涼宮ハルヒのSS 厳選名作集>>長編>>もう一人の秘された神
「珍しいですね。 朝比奈さんからお誘いをいただくとは」
「呼び出したりしてごめんなさい。 でも、古泉君にも知っておいてもらった方がいいと思ったから」
「一人で気がついて、パニックになってもかわいそうだし」 うふっ
えーと、今のは笑うところだったでしょうか?
「長門さんはもう、気がついているんですよね?」
長門さんの頭が僅かに動いて、肯定の意を示す。
「この三人ということは、やはり涼宮さんがらみなのでしょうか?」
すると、意外なことに朝比奈さんは首を振った。
「キョン君のことなんです」
彼がどうかしたのだろうか? あれ以来、確かに変わったと言えば、あのお二人は呆れるほど変わりましたが。
「その前に、少しお話ししておきたいことがあります。 古泉君も薄々気づいていると思いますが、私は現代で言うニンゲンではありません」
いきなり何を言い出すのだろうか、この人は。 話の真意が見えない。
ですがこれはただの前置きでしょう。 とすれば、とぼけるより率直に行った方が良いでしょう。
「そうですね。 あなたには我々現代人にない情報伝達手段がある。 それは新たな知覚を獲得した、分類学的新人類ということでしょう」
言葉に少々、毒が混ざったかもしれない。 目の前にいる新人類は、旧人類たる我々、ホモサピエンスを駆逐した種なのだ。
「その通りです。 そして、驚かないでというのは無理だと思うけど、古泉君、あなたももう、新人類なんです」
リカイデキナイ。 カノジョハナントイッタ? ボクガ、ニンゲンデハナイ?
「思い出して。 あの日、行きの電車の中でのことを。 あのとき、あなたは指での情報伝達ができませんでした」
ソンナコトモアッタヨウナ。
「あのとき、私が現代人とは違う種だということを指摘されそうになって慌てちゃいました」
「古泉君はさっき、トゲのある言葉を向けてきましたよね。 キョン君にも知られたくなかったんです」
「でも、今ならあなたにもできるはずです。 あなたも新人類ですから」
「ちょっと待ってください! そんなことはあり得ない。 進化と個体変化はまったく別の現象です。 僕が新人類に変化した? あり得ません」
「手を出してください」
朝比奈さんの天使のようなやわらかな微笑みが、今の僕にはどうしても悪魔の誘惑にしか見えない。
イワレタトオリニシテハイケナイ。 ソンナコトヲシタラ、ボクハボクデナイモノニナッテシマウ。
けれど、自分が何者なのか知らずにいるのはもっと怖かった。
彼女の指が手の甲にちょんと触れる。 その瞬間、頭の中に電車の中での光景が映し出された。 この事実に僕は愕然とした。
「新人類はこの時代、この地域に発生して爆発的に増加したことがわかっています。 私たちは、涼宮さんこそ最初の新人類だと考えていました」
『ました』? 過去形なのですか? まさか……
「ええ、キョン君が、アルファだったんです。 あ、アルファというのは私たちの時代で付けられた、最初の一人の呼び名なんだけど」
「ちょっと待ってください。 彼は普通の人間です。 機関の調査では、彼について不明不審な点は一切ありません」
朝比奈さんが首を横に振る。
「キョン君が新人類になったのは、あの一件からです。 それ以前の調査では何もわからなかったでしょう」
「新人類が爆発的に増加した理由もわかりました。 この変化は伝染するんです。 キョン君から古泉君へ、そして古泉君と接触した人たちへも」
「ですが、キョン君がアルファになった原因や、あり得ないはずの個体進化の原因はわかっていません。 そちらについては、長門さん」
そう言って、朝比奈さんは長門さんに続きを促すような目線を送った。
「情報統合思念体は、彼が普通の人間であったはずがないという結論に達した」
「彼が生還した前後の時間平面において、涼宮ハルヒの情報操作は観測されていない」
えっ!? 彼が生還を果たしたのは涼宮さんが願ったからだと疑いもしなかった僕は、心の底から驚いた。
「彼は確率0の状況から自力で生還した。 彼は因果律の外から情報を操作したと考えられている。 そのような存在を感知した前例はない」
すみません。 あまりにスケールが大きすぎてついて行けないのですが。
「彼は外殻を失う直前、涼宮ハルヒに気持ちを伝えることを強く誓った。 そのことが、『伝える』という新形質に繋がったと考えられる」
「けれど、彼の生還および、形質を獲得した経緯その他については一切不明」
「因果律を覆し、個体進化を獲得し、さらに周囲をも進化させている事実に、情報統合思念体は大きな興味を注いでいる」
「彼は涼宮ハルヒに匹敵するか、あるいは凌ぐと考えられる」
「彼が自分の能力を自覚している兆候は観測されていない。 そこで、私と朝比奈みくるはこのまま現状維持という意見で既に合意した」
「古泉一樹、あなたは?」
黒曜の瞳に見据えられる。
「……わかりました。 現状維持に合意します。 安寧は機関としても望むところですから」
「たとえば彼が涼宮さんと並び立つ神だとしても、そのことはここにいる我々だけが知っていればいい。 そういうことですね?」
二人がうなずいた。
彼はいったい何者なのでしょうか。
とはいえ、これからもSOS団唯一の普通の人間という彼の立ち位置は変わりませんけれど。
例えそれがただの見せかけで、彼がもう一人の秘された神、だったとしても。
fin.
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