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未来が何でも思い通りになると思うな。
変えられる、未来は。
絶対に――

ならば過去も変えることが出来るはずさ。記憶の修正。時間軸の上書き。
長門も朝比奈さん(大)も、確かに昔そう言っていた。

ならば俺がこれからしようとしてることも、きっと許してくれるでしょう?
ねえ、朝比奈さん・・・・・・?


10日前。
俺達はいつも通り、SOS団の放課後の活動をしめやかに終わらせた後、ハルヒを除く4人で帰宅していた。
なぜハルヒがいないかというと、その日に限ってたまたま具合が悪いから、とお昼前には早退していたからだ。
それなら今日は宇宙人も未来人も超能力者も集まらなくてもよさそうなもんだが。
みんな暇なんだねえ、まったく。そんないつもと何一つ変わらない日常だったはずだ。
相変わらず長門は無表情だったし、古泉も胡散臭いにやけスマイルだった。
そう、いつもと何も変わらない。ああ、ハルヒはいなかったが。もしかしてそれが原因なのか?
ともかく――
「じゃあまた明日」と可愛らしく手をふる朝比奈さんもいつも道理だった。
そしてそれが、元気な朝比奈さんを見た最後だった。

「要求は?まさか身代金とかいうんじゃないだろうな」
「それはあり得ませんよ。みな僕らの組織ほどには活動資金を持っていますよ」
それもそうだな。
「長門よ、お前はどう思う?朝比奈さんの居場所はわからないのか?」
しかし長門はこの問いにわずかに首を横に動かしこう答えた。
「不明。私の制御干渉出来る値を超えている。おそらく情報統合思念体の別端末があちら側にいる」
それによって朝比奈さんの居場所を探るのを邪魔されてるってことか。うーん。ますますお手あげだ。どうしたものかね。
「今のところ手がかりは犯人からの電話だけですね」


犯人からの電話は、ひどく不可解なものだったらしい。
らしい、というのはその電話を受けたのが長門であり、俺と古泉は間接的に聞いただけだった。

それは要求も脅迫も何もなし、ただ一言――――

「×××」

――――そしてそれは、俺たちを絶望の底にたたき落とすには充分すぎる言葉だった。

「未来に対する優位性のためですね」
そう苦渋の表情で説明したのは古泉だ。意味がわからん。わかりやすく説明しろ。
「前にもあったでしょう、朝比奈さんが誘拐されたこと。彼女の身柄を確保することで未来に対して人質とする」
そんなことは言われなくてもわかっている。
ていうか朝比奈さんが誘拐されたらしいと古泉と長門から連絡をもらった瞬間にそのことを思い出していたぞ。
「でもあの時は、長門の力を借りずとも阻止することが出来た。それに」
「違うんです、今回は。まったく別の派閥が主犯です。しかも僕ら『機関』側も完全にノーマークでした。
それに、彼女をさらった目的があのメッセージ通りなら」
朝比奈みくるはもう生きてはいないでしょう、と枯れた水仙の様にうなだれて言う古泉を前に俺は別のことを考えていた。

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「いやです、いやぁ・・・・・・。やめて・・・・・・」

か細い震えるような声が、地下のコンクリートで塗り固められたせまくかび臭い部屋に電動のこぎりの音に混じって響いた気がした。
そんなはずはない、ここには今俺と、血のような真っ赤な目をしてその手に血でさび付いたチェーンソーを持つ男しかない。
ゥィンウィンと低く高く鳴り響く音。
これ以上ないくらい恐怖で冷え切った俺の鼓動の音。
これは幻聴かな、本来ここにいるはずだった朝比奈さんの泣き叫ぶ声が聞こえるのは。
覚悟はしてたのに。怖い。痛い。痛い痛い痛い――っ
左手の指は一本ずつ切り落とされ、俺の足もとに落ちている。
10日前の朝比奈さんもこんなふうにされたんですか?
俺は下唇を噛み、苦痛のうめき声を殺した。
口の端が切れ、新鮮な血の匂いと味が広がったが、それも次の瞬間には部屋の臭気に溶けていった。
「ぅあ・・・・・・やめて、くれ・・・・・・!」
声を振り絞る。
本当は命乞いなんかしたくない。こんな、体を少しずつ切り刻まれる恐怖よりかはひと思いに殺られたほうがいくらかましだしな。
ただ・・・・・・今の状況ではそれも出来ない。
長門と古泉が来るまでの間、時間稼ぎをしなければ。
時間の感覚はとうにないが、まだ俺が突然黒塗りの車に押し込められ、目隠しをされ手錠で繋がれさらわれてからそんなに長くたってはいないはずだった。
ここには窓もないし時計もないからわからないが。
「ぉああああああああっ」
突然思考は中断される。腹に刺さったナイフをさらに足で踏まれ疵口を広げられた。
油断していたので思わず漏れてしまった悲鳴。
情けない、自分の声音を聞いた。

でもこれが、朝比奈さんの悲鳴でなくてよかったよ。
それだけがこの状況でも正気を失わないでいられる唯一の希望の光だ。
朝比奈さんも同じだけの苦痛を味わったんだ。大きく息を吸い込み次の衝撃に耐え、ぎゅっと目をつぶる。
・・・・・・次の一撃は来なかった。
「そんなにおびえないでいいよ。本当は朝比奈みくるをいたぶるつもりだったんだけど、予定が狂っちゃったしね。
キミは、涼宮ハルヒと共に世界を動かす鍵。キミを殺してしまったら上に怒られてしまうから、キミは殺さないであげるよ。
あー本当にどうして?あの可愛い未来人をさらう手はずだったのに、おかっかしいなー?」
俺とそんなに年は変わらないように見える拷問者の少年は心底不思議そうに首をかしげた。
ざまあみろ。俺は白くゆらめく脳内で必死に毒づいた。

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俺が「朝比奈みくるが惨殺された」と聞いたのは俺にとってのさっき、
つまり今の時間平面上から見て、10日後のことだった。
誘拐されたと、長門あてに連絡があってから10日間、結局犯人からはなにも連絡が無く、
代わりに届いたのは、ダンボールに詰められたその変わり果てた遺体だった。
古泉も長門も、唇をふるわせ、肩をいからせ、悲しみと怒りに耐えていた。
俺だけが声をあげて泣いていた。
ハルヒには、知らせることが出来なかった。
あいつは、未来人と宇宙人と超能力者がいることを知らない。
だから誘拐のことを教えることは出来なかったのだが、今はもう、別の理由でハルヒに知らせることは憚られた。
朝比奈さんは人知れず故郷に帰ったことにしましょう、ねえ、朝比奈さん。
俺もこのまま現実逃避してしまいたかったが、その前にやれることをやってみたいと思った。

未来が何でも思い通りになると思うな。
変えられる、未来は。
絶対に――

今から過去に行き、時間軸を塗り替える。
そうやって、何度かいままで分岐点を選んできたことも、
ほんの少し、過去に干渉してきたこともあった。
今回もそれをしてやる。
俺が決意を固めるまでそんなに時間はかからなかった。
手も足も無くした朝比奈さんの死に顔は、不釣り合いなほど穏やかだった。
それがまた俺に覚悟を促した。

記憶の修正。時間軸の上書き。
長門も朝比奈さん(大)も、確かに昔そう言っていた。

ならば俺がこれからしようとしてることも、きっと許してくれるでしょう?
ねえ、朝比奈さん・・・・・・?

ちなみに今回は朝比奈さん(大)は現れない。
そりゃそうか、未来が途切れてしまったんだからな。
あのグラマラスな朝比奈さんはどこにも存在しないことになる。
なら頼みの綱は一本だけだ。
「それは出来ない」
液体ヘリウムみたいな目で見つめ返された。
長門、おまえには俺が何を言い出すかわかってるようだな。
そしてそれが無理なのも俺は知っている。
あの七夕時の時間凍結は過去と未来が地続きだったから出来たわけだ。
でも今は、違う。
俺がもし過去に行けて、過去を修正出来たとしたら、この未来はなくなってるはずだもんな。
連続してないなら無理か・・・・・・。
俺は頭を抱えた。八方ふさがりだな。まるで回し車のハムスターだ。ぐるぐるぐる。
そんな俺を長門がまだ見つめているのに気がついた。

「方法は、一つだけ」
「出来るのか?!」
「リスクが伴う。推奨は出来ない」
それでもいい!この絶望的な未来を変えられるなら。なんだってやってやるさ。
「そう」
言うが早いか長門はずずいと俺に近寄り、手首に口づけた。
強烈なデジャブ。
「時空改変の対抗プログラムを注入した」
やっぱりか。
「これで平気なはず。あなたを、10日前の過去に送る。やるべきことは」
わかってる。もう何度過去と未来のつじつま合わせをしたと思っているんだ。少しは立ち回りがうまくなっているはずさ。
「キョンくん」
その時初めて古泉がこちらを見た。
「あなたがもし過去の改変に成功したとして・・・・・・その時はきっとこの僕たちが消滅してしまうんでしょうね。
あ、いえ、それはいいんです。あの終わらなかった夏休み時の最後の一回以外の僕たちはきっとそうやって消えて行ったのでしょうし。
そうではなくて、もし正しく過去を改変しようとするならあなたが・・・・・・あ、いや、えっと、今のではなく」
なにを言ってるんだね古泉一樹。もっと論理的にしゃべれよいつものように。俺は支離滅裂なコイツの言葉を正しく理解した。が、あえて遮らせてもらうぞ。
「心配すんなよ」
コツ、と額にぶつけた。じゃあな。頼む、長門。心配すんな、朝比奈さんは絶対に俺が助けてみせるよ。


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「キミも被害者だよねぇ、未来人にいいようにあしらわれてさ、悔しいとは思わないのかい?
だから朝比奈みくるを殺そうと思ったんだけど。
まあいいや、キミでも。殺しはしないよ。
死んだ方がいいとは思わせてあげるけど。
これであの善人ぶった未来人たちも少しは反省するだろうね、
大切な涼宮ハルヒのパートナーがこんなふうに陵辱されるとは、彼らの予定表には書いてないだろうさ」
楽しそうに男は笑う。
「そ、れは、おまえたにとっても・・・・・・ぐぁっ・・・・・・あ、同じことだろう・・・・・・?」
予定表云々いうなら、ここでこうして捕まっているのは本来なら朝比奈さんだったはずだ。
俺は過去を変えるためにこの時間平面上にきたんだからな。
でもそれを知っているのは俺だけでいい。
やつらに感づかれてはいけない、これは罠だと言うことを。
あと少し、古泉と長門がここを突き止めてくれるまで。
「じゃ、次はその腕を切り落とそうかな。きっと痛いよぉおおおお?
血が噴水のように湧き溢れてさ、
でも、スパってやっちゃうからもしかしたらそんなに痛くはないかもね。
最初は熱いだろうけど、だんだん、血が少なくなって寒くなってくる。
そしたら本当に死んじゃうかもね?」
こいつは、狂ってる。

・・・・・・あっぅくっぅハア・・・・・・ァ・・・はぁはぁ。
コンクリートの部屋にただ一人俺は残されて、荒く息をつく。
あんなやつの前で醜態をさらすのは嫌で、
消えかける意識を必死に繋ぎとめていたがもう持ちそうにない。
一人きりの暗い部屋。
肘から下の手と膝から下の足は血の海に漂っている。
人形やマネキンのような、そう、自分のじゃないみたいだ。はは、もう、自分のじゃないんだけどな、文字通り。
「ごめんなさい、キョンくん」
どこからか朝比奈さんの声らしいものが聞こえてきた。また幻聴か。
もしかして修正される前のこの時間軸この部屋にいたはずの朝比奈さんとシンクロしてるのかも、と俺はらしくもない妄想をしてみた。
これじゃどっかの古泉みたいだ。こんな理屈っぽいのは。

「いいんですよ、朝比奈さん」
俺は心の中で答えてみた。
もう声は出ない。
喉からはひゅうと木枯らしが鳴くような情けない音しかでない。
いいんですよ、朝比奈さん。
俺が選んだことですから。
俺は長門の注入プログラムによりこちらの時間軸に来てから3つのことを行った。


一つ、この時間平面上にいるはずの本来の朝比奈さんに絶対に家を出るなと言うこと。
二つ、古泉と長門のところで、詳しいいきさつを話し、朝比奈さんをさらう予定のはずの男達をつけ、出来たらそのアジトをぶっつぶすように頼むこと。
三つ、俺が朝比奈さんの代わりにつかまること。


特にこの三つ目が絶対必要不可欠の条件だった。
なんせ、ここで単に朝比奈さんの誘拐を防ぐだけじゃ一時的に防いだところで、大まかな未来は変わらない。
誰かが身代わりになって敵の根本をつぶさなければ。
誰かって?俺しかいないじゃないか。

白く目の前が霞んでくる。
ここで俺が死ぬのはこの際規定事項だ。
ここで俺が死んでも、本来の俺はいまごろ、(そうだなあ、10日前の俺はいまごろのんびりシャミセンとテレビでも見てたっけな)家でごろごろしてるだろう。
あとはここに来るはずの長門に朝比奈さんと古泉の該当記憶を消してもらえばいい。
もう何も心配することはない。
明日からまた、5人のいつもの日常がはじまるだけだ。
そう、思った時だった。

「キョンくん!」
壁に同化していた扉が開けられ、古泉と長門が入ってきた。
よかった、ふたりに怪我はないようだな。
まあ普通の人間レベルなら長門にかすり傷一つつけることは不可能だろうな。
別の宇宙人もいるとはいえ朝倉みたいなやつでも無い限り平気だろうし、心配はしてなかったぞ、うん。

「どうして、こんな・・・・・・」
古泉が俺の手も足もない姿を見て絶句する。
その整った顔が服が俺の血で汚れるのも構わずに抱きしめられた。
顔が近いぞ気色悪い。
だが、俺の喉はひゅうと音がなっただけだ。
気管に穴が空いたのかな。
壊れた笛みたいだ。
「なんで、なんで、こんな」
古泉はめったに見せない涙をみせてるし、長門もはっきりとした悲しみが表情に溢れている。
普段お前等二人はポーカーフェイス過ぎだもんな。初めて見たよ。

な。が。と。

俺は声の代わりに唇を動かした。
「き、お。く。を、け、し、て、く、れ」
うまく伝わったかわからないが、長門は「わかった」と言った。
そんな顔すんなよ。本来の俺も朝比奈さんもちゃんとこの時間平面上で元気にしているんだから。
未来はかわったんだから。だか
最終更新:2007年03月19日 02:08