316 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:2008/02/02(土) 20:33:05 ID:???
暦では大寒も過ぎたというのに、依然冬の気配が高まる日のこと。
商店街では、ヒイロとアルが大荷物を下げて歩いていた。
この役目は本来なら一家の主夫たるロランのものだが、彼は風邪をひき寝込んでいる
シュウトの看病で忙しく、ちょうど帰宅した二人に託されたというわけだ。
とても素直なアルと、任務と頼まれると断れないヒイロは、文句ひとつ言わずに承諾し、今に至る。
「すごいよね、ロラン兄さん。こんなにたくさんの買い物、いつも一人でしてるんだ」
実を言えば、ロランでもこれだけの量を一度に買い付けることはしない。
今回は力持ちのヒイロがいるので、通常の1.5倍もの買い物を頼まれたのだ。
その事を知らないアルは、額にうっすら汗を浮かべ頼りない足取りをしながらも、あの優しい兄にひどく感心している。
しかしこの様子では食料のつまった袋2つは、まだ11歳の少年には重すぎるようだ。
このままでは転びかねないと、ヒイロは「…持つか?」と一言だけつぶやく。
返ってきた答えは、笑顔で首を左右に振るというものだった。
「このまま頑張って家に帰りたいし、僕よりヒイロ兄さんの方がいっぱい持ってる」
ヒイロにとってこれしきの重さはどうってことはないのだが、必死になってる弟をみて、これ以上の
手出しをするべきか否かは迷う。
しかし、先ほどから雪が降り始め、辺りはぐんぐんと寒くなっている。
早く帰らなければ、病人がもう一人増えてしまう。
彼はそう、判断した。
317 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:2008/02/02(土) 20:33:41 ID:???
「……交換条件だ」
そう言ってヒイロは、アルから素早く買い物袋を奪い取る。
「これ以上雪が積もる前に帰宅したい。だから俺がもうひとつ荷物を持つ。アルは歩くペースをあげろ」
拒否を受け付けないつもりか、そのまま踵を返した兄の背中をみて、アルは言外に「役立たず」といわれているような気がして、ひどく悲しくなった。
二人はほんの少しの距離を保ちながら帰宅した。
家の中は暖かかかったが、それでもアルの沈んだ気持ちを浮上させてはくれなかった。
それでも笑って荷物をロランに渡し、まだ寝ているというシュウトの様子を見に行く。
その途中で、ヒイロとすれ違った。
「…頑張ったな」
思わず立ち止まり、振り返る。
そこにあったのは同じ兄の背中だったが、先ほどとはまったく違う背中に見えた。
アルはそのままヒイロがキッチンへと消えるのを眺めていた。
あの無口で無愛想な兄は、母親のような兄の手伝いにいったのだろうか。
だとしたら、あとで自分も行こう。
まだ幼い弟は、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、ヒイロ兄さん」
最終更新:2019年05月18日 20:50