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八幡神社の四畳半


  
 
     
  

   ↑
   東
←北 南→
   西
   ↓

まず北側には赤ちゃん用ウエハースのように薄っぺらなドアがある。
ドアが入ったわきに汚れ放題の流し台があり、埃をかぶった整髪料の缶や電熱器や
あらゆるガラクタが積もっている。料理人のやる気を損なうこと請け合いである。
こんな荒涼とした台所で料理の腕を振るうことを私は断固拒否し、
「男子厨房に入らず」を実践してきた。
北側の壁の大半は押入となっており、華やかさのかけらもない衣類、
読まなかった本、捨てるに忍びない書類、冬将軍を追い払うために用いる電気ヒーターなどが
無造作に詰め込まれている。
東側の壁は、大半が本棚である。本棚のわきに掃除機と炊飯器が置いてあるが、
どちらを強いて使う必要性を感じない。
南側には窓があって、その手前に小学校時代から苦楽を共にしてきた机がある。
机の引き出しは滅多に開けないので中がどうなっているのか忘れてしまった。
東側の本棚と学習机の狭間には四畳半において行き場を失ったあらゆるガラクタが
投げ込まれている空間が広がっており、そこへ送られることは一般に「シベリア流刑」と言われる。
いずれその混沌たる空間の全容を把握しなければならないと考えていたけれども、
あまりに恐ろしくて手が出せずにいた。
ひとたび迷い込んだが最後、生きて帰る可能性はきわめて低いからである。
西側には壊れたテレビ、小さな冷蔵庫が置かれている。
これが我が四畳半の全容である。
一週わずか数秒の空間であるが、今やこの四畳半は私の脳味噌同然であった。

                     (森見登美彦著「四畳半神話大系」より一部抜粋)


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最終更新:2010年11月26日 21:00