ひっそりと、計画は進むはずだった。
あいつのことさえ、耳に入らなければ。
夏を目の前に5.5話
「何を苛立っている」
隠しようも無い感情の乱れが、黒の騎士団の隠れ家の一室に雑音として響いていた。
戦略を立てる際に、癖として置くチェス盤。その上に戦略上の人物や集団を並べて、作戦を考えるのが常なのだが、今日はそれがちっとも進まなかった。
答えはわかっている。
あの女のせいだ。
「日本開放の前に、ひとつ仕事が増えた」
「…計画の練り直しが間に合わないか?」
「いや…」
「なら、片付ければいいだろう。いつものように」
「あぁ…そうだな」
魔女C.C.のいうことは、その通りだった。
何を躊躇う必要があるだろうか。
あの女は、ささやかな幸せをつかみかけていた自分やナナリーから、初めての安息の地を奪い、血で穢したのだ。
その上、8年もたってのこのこと現れて、自分の幸福な日々をまた壊そうとしている。
『その証拠に、最近スザクの様子がおかしい』
前は色々忙しいとしても、自分を差し置いて何かを追いかけるようなことはしなかった。
月に何度かは自分やナナリーとの時間を設けていたし、それ以外にも
メールや電話を欠かしたことは無かった。
それが、めっきりここ一ヶ月、少ないのだ。
てっきりヴィクトリアのところに行っているせいかとも思い、形だけの恋人を続けられる程度に距離を置かせる意味で、携帯を持たせることを勧めたのは自分だ。
あいつの元へ出かけていくのに休日を丸一日使い果たすことに耐え切れず、率先して携帯の準備や買い物にも付き添ったのに、何一つ成果は上がっていない。
「ルルーシュ?」
魔女の声に、苛立ちが増す。
ガツンとチェス盤に黒のキングを置いて、
「敵にこちらの動きを気づかれたくない。相手がこちらを認識する前に、叩いておきたい」
「…ひねりも無いただの奇襲か」
「まさか。相手は俺以上に目の肥えた悪魔だ。一度で叩けなければ、こちらが危ない。確実に仕留められる作戦を実行しなければ…」
白のナイトに近づくクイーン。ユフィ程度なら敵ではないが、あれでは思うようにことが進まない。
邪魔だ。
「日本側で、枢木政権をよく思わないグループを味方に付ける。ナリタで失敗した日本解放戦線は、早晩黒の騎士団に合流させるとして……藤堂をどう味方にするか……」
「藤堂?あの日本軍のか?」
「あぁ」
「枢木派の軍人だぞ、あれは」
「しかし、ヴィクトリアを利用しようとしている枢木首相と反目しているという話だ。奴の危険性を十分理解している男。是非味方に欲しい」
忠義には厚いと聞く藤堂将軍。彼を落とすのが、今後のキーポイントだと思っていた。
ヴィクトリアの日本侵攻で、唯一彼女に勝った男。
それ故、戦後の日本軍建て直しの中心的役割にあり、枢木首相にも信頼のある人物。
「藤堂を引き入れ、ヴィクトリアを殺す」
本腰を入れて、枢木首相がヴィクトリアを用いる前に、息の根を……
「何か言いたげだな。ユフィ」
久々に姉妹でゆっくりと出来る時間。ディナーのあとの食後の余韻を、姉と過ごすのは半月振りだった。
私とたわいもない話をするのが落ち着くのか、出来うる限りこんな夕飯をとりたいらしい。
ただ、ここ最近頻発するテロのせいで、帰宅しない日も珍しくない状況だった。
そんな中で、公務に関わる話をするのは心苦しいものでもあったが、それでも二人きりで他人の耳を気にしないで話が出来る機会を逃すわけには行かなかった。
「今日、学校でルルーシュとスザクに、ランスロットの件についてお話しました」
「スザク……あぁ、枢木首相のご令息だな」
一瞬首をひねる姉に、頷く。
姉はスザクのことはあまり知らないらしい。ランスロットのテストパイロットであるとや、ルルーシュと仲がいいことは知っているらしいが、個人的な付き合いはないと聞いている。
スザクはまだ、政治的な活動をしていないそうだし、当たり前といえば当たり前かもしれない。
「ランスロットのことは、もうお前やルルーシュの心を煩わせるようなことはない。兄上には、しっかり予算確保をお願いしておいたから」
「…それは何故ですか?」
静かに理由を聞く。
少しだけならと渋々話していた姉が、これ以上は話したくないとばかりにため息をついた。
「ユフィ、その話は今度…」
「お姉様は前に仰いました。ランスロットのプロジェクトは、あくまでシュナイゼルお兄様と日本政府のものだから、私たちが口を挟むことじゃないと。それなのに、何故お兄様に予算のお話をしたんですか?」
穏やかな時間に、重い話を嫌うお姉様。
私と過ごす時間くらいは、外の憂いを忘れていただきたいのが本音だった。
でも、これは聞いておかないといけない。だから、まっすぐ姉の目を見た。
「それは、プロジェクトの本質的な部分で、という意味だ、ユフィ。できれば私も、政治的な思惑には口を挟みたくなかった」
根負けしたように、渋々話を続けてくれる。
「では…」
「だか、どうもきな臭い話を聞いてね」
あまり愉快とはいえない表情に、首を傾げる。
「きな臭い話?」
「枢木首相の側近に、プロジェクト打ち切りを進めたがっている人物が居るらしい。試作品の完成間近なこの時期に、な」
枢木首相の側近。つまりは日本政府の中でも確信に近い人物。
そんな人物が、ナイトメア開発競争激しい時代に、プロジェクトを中止したがっている?
「そんな、ランスロットは日本政府が…」
「勿論、日本政府の総意でも決定でもないだろうが、資金援助停止をしたということは、プロジェクト中止も秒読みになってくる。ブリタニアの資金と技術があって進められてきたプロジェクトが、だ。不自然だとは思わないか?」
「え…」
「もうすぐ完成するとわかっているランスロット。このタイミングでプロジェクトを中止して、何になる。首相の息子自ら参画しておきながら、今更だとはおもわないか?」
姉の探らせるような言葉に、うまい返事が見当たらない。
政治向きの話を、姉がいくら噛み砕いてくれても、理解できない自分がもどかしかった。
「えぇっと、それって…何が日本の利益になるんでしょうか?」
「…ユフィ。学校に通って普通の知識を得ることも大事だが、皇女として必要最低限の政治のカラクリを理解できるようにならないといけないな」
「ご、ごめんなさい。お姉様…」
抱えていたクッションで、顔を隠す。
ため息をつく姉に、為す術もない自分。
何の力にもなれない自分。
変わりたいと願うのに、理想にはちっとも近づけない。
「私やヴィクトリアのように軍事に詳しい必要はないが、せめてもう少し賢い考え方を理解できるようにならねばな」
「ヴィクトリアのような…?」
「あぁ。あの子は賢い子だった。権謀術数の意味を7つで理解していた。まだ小さかったからナイトメアには乗せられなかったが、盤上での模擬戦で、私は結局ヴィクトリアの足元にも及ばなかったしな」
苦笑する姉。
姉から、もうひとりの姉でもあるヴィクトリアの話を聞くのは、初めてだった。
「まぁヴィクトリアほどユフィが賢くなるのは無理か」
「ひどいお姉様!」
「冗談だよ。ユフィ」
笑う姉に、小さく拗ねてみせると、普段のように穏やかな時間になっていた。
二人分の紅茶を注ぎなおして、ソファの上で姉の側に侍る。
「ねぇ、お姉様」
「ん?」
「ヴィクトリアは、今どちらにいるんでしょうか?」
何年も会っていない。
何年も公式の席では見ないし、噂も聞いたりしない。
ルルーシュたちのように、公式発表があってどこかにいったわけではない。
だから、姉ならどこにいるか知っている。そう思って、ただ聞いたのだ。
それなのに。
「さぁな。私も、よくは…」
「本当に?」
「本当だよ。イレール皇妃が亡くなられてから、あの子をどうこうできるのは父上だけだ。確かに一時期、士官学校で面倒は見ていたが…あの頃はよく私たちの離宮にも遊びに来ていただろう?」
「そんな…私てっきり、お姉様ならご存知のものだと…」
どこにいるのか。元気で居るのか。なにもわからないとは!
優しい姉が、心を痛めているだろうことは、すぐにわかった。
「元気にやってくれているなら、いいんだがな…」
姉は兄弟想いだ。それは、妹としてよくわかっている。
ルルーシュたちのことも、日本に軍事顧問として赴任して3年。真っ先に探しに動いていた。
復興事業推進の責任者として動いていたクロヴィスお兄様が、シンジュクでの戦いに巻き込まれ亡くなられたときも、真っ先に駆けつけられた。
兄弟想いで、忙しい姉。
妹として、何か出来ることがしたい。
疲れた姉の表情をみていると、聞きたかった結論なんて、どこかにとんでしまっていた。
夏前シリーズ。。。
こ、今年のスザクの誕生日までにR1軸くらいは書き上げたいなぁ(;´Д`A ```
そんな決意から、普段は書かないルル&ユフィ視点での物語。だから5.5話。
ユフィ馬鹿っぽい。。。もっと年齢相応の可愛らしさを出したかったんですが、文章でそれって実は結構難しい。。。。
せっかくネリ様が書けるシーンだったのに(つд・)
残念です。。。
まぁ、殺意溢れるルルがかけたので、ヨカッタノカナァ。
婚約者カップルに体当たりな兄、、、
むしろ俺と結婚しろと男に向かって言いそうな兄デスガ。
次回、いよいよルルが動きます。
最終更新:2009年03月29日 21:22