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「あぁ、なんだかちょっとつまらないわねぇ」
 その日のステージを終えた後、朝倉が俺に言った。俺は麻縄が食い込んで擦り切れた手首を擦りながら、何か粗相があっただろうか、と反射的に身構えてしまう。すでにその程度には飼いならされてしまったということか。
「ステージであなたを晒し者にするのもいいけど、やっぱりそれなりに制約もあるじゃない? あたし、だんだんストレスが溜まってきちゃったみたい」
 朝倉がピンヒールの踵で立ち尽くす俺の爪先を踏み付けながら言う。
「たまには何か変わった事しないと、また誤作動しちゃいそうだわ」
 俺は自分の脇腹に刺さった冷たいナイフの感触を思い出して身震いする。ナントカ思念体製人型インターフェースの誤作動ほど恐ろしくて厄介なものはない。多分それはこの世で俺が一番良く知ってることだからな。

 あの後、ハルヒはさんざん俺を嬲り者にして遊んだ挙句、情報爆発を起こすこともなくあっさりすっきりとアメリカの研究室に戻って行った。
 情報爆発が起こらなかったということは、俺の身にはもっと平穏な別世界に飛ばされるという幸運も与えられなかったということだ。
 今や俺は、朝倉の単なる慰み物でしかない。俺が背負わされた朝倉のストレス軽減役は多分、この世界の存続に多少は寄与するものがあるはずだ。それくらい思っていてもいいだろう? せめて。
「ねぇ、しばらくステージは休んでプライベートで遊んであげるわ。嬉しいでしょ?」
 朝倉の言葉が俺の思考を遮る。
「はい、嬉しゅうございます。よろしくお願いいたします」
 ああ、何で俺の口は元クラスメイトに対してこんな敬語を発するんだろうな。しかも自動的に。

 そんなことがあって数日後、俺は普段閉じ込められている謎の部屋から外に連れ出されることになった。
 そこは普通のマンションであるはずだったが、俺はその住所も知らない。もちろん、朝倉がいない時間は窓もドアも情報ナントカで封鎖されている。
 舞台がある時にもこうやって朝倉に連れ出されるのだが、きっと俺の脳みそにナノマシーンだか何だかが埋め込まれているのだろう、何度外の景色を見ても、俺にはそれを記憶に焼き付けたり、道を覚えたりすることが出来ないのだ。
 仕方ないだろう? 相手は宇宙人だ。俺はすでに逃げ出すことは諦めている。
「キョンくん、行くわよ。今日は楽しみだわ。あなたの新しい姿が見られるんだもの」
 ハルヒが去って以来、元の、俺の知っている朝倉涼子の姿に戻った女王様が俺を見下ろして笑う。
 長門に消されたあの夕方の教室で見た笑顔、ハルヒの消えた世界で俺と長門におでんを振舞いながら見せた笑顔。何の含みもないように見える笑顔。情報思念体とやらも、ヤバイ存在はそれらしい姿に作って欲しいものだな。
 そして俺はまた、何度歩いても記憶に残らない見知らぬ街に引き出されたのだ。

 着いた所はどこかの高級っぽいホテルだった。かなり広く綺麗に整った部屋で、俺は、こんな所で鞭を振るったりして、外に音が漏れるのではないかと、奴隷らしからぬ心配をする。
 きょろきょろと辺りを見回す俺に向かって
「奴隷に服は必要ないわね。さっさと脱いで、そこに正座しなさい」
と、朝倉が豪華なベッドに腰をおろしながら命じた。いつもの朝倉だ。そして俺には朝倉に従う以外の選択肢はない。
 俺は一言「はい」と答え、いつものように全裸になると、朝倉の足元に正座をした。俺が動くたびに、いちいちペニスにぶら下がったピアスがカチャカチャと音を立てる。
「聞き分けのいい子ね。可愛い奴隷犬ちゃん。いいわ、首輪をつけてあげる」
 そういうと朝倉はバッグの中から、黒くてごつい犬用の首輪を取り出して俺の首に巻きつけた。俺の中でカチリ…と何かのスイッチが入る。
「いいこと? 今日の主役はキョンくん、あなたよ。すべてはあなたを悦ばせるためなの。絶対に逃げたり嫌がったりしないこと。分かった?」
 朝倉が身を屈めて俺の頬をパチパチと叩く。一体何が始まるんだろう。
「ふふふ。怖がらなくてもいいわ。あなたのよぉく知ってる人が来るだけだから」
 知ってる人? 誰だ? ハルヒはもうアメリカに帰ったし。
「もうそろそろ来る時間ね…」
 朝倉が腕時計をちらっと見たその瞬間、ドアベルが鳴った。
「あら、時間通りね、さすがだわ。どうぞ入って」

「朝倉さんとこうやってお会いするのは、もしかして初めてじゃないですか? お話は常々聞いておりますが」
 ドアを開けて入ってきた客人の声を聞いて、俺は頭が真っ白になった。聞き覚えのあるこのやたらと丁寧な言葉遣い。説明好きの超能力者。俺は正座したまま、そろそろと顔を上げる。
『古泉…』
 なんだってやつがこんな所に来るんだ。この展開は何なんだ。だが俺は立ち上がって逃げることも出来ない。どうせ無理矢理逃げたところで、素っ裸に首輪なんていう姿だからな、宇宙人だけじゃなく、日本の警察も俺を見逃しはしないだろうよ。
「いらっしゃい、古泉君。今日はよろしくお願いするわ」
 朝倉は目の前に素っ裸の奴隷が正座しているとは思えないような社交的な声で、古泉と何やら世間話をしている。俺は、正座した腿の上に置いた手に自然と力が入ってしまうのを感じていた。こんなニヤけたやつに俺の情けない姿を見られるなんて。
「あなたともお久しぶりですね。こんな素敵な再会になるとは思ってもいませんでしたよ」
 笑いを含んだ声で古泉が俺に話し掛ける。止めてくれ。頼むから俺を見ないでくれ。
「僕もまあ、最近はいろいろ裏の仕事を請け負っているんですよ。今は例の巨人も出没しないし、暇なんでね。あ、そうそう、朝倉さん、あなたのご要望通り、1人M男をレンタルしてきましたよ」
 場にそぐわない爽やかスマイルで話す古泉の後ろには、確かに1人の男が従っていた。俺と同じ匂いの男だ。きょときょとと落ち着かない視線をあたりに漂わせている。

 古泉が連れてきたM男と俺は、素っ裸で後ろ手に縛られ、仲良く並んで壁際に正座させられている。
 古泉と朝倉はソファで向かい合い、シャンパンを開けて談笑中だ。
「少し酔っておきたいのよ。その方が気分が乗るわ」
 朝倉はにっこりと笑いながら、その黄金色の液体を喉に流し込む。
「そうですね、僕も少し飲んでおきましょう。せっかくの機会ですからね」
 2人はそう言うとグラスをカチリと合わせた。
 俺はそんな2人をちらちらと見ながら、そういえば今日の朝倉はいつものボンデージではないんだな、とぼんやりと考えていた。その時すでに強い感情は俺の中にはなかった。
 突然現れた古泉への驚きと混乱、そしてやつにこんな姿を見られてしまったことによる強烈な羞恥心がピークを過ぎると、俺はいつものように諦めモードに入ったのだ。あとは朝倉が命じる通りにやればいい。
 そろそろ足が痺れてきた…そう思った時、
「さあ、始めましょうか」
 朝倉がソファから立ち上がった。力の抜けた俺の身体に一瞬緊張が走る。

 ところが、今さら気付いたのだが、今日の朝倉は鞭を持っていない。これから宇宙人の魔法でとんでもない道具でも出してくるんだろうか。いやしかし、今日は何も知らない普通人のM男も一緒だ。朝倉は何をするつもりなんだろう。
 …と、朝倉は古泉の座っている側のソファに自分も移動した。古泉も朝倉を迎える。
「ねぇ、古泉君、今日はいっぱい楽しませて…」
 甘い声。俺には目の前の展開が信じられなかった。いつも俺に鞭を振るい、俺を足蹴にして冷酷に笑っている朝倉が、古泉の身体にしな垂れかかったのだ。
 古泉はそんな朝倉に応え、持っていたグラスをテーブルに置くと、あの例の女どもを夢中にさせる微笑を浮かべ、
「僕も楽しみたいですよ。そのために来たんです」
と、朝倉を抱きしめた。2人は見つめあい、やがて口づけをかわす。口づけは繰り返すたびに激しくなり、2人が舌を絡ませ合っているのが、俺の目にも見える。
『朝倉…』
 嫉妬と羨望と情けなさと惨めさと…が混じり合った強烈な感情が俺を貫く。目の前で、他の男(しかも嫌味なほどハンサムな旧知のSOS団副団長、古泉だ)と絡み合っている朝倉。
俺はどうやってもあんな風に朝倉を扱わせてはもらえない。俺はいつも朝倉の奴隷でしかないのだ。だが、朝倉、俺も男なんだ。
 古泉も朝倉も、そこに俺とM男が正座していることなど完全に無視している。俺は惨めさに打ちのめされ、そしてさらに惨めなことに、絡み合う2人を見てペニスを固くしていた。
 どうやら隣りのM男も同じらしい。仕方ないさ。俺たちは手を縛られていて、勃起したペニスを隠せないもんな、お互い見なかったことにしておこうな。
 古泉と朝倉の痴態はさらに激しくなっていく。古泉が朝倉の唇を舌でこじ開けるように嬲ると、朝倉も甘い吐息でそれに応える。古泉の手はブラウスの上から朝倉の乳房を揉みしだき、朝倉は喉を仰け反らせて眉根に皺を寄せる。
 そうか、普通のセックスというのはこういうものだったっけな。俺はいきり立ったペニスから先走りが滲んでくるのを感じながら思う。俺のピアスだらけのペニスはもう女の「そこ」に入ることはないんだ。隣りのM男は幸運だ。まだペニスは無事だもんな。

 どれくらい時間が経っただろう、古泉と朝倉の2人は絡み合ったままベッドに移動して倒れこんだ。そして古泉がもどかしくて堪らない、というように朝倉の服を脱がせにかかる。その時、
「あぁ、古泉君、お願い、ちょっと待って…」
 お願い? 朝倉がお願いだと? ありえなさ過ぎて笑えてくる。お願いするのは俺の仕事だろ?
 朝倉は古泉を制するようにしてベッドから立ち上がると、乱れたブラウスの胸元を掻き合わせるようにして俺に向かって歩いてきた。
「あなたは私の裸なんか見られる立場にはないわ。ねぇ、そうでしょ?」
 上気した顔から発する冷たい言葉。
「…はい」
 俺は答える。そして朝倉は俺に目隠しをすると、あとは無言で再びベッドに戻って行った。
「ごめんね、古泉君…早く気持ちよくさせて…」
「分かりました。僕が脱がせて差し上げましょう…」
 視覚を奪われて敏感になった俺の耳に2人の声が届く。衣擦れの音。甘い声と熱い吐息。普通のセックス。女の柔らかい身体を触ること。女の中に入ること。
 俺は、朝倉に飼われる前の自分を思い出す。俺は確かにMだったが、ノーマルの彼女がいたことだってあったのだ。
 その関係でM性を満たすことは出来なかったが、だが、俺も女の中で果てる快楽を知らないわけではない。
 それに朝倉、朝倉だって俺を踏みしだくことで悦んでいたんじゃないか? 違うのか?
「あぁ、古泉君、もっとして…、もっと欲しい…」
 朝倉の声が痺れた俺の脳みそを直撃する。その声のBGMはくちくちゅといういやらしい音や、シーツと身体が擦れる音、そして、俺のいきり立ったペニスが脈を打つたびにカチャカチャと鳴ってしまうピアスの音…。
 そのうち、古泉が朝倉の秘部に挿入したらしく、朝倉の声が一段と高くなった。
「朝倉さん…素晴らしいです…あなたがこんなに素晴らしい身体をお持ちとは…」
 古泉が声を上ずらせる。
「小泉君、いっぱい突いて…。気持ちいいわ…」
 粘膜が擦れ合い、肉がぶつかり合う音の向こうで、朝倉が絶頂の声を上げる。
「ああ、いいわ、古泉君…気持ちいい…いい…ああ、いっちゃう…!」
「朝倉さん、もう僕もいきそうです…」
 2人の息遣いはさらに激しくなり…そしてじょじょに静かになった。

 俺の目隠しが外された時、すでに朝倉も古泉も服装を整えていた。
「どう? 楽しかった? 頭の中でいっぱい想像できたでしょ?」
 そう言いながら、朝倉が俺の顎を掴んで引き起こす。俺は痺れきった両足と、嫉妬と妄想ですでにふらふらだ。
「さあ、今度はあなたも楽しむ番よ」
 いよいよ、俺が責められるのか。どんな道具が出てくるんだ?
 朝倉は隣りのM男も同じ様に引き起こした。そこに近寄ってきた古泉が俺に耳打ちをする。
「今日僕が連れて来たM男さんは、実はバイセクシャルなんですよ」
 バイセクシャル?
「そうなんです。いや、聞いた話では、もともとはノンケでSだったそうですが、男色のご主人様に強く乞われて仕込まれたんだそうですよ。いわゆる『堕ちる』っててやつですかね」
 それがなんだ。それがどうしたっていうんだ。
「さあ、何してるの? さっさと2人で絡みなさい。じっくり見させてもらうわ」
 朝倉がソファで古泉に手招きをしながら、戸惑う俺に言い放った。
 絡む? 絡むって…、俺は確かにMだがそっちの気はまったくない。
「絶対に嫌がってはダメと言ったはずだわ、ねぇ、キョンくん」
 その声を聞いた瞬間、俺の中で何かがガラガラと崩れた。俺は朝倉には逆らえない。今度こそ本当に諦めモードに入るべき時だ。
「大丈夫ですよ、彼がちゃんと心得ていますから」
 古泉の場違いな笑顔が俺に突き刺さる。
「そうねぇ、キョンくんは、ちんぽがそんなだもの、タチは無理ね。どうせMなんだしあなたがウケをやりなさい。まずは彼のをしゃぶってあげるといいわ」
 朝倉が追い討ちをかける。そして2人はイチャイチャとくっつきながらソファに身を沈めた。

 俺は目の前で脈を打っているペニスに、そろそろと口を近づける。そういえば、他人のペニスをこんなに間近で見たことなんかなかったな…。
俺がまるで他人事のようにぼんやり思っていると、いきなりM男(今はS男なんだろうか)が俺の頭を掴み、ぐいっとペニスを押し込んできた。
 だが、俺はまだ他人事のように考えていた。ああ、男のペニスってのは固い物なんだな。もし今度また女の子と寝ることがあったら、出来るだけ優しくしてあげよう。
 そんな俺の思いを破るようにして、その固いペニスが喉の奥にまで突っ込まれた。気管が塞がれる。そして、自分の精液と同じ様な匂いが鼻に抜ける。苦しい。
 男は、俺の口をまるでオナホールか何かのように使う。俺は何度もえづき、その度に涙を流す。そしてその強烈な被虐感が、ホモっ気のないはずの俺のペニスを充血させる。
 さんざん俺の口を蹂躙した男は俺からペニスを抜き取ると、今度は俺を乱暴に四つん這いにさせて、尻の穴にゆっくりと指を埋めてきた。
 初めて味わう痛さに身を捩る度に、俺のピアスが音を立てる。
「あなたはもう女の子と普通のセックスなんか出来ないんだから、ウケも覚えておいた方がいいわ。ね、古泉君」
 ソファから朝倉の声がする。悪魔の声。それでこそ俺の女王様だ。四つん這いになった俺のペニスの先から、だらりと先走りが糸を引いてこぼれた。

最終更新:2007年03月19日 02:52