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 12月18日。なぜか唐突に風邪を引いたらしい谷口と俺は、1年5組の教室に入っていった。
「おわっ…!?」
 教室の風景は昨日と一変していた。クラスの女子が全員、ボンデージだかなんだか知らぬが、どっかで見た「女王様」のかっこをしていたのだ。コスプレなのか?
 いやいや、よく見れば、その女王様たちの隙間には、やたらとぴっちりした黒い短パンに黒いマスク(全頭マスクというマニアなやつらしい)をつけたクラスメイトの男子たちが蹲っている。
「た、谷口…。これはいった」
 俺はそう言いかけて谷口を振り返ったが、やつは咳き込みながらもすでにいそいそと服を脱いでいるところだった。
「谷口、お前、何を…」
「キョン…。早くしないとまずいぞ。朝倉様が来る前に制服に着替えないと…」
「はぁ? 制服って、お前…」
 というか、それよりも、朝倉様? 朝倉涼子のことか? 朝倉はすでに半年も前に長門に消されたはずだ。俺は無意識に教室を見回す。ハルヒはどこだ?
「おい谷口、ハルヒはどこへ行った。ハルヒはどこにいる」
 谷口は全頭マスクを被りながら言った。
「お前はタイコか? ハルヒ? 誰だそれは? そんなことより早く着替えろ」
 なんだここは? 俺は混乱する頭で考えた。1日にして世界が一変してしまったのか。そうでなければ、俺の頭がおかしくなったのか。立ち尽くす俺の腕を床に蹲った谷口が引っ張る。俺はバランスを崩し、そのまま床に強引に座る形になった。
「もう朝倉様がお出ましになる時間だ」

 ガラガラガラ…。
 教室の引き戸を開けて入ってきたのは、なるほど、朝倉涼子だ。だが何故? 俺を殺そうとした朝倉は、何故かまた復活していて、しかも、他の女子よりももっと「女王様」然としている。
「おはよう、わたしの奴隷ちゃんたち」
 妖艶に微笑む朝倉。同時に、床にはいつくばった男子たちが一斉に頭を下げる。何なんだこの世界は。俺は相変わらず、呆然としたまま、顎を上げて教室を嘗めるように見渡す朝倉を見ていた。
「あら…。キョンくん。なぁに。まだご挨拶を覚えられないの? しかもまだ着替えてもいないじゃない。本当に馬鹿な子ね」
 隣りに平伏している谷口が「ひっ・・!」と息を呑むのが聞こえた。
「馬鹿な子にはちゃんと躾けをしてあげないといけないわ。まあ、まだわたしが手を下すほどの価値はあんたにはないけどね…」
 朝倉がいかにも楽しそうな笑い声を上げる。その朝倉を囲む女子たち(女王様たちと言うべきか)も合わせて笑う。
「ちょっと、2,3人で解らせてあげなさいよ、馬鹿な奴隷男にね」
 朝倉は周りの女子たちに言うと、自分は教卓の上に座り、形のいい脚を組んだ。ガーターベルトに黒い編みタイツ、おまけに黒いハイヒールだ。本当にティピカルな、絵に描いたような女王様だな。
 だが俺がぼんやりしていられたのもここまでだった。朝倉の命を受けた女子たち(女王様たちなんだろう、きっと)が俺に近付いてきたと思ったら、そのまま腕を乱暴に引き上げられ、俺はなす術もなくよろよろと立ち上がった。
反抗することも出来ただろうよ、だが、俺はまだ何がなんだか解ってなかったんだ。

 立ち上がった俺を、3人の女子たち(そう、女王様たちだ)が、いかにも手馴れたように後ろ手に縛った。
そうしておいてからその内の一番長身の子が、いきなり俺の顔に平手を張った。女子の力とは思えないほどだ。
「な、何すんだよ! 冗談やめろよ!」
 思わず俺が叫ぶと、残った女王様たちが、俺の服を脱がしにかかった。シャツを剥ぎ取り(もっともすでに後ろ手に縛られているので、シャツは俺の背後にぶら下がることになったが)、
じたばたと抵抗するのも構わずズボンも脱がされてしまった。そして、もう一発重い平手を喰らった後、俺の顔にも黒いマスクが被せられた。
「あら、無駄な抵抗をするなんて、かわいいこと」
 朝倉の声がする。
「わたしも虐めたくなっちゃったわ」
 俺の周りから、他の男子たちがささっと引いていくのが気配で解った。場所を空けてるのか? 止めてくれ…。

 朝倉はつかつかと近付くと、いきなり俺の腹に膝蹴りを入れた。ぐふ…。思わず声が漏れる。
「キョンくん。かわいいわねぇ。もっとちゃんとした奴隷になれるように躾けてあげるわ」
 朝倉の声はかわいい。高くて細くて、いつも微笑みを含んだような声。こんな非道な言葉を吐くような声ではない。マスクで視界が閉ざされている分、その声が俺の頭に響き渡る。
「覚悟は出来てる? いい子にしていれば、一番の奴隷にしてあげてもいいわ」

 かわいい声が耳元で囁くと同時に、俺の体には鞭が振るわれた。
「止めろ、朝倉、何なんだこれは!? ハルヒはどこだ…」
「何を言っているのかなあ、キョンくん。ハルヒなんて子はここにはいないわ。だいたい女王様を指名するなんて2億5千万年早いのよ」
 容赦なく鞭が体を打つ。その合間に、尖った爪が俺の皮膚をツーっと軽く引っ掻いていく。強い痛みの後の爪の感触は、俺の意思とは無関係にゾクッとした快感を与える。きゅっと毛穴が縮んで鳥肌が立つ。
だがそんな快感が与えられるのはほんの少しで、あとはただヒュンと風を切って唸る鞭の音と、それに続く強烈な痛みが俺を襲うばかりだった。
もう体には痣やらみみず腫れが出来ているんじゃないか。
 しかし、周りの男子たちは、鞭の音や俺が思わず漏らしてしまう声に反応して、息を荒げ始めている。
それに気付いたらしい朝倉はいきなり俺のマスクを剥ぎ取ると、そのまま俺を床に押し倒し、そして教室中に響き渡る声でこう告げた。
「キョンくん、結構頑張るじゃない。今日は特別よ、みんなマスクを外しなさい」

 床に押し倒されたままの俺に、クラスメイトの視線が一斉に集まる。どの顔にもみんな、羨望の色が浮かんでいる。谷口や国木田の顔にもだ。
「いいこと。わたしの奴隷ちゃんたち。よく見るのよ。いい子にしてたら、私はちゃんとご褒美をあげるの」
 朝倉はそう言うと、その丸いヒップで俺の顔に跨って口と鼻を一気に塞いできた。うわっ…俺は言ったが、もちろん声にはならない。教室中の男どもの喉から押し殺したような息が漏れる。
「私の椅子になれるなんて、なんて幸せな奴隷ちゃんでしょう。ね、キョンくん」
 朝倉が言っていたが、俺は息が出来なくて苦しくなってきていた。脚をじたばたさせる。顔を少しでもずらして息を吸おうとした俺の鼻腔にほんの一瞬、ほんの少量の空気が流れた。
「ううぅ…」
 今度のうめきは苦しさから来るものとは別だった。何だこの芳しい香りは…。一瞬クラっと来た俺はすぐに事態を呑み込んだ。これは朝倉の匂いだ。
俺の顔を尻で踏み潰している朝倉の、その、ああ、たまらん、何と言えばいいのか、そう「女の匂い」だ。そんな匂い、初めて嗅いだはずなのに、俺はいきなり反応してしまった。
「あらあ。キョンくん、どうしたの? 今まで頑張ってきたのに、勃っちゃったのねえ」 朝倉はそう言うと、ぐりぐりと尻を顔に押し付けてくる。止めてくれ、頼むから…。
朝倉はいっそう尻を俺の鼻に押し付けながら、体を前傾させ、そして俺の下着を剥ぎ取った。あぁぁぁ…ここにハルヒがいないことは俺にとっては幸運だったか。
「ねえ、見てごらんなさい。こうやって教え込めば、今度は鞭で叩くだけで勃っちゃうようになるのよ。パブロフの犬の原理ね」
 朝倉は、俺を実験動物か何かのように、他の女王様たちに披露している。それはともかく、俺は鼻と口を塞がれたままで苦しい。
苦しくてもがいて何とか息を吸うと、その度に、あの匂いが俺の鼻を衝くのだ。脳天に突き抜けて本能をそのまま弄くられるような匂い。
俺のその部分はさぞかし硬くなっていることだろう。鞭で打たれただけで勃たなかったのがせめてもの救いだ。

「さて…」
 再び、朝倉の尖った爪が俺の体を這い始めた。もちろん尻はまだ顔を塞いでいる。
朝倉の爪は、ツーっと軽く俺の体の表面を引っ掻き、俺は全身にぞくぞくと鳥肌を立てた。
その感覚にうっとりしかけた時、今度はいきなり、朝倉は俺の体に圧し掛かり腹をがぶりと噛んだ。
甘噛みなんてもんじゃない、噛み付いた後でそのまま上下の歯をギリギリと擦り合わせるような、強烈な噛み方だ。俺の頭の中に一瞬、朝倉の白い歯がフラッシュバックした。
そして俺は自覚した。その時初めて、鼻腔に流れる「女の匂い」が引き起こす性的な興奮と噛まれる強い痛みが、俺の中で一体になったことを。腰のあたりに強烈な快感が走る。
「だめよ、キョンくん。イっちゃだめ」
 あぁ、でももう俺もだめです…。
「イキたい時にはなんて言えばいいの?」
 朝倉は、俺の口を塞いでいた尻を少しだけずらし、顔を覗き込む。俺は情けないことに、声にならない声でうめくだけだ。
「なんて言えばいいのか、そんなことも解らないの? それじゃイカせてはあげないわ」 それはだめだ。ここまで来てイカないなんて無理だ。
俺は、既に本能で埋め尽くされた脳みそを総動員して考えた。こういう時、奴隷である俺はなんと言えばいいのだ。
「いい? キョンくん。一回だけ教えてあげるわ。どうしてもイキたい時はね、こう言うのよ。えーっと、谷口君、キョンくんに教えてあげなさい」
 一番近くで見ていたはずの谷口が息を呑む音が聞こえた。
「あ、朝倉様、どうかこの惨めな奴隷に…一時の快楽をお与えください…」
 震える声で谷口が答える。朝倉は
「そうね、よく出来ました。じゃ、キョンくんもちゃんとお願いしなさい」
と言い、もう一度屈み込んで俺の腹をきつく噛んだ。

「うぅぅ…あさく、朝倉さ…ま、どうかこの…うぅ…」
 腰に走る快感は増すばかりだったが、屈辱的な言葉を口が拒む。しかも、絞り出す声は朝倉の尻に阻まれてくぐもってしまう。
「ちゃんとお願いしなさい。でないとちんちんの根っこを縛って鬱血させるわよ。もげたって知らないからね」
 あああ、もげちゃうのは勘弁です。せめてもげる前に一度イカせてください。俺は声にならない声をもう一度振り絞る。
「あ…あさくらさま…、ど、どうか、この惨めな…どれいに…いっときのか、かいらくをおあたえ…くださ…い」
「声が小さいわ」
 そんな…。
「あ、さくらさま…どうか、この、惨めな奴隷に、一時の快楽をぉぉ…!」
 また噛み付き。痛い。そして…気持ちいい…。
「ちゃんと最後まで言いなさい!」
「は…はい…、あさくらさま…どうか、この…みじめなどれいにいっときのかいらくをおあたえくださいぃぃぃ」
「もっと何度も言うのよ、何度もお願いしなさい! あはははは!」
 …俺は10回もお願いの言葉を繰り返した。最後はもう悲鳴のような声だったが、そんなのももう構わなかった。
屈辱的な言葉を吐くたびに、俺の脊椎には言い様のない快感が走り、だめ出しで噛まれるたびに俺のその部分はビクビクと跳ねた。

「じゃぁ、そろそろイカせてあげるわ」
 朝倉がそう言うと、もう一度周りからツバを飲み込むような音が聞こえた。俺は天にも昇るような気分だった。だが、その後の朝倉の言葉を聞いて、俺の頭はさらに沸騰した。
「キョンくん、今日はいい子だったから、ご褒美よ。私の聖水を飲みながらイキなさいね」
 せ、せいすい? せいすい、ってのは、マニアな人たちの間で喜ばれる、あの「聖水」ですか? 
朝倉は、俺の顔を踏み潰していた尻をいちどどけると、ハイレグのボンデージ衣装の股間部分を横にずらしながら、今度は逆向きになって再び俺の顔に跨った。
女の部分が直接俺の口にあてがわれる。「女の匂い」が俺の鼻に一気に流れ込む。うわぁ、ど、どうすればいいんだ。
「いい? こぼしたら許さないわよ、全部飲むの。解った?」
 はい、とも、いいえ、とも答える前に、『それ』は俺の口に注がれた。体温と同じ温度の生暖かい液体。薄しょっぱくて、鼻に抜けてむせるような匂い。
『甘露だ…』
 俺は部室で朝比奈さんが淹れてくれる「甘露のお茶」の味を思い出したが、それも長くは続かなかった。これこそが本当の「甘露」だ。
『朝倉様…』
 俺は完全に堕ちた。下半身が脈を打って放出を始める…。

 解放された俺は、半ば放心状態で部室へと向かっていた。廊下で出会う女子生徒は、誰もみな「女王様」だった。
途中、視線の端にボンデージ姿の朝比奈さんと鶴屋さんが見えたような気もしたが、もはや俺にはそれを確かめるだけの気力はなかった。
「長門…長門は部室にいるのだろうか…」
 俺は不躾にドアを開ける。そこには…あぁ、そこには、ボンデージに身を包んだ長門が無表情で座っていた。
すべてを見通したような長門が、そこにぽつんと置いてある旧式のPCを顎で示す。
「あなたはここから脱出することが出来る」
 俺はふらふらとPC画面を見る。

YUKI.N> これは緊急脱出プログラムである。起動させる場合はエンターキーを、そうでない場合はそれ以外のキーを選択せよ。Ready?

 長門が俺を見ていた。その視線を痛いほど感じながら、俺は震える指で、スペースキーを叩いた。長門の口元に1ミクロンほどの冷酷な笑いが浮かんだように見えた。

 腰に快感が走る。


--終わりです。長々と失礼しましたm(__)m--
最終更新:2007年03月19日 02:35