アットウィキロゴ

第一章

涼宮ハルヒのSS 厳選名作集>>長編>>もう一人の秘された神

 

夏休みを間近に控えた七月某日。

「すみません。 夏休み最初の週の活動は欠席したいのですが」

「え?どうしたの古泉君?」

SOS団の活動より優先するものがお前にあるとは、知らなかったな。

「実は、某大学で予定されている興味深い実験に参加したいと思いまして」

「へえ? なんだか古泉君らしいわね。 どこかの誰かとは大~違い」

こっちみんな。

「で、なんの実験なの?」

「研究中のマン=マシンインターフェイスです」
「公式発表に先立って、予備知識の無い一般人に実験機を使ってもらい最終的な調整を行うのだそうです」

マン=マシンインターフェイスってなんだ?

「もうっ、そのくらい一般常識レベルよ?」
「古泉君、説明して」

「キーボードやマウス、コンピュータのモニタは一般的なマン=マシンインターフェイスのひとつです」
「高度なものでは、神経のパルスを拾って屈伸する義手、義足、パワーアシスト装具なども該当します」
「完成した実験機は知覚カプラーと呼ばれていて、全ての知覚を再現することができる。 と聞いています」

それって凄いのか?

「我々が環境を認識できるのは、多くの情報を知覚を通じて得ているからです」
「知覚カプラーが本当に全ての知覚を再現できるなら、現実と変わらない仮想世界を作り出すことができるはずです」

「みなさんも参加してみませんか? 実は、SOS団で参加申請をしたので五人分の参加枠があるんです」

おいおい、やけに手回しがいいじゃねーか。
あからさまに機関がらみなのがばればれだな。

「ふーん……」

こいつの性格からすると、仮想世界なんぞにはあまり興味を持ちそうに無いな。
本当に楽しいことは現実に楽しんでこそ、とか考えそうだ。
未来人の朝比奈さんにとっては博物館ものだろうし、長門にいたっては……
残念だな、古泉。今回のたくらみはちょっとスジが悪そうだぜ?

「わかったわ。 いつ、どこに行けばいいの?」

「行くのかよ!」

「なに驚いてるの、あんたも来るのよ。 どうせ家でダラダラする気だったんでしょう」

「じゃ、当日は朝八時にいつものところに集合! 遅れたら、仮想世界に閉じ込めてやるから!」

帰り道、先頭を行くハルヒに聞こえないよう古泉の奴に話しかけた。

おい、実験とやらは機関がらみなのか?

「いえ、機関とは何の関係もありません」

本当か?

「神に誓って」

お前の神はハルヒだろうが。
それに、そんなニヤけた顔で誓われても胡散臭いだけだ。

「これはひどい」

だからニヤけるなっての。

それからの期末試験の答案返還やらは思い出したくも無いが、とにもかくにも明日から夏休みだ。
そして大学見学の初日でもある。

なにか…妙な予感がする。
が、長門の様子にも変わったところは無かったし大丈夫だろう
まぁいいさ。 せいぜい夏休み初日を楽しもう。 普通に。

※※※※※※※※

「遅い! 罰金!」

セリフの主はハルヒじゃない、俺だ。
お前が最後とは珍しい。 俺が知る限りまだ二度目だ。

「ちょっと、夕べ、むり、しちゃって」
「それから、いまのあたしの、真似? 似てないから、やめなさい」

息切らしながらしゃべらんでもいいから。 いつものとこ行くか?
ハルヒの汗をハンカチでぬぐう朝比奈さんの姿がかいがいしい

「だめよ。 時間になっちゃうわ。 もう行かなきゃ」

時間はまだありそうだが…… 腕時計で見ても、一息ついていくくらいの余裕はある。

「そんなことだからいつも遅刻するのよ。 改めなさい」

「ではみなさん、揃ったことですしそろそろ移動しましょう。 切符は買ってあります」

気前がいいな。 本当に裏はないんだろうな?

「僕のわがままで付き合っていただいているのですから、このくらいはさせてください」

「さすが古泉君ね。 気遣いがいきとどいてるわ」

だからこっちみんな。
ところで、無理ってなにやってたんだ?

「あぁ、宿題よ。 さすがに一晩で全部やっつけるのは無理だったわ。 あと三時間もあれば何とかなりそうだったんだけど」

しれっとなんでもないことみたいに言うな。

カタタン カタタン
列車の擬音といえばこれしかないと思うが、最近は継ぎ目のないレールが当たり前になってあまり音がしない。
まぁ、どうでもいいが。 ともかく、俺たちは列車に乗っているわけだ。
ハルヒを真ん中に朝比奈さんと長門が座り、野郎二人はつり革につかまっている。
降りる駅まで小一時間、ハルヒは朝比奈さんによりかかって寝入ってしまった。
こいつの寝顔をまじまじと見るのは初めてだな。本当にかわいい・・・

ふと、朝比奈さんの視線を感じて目を向けると、見る者すべてに幸せを与えずにはおかない笑顔で

「キョンくん?鼻のしたが伸びてますよ?」

なっ!!

「おやおや、珍しく素直な表情をひそかに楽しんでいたのですが元に戻ってしまわれましたね」

ハルヒがかわいいのは一般論であってだな、俺は別に特別な何かがあったりはしないぞ? うん。 ない。

なんだ二人とも、こらえ切れない笑いを押し殺したような顔をして。

「いえ別に。 我々はあなたの表情を指摘しただけであって」

こら、俺の朝比奈さんと妙なアイコンタクトを取るんじゃない

「キョンくんが誰かを見てたなんて、ぜんぜん言ってませんよね」

「あなたの表情筋は弛緩していた。 そのときの視覚情報も記録してある」

長門っ!?

「……記録を見る?」

見ない!誰にも見せるんじゃない! 頼むから消してくれ

長門は俺を静かに見つめた後、なにも言わずに読書に戻った

頼むから消して……

「長門さん長門さん」

朝比奈さんが片手を長門に差し出しながら、ニコニコしている。
まさか……
長門の指がゆっくりと、朝比奈さんの手にちょんと触れた

「ふあぁ~」

顔を赤くしてかわいい悲鳴をあげる朝比奈さん。
……もう好きにしてください……
天使のような笑顔が見られるなら、俺の恥くらいなんでもありません。

「興味深いですね。 僕にもできないものでしょうか」

朝比奈さんは少し迷っているようだった。
すこしうつむいて考え込み、ついで目を閉じて空を仰ぐ。
未来と連絡を取り合っているようにも、記憶を辿っているようにも見える。
やがてまっすぐ前を見て言った。

「やってみますか?」

「ぜひ」

手を差し出す古泉をにらみつけて
なんだ、お前も俺の恥の記録を見たいのか?

「そちらにも興味が無いわけではありませんが」

朝比奈さんが古泉の手にちょんと触れた

「簡単な情報を送ってみました。 どうですか?」

古泉は自分の中に変化が無いか、探しているようだった

「ダメです。 僕にはできないようですね」
「この方法による情報伝達とは、どのような原理の上に成り立っているのでしょう?」

「それは……」

「言語による説明は不可能」

聞いてたのか、長門

「そうですね。 そもそも教えるということが不可能です」

「なるほど。 『目隠しの国』といったところですか?」

なんだそりゃ

「もとはマンガのタイトルなんですけどね」
「仮に人類が視覚を持たなかったとして、視覚を得てしまった人がいたとします。 視覚の何たるかを言葉で説明することはできるでしょうか?」

「そうですね……。 その表現はかなり近い……です」

「そうですか。 それはそれで、疑問があるのですが」

なんだ疑問って

朝比奈さんが青ざめた

「古泉君! お願いです……」

古泉はニヤけ仮面の外れた顔で朝比奈さんをにらむように凝視している。
たまらず視線をそらす朝比奈さんは今にも泣き出しそうに見えた。

「おい、古泉、なにやってる」

「いえ……」

それきり、古泉はうつむいて何かを考えているようだった。

固い顔で、今にもガタガタと震えて泣き出しそうな朝比奈さんなんてみたく無い
この優しすぎる未来人には、できるだけ笑っていてほしいのだ。

「朝比奈さん。 さっきの記録ですが、何度でも見てかまいませんから」

「うふ、ありがとう。 キョンくん」

朝比奈さんは微笑んで、ハルヒの頭を抱えるように髪をなぜつづけた。

駅に着くまで、誰も一言もしゃべらなかった。

※※※※※※※※

「降りるぞ、ハルヒ、起きろ」

「んんー、、、キョン? もう少し寝かせて・・・」

ばっ! なに寝ぼけてやがる!

「ほう? これはこれは、興味深いですね」

「キョンくん?」

「………」

誤解だ! 俺はこいつと寝起きのひと時を共有したことなど一度も無いぞ!
そこ、ニヤニヤしない!

やれやれ、一日はまだ始まったばかりだというのに。
長い一日になりそうだ。

 

涼宮ハルヒのSS 厳選名作集>>長編>>もう一人の秘された神

最終更新:2009年06月20日 23:30
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。