H17. 8.22 函館地方裁判所 平成15年(行ウ)第2号 公金不当利得返還等請求事件

平成15年(行ウ)第2号公金不当利得返還等請求事件
口頭弁論終結日平成17年6月10日
判決
(当事者の表示は省略。なお,以下,被告補助参加人を「参加人,被告補助参加」
人民主・市民ネットを「参加人民主・市民ネット,被告補助参加人公明党函館市」
議団を「参加人公明党」という) 。
主文
1 被告は,参加人公明党に対し,17万5800円及びこれに対する平成15
年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,新政21に対し,7万7760円及びこれに対する平成15年3月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
3 被告は,市民クラブに対し,7万0770円及びこれに対する平成15年3
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,補助参加により生じた費用を含めて,原告らに生じた費用の2
分の1,被告に生じた費用の2分の1,参加人民主・市民ネットに生じた費用
の全部,参加人公明党に生じた費用の2分の1,参加人甲に生じた費
用の2分の1を原告らの負担とし,原告らに生じた費用の4分の1と被告に生
じた費用の2分の1を被告の負担とし,原告らに生じた費用の8分の1と参加
人公明党に生じた費用の2分の1を参加人公明党の負担とし,原告らに生じた
費用の8分の1と参加人甲に生じた費用の2分の1を参加人甲
の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,参加人民主・市民ネットに対し,76万2370円及びこれに対す
る平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
2 被告は,参加人公明党に対し,22万4000円及びこれに対する平成15
年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
3 被告は,市政クラブに対し,9万5040円及びこれに対する平成15年3
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
4 被告は,新政21に対し,7万7600円及びこれに対する平成15年3月
1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
5 被告は,新緑クラブに対し,9960円及びこれに対する平成15年3月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
6 被告は,市民クラブに対し,7万0770円及びこれに対する平成15年3
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を請求せよ。
第2 事案の概要
1 本件は,函館市の住民である原告らが,函館市議会の6会派が平成13年度
に支給された政務調査費について使途基準に違反する違法な支出を行ってお
り,上記各会派は函館市に対して上記支出に係る政務調査費相当額を不当利得
として返還すべきであるにもかかわらず,函館市は上記各会派に対する返還請
求を違法に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という)242条の。
2第1項4号に基づき,函館市長である被告に対し,上記各会派に対して当該
支出額に相当する金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することを求めた事案であ
る。
2 争いのない事実等(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない) 。
(1) 当事者等
ア原告らは,いずれも函館市の住民である。
イ平成13年度当時,函館市議会には,参加人民主・市民ネット,参加人
公明党,市政クラブ,新政21,新緑クラブ及び市民クラブ(以下「本件
各会派」という)を含む10会派が存在した。なお,市民クラブは, 。
A 議員(以下「A 議員」という)の一人会派であった。。
ウ参加人甲は,平成13年度当時,函館市議会議員を務めていた
者であり,当初は市政クラブに所属していたが,その後,平成13年7月
ころまでに,新政21に移籍した(甲7,8,26,証人甲,弁
論の全趣旨。)
(2) 法令の定め等
, , , ア法100条13項は普通地方公共団体は条例の定めるところにより
その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議
会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる旨を
定め,これに基づき,函館市においては,函館市議会政務調査費の交付に
関する条例(以下「本件条例」という)及び函館市議会政務調査費の交。
( 「」。) 。付に関する条例施行規則以下本件規則というが制定されている
イ本件条例には,次のような規定がある。
(ア)この条例は,法100条12項及び13項(平成14年法律第4号に
よる改正前のもの,現在は13項及び14項)の規定に基づき,函館市
議会議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,議会におけ
る会派に対し政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるもの
とする(1条。)
(イ)政務調査費は,議長を経由して市長に代表者,経理責任者等を記載し
た会派結成届を提出した会派(所属議員が1人の場合を含む)に対し。
て交付する(2条。)
(ウ)会派に対する政務調査費は,各月1日における当該会派の所属議員数
に月額7万円を乗じて得た額を半期ごとに交付する(3条1項。)
(エ)会派は,政務調査費を本件規則で定める使途基準に従って使用するも
のとし,市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充
ててはならない(5条。)
(オ)政務調査費の交付を受けた会派の代表者(会派が消滅したときは,代
表者であった者)は,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を作
成し,議長に提出しなければならない(6条1項。)
(カ)会派は,政務調査費の交付を受けた年度において,交付を受けた政務
調査費の総額から当該会派がその年度において市政に関する調査研究に
資するため必要な経費として支出した総額を控除して残余がある場合
は,当該残余の額に相当する額の政務調査費を市長からの交付額の確定
の通知のあった日から起算して14日以内に返還しなければならない
(7条1項。)
市長は,政務調査費の交付を受けた会派が第5条の使途基準に反して
政務調査費を支出したと認めるときは,当該支出した額に相当する額の
政務調査費の返還を命ずることができる(7条2項。)
ウ本件規則6条は「条例第5条の規則で定める使途基準は,別表のとお,
りとする」と定め,別表において,以下のとおり,政務調査費の使途を。
6項目に区分し,内容を記載している(以下,本件規則の別表で定める使
途基準を「本件使途基準」という。。)
区分内容
研究研修費会派が行う研究会および研修会の実施に要する経費
ならびに他の団体が開催する研究会,研修会等への
参加に要する経費
調査旅費会派が行う調査研究に必要な先進地調査または現地
調査に要する経費
資料作成費会派が行う調査研究に必要な資料の作成に要する経

資料購入費会派が行う調査研究に必要な図書,資料等の購入に
要する経費
広報広聴費会派が行う調査研究活動,議会活動および市の政策
について市民に報告し,および広報するために要す
る経費ならびに会派が市民からの市政および会派の
政策等に対する要望および意見を聴取するための会
議の開催等に要する経費
事務費会派が行う調査研究活動に係る事務遂行に要する経

エ函館市議会の各会派は,平成13年度当時,本件使途基準の具体的な運
用について申合せをした書面を作成しており,それによれば,旅費の算出
基準は函館市職員等の旅費に関する条例を準用することとされている甲, (
3 。そして,同条例(平成16年11月17日条例第65号による改正)
前のもの)は,旅費のうち日当(旅行中の昼食代及びこれらに伴う諸雑費
並びに目的地を巡回する交通費に充てる費用)は,旅行中の日数に応じ1
日当たりの定額により支給し,宿泊料(宿泊料金,夕食代,朝食代及び宿
泊に伴う諸雑費に充てる費用)は,旅行中の夜数に応じ1夜当たりの定額
により支給する旨定めている(甲26 。)
(3)被告は,本件条例に基づき,平成13年度の政務調査費として,参加人民
主・市民ネットに対し,合計924万円を,参加人公明党に対し,合計42
0万円を,市政クラブに対し,合計406万円を,新政21に対し,合計2
66万円を,新緑クラブに対し,合計336万円を,市民クラブに対し,合
計84万円を,それぞれ交付した。
本件各会派は,上記のとおり交付を受けた政務調査費から,別紙政務調査
( 「」。) 「」, 費支出一覧表以下一覧表というの支出日欄記載の各日付けで
各会派に所属していた同表「対象議員」欄記載の函館市議会議員に対し,当
該議員が研修会参加,調査旅行,資料購入等の調査研究活動に要した経費と
して,同表「支出金額」欄記載の各金額を支出した。上記各支出の際に作成
された支出伝票には,各支出に係る旅行の目的ないし摘要として,同表「支
出目的」欄のとおりの記載がある。
(甲5ないし9,12,13,26)
( , 「」, 以下一覧表の番号1ないし18の各支出を併せて本件各支出といい
また,個別の支出を「番号1の支出「番号2の支出」などという) 」, 。
(4)原告ら並びにB , C , D , E 及び
F (以下「監査請求人ら」という)は,平成14年11月21日付け。
で,函館市監査委員に対し,本件条例に基づき函館市議会の各会派に交付さ
れた平成13年度の政務調査費のうち合計664万2380円について,本
件使途基準を逸脱して違法・不当に支出されているとして,上記相当額66
4万2380円について函館市に返還させるなどの必要な措置を講ずるよう
被告に勧告することを求める旨の住民監査請求を行った(以下「本件監査請
求というまた監査請求人らは同年12月12日付けの書面をもっ」。)。, ,
て,違法・不当な支出であるとする政務調査費相当額を合計1235万55
50円(この中には,本件各支出も含まれていた)に変更する旨の補正を。
した。
上記監査委員は,平成15年1月20日,平成13年度に交付され,各会
派において使用された政務調査費のうち,9件の支出,使用額合計6万79
20円については,本件条例及び本件規則に違反するものであるとして,被
告に対し,該当する会派に対して収支報告書の金額の訂正を求めること,政
務調査費の額が減額となるものについてその返還を求めることなどの必要な
措置を講ずるよう勧告し,その旨を監査請求人らに通知した。
(甲26,27の1・2)
(5)原告らは,平成15年2月18日,本件訴訟を提起した。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1)適法な監査請求前置の有無(本案前の争点)
(被告の主張)
原告らを含む監査請求人らは,平成14年11月21日に本件監査請求を
行ったが,原告らにおいて監査の対象とする財務会計行為は,本件監査請求
の日の1年前である平成13年11月21日よりも前になされたものと考え
られる。そうすると,本件監査請求は,法242条2項所定の監査請求期間
を徒過したものであるから不適法であり,したがって,本件訴えは適法な監
査請求の前置を欠くから不適法である。
(原告らの主張)
本件条例によれば,政務調査費は議会における会派に対し半期ごとに交付
され(3条,交付を受けた会派の代表者は,当該政務調査費に係る収入及)
び支出の報告書を作成して議長に提出し(6条1項,提出を受けた議長は)
その写しを市長に送付するものとされ(同条4項,収支報告書の写しの送)
付を受けた市長は,政務調査費の交付を受けた会派が本件条例5条の使途基
準に反して政務調査費を支出したと認めるときは,当該支出した額に相当す
る額の政務調査費の返還を命ずることができる(7条2項。)
したがって,市長の各会派に対する返還請求権は,平成13年度の政務調
査費に関しては,議長から収支報告書の写しを受けた平成14年4月30日
以降に発生するものと解され,法242条2項所定の1年の監査請求期間も
同日から起算されることとなる。そして,原告らは,上記起算日から1年以
内である平成14年11月21日に本件監査請求を行っているから,上記監
査請求期間を徒過していない。
(2)本件各支出が本件使途基準に反し違法であるか
(原告らの主張)
ア会派が調査研究を行っていない点について
(ア)会派とは,議会内に形成された議員の同士的集合体であり,議員は地
方公共団体の議会の構成員であって,両者はあくまでも別個の概念であ
る。
そして,法100条13項は,政務調査費の交付の対象を会派又は議
員のいずれか一方(あるいは両方)であるとし,会派と議員のいずれに
交付するかは条例で定めるべきとしており,これを受けて本件条例1条
は「議会における会派に対し」政務調査費を交付する旨を規定し,本,
件条例の他の条項も全て会派が交付の対象であることを前提として規定
されている。また,本件条例5条は「会派は,政務調査費を規則で定,
める使途基準に従って使用するものとし」等と定め,本件規則6条の別
表は「調査旅費とは,会派が行う調査研究に必要な先進地調査または,
現地調査に要する経費」と定義するなど,政務調査費を使用して調査す
る主体は議員個人ではなく会派である旨を定めている。
このように,本件条例においては,政務調査費の交付の対象はあくま
で会派であって議員ではない以上,会派と議員を混同させ,交付先を会
派としつつ,実際には議員個人に好きなように使わせることを肯定する
ような裁量は認められない。
(イ)調査研究を会派が行ったといえるためには,以下の各要件を具備する
ことが必要である。
a 当該調査と市政との関連性及び必要性について,会派として意思統
一が図られ,会派から調査研究を担当する議員に対し,指示が出され
ること
b 会派からの要請に応える内容を記載した報告書の提出
c 会派内に分野別に報告書をまとめたファイルを備え置き,調査に
よって得られた情報を内部蓄積し,関係議員がそれを閲覧して活用で
き,aの事前審査にも役立てられるような仕組みが作られていること
d 会派としてのその後の活動に役立てられたこと
(ウ)しかし,函館市議会の各会派においては,当該調査と市政との関連性
及び必要性の判断を最初から完全に議員個人に委ねており,会派として
の事前審査を一切行っていないため,各議員がそれぞれ市政と関連があ
り有益であると思った調査・研究を繰り返し,歳費によってまかなうべ
き研究との区別はおろか私的な観光旅行等との区別も消滅してしまった
のである。その結果,会派に提出される報告書は,同僚議員が読んでも
全く参考にならないものであり,情報の共有化も図られない。
したがって,本件各支出に係る調査研究はいずれも上記(イ)の各要
件を欠き,会派が行ったものとはいえないから,本件各支出はいずれも
本件使途基準に反して違法であるというべきである。
イカラ出張の疑いがある支出について
G 議員(以下「G 議員」という)の金沢市への出張。
及びH 議員(以下「H 議員」という)の東京都への出。
張は,いずれもカラ出張である疑いが強いから,上記各出張に際して支出
された政務調査費(番号4及び5の各支出)は本件使途基準に違反して違
法であるというべきである。
(ア)番号5の支出
G 議員の平成13年10月14日から同月16日までの金沢
, 。。市への出張はカラ出張の疑いが強いその理由は以下のとおりである
a G 議員は,金沢市議会事務局担当者から金沢市内において
「」( 「」。) 運行されている金沢ふらっとバス以下ふらっとバスという
の運行方法等について説明を受けた旨述べているが,金沢市議会事務
局担当者は,そのようなことを説明できる立場にはない。ふらっとバ
スについて詳しく知りたければ,金沢市議会事務局を通じて金沢市都
市政策部交通政策課を訪ねなければならず,そのことを熟知している
金沢市議会事務局が上記交通政策課の担当者を呼ばないで自ら説明す
るということはあり得ない。
b G 議員は,金沢市議会事務局担当者の名刺を持っていない
し,その名前もメモしておらず,覚えていない。なお,金沢市議会事
務局は,原告ら代理人からの問い合わせに対し, G 議員の訪
問の有無は確認できなかった旨を回答している。
c G 議員は,金沢市議会事務局に対し,行政視察依頼書等の
文書を提出して事前の連絡を取っていない。市議会議員が公務で調査
のため出張するに際し,調査先に対し,いつどのような目的で調査に
行くのかを事前に文書で依頼しないことなどあり得ない。
d G 議員は,金沢市議会事務局担当者からふらっとバスの収
支状況等に関する資料は公表しておらず存在しない旨の回答を得たと
証言しているが,原告らの調査によれば,議員の身分のない者であっ
ても金沢市議会事務局担当者に会ってふらっとバスの収支内容,運行
状況等が記載された資料を入手することができたのであり, G
議員が「資料がない」旨の説明を受けたとは考えがたい。
e G 議員は,ふらっとバスが導入された経緯,運行状況,運
行収支,費用負担状況,利用者からの反応等について聴き取った内容
を具体的に報告していない。
f G 議員がふらっとバスに関心を持っていたのであれば,同
じ会派のH 議員が平成13年4月14日から同月17日まで
の間に小浜市,輪島市及び金沢市に出張した際に,同議員に調査を依
頼することが十分可能であった。同じ年に同一会派の議員が二度金沢
市に調査に行くこと自体不自然である。
g G 議員は,出張先で宿泊したホテル名について記憶にない
旨証言するが,本件監査請求が行われるわずか1年前のことで2泊も
したホテルの名前を忘れることなどあり得ない。原告らが金沢駅付近
に所在するホテル8軒に対して照会した結果によっても, G
議員の宿泊の事実は確認されていない。
(イ)番号4の支出
H 議員の平成13年5月30日から同月31日までの東京へ
の出張もカラ出張の疑いが強い。その理由は以下のとおりである。
a H 議員は,上記出張のきっかけとなった総理府の担当者が
誰か,また,その人から紹介を受けた東京都の担当者が誰か,につい
, , て覚えていないしそれらの担当者の名刺もない旨を証言しているが
本件監査請求が行われるわずか1年半前に,わざわざ総理府まで行っ
て面会した担当者及びその担当者から紹介を受けて事前連絡を取って
訪れた東京都の担当者の名前を忘れて思い出せないというのは,不自
然極まりない。
b 上記出張の目的は,函館市の防災計画と東京都の防災計画の比較検
討にあるとされるが, H 議員は,函館市と東京都の防災計画
の相違点は,防災センターの有無と規模の2点であり,他は覚えてい
ないなどと述べるにとどまり,東京都の担当者から受けた説明の内容
について具体的に述べておらず,結局,東京都の何がどのように参考
になったかについて不明確で抽象的な報告しかされていない。
c H 議員は,出張先で受領した資料を紛失した旨を証言する
が,実際に出張して調査したのであれば,受領した資料は必ず保管し
ているはずである。
d H 議員は,函館市議会において東京都への上記出張を前提
とした質問を全くしていない。
, , e H 議員は出張先で宿泊したホテル名を記憶していないが
これは極めて不自然である。
ウ本件各支出に係る調査研究に公益性がない点について
政務調査費を使用した調査出張に公益性があるといえるためには,①普
通地方公共団体の施策等についての見聞を広めることを目的として日程,
訪問地が選定されていること,②上記目的に沿って訪問調査が実施されて
いること,③訪問先で中身のある説明や質疑応答がされていること,④訪
問調査が行程の主要な部分を占めていること,⑤旅行の費用が目的・効果
との関係で著しく高額ではないこと,という各要件を満たしていなければ
ならない。特に,上記①ないし③の各要件が重要であり,言い換えれば,
調査の目的及び内容が市政との関連性を有していることが必要である。
しかし,本件各支出に係る調査研究は,以下に述べるとおり,いずれも
上記①ないし③の各要件を満たしておらず,公益性を有していないから,
本件各支出は本件使途基準に違反して違法であるというべきである。
(ア)番号1,2の支出
I 議員(以下「I 議員」という)は,平成14年。
2月7日から同月9日まで東京都において開催された研修会に参加した
後,一旦函館に帰還し,同日から同月11日までの間,再び東京に出張
してシンポジウムに参加したとして,その旅費を政務調査費から受領し
ている。
しかし,前後の日に東京において予定が入っている場合に,間の1日
が非用務日であるからといって,一旦函館に帰還し,その日のうちに東
京に戻る理由も必要性も存在しないし, I 議員が平成14年2
月9日に東京・函館間を往復したことを裏付ける証拠は存在しない。し
たがって, I 議員は,実際には平成14年2月9日に東京・函
館間を往復していないものというべきである。
仮に,東京・函館間を往復した事実があるとしても,公務ではないわ
ずか2時間の町会三役会議に出席するために多額の公金を支出して東京
  • 函館間を往復するのは論外である。
よって,東京・函館間を飛行機で往復するために政務調査費から支出
した費用4万5900円は返還すべきである。
(イ)番号3の支出
H 議員は,平成13年4月14日から同月17日までの間,
福井県小浜市,石川県金沢市及び同県輪島市に出張している。
しかし, H 議員は,小浜市に出張した目的について,函館の
魚市場について上屋の建設等に関する協議がされていたことから,小浜
市の魚市場を調査した旨述べるが,これはH 議員が会派に提出
した報告書に記載されている調査事項とは異なっており,しかも,当時
函館市においては新しい市場の建設計画が進んでいたというのであり,
。, , 上屋を増設する必要性はなかったはずであるまたH 議員は
小浜市の魚市場の関係者から上屋建設の費用や効果等について説明を受
けたり,魚市場の上屋を写真撮影することもなく,単に魚市場の外観を
見たにすぎない。さらに,同議員が小浜市に出張した際に利用した飛行
機及びJRの時刻宿泊したホテルから推測して同議員が小浜市に行っ, ,
たこと自体,極めて疑わしく,同議員は小松空港から小浜市には行かず
加賀市内のホテルに直行した疑いが強い。
また, H 議員は,函館市の朝市に関する問題の解決策を探す
ために輪島市の朝市に調査に赴いたと言うが,同朝市の関係者から説明
を受けたり,同朝市と輪島市の行政当局との関わりを調査することもな
く,同朝市を見て回り,買った品物とそれに伴い送られた品物とが同一
であることを確認したにすぎない。
金沢市においても,行政担当者からの聴取等を行わずに,再開発事業
の調査と称して再開発ビルに入居している喫茶店の店主と雑談したり,
武家屋敷の整備の調査と称してトイレや案内板を見て歩いたにすぎな
い。
以上によれば, H 議員による小浜市,輪島市及び金沢市への
出張は,観光旅行を調査出張に見せかけたものであり,公益性は全くな
いというべきである。
(ウ)番号4の支出
仮に, H 議員が,平成13年5月30日から同月31日にか
けて東京都へ出張したことが認められるとしても,上記イ(イ)のとお
り同議員は面会した東京都の担当者の氏名すら覚えておらず,東京都の
防災計画が函館市の防災計画にどのように役立つかについて具体的に報
告していないことなどに照らせば,上記出張について函館市政との関連
性は認められず,公益性はないものというべきである。
(エ)番号5の支出
仮に, G 議員が,平成13年10月14日から同月16日に
かけて金沢市へ出張したことが認められるとしても,同議員は,ふらっ
とバスの運行を企画した金沢市都市政策部交通政策課及び運行主体であ
る北陸鉄道の各担当者とも面談せずに,単に同バスに乗車したにすぎな
いものであり,これで調査の目的を達することができたとは到底考えら
れない。したがって,上記出張について函館市政との関連性は認められ
ず,公益性はないものというべきである。
(オ)番号6の支出
J 議員(以下「J 議員」という)及びG 。
議員は,平成13年11月12日から同月16日までの間,鹿児島市,
山口市及び富士宮市に出張している。
しかし,鹿児島市においては,函館市の課題である廃棄物処理問題等
の環境行政の検討のために,鹿児島市の市街地整備や廃棄物処分場を視
察したと言うが,提出された資料を見ても同処分場の所在地,規模,機
能,運営方法等は明らかではなく,これでは調査の目的を果たしたとは
いえない。富士宮市における日本語学校の視察も市政との関連性が希薄
である。
また,山口大学を訪問した目的は, K 学長への表敬訪問であ
り,鹿児島まで来たついでに顔を出しておこうという程度にすぎないの
であるから,明らかに政務調査費の目的外の出張である。しかも事前連
絡もせずに訪問して結局面会できなかったのであるから,調査として無
駄というほかない。
以上によれば,上記出張について函館市政との関連性は認められず,
公益性はないものというべきである。仮に,鹿児島市及び富士宮市への
出張に公益性が認められるとしても,少なくとも山口大学を訪問したこ
とに伴い増加した調査旅費(1泊分の宿泊費)は目的外支出である。
(カ)番号7の支出
L 議員(以下「L 議員」という)は,平成13年。
, ,「」5月21日から同月24日までの間東京都に出張し目黒寄生虫館
(以下「寄生虫館」という「谷内田デザイン研究所(以下「デザ。), 」
イン研究所」という)及び「晴海アイランドトリトンスクエア(以。」
下「トリトンスクエア」という)を視察している。。
しかし, L 議員は,珍しいなどという理由で視察の対象に寄
生虫館を選定し,同博物館の職員等から説明を受けることもなく,その
後,博物館の調査をしたことも函館市における博物館の建設について何
らかの提言等をしたこともないことなどからすれば,寄生虫館の視察は
個人的趣味のための視察であり,公益性は全くない。
また,デザイン研究所及びトリトンスクエアの視察についても,当時
函館市においてトリトンスクエアのような大規模な開発計画はなかった
こと, L 議員は,大規模な開発計画について調査研究の成果品
を作成したことはないこと,その後,同種の開発の現場を調査したこと
はないこと,トリトンスクエアを引き合いに出して議会において質問し
たことはないこと,カメラを持って行かなかったことなどからすれば,
函館市政との関連性は全く認められない。
なお,上記出張には2日あれば十分であるから,仮に公益性が認めら
れるとしても,同月23日及び24日の宿泊費分は本件使途基準に違反
する支出といわざるを得ない。
(キ)番号8の支出
, , L 議員は平成13年10月20日から同月21日までの間
札幌市に出張し,札幌ドーム及び「M 展」を視察している。
しかし上記視察の際に札幌ドームではイベントは開催されていなかっ,
た上,そもそもL 議員はイベントの開催の有無について事前調
査をしていないこと,札幌ドームの運営及び管理について関係者から調
査していないこと,札幌ドームの調査を市政に役立てたことはないし,
その後,同種施設を調査したこともないことなどからすれば,市政との
関連性は全くない。
また「M 展」の視察は,完全に趣味の領域であり,やはり,
市政との関連性は全くない。
(ク)番号9,10の支出
L 議員は,平成14年1月20日から同月21日までの間,
札幌市に出張して「住宅のN 全プロジェクト模型』札幌巡『
回展(以下「N 展」という)を視察しているが,この視察」。
も,結局,目下の函館市の課題とは何の関係もない調査であったのであ
り,市政との具体的関連性はなく,個人的な興味を満足させるものでし
かない。
(ケ)番号11の支出
L 議員は,平成14年3月3日, O 氏の作曲にかか
る楽曲等が録音されたCDを購入しているが,このようなCDを購入す
ることは,個人的な趣味の範疇に属するものであり,市政との関連性は
認められない。
(コ)番号12の支出
P 議員(以下「P 議員」という)は,平成13年。
4月13日,全日本司厨士協会函館支部主催の「食の祭典」に参加して
いるが,これは1万円もの会費を支払って料理を食べる催しであって,
政務調査費の使途として不適正であり,私費で参加すべきものである。
(サ)番号13の支出
参加人甲は,平成13年4月30日から同年5月2日までの
間,東京都に出張し,品川区に所在する戸越銀座商店街及び「船の科学
」「」( 「」。) 館に展示されている旧青函連絡船羊蹄丸以下羊蹄丸という
を視察している。
しかし,参加人甲は,戸越銀座商店街に対して東京都から補
助金が出されているかといった同商店街と行政との関係について何ら調
査をしていないこと,羊蹄丸の視察についても,上記科学館の経営に携
わる者等と面談して同科学館の経営状況,羊蹄丸を展示した理由等につ
いて説明を受けたことはなく,見学者の一人として案内人から多少話を
聞いたにすぎないことなどからすれば,上記各視察も市政との関連性は
ないものというべきである。
なお,上記各視察には1日あれば十分であり,宿泊費1泊分の支出は
無駄である。
(シ)番号14の支出
, , 参加人甲は平成13年9月22日から同月24日までの間
釧路市の漁港調査及び旭川市の観光調査のため出張している。
しかし,参加人甲は,釧路漁港の調査の目的について,サン
マ船が漁獲したサンマの鮮度を保持して運搬する技術を調べるためであ
ると主張するが,その種のことはサンマ船の船主が工夫すれば済むこと
であり,市政とは何の関連性もない。しかも,調査当日は休漁であった
というが,そのようなことは事前に調査すれば分かるのに,漁港の関係
者等に事前連絡をしないまま釧路漁港を視察しているのであり,このよ
うな調査で効果的な調査などできるはずがない。また,旭川市の観光調
査も,3経路の観光用の循環バスに乗車したにすぎず,まさに観光その
ものである。函館発着の航空便の搭乗率については,実際に搭乗しなく
ても調査が可能であるし,搭乗したからといって搭乗率が分かるわけで
はない。
これらの事情からすれば,参加人甲は釧路市及び旭川市への
観光旅行について,後から視察の名目で政務調査費として費用を請求し
たものと考えられ,市政との関連性は全く認められない。
(ス)番号15,16の支出
Q 議員(以下「Q 議員」という)は,平成13年。
8月22日から同月24日までの間,福島県いわき市及び須賀川市に出
張し,いわき市に所在する展望台「マリンタワー」及び須賀川市で開催
された「うつくしま未来博」を視察している。しかし, Q 議員
とともに視察したとされる他の3名の議員は,政務調査費を使用せず自
費で視察しており,一貫性がなく不可解であり,他の3名とはQ
議員の家族であったのではないかとの疑惑も残る。したがって,番号
15及び16の各支出も違法であるというべきである。
(セ)番号17,18の支出
A 議員は,平成13年5月11日に英会話教材「英語スピー
ドラーニング」を,同月6日に上記教材を利用するための機器であるC
Dプレーヤーを,それぞれ購入しているが,自らの資質向上のために研
修,研さんに努めることは,自己の負担で行うべきであり,公費である
政務調査費を使用することは許されない。また,CDプレーヤーは,汎
用性があり,英会話の習得にしか利用できないものではない。
よって,これらの支出も公益性を欠くものというべきである。
エ以上のとおり,本件各支出はいずれも本件使途基準に反して違法である
から,本件各会派は,一覧表の請求金額欄記載のとおり,それぞれ各支出
相当額(ただし,番号1及び2の各支出については,その支出金額の合計
のうち東京・函館間を往復した交通費相当額である4万5900円,番号
15及び16の各支出については,それぞれQ 議員を除く3名分
の入場料相当額である960円及び9000円)を不当利得として被告に
返還すべき義務がある。
(被告の主張)
ア政務調査費は,平成12年法律第89号による法の一部改正によって制
度化されたものであるが,これは,いわゆる地方分権一括法の制定に伴い
法の改正等がなされ,地方公共団体の自己決定権及び自己責任が拡大する
中,その議会が担う役割がますます重要となっていることから,地方議会
議員の調査活動基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対す
る調査研究費の助成を制度化したものである。
地方公共団体の議会及び議員は,その活動について原則として他から干
渉されないという独立性が保障されなければならない。また,現代の議会
においては,会派が存在し,議員の意見は会派を単位として集約され,議
会活動が行われるなど,会派が重要な役割を担っていることからすれば,
会派の独立性も尊重されねばならない。
さらに,地方公共団体の行う施策及び事業は広範多岐にわたり,これに
伴い,議員及び会派の市政に関する調査研究事項も広範多岐にわたる。そ
して,議員及び会派が積極的に政策を提言,提案することが期待されてい
ることからすれば,その調査研究事項は,地方公共団体が現に自ら取り組
み,あるいは取り組もうとしている施策,事業に限らず,いまだ取り組む
に至っていない事項,当該地方公共団体に所在する地域における民間の事
業や他の都市の事例に関する事項にも及ぶものというべきである。また,
結果的に,調査研究事項が地方公共団体の施策,事業に直ちに結びつかな
かったとしても,その調査研究事項としての適格性が否定されるべきでは
ない。
このような政務調査費が制度化された趣旨や地方公共団体における議
会,議員及び会派の独立性の保障の観点からすれば,政務調査費について
は,会派及びこれに所属する議員に,その支出(使用)についての広範な
裁量権が認められるべきである。このことは,政務調査費の収支報告書の
提出先が市長ではなく議会議長とされていること(法100条14項,本
件条例6条)にも表れている。
そうであれば,被告は,原則として会派及び議員による政務調査費の支
出についての裁量権を尊重すべきであり,明らかに使途基準に反して使用
したと認められる場合でなければ,その返還を命じるのは相当ではない。
イ会派は,その所属議員によって構成され,会派の活動は具体的には所属
議員の行動によることとなるが,いかなる所属議員の行動をもって会派の
, 。活動とするかについては基本的にその会派に任せられるべきものである
すなわち,会派が,所属議員の調査研究活動について,これを会派の活動
とする旨を承認し,これに基づき,当該所属議員に対して当該調査研究活
動に必要な金員を政務調査費から交付していれば「会派の活動」と認め,
るに支障はなく,あとは当該調査研究活動における上記金員の使用が本件
使途基準を逸脱していないかをチェックすれば足りると考えられる。
本件においては,被告から各会派に対して交付された政務調査費は,各
会派の経理責任者がこれを管理しており,各会派の所属議員は,具体的な
調査研究活動ごとに,その活動内容及びこれに必要な政務調査費からの支
出を求める金額を会派に申請し,会派代表者及び経理責任者からその活動
内容及び金額の承認を得た上で,経理責任者からその金員の交付を受け,
さらに,会派に対しその活動内容について報告をしているのであり,これ
によれば,各会派は,所属議員の調査研究活動をもって,会派の調査研究
活動とすることを承認していることが明らかである。
ウ本件各支出は,函館市の定める「函館市総合計画」の主要施策と関連性
を有する上,以下に述べるような事情からすれば,番号3ないし10,1
3及び14の各支出は「調査旅費,番号1,2,12,15ないし18 」
の各支出は「研究研修費,番号11の支出は「資料購入費」に当たり, 」
いずれも本件使途基準に違反しないというべきである。
(ア)番号1,2の支出
I 議員は,平成14年2月9日に開催されたa 町会
三役会議に出席するため,東京・函館間を往復する必要があったことか
, 。らすれば上記往復に要した航空運賃分は研究研修費として相当である
(イ)番号3の支出
H 議員は,函館市と類似した水産都市である小浜市において
水産物市場の上屋を視察し,函館市において建設が検討されている市場
上屋の参考となった。また,函館市と同様に観光都市である輪島市にお
いて朝市を,金沢市において商店街再開発,街並み等を視察し,函館市
の街作りの参考となった。
(ウ)番号4の支出
H 議員は,かつて総理府の担当者から,東京都の防災計画の
調査が有益である旨の指摘を受けたことから,函館市の防災計画と東京
都の防災計画を比較検討するため,東京都災害対策部防災計画課を訪問
し,防災計画及び災害対策本部を調査した。
(エ)番号5の支出
G 議員は,新しい時代の都市機能及び街作りの検討のため,
高次都市機能を目指し,人・町・環境に優しい街作りの交通施策である
「金沢オムニバスタウン構想」の重点施策として導入されたふらっとバ
スを視察した。現地で同バスに乗車し,運行状況をつぶさに視察するこ
とに意義があった。
(オ)番号6の支出
J 議員及びG 議員は,函館市の課題である廃棄物処
理問題を中心とする環境行政の検討のため,鹿児島市において市街地整
備や大規模な廃棄物最終処分場を,公立はこだて未来大学(以下「はこ
だて未来大学」という)の検討のため,山口市の山口大学を,国際交。
流の検討のため,富士宮市の中国人日本語学校(ACC国際交流学園)
を,それぞれ視察した。山口大学のK 学長と面談できなかった
こと及び富士宮市議会を訪問できなかったことで,視察の意義が失われ
るわけではない。
(カ)番号7の支出
L 議員は,博物館の改革が函館市の社会教育施設整備計画に
位置づけられ,また,ウォーターフロント開発も函館市の重要課題であ
ることから,東京都内の寄生虫館並びにウォーターフロント開発の先進
例であるトリトンスクエア及びその開発計画を作成したデザイン研究所
を視察した。上記各視察に2日を要し,航空機便の都合で東京における
前後泊が必要となったため,3泊を要したものである。
(キ)番号8の支出
L 議員は,函館市の市政上,大規模なイベントホールの建設
が大きな論争点となっていることから,その検討に資するため,大規模
アリーナである札幌ドームにおけるアリーナの管理及びイベント運営の
実際を視察した。
(ク)番号9,10の支出
, , L 議員は歴史的街並みは函館市における重要な資源であり
これと新しいデザインの建物が融合して新たな価値が付加されることに
ついての関心から,フランスの建築デザイナーであるN の模型
展を視察し,函館における同模型展の開催を検討した。
(ケ)番号11の支出
O 氏は,函館出身で「はこだて賛歌」を作曲するなどした著
名な音楽家であり,度々函館において同氏のコンサート等のイベントが
開催されているところ, L 議員は, O 氏を中心とする
イベント等について考えるべく,同氏の作にかかる楽曲を理解し検討す
るため,その楽曲が収録されたCDを購入した。
(コ)番号12の支出
全日本司厨士協会函館支部は,毎年食文化の研究発表会である大会を
開催しているところ, P 議員が参加した「食の祭典」も,その
内容は函館市保健所が課題として取り組んでいる政策「健康はこだて2
1」に関して参考となるものであり,輸入食品の活用と安全性等につい
て参加者や主催者との意見交換がなされ,今後の食生活を考える上で資
するものであった。
(サ)番号13の支出
参加人甲は,函館市における商店街の活性化の参考とするた
め,成功例として著名な東京都品川区に所在する戸越銀座商店街を視察
し,商店主及び買物客から意見を聴取した。また,函館シーポートプラ
ザに係留中の「旧青函連絡船摩周丸(以下「摩周丸」という)の保」。
存・活用は函館市の大きな課題であることから「船の科学館」に展示,
されている羊蹄丸を視察した。なお,ゴールデンウィーク中に視察した
のは,その間の商店街への人出及びこれに対する商店街の対応を視察す
るためである。
(シ)番号14の支出
参加人甲は,函館市の基幹産業である漁業との関係で,釧路
におけるサンマ漁を,経営破綻状態で摩周丸の函館市による買取りが検
討されていた函館シーポートプラザとの関係で,同様の状態で釧路市が
買取りをしたウォーターフロント観光施設「MOO」を,函館市の基幹
産業である観光との関係で,旭川市の観光の現状,特に観光循環バス,
木工展示場及び旭山動物園を,それぞれ視察した。釧路のサンマ漁は,
生産調整のため突然休漁となったため視察は果たせなかったが,それに
よって,この視察旅行の妥当性が損なわれるものではない。
(ス)番号15,16の支出
新緑クラブに所属するQ 議員及びその他の3名の議員は,
ウォーターフロント開発及び観光振興が函館市の重要課題であることか
ら,いわき市の小名浜港近くに所在し,福島県が設置し財団法人が管理
している海洋科学館「アクアマリンふくしま」及び市が設置し第三セク
ターが管理している展望台「マリンタワー」を視察し,また,観光振興
の観点から福島県が主催し須賀川市が協力して開催された博覧会う, , 「
つくしま未来博」を視察した。
(セ)番号17,18の支出
A 議員は,函館市においては,カナダのハリファックス市,
オーストラリアのレイク・マコーリー市,ロシアのウラジオストク市及
びユジノサハリンスク市と姉妹都市,中国の天津市と友好交流都市の関
係にあるなど国際交流が市政上の重要課題であることから,市議会議員
としても資質向上のため英会話研修の必要があると考え,その教材及び
機器を購入した。
(参加人民主・市民ネットの主張)
ア地方議会議員の調査活動は,広範多岐にわたるものであり,議員の政治
活動の自由の一環として,他から干渉されない独立性が保障されるべきで
ある。したがって,政務調査費を利用した調査研究活動が公益性を有する
必要があることは当然であるとしても,何をどのような角度で調査研究す
るかについては原則として束縛されるものではなく,議員個人の自由裁量
に委ねられるべきである。
イ会派とは,政策や考え方が全て共通する議員によって形成されているも
のではなく,概ね同様の考え方を有する議員がその政策の実現に向けて集
, , 合しているものであって課題によっては意見の違う場合もあるのであり
選挙に立候補するに当たっても,各自の市政に関する考えを市民に訴え,
当選後はその実現に向けて努力している。
そこで,参加人民主・市民ネットは,その所属議員が行う調査研究につ
いて,会派として調査の必要性を判断し,その範囲を狭めることは個々の
議員の政治活動の自由を阻害することにつながるものと考え,政務調査費
の使途基準に違反しない範囲において幅広く認めることとし,各所属議員
から個別に申請がなされ,代表者が承認した調査研究活動について「会,
派が行う調査研究」としている。
ウ参加人民主・市民ネットが,番号1ないし6の各支出に係る各出張に政
務調査費を支出したことは,以下のような各視察の目的,態様等に照らせ
ば,本件使途基準に違反しない。
(ア)番号1,2の支出について
I 議員は,当初から非用務日は函館に帰還すべきであると認
識していたこと,同じ参加人民主・市民ネットに所属するR 議
員からも,非用務日は函館に帰らなければならないと助言されていたこ
と,旅費の計算において議会事務局から特に問題があるとの指摘がされ
なかったこと等から,用務のない日は函館に帰るべきであると考えて
帰ったにすぎない。そして,当時,非用務日に関する条例等の定めは特
に存在しなかったことに照らしても, I 議員が非用務日である
平成14年2月9日に一旦函館に帰還したことが誤りであるとはいえな
い。
(イ)番号3の支出について
H 議員は,函館市の水産物卸売市場の設備について改善を求
める要望があったことから,金沢市等への出張の際に,福井県小浜市の
魚市場をも視察日程に入れることとし,平成13年4月14日午後3時
30分ころから午後4時30分ころまで約1時間,上記魚市場の施設内
部やその周辺の仲卸の建物,配送センター等を見て回った。
また,同議員は,函館市の観光行政や再開発事業の参考とするため,
北陸地方の観光地として名高く再開発事業で商店街が整備された金沢市
を視察することとし,事前に金沢市の再開発事業等に関する資料を入手
して内容を調査した上,実際に現地に行って,商店街や武家屋敷等の歴
史的建造物を視察した。
さらに,同議員は,函館市の朝市は観光客からの苦情が絶えない状況
にあることから,他の朝市の実態を調査して比較対照し,対策を検討す
るため,輪島市の朝市を視察することとし,同朝市を端から端まで歩き
ながら状況を調査し,商店主から話を聞くなどした。
(ウ)番号4の支出について
H 議員は,函館市の防災計画の参考にするため,平成13年
5月30日及び同月31日に東京都に出張し,事前に連絡を取っていた
東京都総務局災害対策部災害対策課の担当職員と面談して東京都の防災
計画全般等について説明を受け,その後,都庁8階の防災センターを視
察し,説明を受けるなどした。
(エ)番号5の支出について
G 議員は,従前から交通事業について調査研究を行っていた
ところ,金沢市の交通施策である「金沢オムニバスタウン構想」の重点
施策として導入されたふらっとバスの収支状況,運行状況等について調
査し,函館市においても同様の交通機関を導入することの可能性等につ
いて検討するため,平成13年10月14日から同月16日にかけて金
沢市に出張し,金沢市議会事務局からふらっとバスの導入の経緯や収支
状況の概要等について説明を受けたり,実際にふらっとバスに乗車した
り,アーケード街でふらっとバスの利用者の声や反応を聴取するなどし
た。
(オ)番号6の支出について
J 議員は,鹿児島市の街作り等について調査するため,鹿児
島市に出張して,鹿児島市役所を訪問したり同市内を視察するなどし,
また,函館市の国際交流事業を深め,日本語学校の建設等を検討するた
め,富士宮市に所在し,通訳等として面識のあった中国人が勤務する日
本語学校を視察した。さらに,上記視察の行程の途中で,はこだて未来
大学発足の推進役となるなど函館市の教育文化の発展と関わりの深い
K 学長を表敬訪問し,はこだて未来大学等への今後の支援を依頼
しようと考え,山口大学を訪れた。G 議員も上記各視察に関心
を示して同行することとなった。
, , 結果としてK 学長が不在で面会できなかったからといって
上記出張が無駄であったとはいえない。
(参加人公明党の主張)
ア会派は,市の政策等について共通する考えを有する議員が,議会活動を
通じてその実現を図るために結成しているのであり,先に会派としての意
志があるのではない。そして,政策の実現を図るためには,幅広い知識や
調査研究が必要であり,個々の議員が様々な角度から行う調査研究は,会
。, 派としての意見をまとめる際に当然活かされるものであるこのことから
参加人公明党としては,政務調査費を利用した調査研究については,個々
の議員が個別に調査の目的,場所等を定め,経理責任者が使途基準に合致
するかどうかを判断し,会派の代表者の承認を得た上で,調査研究を行う
という扱いをしてきたものであり「会派が行う調査研究」といえる。,
イ参加人公明党が,番号7ないし11の各支出に係る各視察や資料の購入
に政務調査費を支出したことは,以下のような各視察ないし資料購入の目
的,態様等に照らせば,本件使途基準に違反しない。
(ア)番号7の支出
, , L 議員はかねてから博物館は重要な観光資源であると考え
公営の博物館の建設,民間の博物館への支援の在り方等について,幅広
く情報を収集し,調査研究をしており,その一環として,東京都目黒区
に所在する世界でただ一つの珍しい寄生虫館を視察した。
また,同議員は,函館市の臨海地域の再開発を検討する上で,その実
例を調査する目的で,東京都に所在するトリトンスクエアを視察すると
ともに,その開発計画の作成に関与したデザイン研究所を訪問して,ト
リトンスクエアの構想から完成に至るまでの概略の説明を受けるなどし
た。
(イ)番号8の支出
L 議員は,函館市には大規模なイベントホールがなく,その
必要性等について議論されていたことから,大規模アリーナの管理やイ
ベントの運営等を調査するため,札幌ドームを視察した。
また,同議員は,函館市において芸術文化を振興させる観点から,そ
の政策提言のためには自らも幅広い文化芸術に触れ,能力を高めること
が必要であると考え,日本画の当代第一人者と評価されているM
氏の展覧会を鑑賞した。
(ウ)番号9,10の支出
L 議員は,歴史的景観を観光資源とする函館市としては,新
たに建築される住宅のデザインについても注目すべきであると考え,フ
ランスの建築デザイナーであるN が設計した住宅の模型の展示
会を視察した。L 議員は, N の住宅模型展を函館市に
おいても開催し,地元の建築家等の参考に資することを企図して函館市
都市建設部の職員に相談したが,地元の建築家が,同じ時期に, N
と同時代に活躍した建築デザイナーであるS に関する展示
会等を企画し開催したことから,今回は見送ることにしたのである。
(エ)番号11の支出
L 議員は,音楽が,街作りにとって欠かせない重要な要素で
あることから,その研究のための参考資料として「はこだて賛歌」を作,
曲し,近年は函館においてフルートによる街作りを提唱するなどしている
O 氏及び同氏と関係の深い地元演奏家の演奏に係る音楽が収録さ
れたCDを購入した。
(参加人甲の主張)
ア番号13の支出
参加人甲は,函館市内の商店街の活性化策を検討するため,活
性化に成功している戸越銀座商店街を視察した。また,函館港に係留中の
摩周丸の保存及び活用は当時大きな課題とされていたことから「船の科,
学館」に係留中の羊蹄丸の運営状況等を調査し,摩周丸に関する対策に反
映させることを企図して,羊蹄丸を視察した。
イ番号14の支出
参加人甲は,函館市の基幹産業の一つである水産業の振興策を
市当局に働きかけるため,まず実態調査を行う必要があると考え,釧路港
の視察を行い,また,同港に設置されている観光施設も併せて視察した。
視察当日は休漁のため調査が実施できなかったが,豊漁による自主休漁と
いう予測外の事情によるものであり,やむを得ない。
また,参加人甲は,函館市の主要産業の一つである観光産業の
振興策との関係で,旭川市の観光産業の現状を調査するため,同市におけ
る観光循環バスの運行状況,木工展示場,旭山動物園等を視察した。
さらに,参加人甲は,釧路市及び旭川市への出張に航空便を利
用することにより,函館市と上記各都市間の航空便の利用状況や利便性を
併せて調査した。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1 (適法な監査請求前置の有無)について)
(1)被告は,本件監査請求は,法242条2項が定める監査請求期間を徒過し
ているから不適法であり,したがって,本件訴えは適法な監査請求の前置を
欠き不適法であると主張する。
(2)しかしながら,法242条2項本文は,監査請求の対象事項のうち財務会
計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過
したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対
象事項のうち怠る事実については,このような期間制限は規定されていない
から,怠る事実に係る監査請求については,原則として,上記規定は適用さ
れないものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規
に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生す
る実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合に
は,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生したと認められるので
あり,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,上記規定の趣旨を
没却することとなるから,このような場合には,当該行為のあった日又は終
わった日を基準として上記規定を適用すべきである(最高裁昭和57年(行
ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122
頁参照。)
これを本件についてみると,本件監査請求の対象事項は,函館市が各会派
に対して有する政務調査費の返還請求権の行使を怠る事実であるが,当該返
還請求権は,各会派が函館市から交付を受けた政務調査費について,本件

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