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しそのは - (2009/07/05 (日) 17:34:25) の最新版との変更点
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<p><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/276.html">www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/276.html</a> </p>
<p> </p>
<p>「うーん……」<br />
湧き出てくる汗をパジャマの袖で拭い、僕は寝返りをうった。同時に体温計がピピピと電子音を立てる。38.3度。<br />
風邪を引いたのはいつ以来だろうか。そんな事を考えている間にも頭の中でジンジンと何かが振動し、僕は思わず頭を抱えた。<br />
僕とて機関の一員だ。いつでも戦闘に出れるように、体調管理には人一倍気を使っている。それなら原因は……昨日のあれか。と記憶を辿る。<br /><br />
団活が終了した頃、雨が降っていた。僕は幸いな事に置き傘を所持していたが、隣に佇む小柄な宇宙人、長門さんはじっと降りしきる雨を眺めていたのだ。<br />
「傘、持っていないんですか?」<br />
僕の疑問に長門さんは少し顔を持ちあげ、微弱に頷く。<br />
「それではこれを」<br />
「……あなたが濡れてしまう」<br />
「僕の事はお気にせずに。家も近いですし、このまま走って帰りますから」<br />
微笑みかける。彼女には風邪を引くという概念はないのかもしれないが、それでもこのまま放って帰るのは憚られる。それなら僕が濡れたほうが随分マシだ。<br />
僕の言葉に、「そう」と長門さんは透き通る声で呟いた。<br /><br />
それでこのザマだ。情けない、と心の中で自分を叱咤する。<br />
今日は不思議探検がなくてよかった。とパラパラと振る小雨に感謝していると、<br />
――ガチャ。僕の耳が正しければ、それは家のドアが開く音だった。この家は機関から個別に提供されているもので、もちろん僕以外にこの家に住む者はいない。<br />
もしかして、泥棒か? 思わず身を構える。しかしその考えは、十秒も経たない間に崩れ去った。</p>
<p> </p>
<p>「……長門さん?」<br />
「あなたの体調を考えて、玄関までは来る事は体力を消耗させると判断した。許して欲しい」<br />
「いや、あの」<br />
ガラスのように透き通った二つの瞳が僕を見据える。僕の現在の服装はパジャマで、おそらく髪もボサボサだろう。「古泉一樹」のイメージには完璧にそぐわない。<br />
それに風邪を引いた原因も、彼女だけには知られたくなかったというのに。<br />
「……すみません」<br />
思わず言葉が漏れる。その言葉に、長門さんは首を傾げた。<br />
「どうして」<br />
この場をどうして取り繕うかと頭を回転するものの、それを頭痛が阻止した。その姿を見かねて、長門さんが持ってきた鞄を探る。そして取り出したものに、僕は驚いて二の句が継げなかった。<br />
「……これ」<br />
「えっと、何ですか、これ」<br />
「紫蘇」<br />
長門さんは簡潔に要旨を述べる。それは見れば分かった。緑色の大葉、独特の匂いが鼻をくすぐる。<br />
「食べて」<br />
二枚ほど入った袋を僕に押しつける。<br />
「あの、長門さん?」<br />
「これを用いると健康を取り戻すと聞いた。……違う?」<br />
僕の記憶が正しければ、それは食中毒の話だったはずだ。<br />
「そう」<br />
長門さんは視線を僕から紫蘇に移す。その瞳がどこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。</p>
<p> </p>
<p>それでも僕は、それが嬉しかった。<br />
彼女は僕を気遣ってくれているのだ。以前の長門さんからは考えられない行為だろう。宇宙に作られたアンドロイドの、感情の芽生え。<br />
思わず顔が綻ぶ。長門さんが不思議そうに僕を見た。<br />
「ありがとう、ございます」<br />
そう言って紫蘇を受け取る。僕の熱と、雨の中を歩いて来た彼女の冷たさがあいまって、その手はとても心地よく感じた。<br />
コクン、と長門さんが頷く。雨の音を子守唄に、僕はゆっくりと目を閉じた。<br /><br /><br />
「……早く、よくなって」<br /><br />
夢の世界へと入る前、そんな声を聞いた気がした。</p>
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<p><a href="//www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/276.html">www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/276.html</a> </p>
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<p>「うーん……」<br />
湧き出てくる汗をパジャマの袖で拭い、僕は寝返りをうった。同時に体温計がピピピと電子音を立てる。38.3度。<br />
風邪を引いたのはいつ以来だろうか。そんな事を考えている間にも頭の中でジンジンと何かが振動し、僕は思わず頭を抱えた。<br />
僕とて機関の一員だ。いつでも戦闘に出れるように、体調管理には人一倍気を使っている。それなら原因は……昨日のあれか。と記憶を辿る。<br />
<br />
団活が終了した頃、雨が降っていた。僕は幸いな事に置き傘を所持していたが、隣に佇む小柄な宇宙人、長門さんはじっと降りしきる雨を眺めていたのだ。<br />
「傘、持っていないんですか?」<br />
僕の疑問に長門さんは少し顔を持ちあげ、微弱に頷く。<br />
「それではこれを」<br />
「……あなたが濡れてしまう」<br />
「僕の事はお気にせずに。家も近いですし、このまま走って帰りますから」<br />
微笑みかける。彼女には風邪を引くという概念はないのかもしれないが、それでもこのまま放って帰るのは憚られる。それなら僕が濡れたほうが随分マシだ。<br />
僕の言葉に、「そう」と長門さんは透き通る声で呟いた。<br />
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それでこのザマだ。情けない、と心の中で自分を叱咤する。<br />
今日は不思議探検がなくてよかった。とパラパラと振る小雨に感謝していると、<br />
――ガチャ。僕の耳が正しければ、それは家のドアが開く音だった。この家は機関から個別に提供されているもので、もちろん僕以外にこの家に住む者はいない。<br />
もしかして、泥棒か? 思わず身を構える。しかしその考えは、十秒も経たない間に崩れ去った。</p>
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<p>「……長門さん?」<br />
「あなたの体調を考えて、玄関までは来る事は体力を消耗させると判断した。許して欲しい」<br />
「いや、あの」<br />
ガラスのように透き通った二つの瞳が僕を見据える。僕の現在の服装はパジャマで、おそらく髪もボサボサだろう。「古泉一樹」のイメージには完璧にそぐわない。<br />
それに風邪を引いた原因も、彼女だけには知られたくなかったというのに。<br />
「……すみません」<br />
思わず言葉が漏れる。その言葉に、長門さんは首を傾げた。<br />
「どうして」<br />
この場をどうして取り繕うかと頭を回転するものの、それを頭痛が阻止した。その姿を見かねて、長門さんが持ってきた鞄を探る。そして取り出したものに、僕は驚いて二の句が継げなかった。<br />
「……これ」<br />
「えっと、何ですか、これ」<br />
「紫蘇」<br />
長門さんは簡潔に要旨を述べる。それは見れば分かった。緑色の大葉、独特の匂いが鼻をくすぐる。<br />
「食べて」<br />
二枚ほど入った袋を僕に押しつける。<br />
「あの、長門さん?」<br />
「これを用いると健康を取り戻すと聞いた。……違う?」<br />
僕の記憶が正しければ、それは食中毒の話だったはずだ。<br />
「そう」<br />
長門さんは視線を僕から紫蘇に移す。その瞳がどこか寂しげに見えたのは気のせいだろうか。</p>
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<p>それでも僕は、それが嬉しかった。<br />
彼女は僕を気遣ってくれているのだ。以前の長門さんからは考えられない行為だろう。宇宙に作られたアンドロイドの、感情の芽生え。<br />
思わず顔が綻ぶ。長門さんが不思議そうに僕を見た。<br />
「ありがとう、ございます」<br />
そう言って紫蘇を受け取る。僕の熱と、雨の中を歩いて来た彼女の冷たさがあいまって、その手はとても心地よく感じた。<br />
コクン、と長門さんが頷く。雨の音を子守唄に、僕はゆっくりと目を閉じた。<br />
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「……早く、よくなって」<br />
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夢の世界へと入る前、そんな声を聞いた気がした。</p>
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