歴史的音楽学の活動はドイツの音楽学者グイド・アドラー(Guido Adler)の『Umfang, Methode und Ziel der Musikwissenschaft(範囲、理論そして音楽学の目標)』の1885年の出版に遡る事が出来よう(Adler 1885; Bujić 1998, 348-55頁)。実証主義的科学思想の影響が強いこのテクストは、「音楽の科学」を2つの学問に分類している(実証主義の項参照):歴史的音楽学と体系的音楽学である。歴史的音楽学の研究はアドラーによれば、西洋のコンサート・ミュージックのみを扱い、音楽的古文書学(記譜法の研究)、演奏習慣と楽器の歴史の研究を含むよう意図され、体系的音楽学が含むのは民族音楽学(エスニシティの項参照)、美学と「初歩的な」音楽理論(和声や対位法)だった。
この様な区分の仕方はジョゼフ・カーマン(Joseph Kerman)の独創的な研究書『Musicology(アメリカにおいてはContemplating Music、 Kerman 1985)』が1985年に出版された時点で未だ有効だったが、そこで彼は歴史的音楽学から体系的なそれを、分析として明確に区別している(もっともアドラーは彼の歴史的音楽学の定義内に「音楽形式の分類」を含めているが)。カーマンの著書は歴史的音楽学を再活性化させようという欲求を表しており、彼は、歴史的音楽学は手稿譜の準備、日付の特定、カタログ化、校訂、伝記、写本、そして歴史的演奏の研究等テクストベースのプロジェクトに焦点を当て過ぎてきたきらいがあり(Stevens 1980, 1987を参照)、主題の批判的・解釈的側面を無視して来たと指摘し、もし音楽分析と文学理論の発展を希求するのならば、この状況は改善されるべきだと論じている(ポスト構造主義の項参照)。
歴史的音楽学の確実性と推定性は、新たな相互学問間の批判的視点がもたらす今日的影響を通じた批判的精査の対象であり続けている(批判音楽学、新音楽学の項参照)。
最終更新:2008年01月22日 08:32