- 桜ばないのち一ぱい咲くからに生命をかけてわが眺めたり
- 年々に わが悲しみは 深まりて いよよ華やぐ いのちなりけり
- 岡本かの子
満開の桜は華々しい姿精一杯咲き誇っているので
それを見るわたしも負けず一生懸命眺めることだ
からに:~ので(理由
たり:~のことだ(完了:存続)
- 春の海沖をにほわす珊瑚樹のうすくれなゐの枝に眠る魚
- 恋がたり いたまし椰子の 実を積める 船に眇目の おいたる水夫
- 吉井勇
南の海の沖を淡い紅色に色づかせている珊瑚樹、その枝に眠る魚
にほはす:色づかせる
(ながひ:ながひ)
ゆで卵を向くと白く輝く卵が現れた。
空は花曇である。
むけ・ば:確定条件
川の流れのほとりに座っていると泥鰌が浮かび上がって顔を出し
そこにはなまずも居るといって沈んだ
- 篠懸樹かげ行く女らが眼蓋に血しほいろさし夏さりにけり
- 街の灯の 暮れなづむ頃の 蒼き靄 はだへに粘む 夏さりにけり
- 中村憲吉
プラタヌスの木陰を歩いている若い女性たちを見ると、彼女たちは皆まぶたを高潮させている。
ああもう夏がやってきたのだなぁ
さり・に・けり:近づく・完了の「ぬ」・詠嘆
- 髪ながき 乙女とうまれ しろ百合に 額は伏せつつ 君をこそ思へ
- それとなく 紅き花みな 友にゆづり そむきて泣きて 忘れな草つむ
- 山川登美子
黒髪のつやつやと美しく長い少女と生まれたわたしは
今白百合に顔を伏せながらいとしいあなたのことを思っています
葉が真っ赤になったこのかえでの木にもし登ったならば私は鬼女と化すであろう。
登ら・ば:仮定条件
べし:強い推量
- 風暗き都会の冬は来りけり帰りて牛乳のつめたきを飲む
- あたたかき 牛乳のにほひの なつかしき 夜なり君が つやのよき顔
- 前田夕暮
風が孤独な思いをつのらせるように、暗く吹く都会の冬がやってきたことだ。
家に帰って、冷たい牛乳を飲むとその冷たさが身に染み透るようだ。
- 生きながら針に貫かれし蝶のごとし悶へつつなほ飛ばむとぞする
- 髪切らむ 死なむ 呪はむ 女てうい 名を忘れては 狂ほしき君
- 原阿佐緒
生きたまま針で刺された蝶のように自由を奪われ
苦しみながらもやはり私はあなたのもとに飛び立ちたいと思っている。
ごと:…のごとし、ごとき
む:意思
最終更新:2006年09月25日 23:01