギし、周囲からますます冷やかされたり
ザンスカール社(というかクロノクル)からザンスパイン(次期社長仕様)が贈られてきてウッソと刹那が狂乱したりと
事件は終わっても二次的・三次的な騒動が続いたのだが、それはまた別の話だ。
天気は快晴。空には光の翼がはばたいていた。

697 名前:光の翼(9) 5/5(あとがき) :2015/09/24(木) 01:30:33.57 ID:0fk2f2aI0
☆あとがき

ひとまず、『光の翼』に端を発する一連の事件はここで幕引きとなりますが
前にも書いたとおり、まだもうちょっとだけ番外編が続いていく予定です。
ウッソの戦闘中に街で何が起きていたのか、あと黒幕のネタばらしなどを描いていこうと考えています。
地の文付きのまともな文章なんて久々に書いたので、今後のために批評やアドバイス等あれば宜しくお願いします。

アニメバン「マンガバンがやられたようだな」
ショーセツバン「ふふふ…奴は我らメディアミックス四天王の中で最弱…」
ゲームバン「オリジナルに負けるとはメディアミックスの面汚しよ…」


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最終更新:2017年05月23日 22:59