狭山恭次

金田一少年の事件簿 FILE12「蝋人形城殺人事件」に登場した人物。
CV:は塩沢兼人、ドラマ版で演じたのは遠城啓輔。

解説

三億円事件(ドラマ版、アニメ版では四億円事件)の計画立案者。多岐川の大学時代の先輩であり、多岐川たちが所属していた犯罪研究会のリーダーであった。
「完成された犯罪は『芸術』である」という独特の考えを持ち、実行の当てもない犯罪計画を量産する日々を送っていたが、
卒業を前にして「完全犯罪」に対する憧れを抑え切れなくなった彼は、多岐川たちに現金強奪の作戦を示して片棒を担がせ、まんまと大金を手に入れる。

他のメンバーが「すぐに金を分けて逃げよう」と提案するが、「民事時効が成立する20年後まで金は使うな。1人でも裏切って金を使えば即座に自首する」と警告。
その直後、多岐川をバルト城建設現場に連れて行き、彼女に婚約指輪を贈ると共に「この城を舞台に、世界中の名探偵と対決してみたい」という夢を語る。
しかし、金の分け前の件で決裂したリチャードたちの襲撃を受けて撲殺され、多岐川共々、土中に埋められてしまった。

あくまで彼の目的は「『完全犯罪』という『芸術作品』を完成させる」ことであり、「誰も傷つけない」「殺人は絶対しない」という彼なりの美学は持っているのだが、
その定義は『自分(と共犯者)が実行する上で踏み込んだ範囲で怪我人を出さない』という非常に狭く都合のいい範囲であり、
銀行の損失による各所への経済的な皺寄せや、事件の捜査のために奔走させられる刑事・警官たちの疲労、容疑者とみなされた人物の苦悩といった点に気が回らなかったあたり、人間的にはどこか欠落した男である。ぶっちゃけ、頭のいい馬鹿。
かほるの被害者3人の立場からしたら一歩間違えれば破滅するリスク、手にした目がくらむほどの大金、事前に何も伝えずに計画達成後に恨みを買う対応をしたという、人心掌握術の手抜かりで殺されている。リチャード曰く「くだらん理由でダダこねるからだ」。
自身の計画を実行に移し満天下に見せびらかす、その一点に酔っているナルシストであった。
ある意味、多岐川の人生を狂わせた元凶と言えなくもない。ドラマ版では一が「この芸術で一番傷ついてるのはあんた(多岐川)自身じゃないのか」と投げかけており、皮肉にも愛した女性を間接的に苦しめる結果となってしまっている。
多岐川が彼の残したアイデアノートを活かして作家として名を馳せたように、エンターテナーや作家としての道に関心を持って自分の才能を全うな形で活かせていれば、このような悲劇は起こらなかったであろう。

上記の台詞の中で、計画の完成度については「確かに完璧だった」と評しつつも「犯罪は悲劇しか生まない」として「犯罪=芸術」という思想を明確に否定したのも、そうした背景があったからこそなのだろう。
(ドラマ版では、「犯罪は悲劇しか生まない」が明智警視の代役を務めた剣持警部のセリフになっていて、より強調されている)

後に、彼とよく似た考えを持つ「自称・犯罪芸術家」が出てきたが、こちらは狭山とは違い、自分の力はもちろん殺人教唆などのあらゆる手段で様々な殺人事件を起こし、物理的にも精神的にも人を傷つけまくっているのだから皮肉な話である。
なお、ドラマ版では、金を手に入れて浮かれる坂東たちを一喝し「金は銀行に返す」と主張するなど、あくまでも完全犯罪の成功だけが目的であることが強調されており、ほんの少しだがまともな人物となっている。

多岐川と合わせるとミステリ作家の「多岐川恭」の名前が浮かび上がるので、氏が名前の由来かもしれない。

実際の三億円事件

この殺人事件自体はフィクションだが、本作の事件のモデルとなった「現実の」三億円事件はマスコミの一部に「誰も傷つかなかった事件」などと綽名されている。
これは、現金に対し「盗難保険」がかけられていたため(銀行や現金輸送を請け負う会社なら、万が一の為に入っていて当たり前)、その保険が支払われ、銀行や輸送会社には1円の損害もなかったことから皮肉と揶揄を込めてつけられたものである。

しかし、実際は「警察に容疑者として一時拘束された人物」がおり、その人はマスコミに本名から学歴・職歴・性格・家庭環境まであらいざらい暴露され、後にアリバイが証明されて釈放されたものの、無責任な報道被害の影響でその後も色眼鏡で見られ続け、職を失い、一家は離散、その後もマスコミにコメントを求めて追いかけられるなど心労の末、事件から40年後に自殺している。
作中ではそのあたりは触れられていなかったものの、自殺した容疑者や過労死した人まで出た捜査員を始め、大勢の人間が多大な心労を強いられ*1、人生を狂わされたことを鑑みれば、「誰も傷つかなかった」事件などと決して言えるはずがない。

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最終更新:2024年05月11日 17:38
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*1 明智健悟の父親もその一人である。明智は事件後、父親の写真の前で「3億円事件」当時のワインを開け、乾杯していた。