525通常の名無しさんの3倍2019/02/06(水) 18:19:55.53ID:zRZI4l9S0
その日、
ヨーツンヘイム社には来客がいた。
会議室の中に二人の女性が座って書類を見ながら話をしている。
一人はヨーツンヘイム社のモニク、
もう一人はアナハイムのGP03の開発者、ルセット=オデビーである。
本来ヨーツンヘイム社は
ネオジオン社の下請けをしており、
ライバル関係にあるアナハイムの社員である
ルセットが来るのは珍しいことではあった。
モニク「それでは弊社からヅダのパーツをいくつか買い取るということで……」
ルセット「契約成立ね。
こちらはこの書類に書かれているだけの資金を提供します」
モニク「アナハイムはライバルの技術をほしがる貪欲な企業なことで……」
ルセット「あら、悪い?」
モニク「サナリィの技術を手に入れたシルエットフォーミュラの一件は
業界ではよく知られているので」
ルセット「へえ、よく知っているわね」
モニク「このご時世、すぐわかります」
ルセット「なかなか情報通ね。
これでヅダのパーツで私もGP03ヅダドロビウムの開発にとりかかれるわ」
モニク「……そうですか」
このように仕事の話をしていた二人だが、
ルセットがおもむろに別の話を始めてきた。
ルセット「仕事時間中に話すのもどうかと自分でも思うのだけれど」
モニク「何です?」
ルセット「プライベートな話。ねえ、マイを譲って」
526通常の名無しさんの3倍2019/02/06(水) 18:22:06.00ID:zRZI4l9S0
モニク「マイを……? マイを!? どういうことですか!?」
ルセット「貴方が好きな男のマイを私に譲ってと言っているのよ。
以前、コウを譲ってととある女性に言ったのだけれど断られちゃって。
私はマイのようにMSに詳しい人が大好きなの。
なんなら彼のアナハイムへの就職を確約してもいいわ」
モニク「彼は確かにコウのようにMSに詳しいかもしれません。
いつも会社のレポートを書いていますし、ビグラングも操縦できますし。
しかしアナハイムへ就職しないと思いますよ。
もちろん貴方のもとへも行かないかと」
ルセット「そうかしら」
怒ったような表情をするモニク。
その顔を余裕のある表情で見つめるルセット。
モニクは会議室の机の上にあったペットボトルのお茶の残りを飲みほした。
モニク「他の男なら世の中に星の数ほどいると思いますが」
ルセット「そうね、でも私の好みに合った男はなかなかいないと思うわ。
彼とはどこまでいったの?」
モニク「マイとは一緒に出かけたり、ご飯を食べたり……」
ルセット「それだけ? 私は技術屋だからHな技術も知ってるわよ。
彼を貴方より満足させることもできるわ」
モニク「な……!」
527通常の名無しさんの3倍2019/02/06(水) 18:24:25.52ID:zRZI4l9S0
モニクはその夜、居酒屋に一人でいた。
席に座ってカウンターでお酒を飲んでいる。
モニク(今日の昼のあれは宣戦布告のつもりか……? 私の方がマイを好きなはずだ。
私がマイを好きな理由、それは……。何だったか。
恋に好きな理由なんてないというけれど。
ああ、ダメだ。昼間のことが頭の中によみがえってくる。宣戦布告とはな。
例えばアナハイムに行った方が彼のためになるとか……。違う!
こんなこと会社の人間に相談できない。マイにも弟にも。ううん……)
するとモニクの横に見知った顔が現れた。
彼女の両隣にアムロとシャアが座る。
アムロ「何か悩み事か?」
シャア「その表情だとニュータイプでなくても何か悩んでいるとわかるぞ」
モニク「アムロさんにシャアさん!」
アムロ「シャアと居酒屋に飲みに行ったらモニクがいるのに気付いてな」
シャア「何かあるのなら話し相手になるぞ」
モニク「話すことなどないです! 特にマイのお兄さんには」
アムロ「マイ絡みか? 何かあったのなら相談してくれ。力にはなる」
モニク「しかし……。わかりました。ここだけの話にしてください。実は……」
モニクは迷っていたが昼間の出来事をアムロとシャアに話した。
それを聞いたアムロはこわい顔をした。
アムロ「それでモニクはどう考えているんだ?」
モニク「どうとは……?」
アムロ「俺は弟の幸せを考えている。
個人的な意見だがモニクがマイにふさわしい女だとも考えている。
極論すれば早く結婚しろとまで思っている。
だが最終的にはそれはモニク自身がマイと決めることだ。
昼間のことで悩んでいるならモニクが解決すべき問題だ。
俺がアドバイスできるのはこれくらいしかない」
シャア「アムロのわりには厳しいな」
アムロ「繰り返しになるが俺は弟の幸せを考えているのでな」
モニク「はい……」
モニクはうなだれたように小さい声で言った。
528通常の名無しさんの3倍2019/02/06(水) 18:27:01.75ID:zRZI4l9S0
次の日、モニクは会社に出勤していた。
いつものように仕事をしようとするが、頭の中はマイのことでいっぱいだった。
モニク(マイ……。ダメだ、これでは仕事に集中できない。だが……。
マイの様子を見に作業室へ行ってみるか。
今なら工作機械を見ながらレポートを書いているはずだ)
するとそこへ電話がかかってきた。
モニク「はい、もしもし。こちらはヨーツンヘイム社、モニクです」
ルセット「もしもし。私よ、ルセット=オデビー」
モニク「昨日の……!」
ルセット「今日、そちらにうかがいたいのだけれどいいかしら?」
モニク「仕事の話ですか?」
ルセット「いいえ、プライベートで。マイに会いたくて。私は今日会社お休みなの。それでは……」
モニク(早い……!)
しばらくした後、ルセットがヨーツンヘイム社に再び現れた。
マイがいる作業室をモニクとともに見学する。
ルセット「これがヅダのパーツの製造現場ね」
マイ「はい。本当は部外者は立入禁止なのですが、
アナハイムさんは今回ヅダの部品を納入する取引相手ですので。
正直、ヅダの良さをわかってもらって嬉しいです」
ルセット「ふふ……」
モニク(何がふふ、なものか! 私は、私は……。
私はマイを本当に
愛しているのだろうか? 自信が……。
違う! 私は、私は……)
その時、モニクは知らないうちに工作機械に身体を接触させてしまった。
モニク(しまった……!)
基本的にこの街の住人は
ミンチになっても復活する。
しかし機械に挟まれるのは危険であるのに変わりない。今のモニクの状況はそれであった。
モニクが一瞬後悔したその時、マイはすばやくモニクを守った。
529通常の名無しさんの3倍2019/02/06(水) 18:29:12.79ID:zRZI4l9S0
モニクの服のそでが機械に挟まれて破ける音とともに、
マイが間一髪でモニクの手を引っ張って彼女を助けたのだ。
代わりにマイの身体がくるりと回転して機械の方へと……。
ルセットの悲鳴と他のヨーツンヘイム社の社員達の怒号がひびく。
機械はマイを巻きこむ寸前で停止した。
モニク(ああ、そうか。私はマイのことを……)
まわりの様子を見ながらモニクはゆっくりと気絶した。
次にモニクが目を覚ましたのはヨーツンヘイム社の仮眠室のベッドの上だった。
マイやルセットがほっとした様子でモニクのことを見ている。
ルセット「気が付いた?」
モニク「ああ、そうだ」
モニクは自分とマイの無事を喜ぶとともに
どれだけ自身がマイに守られているか気が付いた。
仕事中のマイ、プライベートのマイ。
そして自分がマイを守りたいと思っていることにも気が付いた。
仮に彼を愛する理由があるというならそれなのだろう。
モニク(そうか。私はマイのことを愛しているんだ。
私はその自信を失っていたんだ)
マイ「大丈夫ですか?」
モニク「ああ。もう大丈夫」
マイ「他の人達も呼んできます」
ルセット「はあ、二人には負けたわ。マイは貴方のことをとても心配していたのよ?
一日、二日で失恋ね」
マイ「一日、二日で失恋とはどういうことですか?」
モニク「何でもない」
ルセット「そうよね」
二人の女性はお互いに笑った。
マイ「さっぱりワケが分からない」
最終更新:2019年07月07日 22:06