第1章 内藤の仮面

第1章 内藤の仮面




それは異形だった。
いや、もう異形なんてもんじゃない。マジヤバイ。
まず人間じゃない。
いや、人間なのかどうなのかよくわからない。



それは確かに人の形をしていた。
胴体には二本の手、それを支える二本の足、
成人した大人が子供に見えるほどの長身と体格を持ってはいたが
それは大した問題ではない。
問題はそれの頭部であった。



彼はまるで、今自分が置かれた状況が分からぬようにキョロキョロと辺りを見回した。
視線の先には沼地のような水溜りがあった。
「み…水…」
喉が乾いている事に気付き、彼は水辺へと這った。
だが、水を飲もうとして屈みこんだ水面に写っていた己の顔は…。





「ぎゃあああああ」
遠くで叫び声がした。
森の中をひたすらに走っていた少女は足を止め、後ろから付いてくる少年を振り返った。
「ちょ…何よ今の恐ろしい叫び声は」
息を切らせてようやく追いついた少年が答える。
「そんなの僕に分かるわけ無いじゃないか、常識的に考えて」
少年が正解を導き出すとは全く思っていなかった少女であったがさすがにムッとして
「うるさいわね!わかってるわよ、馬鹿ヤルス!」
そう言うと少女はまた走り出した。
ヤルスと呼ばれた少年は必死で少女の後を追いかけた。
「待って、置いてかないでよう、チンダ」
チンダと呼ばれた少女とヤルスは森の闇の中へと消えていった。





一方こちらは二人の子供の居た森・・・ルードの森の外れ、ウハワロス城。
「なんだと、逃がしただと!早く捕まえんか!!」
城主のパーマン伯爵は部下の報告に憤慨した。
「まったく…たかがガキ2人を捕まえるのに何を手間取っておるのだ」
報告に来た兵士は伯爵の前でただ平伏しているのみであった。
彼はひどく怯えていたが、その戦慄は伯爵の叱責ではなく伯爵そのものの上にあるようであった。
伯爵は体を黒衣で覆い、顔にはマスクを付けていた。
その隙間から鋭い光が洩れニヤリと笑った。
「まあよい…捕まえるのは時間の問題だ。
 ワロの2粒の真珠か…遥か遠くワロの国からこの辺境の地まで
 一夜にして移動してきたその秘密、このワシが手に入れてフヒヒ…」





「居たぞ、こっちだ!」
「ヤルス!早く走るのよ!」
「もう逃げられんぞ!!」
ヤルスとチンダの二人は兵士達に追いつかれ囲まれてしまった。
「ガキどもが、我らモンゴッゴス兵から逃げられるとでも思ったか!」
「ちくしょう!こうなりゃヤケだ!」
「だめよ!ヤルス!敵うわけないわ!」
「お姉ちゃんどいて!そいつ殺せない!」



と、その時であった。



「グオオオオオオ」



「な、何だこの声は!」
「まさか…これってさっき聞いた叫び声と同じ声よ!?」
「ああっ!あそこに!」
兵士が指差した先に、身の丈2メートルを越す巨人が丸太を抱えて立っていた。
「な、何だあの化け物は!!」
「か、かかれ!殺ってしまえ!!」
恐慌に駆られた兵士達は皆手に剣を構え巨人へと殺到した。
「ぬううん」
だが、巨人の振り回す丸太にことごとく剣を折られ鎧を叩き割られ
一瞬の後に残ったのは兵士達の死屍累々だけであった。



「ありがとう!助かったわ」
チンダが慌てて駆け寄ろうとしたが、その手を捕まえてヤルスが止めた。
「チンダ!あいつの顔をよく見て!」
森の木の暗がりで巨人の顔はよく見えなかったが、雲の切れ間から月明かりが射した。
「ああっ!」



その男の頭部…それは内藤であった。
「内藤…ホライズン…!?」
その男の姿は伝説の半人半神の巨人、内藤ホライズンの姿そのものであった。
「人の体に内藤の頭……まさに神話の内藤ホライズンよ!」
「でも僕らの味方とは限らないじゃないか!襲ってくるかも…」
だが、そんなことは気にせずチンダは内藤頭の巨人へ向かって進み出た。
「大丈夫よ、私は【予知者】チンダよ、私には分かる、この人は敵ではないわ」




「助けてくれてありがとう」
「……」
「あなたお名前は?私はチンダ、この子は双子の弟のヤルスよ」
「……」
「喋れないの?困ったわ、言葉が通じないのかしら」
「……ブーン…」
「ブーン!?喋ったわ!ブーン!それがあなたの名前なのね!あなたどこから来たの?」
「…わからない…」
巨人はまるで忘れていた言葉を一つずつ思い出すようにゆっくりと語り始めた」



「俺は…気が付いたらこの森に…うう…何も思い出せない
 何故俺の頭はこのような異形をしているのだ?
 さっき自分で自分の顔を見て驚いた」
「まあ…記憶喪失なの?あなたもどこからか…私達のようにどこか遠くから
 この森に送り込まれてきたのかしら!」
「わからない…何もわからないのだ…
 ただ分かっている事は、己の名…ブーンという名と
 そして、アルアという名前だけだ」
「アルア!?」
「聞いたことがあるか?少年」
ブーンはヤルスを振り仰いだ。
「アルア……ねーよ!」
ブーンはがっくりとうなだれた。





「さて…お前達はこれからどうするのだ?」
兵士達の屍から鎧を剥ぎ取ってブーンはそれを身に着けながら二人の姉弟に尋ねた。
「アルゴスへ行かなきゃ…私達は草原の国アルゴスに送られるはずだったの」
「どういうことかkwsk」
「私達の国…神聖ワロは突然モンゴッゴスに奇襲を受けたの…
 戦乱の中、父上も母上も殺され、私達は大臣の手によって
 ワロの秘宝…【古代機械】と呼ばれる転送装置を使って
 草原の同盟国アルゴスへ送られるはずだった」
「なんと、お前達は王子と王女だったのか、それで追われていたのだな」
「ところが、着いてみればここは南のアルゴスとは真逆の
 北の辺境、モンゴッゴス領のルードの森だったのよ」
「そこで兵士に見つかり、ブーンと出会ったってわけさ」
「なるほど…」
ブーンは鎧を着て、これまた兵士から奪った剣を腰に下げ、一人思案にふけった。



「よし、俺がお前達をアルゴスへと送り届けてやろう」
「マジで!」
「ああ、ここでお前達と出合ったのも何かの運命のような気がしてならぬ
 俺はアルゴスに付くまでお前達に剣をささげお前達の騎士となろう
 その旅の中で俺は俺自身を取り戻せるかも知れぬ」
「うっひょう!」




夜が深くなってくるにつれて辺りの空気が変わってきた。
「これはどういうことだ?」
「このルードの森は死霊の森よ・・・それにグールとかゾンビとか
 色々モンスターがうじゃうじゃいるのよ」
「それはまずいな…とにかく朝まで身を隠せるような場所を…むっ、あの城はどうだ?」
「ちょ…あれはモンゴッゴスのウハワロス城だよ」
「この際贅沢は言えぬ…よし、わざと捕まって朝になったら脱出しよう」
「ええーー!!」




こうして3人はわざと兵士に見つかり捕らえられ、城の牢獄へ入れられた。
「ちょっと…ブーン、本当に大丈夫なの?」
「心配するな、必ずここから脱出するさ」



「脱出だって!?おい、お前ら」
突然壁のレンガの一つがガタゴトと抜け、
隣の牢獄に入れられた人物とおぼしき声が聞こえてきた。
「俺の名はジョルジュヴァーン!モンゴッゴスの傭兵だったんだが
 ちょっとヘマをやらかしてここに閉じ込められちまったんだ
 この城を脱出するってんなら俺も一枚かませてくれねえか!」





この日、北の辺境で彼らは出合った。
後に彼ら4人が中原の三つの大国の王となる事などこの時はまだ誰も知る由が無かった。




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年12月11日 22:05
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。