ある日、学校から帰ってきたキラは居間に入ってぎょっとした。
シンが楽しそうに笑いながらアルの首に腕を回し、ぐいぐいと締めつけていたのである。
「なにしてるんだ、やめろよ」
キラは怒鳴りながら、シンをアルから引き剥がした。
シンは途端に不機嫌そうな顔で睨みつけてきた。
キラも負けずに睨み返す。ただアルだけが、二人の顔を交互に見比べながら困った顔をしていた。
「アルに謝るんだ、シン」
強い口調で命ずる兄に、シンは面倒くさそうな表情で頭を掻きながら返す。
「なに勘違いしてんだよアンタは」
しかし、あまりにもひどい光景を見て義憤に駆られていたキラは、聞く耳持たずになおも言う。
「いいから謝るんだ。なにが原因か知らないけど、弟の首を締めるなんてやりすぎだろう」
「あのな」
シンは口を開きかけたが、不意に舌打ちして目を閉じると、いかにも嫌々という感じに頭を下げた。
「へいへい、俺が悪うございました」
そのいい加減な態度をキラがいさめるよりも早く、シンは踵を返して階段へ向かう。
だが、一段目に足をかけたところで不意に振り返り、またキラを睨みつけてくる。
「どうせ俺が悪者で、キラ兄は正義の味方だよ。何してたっていっつもそうなるもんな」
吐き捨てるようにそう言って、シンは階段を必要以上にうるさく踏み鳴らしながら、二階へ上っていってしまった。
キラはシンの態度の悪さに憤りながらも、アルの首元を覗き込む。
「大丈夫かいアル。跡は残ってないみたいだけど」
優しくそう聞いたが、アルは何故か呆れた表情で見返してきた。
「あのさキラ兄ちゃん」
「ひどいことするなシンは。一体何があったんだい」
アルはため息混じりに首を振った。
「なにもないよ」
「え」
「だって、プロレスごっこして遊んでただけだもん」
860 名前:ありがちな風景(2/2)投稿日:2006/07/26(水) 01:02:09 ID:???
夜、帰宅したアムロに事情を話すと、大笑いされた。
「ははは、それはまた早とちりしたもんだなキラ」
「笑い事じゃないよアムロ兄さん」
シンはあれ以来、話しかけるキラを、まるで空気の如く無視していた。
おかげで夕飯の席がギスギスした雰囲気になりかけたが、その原因がキラとシンのいがみ合いだと理解すると、
全員が「なんだまたか」というような顔をして普通に会話をし始めた。もはや恒例行事なのである。
「いや、大丈夫だろう。シンのことだ、ニ、三日は根に持つだろうが、その内すっかり忘れるさ」
「そうかな。ああ、でもどうして何度も同じようなことをしてしまうんだろう」
キラが後悔のため息を吐くと、アムロは面白がるような表情で答えた。
「お前とシンはよく似てるな」
「僕とシンが?」
キラが驚いて見返すと、アムロは笑ったまま片眉を上げてみせた。
「二人とも頭はいいが、早とちりや勘違い、誤解が多い。
そして、こうだと決め付けたらなかなか考えを変えない頑固なところがある」
キラは唸った。当たっているような気もするが、シンと似ていると言われるとなんとなく納得したくないような。
するとアムロは、悪戯っぽい表情で指を立てた。
「それともう一つ。それだ」
「それって?」
「理由は違えど、人の意見に素直に頷くことは滅多にない」
そう言われるとぐうの音も出ないキラであった。
なお、この喧嘩は、シンがアルと共謀して、寝ているキラの顔に落書きするという
実に子供じみた仕返しでチャラになったという。
最終更新:2019年03月05日 14:44