555 名前:1/6 :2014/10/31(金) 18:41:20.43 ID:woLHRUZG0
去年のハロウィン企画の時に書いて放置してたネタ。6コマ目は間が空くかも


十月三十一日。ハロウィン。
強烈すぎる常連たち(と、怖い顔の従業員)のために女子供がめったに寄りつかない菓子屋ネオホンコンだが、今日は違った。
ハロウィンキャンペーンと銘打ち、仮装した子供へお菓子のプレゼントを行っているのだ。
ゾンビと死神のコスプレをしてやってきたのは、シャクティとマユの二人組だった。
シャクティ「♪」
マユ「ご機嫌だね、シャクティ」
シャクティ「ええ。同い年の友達とこういうところに来るの、初めてだから…」
マユ「…そうなんだ」
最近は収まってきたものの、親もおらず褐色の肌を持ったシャクティはいじめっ子にとっては格好の獲物だった。
そのシャクティと真っ先に友達になった人間の一人がマユだったのだ。
シャクティ「それに、貴重なカロリーがタダで手に入るって、素敵だと思わない? ああ、しばらくは塩スープとはさようならね!」
マユ「シャクティ…」
塩スープ。お湯に塩をぶちこんで出来上がる、シャクティの得意料理(?)である。飲めば体も暖まるし、塩分を摂取することで一応は生き延びられるから重宝するのだとか。
野菜も取れない特に貧乏な時期に作るものなので具はない。あってもろくなものではない。野草や食べて死なないキノコ等が入れば御の字だ。
ミンチ日常茶飯事の自分とはまた違った意味でシビアな子だった。

マユ・シャクティ「トリック・オア・トリート!」
ウォン「はい、どうぞ」
ウォン・ユンファ。見た目は胡散臭いが、多分いい人である。
マユ「ありがとうございま――」
お菓子を渡し終わり、ウォンが離れたその瞬間。天から降ってきた光線がマユを呑みこんだ。
シャクティ「マユ!?」
ウォン「な、なんだ!?」

556 名前:2/6 :2014/10/31(金) 18:43:43.42 ID:woLHRUZG0
ウォンとシャクティが空いた天井から空を見上げると、二体のMSが戦っている光景が目に入った。
ストライクフリーダムとデスティニー。街でも有名な問題児二人の駆るMSだった。
シン『俺のししゃもを返しやがれええええ!』
キラ『やめてよね! もう食べちゃったものを戻せるわけないでしょ!』
二人ともビームがこちらに当たったことに気付いていないようで、気にせずに戦闘を続けている。
それを見て、ウォンとシャクティが無言で立ち上がる。それぞれどす黒いプレッシャーを噴き上げながら、方や店の奥へ、方や外へと歩き出していった。

数分後。シンとキラはまだ戦闘を続けていた。有利な接近戦で積極的に攻めるデスティニーと、紙一重でそれをかわしながらチャンスをうかがうストライクフリーダム。

シン「くそ、いい加減当たれよ!」
キラ「やだよ! 当たったら痛いじゃないか!」
高レベルな戦いの駆け引きをしながら低レベルな口げんかをする彼らの機体の通信機が同時に着信し
二機のMSはそれぞれ停止した。発信源は近くの戦艦からだった。
シン「誰だよ、勝負中に…」
喧嘩中に通信が入ったりするなどした場合、一時的に戦闘を停止する。戦争にルールがあるように、彼らの喧嘩にもルールがあるのだ。それでも周囲に被害が出ることは止められないのだが。
ぼやきながら映像を出す。
キラ「シャクティ?」
モニターの向こう側で凍てつくような無表情でこちらを見ているのは彼らの弟ウッソのガールフレンド、シャクティの姿だった。通信がつながったとみるや、シャクティが口を開いた。
シャクティ『とても機嫌が悪いので用件のみを伝えます。
      私の大事な友達と貴重なカロリーを踏みにじったあなたたちに呪いをかけます。以上』
シャクティは底冷えするような声色でそう言い放つ。直後、モニターからあふれた強烈な光が彼らを包み込んだ。

557 名前:3/6 :2014/10/31(金) 18:46:52.90 ID:woLHRUZG0
数分後、光が収まったころには通信は途絶え、戦艦の姿も消えていた。
シン「くそっ…なんだったんだ?」
キラ「さあね。でも、そんなことはどうでもいいんだよ」
シン「そうだな…重要なことじゃない。決着をつけ――」
体にも特に異常はない。疑問を抱きながらも戦闘を再開しようとした二人は、モニターを見て硬直した。
目の前でウォルターガンダムが大きな口を開けていたからだ。
ウォン『私の菓子と大事なお客様を踏みにじる者は、悪魔に喰われて地獄へ堕ちろぉぉぉぉぉぉぉ!』
シン&;キラ「うわあああああああ!」
避ける余裕などなく、二人の絶叫はそのままウォルターガンダムの巨大な口の中に呑み込まれていった。

翌日
シン「まったく、昨日はひどい目にあったな…」
ところどころ傷のついた体を引きずって歩くシンの視界に、二つの影が見えた。
「お兄ちゃーん」
「シン」
遠いため声がよく聞こえないが、おそらくマユとステラだろう。あの二人がいればシンはどんな逆境でも頑張れるのだ。
シン「お…マユ、ステラ。おはよ――」
笑顔を作り挨拶しようとして、違和感を感じた。何かがおかしい。影が大きい気がするのだ。
近づいて、その違和感が確信へと変わった。
デラーズ(マユコスプレ)「お兄ちゃーん♪」
スキンヘッドのヒゲ親父がマユの恰好をしている。声も中年男性のそれにしか聞こえない。
シン「!?」
戸惑いを隠せずステラの方を見ると、こちらもおかしくなっていた。
ガトー(ステラコスプレ)「うぇーい」
マユの方よりは若いがごっつい体つきの男。当然声も男だ。それがステラの恰好をしている。悪夢以外の何物でもなかった。
シン「!!??」
よりにもよって両者ともスカートである。大木のような足にびっしりと生えたすね毛がとてつもない見苦しさを発揮していた。
一刻も早く視線を外したかったが、挙動から見て中身は本物。視線を外しては不審がられるだろう。持てる精神力のすべてを使って平静を保つ。そんな彼の努力をあざ笑うかのように、突風が彼らの間を駆け抜けた。
マユ(ガトー)「きゃっ」
ステラ「?」
突然のことにスカートを抑える暇もなく。思い切りめくれたスカートの中に隠された、口にするのも憚られるおぞましいモノ。
それを直視してしまったシンはあっさりと倒れた。
これが呪いか――悟ると同時に、二人のオッサンが自分に駆け寄ってくる気配を感じてシンは大急ぎで意識を手放した。

558 名前:4/6 :2014/10/31(金) 18:56:22.22 ID:woLHRUZG0
一方キラは今日も今日とて引き籠っていた。昨日負った怪我のせいで体のあちこちが痛んだが、学校を休む恰好の言い訳ができてキラ的には幸運だと思っている。
キラ「あーもう、昨日はひどい目にあった。ラクスのDVDでも見て気分転換しよ」
そう言って秘密の隠し場所から取り出したのは、少し前に出たラクスの新作DVD。
みんながいる時は照れくさくてあまり見られないが、今はロランもキャプテンを連れて買い物に出ていて家に誰もいない。
絶好のチャンスだった。DVDをパソコンに挿入し、再生。
映ったものを見て、キラは絶句した。


デラーズ(ラクスコスプレ)「皆様、本日は私のコンサートに来てくださって本当にありがとうございます!」
ラクスがいるはずの場所に映っているのは、ラクスの恰好をした見慣れぬスキンヘッドの中年男性の姿。ボイスも当然男のそれだ。

キラ「!?」
慌てて部屋中のラクスのDVDやら何やらをとっかえひっかえしても、映るのはやはり恰好は変われどもオッサン。
ポスターやカレンダーの中のラクスすらもオッサンに変わっている。こうしてキラも呪いの意味を理解した。


翌日の昼休み。ウッソは先日感じた強烈なプレッシャーについて、シャクティに事情を聴いていた。
ウッソ「………マユとステラさんとラクスさんがむさくるしいオッサンに見える呪い?」
シャクティ「呪いというか、そういう暗示をかけたの。声もおじさんの声に聞こえるわ」
あの日。シャクティはエンジェル・ハイロゥを起動させ、キラとシンに暗示をかけた。
エンジェル・ハイロゥは言ってみれば巨大な集団催眠装置である。やろうと思えばこんなこともできるのだ。
ウッソ「何その地獄…」
その恐ろしさに戦慄するウッソを尻目に、シャクティは気落ちした様子で話した。
シャクティ「地獄を見せたって失ったカロリーは戻らない…」
マリナに隠れて目立たないが赤ん坊のころに生みの親に捨てられ、幼いころに育ての母を亡くしたシャクティは超がつくほどの貧乏である。
いろいろとあくどいことをしているのだって(多少は趣味が混じっているかもしれないが)どうにかお金を稼ぐためということをウッソは知っていた。
ただ、今回に関してはどうにもそれだけではないような気がする。長年の付き合いからウッソはそう感じていた。
ウッソ「シャクティ、今度あのお店に行かない? 奢るから一緒に何か食べようよ」
シャクティ「本当?」
甘いものでも食べれば機嫌を直してくれるかもしれない。ウッソの誘いに、シャクティは嬉しそうに乗ってくれた。

559 名前:5/6 :2014/10/31(金) 19:05:09.28 ID:woLHRUZG0
一週間後。心のよりどころを失ったキラとシンの二人は廃人のような姿をさらしていた。
キラ「………」
シン「………」
ギンガナム「どうした二人とも! 飯を食わんのか! ならば小生がいただくぞ!」
そう言って、ギンガナムがキラとシンのおかずに箸を伸ばす。
シン「………」
キラ「………」
しかし無反応。
ギンガナム「こうまで反応がないと面白みがないのであーる…」
いつもならば泣くか怒るかするところだというのに。
少ししょぼくれながらギンガナムはキラとシンの焼き魚を自分の皿に持って行った
ガロード「そう言いながら飯は奪うんだな」
ギンガナム「もったいないからな!」
断言して実に美味しそうに焼き魚を食すギンガナムにあきれながら、ガロードは味噌汁をすすった。
シロー「どうしたんだあの二人。まるで抜け殻みたいだぞ」
いつもならちょっとしたことでも大喧嘩して周囲に甚大な被害を出す二人の異様なまでの大人しさを見て、シローが呟いた。
ウッソ「実は、かくかくしかじかというわけで…」
シロー「ははぁ…」
セレーネ「自業自得ね。少し可哀想だけど」
セレーネとシローが納得し、普段とは違う
シャクティ「ロランさん、お代わりお願いします」モッキュモッキュ
口いっぱいにご飯をほおばっているシャクティだった。
ロラン「はい、どうぞ」
シャクティ「ありがとうございます」
アル「…なんでシャクティがウチにいるの?」
シャクティ「交渉にきたのれす」モグモグ
アル「交渉?」
昨日、日に日に生気を失っていく二人を見かねたウッソが催眠を解くように頼んだのだ。
シャクティは渋ったが、シンはマユにとっても大事な人間であるということを説明されてようやく首を縦に振った。
ウッソ「そしたら条件を三つ出してきたんだ」
ロラン「僕の作った朝食を食べてみたいっていうのがその一つ、らしいんですけど」
マリナ「おいひいわこの目玉焼きおいひいわ」モグモグ
シャクティ「おいひいでふ本当おいひいでふ」モグモグ
ロラン「後の二つはなんなんですか?」
シャクティ「ほへはへふね」モグモグ
ウッソ「呑み込んでから話そうよ」
ウッソに突っ込まれ、シャクティはしばし逡巡。素早く口を動かし(しかし味わうことも忘れない)飲み込んだ。
シャクティ「ふう。それはですね。一つ目はふっとばされてしまったものの代わりのお菓子を所望します。二人分。
      個人的にはお徳用が望ましいです」
ウッソ「あれってタダだったんじゃ…」
アムロ「いいじゃないか。二人の小遣いの範囲でできることだ」
シャクティ「それで最後の一つですが」
ウッソ「なに?」
シャクティ「二人とも、私の友達に謝ってください。許してもらえたら、催眠を解きます」
シン・キラ「「え?」」
シャクティ「え?」
キラ「待って。それ、何のこと?」
シャクティ「まさか…気付いていなかったのですか?」
シン「だから何の話だ?」
シャクティ「この前、あなたたちが喧嘩をした時にお菓子屋にいたマユを吹き飛ばしたことですが」
シン「初めて知った…」
キラ「同じく」
シャクティ「まったく…! それでは、後で一緒に行きましょう。…あ、ロランさんもうひとつお代わり」

560 名前:6/6 :2014/10/31(金) 19:11:34.53 ID:woLHRUZG0
アスカ家 マユの部屋

マユ「そういうことだったんですか」
シン「ごめん、マユ!」
キラ「ごめんね、マユちゃん」
マユ「いいんですよ、済んだことですから」
シャクティ「優しいのね、マユは…」
シン「あのさ、これ…ウォンさんの店で買ってきた奴。もらったお菓子、吹っ飛んじゃったみたいだからさ」
マユ「わ、ありがとう!」
シン「本当にごめんな。せっかく友達と一緒に行ってたのに」
マユ「いいんだよ。でも…そうね、ちょっとお仕置きしようかな?」
シン「お…」
キラ「お仕置き?」
マユ「シンお兄ちゃんに、ステラお姉ちゃんに、ルナマリアお姉ちゃんに
  キラお兄ちゃんに、ラクスさんに、シャクティにウッソと…あの店でお菓子パーティなんてどうかな?」
シャクティ「いいですね!」
ウッソ(やっぱり僕がお金出すのかな…嬉しそうだから別にいいけど)
マユ「だめ…かな?」
シン「そんなわけない。俺は大丈夫だよ。あの二人には明日聞いてみるよ」
キラ「別に暇ってわけではないけど僕も大丈夫。ラクスは忙しいから、わからないけど」
シン「珍しく乗り気じゃないか」
キラ「僕だって罪悪感くらい感じるさ」
マユ「じゃ、決まりですね!」
数日後、欠席者ゼロで開かれた開かれたお菓子パーティは大いに盛り上がったという

561 名前:おまけ :2014/10/31(金) 19:12:41.40 ID:woLHRUZG0
シン呪われ中の一幕

ルナマリア「うう、このままじゃゼハートと同列になっちゃう…まずい、これはまずいわ。何とかアプローチしないと…」
シン「ルナぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ルナマリア「シン? 一体どうし――」ガシッ「きゃっ!?」
ルイス「おお、抱きついた!?」
ルー「ま、だいったん!」
ネーナ「なんかわかんないけどそのまま押し倒せー!」
シン「俺には…俺にはもうお前しかああああああ!」
ルナマリア「え? え!? 何、何があったの!?」
シン「うわああああああん!」


ルナマリア「うふふふふふ…シンの泣き顔可愛かった…体暖かかった…うふふふ…これであと十年は戦える…うふふふ…」
メイリン(お姉ちゃん…酸素欠乏症にかかって…)
事情を知らぬメイリンの憐みの視線などに気付きもしない。ルナマリアの蜜月(?)はシンの呪いが解けるまで続いたそーな。

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最終更新:2016年04月27日 14:22