どうでもいい所は完成しているというのにこのスーパーマーケットはまだ未完成のようで、一部の棚はまだ空のままだった。
「・・・おーい、返事してくれー。」
娘を探す声が聞こえる。
「しかし、たかが自分の娘のためにこんな危険な所まで来るとはね、俺にはよく分からんよ。」
「俺には分かるぞ?なんたって娘が一人いるんだからな、娘のためなら何だってする。」
「お前・・・そういえば娘へのプレゼントを買いに来てたんだったよな。」
そういう気持ちは俺には一生理解できそうにない、という事だけ頭の隅に留めておいた。
いや、もしかしたら、栄斗と・・・。
考えるのはよそう、と顔が赤くなるのをバレないようにゾンビの頭を狙った。
銃を撃つときになると否応でも気分が落ち着くものだ。
つまり自分のこの性質は常に冷静を保つにはうってつけ、ということになるのだが。
「・・・恐らくサイガにはバレてるだろうな。」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
弾丸の再装填を済ませると、棚を盾に周囲の状況を見る。
「貴峰!」
男が叫び声をあげた。
声のした方向を見ると、中学生くらいの女が縛られていた。
口にはギャグボールがつけられており、喋ることが出来ないようだ。
「貴峰!今そこに・・・」
男が走り出した、その時だった。
「私の商品に触れるナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
6番レジから出てきた中年くらいの男が劈くような怒声をあげる
「危ない!」
桜上水が叫んだときにはもう男に向かってレジスターが投げつけられていた。
「!」
銃を構える、だが間に合わない。
「・・・。」
レジスターは男の背中に当たると、そのまま砕け散った。
「間に合った・・・・か。」
桜上水がレジスターを「凍らせていた」お陰でダメージは軽減されたようだ。
桜上水が凍らせた物体はただ「氷点下で凍結させた」物とはわけが違って、まるで液体窒素で凍らせた薔薇の花弁のように砕け散るのだ。
昔原理を栄斗に聞いたような気がするのだがもう殆ど忘れてしまった。
なにやら「魔力が物体に干渉する性質」を応用しているらしいが、栄斗の魔法の話は俺には小難しすぎて頭に入らない。
そんなことよりも今はあの中年オヤジを沈黙させるのが先決だ。
先ほどの声を聞く限り正気ではない、それに・・・。
「私の店に入るな!この盗人め!」
「サイガ、行けるか?」
「まあ、何とかな。」
鉄製のカートがこっちに投げつけられる。
「サイガ!」
「ああ!」
俺は桜上水の肩に飛び乗る。
そして俺を肩車した桜上水がカートに飛び乗り、そのまま飛び上がった。
それを見計らったように中年オヤジが散弾銃を取り出す。
だが引き金は引けない。
「させん!」
男の散弾銃が火を噴き、弾丸が中年オヤジの足を貫いた。
姿勢を崩した店長めがけて俺は飛んだ。
「来夏!」
俺の魔力と飛ぶときに桜上水から受けた魔力を左足に収束させる。
「喰らえ!フローズン・ダイバー!!」
強烈なかかと落としと共に周囲が凍りつく。
手加減はしておいた、だがしばらくは動けまい。
「標的の沈黙を確認・・・よし、もう大丈夫だ。」
「有難うございます!何とお礼を・・・」
「ああ、もう、礼なんてどうでもいい、それより安全な場所に逃げるぞ。」
「はい!」
思ったより手応えの無い相手だった。
桜上水は中年オヤジを抱えた。
「おい、こいつ店長らしいぞ?」
おそらく名札を見て気付いたのだろう。
「成程、せっかくのチャンスをゾンビでパーにされたらそりゃ正気を失うわな。」
このスーパーが完成したらこの男もそこそこ幸せな生活を送れていただろうに。
「サイガ、帰るぞ、せっかく風呂に入ったのにモタモタしていては湯冷めしちまう。」
「お前・・・あんだけ暴れておいてそれは無いだろ・・・」
ドアを蹴破り外に出る。
いつものようにゾンビを片づけながらふと思った。
「所でサイガ。」
「どうした?」
「・・・その・・・をだな・・・。」
「何だ?はっきり言わんと分からんぞ?」
「その・・・風呂に入っていつ途中にソイツの声を聞いてだな・・・すぐに風呂からあがって・・・。」
「おい、まさか・・・」
「ああ、急いでいたもんで・・・その・・・「履く」のを忘れてしまった。」
「・・・。」
「・・・。」
意味を理解したのか顔を真っ赤にした桜上水が叫んだ。
「い、今すぐ履いてこいッ!今すぐにだ!!」
最終更新:2011年05月28日 10:17