H18. 1.11 名古屋高等裁判所金沢支部 平成15年(ネ)第63号 株主代表訴訟控訴事件

株式会社がした政治資金の寄附は,その当時の経済環境,株式会社の資本の額,売上高,企業規模,経営実績,政治資金規正法上の制限額,実際の寄附額,寄附の相手方等の事情に照らすと,合理的な範囲内にあり,取締役の善管注意義務に違反しないとされた事例


            主    文
1 1審被告Bの控訴に基づき,原判決中同1審被告敗訴部分を取り消し,同取消しに係る1審原告の請求を棄却する。
2 1審原告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,1審原告と1審被告Bとの間においては,第1,2審とも,1審原告の負担とし,1審原告と1審被告A及び1審被告Cとの間においては,1審原告の控訴によって生じた費用を1審原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 1審原告の控訴につき
(1審原告の控訴の趣旨)
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告Aは,株式会社Zに対し,4984万6000円及びこれに対する平成13年7月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 1審被告Bは,株式会社Zに対し,4928万7000円及び内3699万7000円に対する平成13年7月5日から,内1229万円に対する平成13年11月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 1審被告Cは,株式会社Zの代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金団体に対し,寄附をしてはならない。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審被告らの負担とする。
(6) 仮執行宣言
(控訴の趣旨に対する1審被告らの答弁)
(1) 主文第2項と同旨
(2) 控訴費用は1審原告の負担とする。
2 1審被告Bの控訴につき
(1審被告Bの控訴の趣旨)
(1) 主文第1項と同旨
(2) 訴訟費用は,第1,2審とも,1審原告の負担とする。
(控訴の趣旨に対する1審原告の答弁)
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は1審被告Bの負担とする。
第2 事案の概要
 1 本件は,株式会社Z(以下「Z」という。)が平成8年から平成12年までの間に合計9913万3000円の政治資金の寄附をしたことにつき,Zの株主である1審原告が,①政治資金の寄附は公序良俗に違反する,②政治資金の寄附は会社の目的の範囲外の行為である,③政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反する,④政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反する,⑤政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反すると主張して,商法266条1項5号に基づき,平成8年及び平成9年の政治資金の寄附の最終決裁をした当時のZ代表取締役社長である1審被告Aに対し,同寄附相当額である4984万6000円及びこれに対する原審平成13年(ワ)第144号事件の訴状送達の日の翌日である平成13年7月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,平成10年から平成12年までの政治資金の寄附の最終決裁をした当時のZ代表取締役社長である1審被告Bに対し,同寄附相当額である4928万7000円及び内3699万7000円に対する原審平成13年(ワ)第144号事件の訴状送達の日の翌日である平成13年7月5日から,内1229万円に対する原審平成13年(ワ)第262号事件の訴状送達の日の翌日である平成13年11月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,それぞれZへ支払うように請求するとともに,原審及び当審口頭弁論終結時のZ代表取締役社長である1審被告Cに対し,商法272条に基づき,Zの代表取締役として,政党,政党の支部,政治資金団体への寄附の差止めを請求した株主代表訴訟である。
 原審は,1審原告の1審被告Bに対する請求について,平成10年4月1日以降になされた政治資金の寄附につき取締役の善管注意義務違反があったとして,2861万5000円及び内1632万5000円に対する平成13年7月5日から,内1229万円に対する平成13年11月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,1審原告の1審被告Bに対するその余の請求並びに1審被告A及び1審被告Cに対する各請求をいずれも棄却したところ,1審原告及び1審被告Bが本件各控訴を提起した。
 なお,略語は,原判決に準ずる。
2 前提事実
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第2,1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決3頁12行目の「9月14日」を「2月14日(1審原告主張の『9月14日』は甲49の1に照らして誤記と認める。)」と改める。
(2) 原判決4頁9行目の「決済」を「決裁」と改める。
(3) 原判決5頁23,24行目の「訴えを提起しなかった(平成13年(ワ)第144号事件)。」を「訴えを提起しなかったため,同年6月26日,原審平成13年(ワ)第144号事件を提起した(記録上明らかな事実)。」と,6頁1行目を「訴えを提起しなかったため,同年10月24日,原審平成13年(ワ)第262号事件を提起した(記録上明らかな事実)。」と,それぞれ改める。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件政治資金の寄附は公序良俗に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決7頁8行目と同9行目との間に,次のとおり加える。
「 以上のように,会社による政治資金の寄附は,国民主権,国民の選挙権ないし参政権を侵害するばかりか,株主の思想・信条の自由を侵害するものであるから,公序良俗に違反して許されないというべきである。」
(2) 本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為か。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,2に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決8頁22行目を次のとおり改める。
「 以上のように,政治資金の寄附は,客観的・抽象的にみても,無償の利益供与である点で営利の目的に違背し,社会貢献活動のように社会通念上期待・要請される行為でもなく,かえって企業体としての円滑な発展を損なうものであるから,本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為であるというべきである。」
(3) 本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決10頁4行目と同5行目との間に次のとおり加える。
「 したがって,本件政治資金の寄附は,その当時,Zと国との間に土木・建設等についての請負契約関係があったから,公職選挙法199条1項に違反するというべきである。」
(4) 本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反するか。
 次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第3,4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
 原判決10頁25行目の「Zは」から11頁3行目末尾までを次のとおり改める。
「 Zは,平成10年3月期に2426億円,平成13年3月期に5771億円の合計8197億円の特別損失を計上し,更に平成15年3月期には3000億円の特別損失が計上されたところ,これらの巨額の損失は突如発生した損失ではなく,バブル経済崩壊期以降進行したZの債務増大・資産劣化の結果であって,事実上の欠損状態が生じていたにもかかわらず,Zは,これを会計上に計上することなく隠ぺいしていたものである。
 以上のように,Zは,商法上の資産評価の原則(商法285条)に違反して資産を過大に,負債を過少に評価していたが故に,確定した貸借対照表上は欠損が生じていなかったものにすぎず,上記評価原則に則して評価すれば欠損が生じていたものであるから,平成7年3月期以降に行われた政治資金の寄附は,政治資金規正法22条の4第1項に違反するというべきである。」
(5) 本件政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反するか。
(1審原告の主張)
ア Zは,争点(4)で1審原告が主張するとおり,平成7年3月期以降実質的には欠損が生じている財務状況にあり,Zの取締役においても,従前の経営状況がそのまま推移すれば更に巨額の欠損が生ずるとの確定的認識を有していたのであるから,1審被告らは,少なくとも平成9年10月の「経営革新中期計画」(乙9)の策定以降に政治資金の寄附を行うに際しては,会社の経営状況と当該寄附の必要性ないし有用性を厳格に対比して検討し,その可否・範囲・数額・時期等を慎重に判断すべき注意義務があるのにこれを怠り,本件政治資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反するというべきである。
イ 政権政党等への政治献金には種々の弊害があり,とりわけ政権政党への国と請負関係に立つゼネコン会社の献金は政府の政策を左右する危険性がある点で本来抑制的なものでなければならないから,会社の取締役は,政権政党等へ政治献金をするに際し,上記弊害面を慎重に検討し,この弊害が少しでもある場合にはそのような政治献金を中止すべきであり,具体的には,①法令又は定款に違反しないか,②仮に法令,定款に違反しなくとも,企業,業界の要求を実現するため,あるいは企業,業界の要求が実現したことへの対価,あるいは今後とも企業,業界の要求に対し特別の配慮を求める等の献金ではないか,③業界ぐるみの政権政党への寄附は,政治資金規正法21条の3の立法趣旨に実質的に違反していないかの3点につき慎重に検討し,このうち1つでも該当すれば政権政党への政治献金を中止すべき注意義務がある。具体的には,Zの取締役である1審被告らは,政治資金の寄附のうち日建連から要請されたものについては,どのような理由から日建連で統一的に献金するのか,日建連として総額いくら自民党に寄附するのか,なぜこの時期にするのか,なぜ2口に分けて連続して支払うのか等について慎重に審査すべきであり,また,国民政治協会から要請を受けたものについても,なぜZだけに国民政治協会から要請がくるのか,なぜ要請のある金額でなければならないのか,なぜこの時期に献金をするのか,なぜ日建連統一献金以外に献金をする必要性があるのか,さらには,国民政治協会から自民党に交付された後,何に使われるか,迂回献金ではないのか,等について慎重に審査すべきであり,上記①ないし③のいずれにも該当しない場合に献金に応じることは許されるが,そうでない限り政治資金の寄附を中止すべき注意義務があったのに,これを怠り,上記審査を尽くさないまま,日建連又は国民政治協会から要請されるままに本件政治資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反するというべきである。
ウ 仮に政治献金の支出について経営判断の原則が適用されるとしても,会社の取締役としては,①経営判断に具体的法令違反及び公序良俗違反がないこと,②経営判断が「会社のため」に行われたこと,③経営判断の前提となる事実の認識に不注意な誤りがないこと,④経営判断の内容及び経営判断に至る過程に著しい不合理がないこと,の4点について慎重に審査すべき注意義務がある。具体的には,日建連から要請を受けた統一献金については,日建連からの要請がある以上,国民政治協会から日建連に対し,総額いくらの寄附要請があるのか,それに対し,日建連がどのような理由でどれくらいの献金を加盟企業に要請するのか,日建連が自民党,政府に具体的に要求している事柄との間で,賄賂性や公序良俗に抵触しないのか,献金するとすれば,いつ献金するのか,自民党本部に入った企業献金は何に費消されるのか等を慎重に調査すべきであり,また,国民政治協会から要請を受けたものについても,なぜ国民政治協会からZに対して献金要請があるのか,他の企業に対しても要請があるのか,なぜこの時期でそのような金額なのか,企業と国会議員との迂回献金ではないか,自民党に交付された後,何にこれが使われるか,他の競争政党に対する弊害がないのか等について慎重に調査すべきであり,これらの要請に合理的理由がある場合に献金に応じることは許されるが,そうでない限り政治資金の寄附を中止すべき注意義務があったのに,これを怠り,上記審査を尽くさないまま,日建連又は国民政治協会から要請されるままに本件政治資金の寄附をしたから,取締役の善管注意義務に違反するというべきである。
(1審被告らの主張)
ア 取締役が会社の事業を営むにあたって行う経営判断については,広い裁量が認められ,問題となる当該経営上の措置がなされた時点において,取締役の判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく,意思決定の過程・内容が企業経営者として特に不合理・不適切なものといえない限り,取締役の善管注意義務に違反するとはいえないところ,会社の行う政治資金の寄附も,事業活動の一環としてなされる経営判断の一つである以上,無償行為であるとの一事によって営利を直接目的とする経営判断についての裁量の幅と異なるわけではなく,これについても取締役に広い裁量が認められるべきである。そして,寄附金額の合理性についての原則的な判断基準は政治資金規正法の規制限度額とすべきところ,本件政治資金の寄附はこの規制限度額の範囲内にあり,また,本件政治資金の寄附金額は,各年度におけるZの経営規模(資本金,総資産額,業界における地位等),業績(売上高,営業利益,経常利益,当期損益等),同業他社の寄附動向(単年度赤字決算の会社による寄附も含む。)等に照らしても,合理的な範囲内の寄附である。
イ 無配の会社や欠損を一度生じた会社でも,利益獲得に直接結びつく営利行為のみしか行ってはならないというものではなく,その社会的役割を果たし,あるいは計測不可能であっても会社にとって長期的,間接的な利益に資するために,取締役の裁量によって政治資金の寄附その他の寄附を行う余地は法律上認められるべきである。そして,欠損を生じた会社が政治資金の寄附を行うことの弊害に鑑みて,どの範囲においてそれを禁止するかは第一次的には立法政策の問題であるところ,政治資金規正法22条の4第1項の反対解釈によれば,欠損を生じた会社であっても,3事業年度継続等の要件に当たらない会社については,立法者は政治資金の寄附を全面的には禁止せず,なお,取締役の裁量によって法の定める限度内で政治資金の寄附を行う余地を認めており,無配の会社が政治資金の寄附を行うことを全面的に禁止する法律は存在しないことに照らしても,上記のような会社にあっても取締役の裁量によって政治資金の寄附を行う余地は認められている(そうでなければ,1事業年度であっても欠損を生じた会社についてはその欠損が解消するまでの間は一切政治資金の寄附の余地を認めない結果となり,法が認めている取締役の裁量の余地を全面的に奪うことになる。)。そして,一度欠損が生じた会社が以後に行う政治資金の寄附についての取締役の裁量についても,政治資金規正法の規制する範囲内で取締役に広い裁量を認めるべきであり,一度欠損が生じた後に行う寄附について高度の必要性や有用性を要求すべきではない。
ウ 本件各寄附のいずれの時点においても,Zに欠損金は生じていなかった。すなわち,Zの平成9年10月の「経営革新中期計画」(乙9)の策定及びこれに基づく平成10年3月期の約488億円の欠損計上は,何らZの経営のひっ迫を示すものとはいえないし,平成10年3月期から平成12年3月期までの各事業年度におけるZの本業における業績も堅調であり,建設業界において上位を保っていたものである。平成13年3月期から導入された時価会計の下における会社の販売用不動産や不動産を多く有する子会社の株式の評価方法や減損処理の基準の詳細が定まったのは平成12年7月であり,これに対応して,Zにおいて,主要な海外開発事業や不動産に関係する国内問題債権について,新しい基準に準拠して評価と必要な減損処理を実施し,かつ,そのころ,取引銀行を共通とするDやEの倒産からの連想により市場で生じていたZの信用不安に対処するために,平成12年9月,平成13年3月期における特別損失の計上や金融機関への債務免除要請を含む「新経営革新計画」を策定・発表したのである。
エ 上記ウの「新経営革新計画」策定に至る事情及び平成10年以降のわが国経済や建設会社の経営環境をめぐる様々な変動に照らせば,一審被告Bの認識も,平成10年4月から平成12年4月までの本件政治資金の寄附について,Zに更なる欠損を生じるべき確定的認識を有していたなどということはあり得ない。本件政治資金の寄附を自民党の政治資金団体である国民政治協会に行ったのは,戦後長年にわたりわが国の政治・経済の運営にあたってきた同党の実績と経済政策の立案・実行についての能力に照らして,同党による経済運営により長期不況から早く脱して経済を活性化させ,経済・社会基盤を安定させることが,長期的にZの経営環境を改善することにつながるとの認識によるものであった。そして,このことは政治資金の寄附が日建連を通じて行われるか否かにより異なるものではない。
オ 1審被告Bは,本件各寄附のうち,日建連の十日会において会員である建設各社の分担額の目安を協議したものについては,日建連及び十日会で最上位の第1グループに属し,日建連やその下部団体の運営への参画等を通じて様々な恩恵を受けていたZとして,経営規模に応じた応分の社会的貢献をすることが,建設業界内外における地位と信用を維持することにつながり,長期的にはJV工事等の受注機会の拡大等によりZの利益にもなり,他方,仮にそのような本件各寄附の実行を拒否した場合には,そのことがZの信用に関わるネガティブ情報として業界内に伝わり競争上の不利益を蒙る恐れがあるとの判断によるものであった。
(6) 1審被告Cに対する差止請求の当否
 原判決の事実及び理由の第3,6に記載のとおりであるから,これを引用する。 
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件政治資金の寄附は公序良俗に違反するか。)について
 1審原告は,会社による政治資金の寄附が,国民主権,国民の選挙権ないし参政権を侵害するため,公序良俗に違反する旨主張する。
しかし,当裁判所も,会社が政治資金を寄附することが国民の政治意思の形成に作用することがあるとしても,会社による政治資金の寄附は,国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものとはいえず,国民主権,国民の選挙権ないし参政権を侵害するものとはいえないから,公序良俗に違反するものということはできないと考えるが,その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第4,1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
  (1) 原判決15頁22行目から同25行目までを次のとおり改める。
「 他方,憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は,性質上可能な限り,内国の法人(以下,単に「法人」という。)にも適用されるが(最高裁昭和45年6月24日大法廷判決民集24巻6号625頁(以下「最高裁昭和45年大法廷判決」という。)参照),法人がどのような憲法上の権利をどの程度の範囲で享有することができるかは,その権利の性質及び当該法人の目的などによることであり,上記各条項の本来的な適用対象である国民と同様の保障を当然に享有するものではない(法人が,営業の自由(憲法22条),財産権(同29条)等の経済的な自由権,裁判を受ける権利(同32条)等の国務請求権を享有することは容易に肯定される一方,教育を受ける権利(同26条),選挙権及び被選挙権等の参政権(同15条)を享有するものでないことも明らかである。)。そして,法人が政治資金の寄附を含む政治活動の自由を有するか否かに関し,憲法には,これを保障する旨の明文の規定はないものの,これを禁じる規定はないし,一般的にこれを禁じる法律もないから,少なくとも,法人が,公職選挙法及び政治資金規正法等の法律の範囲で,政治資金の寄附を含む政治活動の自由を有することはこれを否定できないというべきである。そして,法人の政治資金の寄附を含む政治活動の自由も憲法21条の表現の自由の一内容として保障されているとしても,政治資金の寄附を含む政治活動の自由は,その性質上,選挙権及び被選挙権等の参政権の行使と密接な関係を有することに照らし,法人に対し,主権者である国民と同様の憲法上の保障をしているものと解することはできず,憲法が主権者である国民に対して保障している参政権等の基本的な人権を侵害しない範囲においてであるというべきである。
 ところで,わが国の社会において,株式会社等の会社が経済の中心的な担い手として存在し,これら会社が,あるいは産業横断的な組織(各種の経営者団体等)を結成し,あるいは産業縦断的な組織(各種の産業団体等)を結成し,政府の行う経済政策等に関連する提言等の政治的な見解を表明し,また,これら組織に属する会社が政党等の政治団体に対する政治資金の寄附(いわゆる政治献金)を行っていることは公知の事実であるが,このような会社による政治資金の寄附は,その額が,一般に,個々の国民が行う政治資金の寄附と比較して格段に多額であることから,政党,さらにはその政党に担われる政治に対する影響力は」
  (2) 原判決16頁13行目から同18行目までを次のとおり改める。
「 したがって,会社による政治資金の寄附は,憲法が国民に保障する選挙権等の参政権を実質的に侵害することがない範囲(程度及び方法)に止められるべきものであり,仮にも会社による政治資金の寄附が無制限とされ,あるいは制限があるものの,その額が著しく巨額であるため,政治と産業界との不正な癒着を恒常的なものとし,かつ,その是正の方途が講じられないまま放置されるなど等により,制度的に,憲法が国民に保障する選挙権等の参政権を実質的に侵害する状態の程度に至っている場合には,国民に対して選挙権等の参政権を保障した憲法の趣旨に反するものとして,違憲,違法な状態となることもあるというべきであるが,そのような場合を除き,会社による政治資金の寄附の程度及び方法を具体的にどのような内容のものとするかは,国権の最高機関である国会の立法政策に委ねられている事項であるというべきである。」
  (3) 原判決18頁25行目の「禁圧」を「禁止」と改める。
  (4) 原判決19頁5行目を次のとおり改める。
「 そうすると,会社の政党等に対する政治資金の寄附については,それが十分なものであるか否かにつき評価が別れる点があるとしても,立法により相当程度の規制がされているのであり,憲法が国民に保障する選挙権等の参政権を実質的に侵害するような違憲,違法な状態にあるということはできず,したがって,会社の政党等に対する政治資金の寄附がそれ自体で公序良俗に違反するものであるということもできない。」
  (5) 原判決19頁6行目から同12行目までを次のとおり改める。
「(5) 1審原告は,会社による政治資金の寄附は,株主の思想・信条の自由を侵害するとして,そのことを前提として公序良俗に違反するとも主張する。
 確かに,会社の個々の株主にも個人的な政治的思想,見解,判断等を自主的に決定し得る思想・信条の自由が憲法上保障されているところ,政党など政治資金規正法上の政治団体が政治上の主義若しくは施策の推進,特定の公職の候補者の推薦等のため金員の寄附を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体である以上(同法3条),当該会社の政治資金の寄附を通じて示される特定の政党等の政治的思想,見解,判断等への支持と株主の政治的な思想・信条と抵触する場合があることは否定できない。しかし,株主は,その保有する株式を自由に譲渡することができ(商法204条1項本文),いわば自己の思想・信条を異にする会社からの脱退の自由が制度的に担保されているのであるから,仮に株主において会社による政治資金の寄附を通じて示される特定の政党等の政治的思想,見解,判断等への支持が自己の思想・信条と相容れないと考える場合には,その保有株式を他に譲渡することにより当該会社から自由に離脱でき,自己の思想・信条と異なる会社への帰属を強制されるものではないから,会社による政治資金の寄附が株主の思想・信条の自由を侵害するとまではいえない。
      したがって,1審原告の上記主張は採用できない。」
2 争点(2)(本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為か。)について
(1) 1審原告は,政治資金の寄附は,客観的,抽象的にみても,無償の利益供与である点で営利の目的に違背し,社会貢献活動のように社会通念上期待・要請される行為でもなく,かえって企業体としての円滑な発展を損なうものであるから,本件政治資金の寄附はZの目的の範囲外の行為である旨主張する。
 しかし,会社における目的の範囲内の行為とは,定款に明示された目的自体に限定されるものではなく,その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含されるものであり,会社が政党又は政党資金団体に政治資金を寄附することも,客観的,抽象的に観察して,会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては,会社の定款所定の目的の範囲内の行為というべきである(最高裁昭和45年大法廷判決参照)。ところで,憲法の定める議会制民主主義は,政党の存在を抜きにしては到底その円滑な運用を期待することはできないから,同議会制民主主義の下で存在する会社が政党又は政党資金団体に対してする政治資金の寄附は,これを客観的,抽象的に観察すれば,政党の健全な発展に協力する趣旨で行われるものと解されるのであり,政治資金規正法も会社による政治資金の寄附そのものを禁止することなく,一定の限度でこれを許容していることを考慮すると,特段の事情のない限りは,会社がその社会的役割を果たすためにしたものというべきである。そして,本件政治資金の寄附について,上記特段の事情を認めることはできず,かえって,本件政治資金の寄附は,後記5のとおり,Zの経済的ないし社会的信用を維持する効果を有する目的もあってされたのである。したがって,政治資金の寄附が一般に会社の目的の範囲外の行為であるということはできないし,本件政治資金の寄附をもって,Zという会社の目的の範囲外の行為であるということもできないから,1審原告の上記主張は採用できない。
(2) 1審原告は,本件政治資金の寄附が自民党という特定の政党に対して行われたものであることを根拠に,Zの目的の範囲外の行為であるとも主張する。
 しかし,上記1で説示したところによれば,政治資金の寄附をすることは政治的活動の自由の一環として会社にも認められているところ,特定の政党を支持する趣旨で当該政党への政治資金の寄附を行うことは,政治資金の寄附の性質上,当然に予定されているのである。そして,上記(1)のとおり,会社の行為が会社の目的の範囲内か否かはこれを客観的,抽象的に観察して決すべきであるから,Zのした本件政治資金の寄附を客観的,抽象的に観察する以上,政治資金の寄附の相手方がいかなる政党であるかにより,Zという会社の目的の範囲内か否かの結論を異にするものではないというほかない。したがって,1審原告の上記主張は採用できない。
3 争点(3)(本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反するか。)について
 当裁判所も,本件政治資金の寄附は公職選挙法199条1項に違反しないものと判断するが,その理由は,原判決の事実及び理由の第4,3に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 争点(4)(本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反するか。)について
 当裁判所も,本件政治資金の寄附は政治資金規正法22条の4第1項に違反しないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の事実及び理由の第4,4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
  (1) 原判決21頁20行目の「Zは,」を「Zの」と改める。
  (2) 原判決22頁3行目と同4行目との間に次のとおり加える。
「 なお,1審原告は,Zが,平成10年3月期に2426億円,平成13年3月期に5771億円の合計8197億円の特別損失を計上し,更に平成15年3月期には3000億円の特別損失が計上されたところ,これらの巨額の損失は突如発生した損失ではなく,バブル経済崩壊期以降進行したZの債務増大・資産劣化の結果であって,事実上の欠損状態が生じていたにもかかわらず,Zはこれを会計上に計上することなく隠ぺいしていたものであるから,平成7年3月期以降に行われた本件政治資金の寄附は,政治資金規正法22条の4第1項に違反する旨主張する。しかし,本件政治資金の寄附当時におけるZの資産,経営状況は後記5(1)で認定するとおりであり,Zにおいて実質的にも3事業年度以上にわたり継続して事実上の欠損状態が生じていたとはいえず,また,当該各年度の貸借対照表が粉飾その他により虚偽の内容であるなど特別の事情があることを認めるに足りる証拠もない(1審原告は,Zの貸借対照表は商法285条の資産評価原則に違反して,資産を過大に,負債を過少に評価した違法なものであり,適正な資産評価を実施していれば,平成7年3月期以降の政治資金の寄附は,過去3事業年度以上にわたり継続して欠損が生じていた状態の下でされたもので,政治資金規正法22条の4第1項に違反する旨主張するが,証拠(甲41の1ないし14,乙8の1ないし6,乙10,13,15,16,22,29,1審被告B)によれば,Zは,各事業年度において,その当時の公正妥当と認められる会計処理の基準に従って会計処理をし,貸借対照表を確定したことが認められ,同主張は採用できない。)。したがって,1審原告の上記主張は採用できない。」
5 争点(5)(本件政治資金の寄附は取締役の善管注意義務に違反するか。)について
(1) 認定事実
 前記前提事実及び証拠(乙22,29,30,1審被告B,後記各証拠)によれば,Zの平成元年度以降の資産,経営状況について,次の事実が認められる。
ア Zの第53期(事業年度平成元年4月1日から平成2年3月31日まで。甲41の1)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,個人消費と民間設備投資を軸に内需主導型の力強い成長が続き,戦後成長のいざなぎ景気にも迫る勢いを示しており,景気は順調に推移し,建設業界においても,オフィスビル,マンションなど旺盛な建築需要に支えられ,受注環境は好調のうちに推移していたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2381億円余,売上高1兆1002億円余,当期純利益149億円余といずれも所期の業績を挙げることができた。
イ Zの第54期(事業年度平成2年4月1日から平成3年3月31日まで。甲41の2)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,金利の上昇,株価の低迷等の不安定要因があったにもかかわらず,底堅い個人消費と堅調な民間設備投資に支えられ,全体的には堅調に推移し,建設業界においても,景気の先行き不透明感から,製造業において設備投資の伸びが減速したが,非製造業を中心にマンション,事務所ビルなど旺盛な建築需要に支えられ,受注環境は比較的好調に推移していたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2590億円余(前年同期比1.7%増),売上高1兆2014億円余(前年同期比9.2%増),経常利益505億円余(前年同期比22.9%増),当期純利益182億円余(前年同期比21.6%増)といずれも前年度の業績を上回ることができた。
ウ Zの第55期(事業年度平成3年4月1日から平成4年3月31日まで。甲41の3)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,長期にわたり好況を支えてきた民間設備投資と個人消費などに鈍化傾向が見られ,景気の減速化が一層鮮明になり,建設業界においても,公共投資は堅調ながら,民間での不動産不況,株式市場の低迷,設備投資意欲の減退などにより,受注環境は厳しさを増していたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高1兆2443億円余(前年同期比1.2%減),売上高1兆1450億円余(前年同期比4.7%減),経常利益380億円余(前年同期比24.7%減),当期純利益150億円余(前年同期比17.7%減)といずれも前年度の業績を下回る結果となった。
エ Zの第56期(事業年度平成4年4月1日から平成5年3月31日まで。甲41の4)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,景気浮揚策がとられたにもかかわらず,個人消費と設備投資の低迷に加え,円高の進行など新たな懸念材料により,景気は後退色を強めながら推移し,建設業界においても,公共投資の増加等により一部に明るい兆しが見られたが,民間設備投資は抑制され,建設需要の落ち込みが著しいことにより,受注環境は一段と厳しさを増していったところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高9007億円(前年同期比27.6%減),売上高1兆0786億円(前年同期比5.8%減),経常利益296億円(前年同期比22.0%減),当期純利益90億円(前年同期比39.7%減)といずれも前年度の業績を下回る結果となった。
オ 平成5年7月の「株式会社Z体質改善3ヶ年計画」の策定
 そこで,Zは,平成5年7月,「株式会社Z体質改善3ヶ年計画」(乙23)を策定した。同計画は,Zの経営実態(本体の営業力低下に伴う利益の伸び悩み,関連会社の利益の低迷,一般管理費の増大,高度成長前提型の人事制度,体質改善の進捗の遅れ)を直視しつつ,固定化した不良債権,資産の整理・回収と高度成長前提型の体質の是正を主要課題に掲げ,3年計画で早急に抜本的体質改善を図り,グループ全体として総力をあげて対処することを基本対処方針とするものであり,その体質改善方策の骨子は,有利子負債の圧縮(3ヶ年で3000億円の圧縮を目標),営業力の強化(1兆5000億円受注体制の早期確立),若返り等による組織の活性化と改善推進力の強化,配当政策(当面の経営状況を勘案して3年間は株式配当を3円とし,4年後には増額を目指す。)というものであった。
カ Zの第57期(事業年度平成5年4月1日から平成6年3月31日まで。甲41の5)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,民間設備投資と個人消費が依然として低迷したのに加え,急激な円高などの影響も重なり,景気は停滞したまま推移し,建設業界においても,公共工事は堅調であったが大型工事が減少し,また,民間工事においても住宅建設は好調を維持したものの,事務所ビルや工場などの建設投資の抑制が続いたため,受注環境は誠に厳しいものであったところ,このような状況のもとで,Zは,売上高8419億円(前年同期比21.9%減),経常利益235億円(前年同期比20.5%減),当期純利益10億円(前年同期比88.0%減)については前年度の実績を下回る結果となったが,不動産事業を含む受注高9040億円(前年同期比0.4%増)は前期の実績を確保することができた。
キ Zの第58期(事業年度平成6年4月1日から平成7年3月31日まで。甲41の6)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,減税効果などから個人消費の持ち直しの動きが広がり,住宅投資も堅調に推移したが,設備投資の低迷が続き,かつてない円高の進行もあったため,景気は緩やかな回復基調にとどまり,建設業界においても,住宅建設は好調を持続したが,公共工事は大型工事が少なく,事務所ビルや工場等の民間建設需要が依然として低迷し,価格競争も激化するなど,受注環境は一段と厳しいものとなっていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高9144億円(前年同期比1.1%増)は前年度の実績を上回ることができたが,売上高8292億円(前年同期比1.5%減),経常利益204億円(前年同期比13.2%減)は前年度の実績を下回り,当期純利益10億円(前年同期比0.5%増)は前年度並みの結果となった。
ク Zの第59期(事業年度平成7年4月1日から平成8年3月31日まで。甲41の7)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,輸出が鈍化基調にあるものの,公共投資は拡大傾向が鮮明になり,民間設備投資や個人消費に回復の兆しが見え始めるなど,景気は緩やかな回復基調を持続し,建設業界においても,官庁工事は,公共投資の増加により堅調に推移したものの,民間工事は,事務所ビル等の建設需要が依然として低迷しており,住宅建設も減少するなど,総じて受注環境は厳しいものとなったところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高8725億円(前年同期比4.6%減),経常利益144億円(前年同期比29.2%減)は前年度の実績を下回ったが,売上高9838億円(前年同期比18.6%増)は前年度の実績を上回り,当期純利益10億円(前年同期比0.0%減)は前年度並みの結果となった。
ケ 平成8年5月の「体質改善3ヶ年計画報告書及び第2次体質改善3ヶ年計画書」の策定
 Zは,平成8年5月,「体質改善3ヶ年計画報告書及び第2次体質改善3ヶ年計画書」(乙24)を策定した。このうち第2次体質改善3ヶ年計画によれば,受注については,建設業をとりまく環境は依然厳しいものの,景気は緩やかな回復を持続し,第60期では,秋の補正予算の可能性も含め,公共工事は堅調に推移するものと考え,Zとしては,国内建設事業にて8500億円,東南アジアを中心とした海外受注にて500億円,不動産事業にて300億円の合計9300億円を計画値とするが,第61期以降では,緩やかな景気回復基調を前提として,大幅な受注増を織り込まない計画値としていた。損益については,一部民間工事における受注競争激化による不採算工事が第60期に完成計上されるため,完成工事利益は751億円にとどまり,利益率は8.8%に,売上総利益では不動産事業の高収益物件を含めて833億円と,その利益率は9.3%になること,この影響を受けて経常利益は108億円となることが,また,海外事業整理による171億円の損失を含む244億円の特別損失計上を見込み,当期利益は10億円となることがそれぞれ予定されており,第61期以降では,不採算工事の一掃により第60期を底として回復し,経常利益は第61期では178億円,第62期では292億円を計画するものの,引き続き海外事業整理を実施することによりいずれも当期利益は10億円になることが予定されていた。
コ Zの第60期(事業年度平成8年4月1日から平成9年3月31日まで。甲41の8)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,公共投資は減少したものの,円安により輸出は増加傾向を強め,設備投資や個人消費も回復を続けるなど,景気は緩やかな回復基調のうちに推移し,建設業界においても,官庁工事は減少に転じたが,住宅投資は高水準を維持し,民間設備投資の堅調な増加や消費税率引き上げに伴う駆け込み需要もあったため,受注環境は厳しいながらも回復の兆しが見えてきていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む売上高9303億円(前年同期比5.4%減),経常利益137億円(前年同期比5.1%減)は前年度の実績を下回り,当期純利益10億円(前年同期比0.5%増)は前年度並みの結果となったが,受注高は1兆0015億円(前年同期比14.8%増)となり,厳しい受注環境のなか5期ぶりに1兆円台を達成した。
サ 平成9年10月の「経営革新中期計画」の策定
 Zは,これまでの体質改善や業務革新の取り組みによる成果が確実に上がってきており,この業績の回復基調を過去4年間の再建フェーズから発展フェーズへ移行しつつあるものと認識し,さらなる飛躍を勝ち取るため,21世紀を展望した経営基盤の構築を目指し,平成9年10月,「経営革新中期計画」(乙9)を策定した。このうち財務体質の抜本的改革は,次のような内容であった。もっとも,これにより,今期では約2000億円の赤字決算となり,株主配当は無配となるが,Zでは,このような特別損失の計上はあくまでも今期限りであり,革新の断行により来期以降は黒字決算及び復配を計画していた。
① 一括損失処理による赤字決算
 海外開発事業の整理及び国内固定化債権の償却を一括して実施し,海外1500億円,国内890億円の合計2390億円の特別損失を計上し,当期純損失2005億円とする。
② 海外開発事業の整理と収支均衡
 海外の不動産市況は,長期にわたる低迷期を脱し,米国をはじめ全体的に強い回復基調にあり,Z保有物件も評価が上昇した。従来より営業収支の改善を図りつつ計画的に物件の整理を進めてきたが,評価の上昇を踏まえ手持ち物件の半数を超える18物件を今回売却し,事業費の圧縮,保有コストの大幅削減を実施する。さらに,残物件については,追加資本金の投入等によるファイナンスリストラを実施し,保有コストを大幅に削減して,遅くとも来期中に海外開発事業の収支均衡を図る。
③ 国内固定化債権の損失処理
 国内債権について計画的に固定化した債権の回収を図ってきたが,低迷する景気の影響を受け,案件の整理回収には時間を要していた。今回,固定化した債権を前倒しして償却及び損失引当を行うとともに,今後も固定化債権の回収を促進する。
④ 有利子負債と保証債務の圧縮
 今回の海外開発事業の収支均衡と国内固定化債権の前倒し損失引当処理により,本業収益力による有利子負債の返済能力を高めるとともに,販売用不動産等の損切り売却,株式等の資産売却により資金を捻出する。過去4年間に有利子負債,保証債務は合わせて2004億円の圧縮を達成しており,この計画の実施により,今後5年間で有利子負債,保証債務合わせて2764億円を更に圧縮し,財務体質を大幅に改革する。有利子負債については,海外開発事業のリストラにより一時的に増加するが,物件売却による海外開発事業の収支均衡と高金利の社債償還による金融収支の改善等により,本業収益による返済力を確保し,第65期までには158億円の削減を計画している。保証債務については,海外開発事業の整理売却等により2606億円の圧縮を行うことを計画している。
シ Zの第61期(事業年度平成9年4月1日から平成10年3月31日まで。甲41の9)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,アジア経済の急速な落ち込みにより輸出の伸びが鈍化し,消費税率の引き上げ,雇用環境の悪化などから個人消費が低迷するなど,景気は後退色を強めながら推移し,建設業界においても,公共投資は減少し,また,住宅投資に回復がみられず,増加傾向にあった設備投資も企業収益の悪化から投資意欲が減退するなど,受注環境はいっそう厳しいものとなっていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高9038億円(前年同期比9.8%減)は前年度の実績を下回ったが,売上高1兆0132億円(前年同期比8.9%増),経常利益155億円(前年同期比12.8%増)は前年度の実績を上回る結果となった。また,「経営革新中期計画」(乙9)の実行に伴い,国内外の固定化資産の一括損失処理を行った結果,当期純損失は2176億円となった。
ス Zの第62期(事業年度平成10年4月1日から平成11年3月31日まで。甲41の10)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当期におけるわが国の経済は,総合経済対策,緊急経済対策及び金融緩和措置等の景気浮揚策がとられたが,金融システム不安は払拭し切れず,雇用や所得環境の悪化などから個人消費は依然伸び悩み,企業収益の低迷により設備投資が大幅に減少するなど,景気は総じて低調に推移し,建設業界においても,公共投資の増加により官公庁工事は回復に転じたが,住宅投資やオフィスビル建設は低迷し,製造業の生産施設等の民間設備投資も減少を続けるなど,受注環境は大変厳しいものとなっていたところ,このような状況のもとで,Zは,不動産事業を含む受注高8414億円(前年同期比6.9%減)と売上高9003億円(前年同期比11.1%減)は前年度の実績を下回り,工事原価の低減,一般管理費の削減に努めた結果,営業利益は増加したが,営業外収益の減少,有価証券評価損の発生等により経常利益は76億円(前年同期比50.9%減)と前年度の実績を下回った。もっとも,当期純利益は,上記オの「体質改善」に着手した平成5年度からの水準を上回る14億円となった。
セ Zの第63期(事業年度平成11年4月1日から平成12年3月31日まで。甲41の11)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年度におけるわが国の経済が公共投資と住宅投資が景気を下支えし,企業収益や設備投資に緩やかな好転の兆しがみられたが,雇用,所得環境がいまだ厳しい情勢にある中で個人消費は停滞しており,本格的な景気の自律的回復には至らず,海外においても,米国経済は個人消費を中心に好況を持続し,欧州経済も各国とも景気拡大基調となっており,豪州経済は五輪特需の影響もあり引き続き順調に推移し,また,こうした好調な世界経済を背景にアジア経済も輸出の増加等から顕著な回復傾向を示しており,国内建設市場においては,政府経済対策の効果により年度前半の公共工事は増加し,住宅投資も堅調に推移したが,全体的には依然として厳しい環境が続いており,海外建設市場においては,米国,欧州,豪州ともやや鈍化はみられたものの堅調に推移し,アジア地域では総じて低迷しているが,回復基調に転じた国,地域も見受けられたところ,このような状況のもとで,Zグループは,ここ数年の受注高の減少が影響し,当連結会計年度の売上高は7990億円(前連結会計年度比20.0%減)となり,損益については,工事採算の改善や保有株式の売却等をすすめたが,大幅な売上高の減少を補うことはできず,営業利益は172億円(前連結会計年度比38.7%減),経常利益は7億円(前連結会計年度比88.1%減)となり,また,たな卸不動産評価損175億円の特別損失への計上等もあり,当期純損失は46億円(前連結会計年度比82.8%増)となった。
ソ 平成12年9月の「新経営革新計画」の策定
 Zは,「経営革新中期計画」(乙9)発表後の金融システム不安等に端を発した急激な経済環境の悪化により,計画策定時点で前提としていた経営環境は大きく変化しており,建設市場の大幅な縮小とそれに伴う受注競争の激化,地価の下落等に伴う資産処分の遅れ等から,当初計画とのかい離が拡大しており,Zにおいて,このような環境の変化に対応すべく,コストの削減,大幅な固定費削減等を実施してきたが,その成果が環境悪化のスピードを上回るに至らず,当初計画の達成は極めて困難な状況となっており,さらに,平成13年3月期から導入される時価会計(乙11の4,乙13),年金等退職給付に係る会計基準の変更等,経営環境はその厳しさを一層増しているため,Z及び関連グループ各社が21世紀における長期的な競争力を確保するには財務体質を抜本的に健全化することが喫緊の課題であると判断するに至り,平成12年9月,現在の経営環境に対応した「新経営革新計画」(甲13,平成24年3月期までの12年間)を策定した。この「新経営革新計画」は,「選択と集中」による事業構造の見直しと競争力の強化,コンパクトで筋肉質な経営体質の構築,不良資産の一括処理による財務体質の抜本的改革をその骨子とするものであり,その概要はZの株主にも書面(甲15)で通知された。このうち不良資産の一括処理による財務体質の抜本的改革は,減資差益,債務免除益,資本準備金・剰余金及び本業収益を原資として,平成13年3月期に5699億円の特別損失を計上する一括損失処理を行い,有利子負債を大幅に圧縮するというものであり,具体的には次の内容であった。
① 減資
 株主に対し,減資(プレミアム減資481億円,併合減資170億円)の承認を要請し,これによる減資差益651億円に加え,資本準備金と剰余金の取り崩しを合わせ,1047億円を損失処理に活用する。
② 債務免除
 主力行であるF銀行をはじめとする15行の金融機関に対し,4500億円の債務免除の支援を要請する。
③ 資産売却・債権回収計画
 含み損を抱える国内資産,海外資産はもとより,事業用不動産,保養施設(閉鎖済み),ゴルフ会員権等可能な限りの資産処分を行い,約2100億円の資金を捻出する。特に,海外資産,ゴルフ場関連の国内資産については原則として一掃する。
④ 有利子負債圧縮計画
12年間の収益と資産売却等により,グループ全体の有利子負債及び債務保証を3700億円圧縮する。これに債務免除4500億円を加えると,合計圧縮額は約8200億円(平成12年3月末比)となり,計画終了時点での残高は2400億円台まで縮減する。
タ Zの第64期(事業年度平成12年4月1日から平成13年3月31日まで,甲41の12)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するものと認めるべき証拠はない。すなわち,当連結会計年度におけるわが国の経済は,情報技術関連等の成長分野を中心に設備投資は増加基調を持続したが,公共投資は低調に推移し,個人消費も雇用・所得環境の改善が進まないことから伸び悩み,また,年度の後半から米国経済の減速による輸出の減少や株式市況の低迷が鮮明になるなど,景気の停滞色が再び強まる状況となり,建設業界においても,民間工事は製造業の生産施設等への投資は堅調だったが,住宅投資は減少に転じ,公共工事は政府による公共事業の見直しや厳しい地方財政を反映して低迷するなど,経営環境は引き続き厳しいものであったところ,このような状況のもとで,Zグループの当連結会計年度における売上高は7934億円(前連結会計年度比0.7%減)となり,利益については,完成工事総利益が低下したものの,前連結会計年度では602億円あった一般管理費を459億円まで大幅に圧縮するなど固定費削減施策を強力に推し進めたことから,営業利益は177億円(前連結会計年度比2.6%増),経常利益は6億円(前連結会計年度比8.3%減)とほぼ前連結会計年度の水準を保つ結果となり,また,当期純損益については,「新経営革新計画」実行に伴う不良化資産の一括処理等による特別損失4302億円を計上したが,債務免除益4300億円の計上等もあり,当期純損失は26億円となった。なお,Zは,上記「新経営革新計画」(甲13)に基づき,平成13年1月24日開催の臨時株主総会決議により,同年3月1日付けで資本金820億8500万円を650億6700万円減少して170億1800万円とした(乙8の6)。
チ Zの第65期(事業年度平成13年4月1日から平成14年3月31日まで。甲41の13)の営業状況
 Zは,この期のZの営業状況について,次のとおり総括しているところ,この総括を事実に反するも

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