「なんで、せっかくの誕生日にキョンとファミレスなのよ!」
ハルヒはキョンの二、三歩前を歩きながらキョンに言った。キョンはハルヒのデニム地のミニスカートから伸びる生足を眺めながらハルヒのペースに合わせ、ついていく。
「なんでって、お前が言い出したことだろ」
キョンの財布には十分前までいたファミレスのレシートが入っていた。ステーキセット二人前、四千円円、ジュースバー二人前、四百円、計四千四百円。
「私は誕生日、暇だったから仕方なくキョンを誘ったのよ。それなのに、キョン、もっといいとこに連れて行きなさいよ」
ハルヒが振りかえり、キョンへと言って、顔をマフラーの中に沈める。そのせいでハルヒはキョンを睨むような形になる。
キョンはハルヒが急に振りかえったため、慌てて視線をハルヒの顔に移す。キョンを見つめるハルヒの頬は少し、赤く染まっている。ハルヒの吐く息も白く宙に浮いていた。
「学生の俺に期待するのが間違っている。俺にそんな金は無い」
キョンは断言する。ハルヒは荒く鼻息を洩らし、前を向き、歩き始める。キョンはハルヒの後ろをついていく。ハルヒの歩き速度は先程より少し速い。
そして、キョンとハルヒはいつのまにか人並みの少ない通りにたどり着いていて、キョンはさりげなくハルヒとの距離を詰めた。ハルヒは気づいているのか、気づいていないのか、ペースをかえず、歩きつづけた。
ハルヒとキョンは公園にたどり着いた。遊具が一つも無い、ただの広場のような小さな公園だった。二つ三つある消えかけの電灯によってその公園は照らされていた。
ハルヒが急に振り向き、キョンはなんだ? と尋ねる。ハルヒはキョンを睨みながら両手を差し出す。キョンは顔に疑問符を浮かべハルヒの顔を手を交互に見る。
「プレゼントよ、プレゼント! 無いの?」
ハルヒは怒ったように両手を腰に当て、言う。キョンは苦笑し、両手でコートのポケットの中をあさる。そして、右手をポケットの中から取り出す。その手には首輪が握られている。
「な、何よそれ」
ハルヒは顔をしかめ、嫌悪感をあらわに言う。キョンはにやにやと笑い、右手をハルヒの前へと差し出す。首輪は赤い革の首輪で、キョンが昨日、ペットショップで買ったものだった。ネームプレートには丁寧に「haruhi」と刻印がされていた。
キョンはハルヒの表情を窺う。ハルヒはうろたえ、何かを呟くが、言葉にならずに、じっと首輪を見つめている。
「見てみろよ」
キョンは首輪をさらにハルヒへと差し出す。ハルヒは恐々と右手を出し、キョンから首輪を受け取る。
「ネームプレート、見てくれないか?」
ハルヒは顔を上げ、一度キョンの顔を見、下を向き、首輪のネームプレートを見る。そして、ローマ字を一文字ずつ読み、自分の名前が彫られていることに気づき、赤面する。
「やっぱり、いらないか?」
頬を真っ赤に染め、首輪を何度もまばたきしながら見つめるハルヒにキョンは言い、右手でハルヒから首輪を奪おうとする。ハルヒは咄嗟に首輪を引っ込めた。キョンはハルヒをにやにやと見つめる。
「せ、せっかくアンタが買ってきてくれたんだからもらってあげるわよ」
ハルヒはにやにやと笑うキョンを睨み、そして、キョンと目が合うと目をそらし、言った。キョンはそれを聞き、微笑んだ。
「じゃあ、つけてみてくれないか?」
キョンが言うとハルヒは顔をさらに赤く染め、キョンを、信じられない、というように見つめる。
「お前に似合うと思って買ってきたんだ」
キョンは更に続けた。
「いやよ、つけたら私まで変態みたいじゃない」
「そのネームプレートを見ただろう? お前の為に買ってきたんだ。つけてくれないか?」
キョンがハルヒを見つめながら真剣な表情を見せると、ハルヒは下を向いた。
「……馬鹿じゃないの」
ハルヒはそう呟き、首輪を見つめた。数刻、公園には消えかけの電灯がついたり消えたりしているだけの時間が流れた。
そしてハルヒは一度顔を上げ、泣きそうな顔をキョンに見せ、ゆっくりと首輪を緩めた。その手は震えていた。
首輪を緩め、首に回そうとしたところで、ハルヒはまた、泣きそうな顔でキョンを見つめる。
キョンは一歩、ハルヒに近づき、両手で震える手を包み、握り、首輪をハルヒの首へとまわした。
「あっ……」
ハルヒの声が洩れた。ハルヒがキョンを見上げるとキョンは微笑み、首輪をはめた。
キョンが首輪から、ハルヒの手から手を離すと、ハルヒはキョンを見上げたまま、その場にへたり込みそうになった。
キョンはそのハルヒの腰に手を回し、ハルヒを抱きとめた。そして、ハルヒがキョンを見上げるとキョンは微笑んだ。
「何が可笑しいのよ……」
ハルヒの頬は湯気が上がりそうなほど熱を持ち、キョンの胸に押し付けられていた。
終