<div style="line-height: 1.8em; font-family: monospace"> <h4>Report.23 長門有希の憂鬱 その12~涼宮ハルヒの手記(後編)~</h4> <p><br> 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。</p> <h5><br> (朝倉涼子の幻影I)</h5> <p> 最近、朝倉が出てくる夢を見る。<br> 最初は、変な空間だった。<br> 「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」<br> 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。<br> 「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」<br> 朝倉はあたしの呼びかけを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。<br> 「……っ!」<br> あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。<br> 「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」<br> あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。<br> ……ナニ、コレ。<br> 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。<br> かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。<br> 一刀両断された靄が空気に溶けていった。<br> ………<br> ……<br> …</p> <p><br> なんじゃこりゃ――――!!</p> <p><br> ってところで目が覚めた。<br> まじで、なんじゃこりゃ?</p> <h5><br> (朝倉涼子の幻影II)</h5> <p> 最近、朝倉が出てくる夢を見るのは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。<br> 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。</p> <p><br> そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!</p> <p><br> 冗談はさておいて。<br> 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。<br> 状況としては、こう。<br> あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。<br> 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。<br> 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。<br> 目の前には、人影が二つ。<br> 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。<br> 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。<br> そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。<br> ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身。<br> しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。<br> って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。打ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。<br> 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。<br> その後もすごかった。<br> 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。</p> <p><br> 何ということでしょう。<br> 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。</p> <p><br> ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。 自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。</p> <p><br> 有希……相当怖いって、それ。</p> <p><br> だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!<br> こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。<br> それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。<br> はっきり言うわ。</p> <p><br> 激萌え!!</p> <p><br> 夢の中のふたりは、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。</p> <p><br> まるで……姉妹みたいに。</p> <h5><br> (朝倉涼子の幻影IV)</h5> <p> 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。<br> ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。<br> 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番、めっちゃ恥ずかしい夢だった。<br> これを書いてるのは朝5時。余りの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ。(目が覚めたのは4時頃だったような……うわ、1時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)<br> どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。<br> ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!<br> ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!<br> ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだわ。<br> まず場面を説明するわ。<br> この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立てかけてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。<br> 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。<br> 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉君、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。<br> 状況は、部室で、登場人物全員に見られてる。<br> こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!<br> 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。<br> こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、</p> <p><br> 告 白 し た<br> キ ス し た</p> <p><br> ………<br> ……<br> …<br> ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!</p> <p><br> 30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。<br> あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。<br> 夢の話の続きは……<br> あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!<br> ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。<br> あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。<br> 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それが段々、どうすれば仲良くなれるかに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタイン攻略計画。<br> 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。<br> おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。<br> しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。<br> それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。<br> 今でも、こう、抱き締めた有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!<br> 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、これは「集中」! しまった! 孔明の罠かっ!?<br> アホなこと書いてないで、先に進めよう。股に枕を挟んでね。こうやって踏ん張ってないと、正気を保てないのさ。<br> さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。<br> 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「思い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる思いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。</p> <p><br> つまり。</p> <p><br> あたしは、有希のことが好き?</p> <p><br> ……ということは、これはあたしの願望っていうこと?<br> いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。<br> はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。<br> そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。<br> ……なんてね。アホか、あたしは。</p> <p><br> ……結局実行してしまった。アホや、あたしorz</p> <p><br> えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……</p> <p><br> って、違う、そうじゃなくて。<br> 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。<br> すぐに抱き比べてみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。<br> いやー、有希ってば、やっぱり小っちゃくて可愛いなぁ~!<br> でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。<br> 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。<br> みくるちゃんのは『手から溢れ出す』って感じだけど、有希のは『手に収まる』って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。<br> ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。<br> なんであたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。<br> まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……</p> <p> うーん……<br> 考えれば考えるほど、分からないや。</p> <p><br> <font color="#339966">【ここから先は、涼宮ハルヒが全てを思い出した後の話。】</font></p> <h5><br> (涼宮ハルヒの混乱)</h5> <p> あたしは今、猛烈に困惑している。</p> <p><br> 何コレ。</p> <p><br> 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。<br> もう一度問う。何コレ。</p> <p><br> この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。書いた覚えもない。<br> そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。</p> <p><br> だって、だってよ。<br> あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。<br> あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。<br> 落ち着いて考えてみなさいよ?<br> あたしと有希は、女の子同士。<br> そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?<br> あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、良く見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと、凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。<br> でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。</p> <p><br> だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。<br> 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。<br> 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。</p> <h5><br> (涼宮ハルヒの決心)</h5> <p> さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。<br> この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。<br> あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。<br> 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。<br> そうしたら、思い出した。<br> 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。おぼろげながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。<br> それとともに、ある「想い」も、思い出した。</p> <p><br> あたしは、有希が好き。</p> <p><br> まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。<br> 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。<br> なんてことかしら。<br> あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。<br> それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。<br> うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……<br> いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。<br> てことは、自業自得か、あたし?</p> <p><br> あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。<br> あたしは、有希のことが好き。<br> この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一回、想いを伝えたって良いはずだわ。<br> だから、あたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。<br> 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ち。</p> <h5><br> (涼宮ハルヒの手紙)</h5> <p> 有希に読んでほしいこと。<br> ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。<br> 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。<br> この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。<br> あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。<br> 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。<br> 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。<br> とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実のほうがずっと大切だから。<br> 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。</p> <p><br> 有希へ。<br> あたしはあんたを愛してる。<br> あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。<br> いろんな意味で、あんたが好き。大好き。<br> だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。<br> そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。<br> それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。<br> この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。</p> <p><br> 願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。<br> 願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。</p> <p><br> そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。</p> <p align="right"><br> ハルヒ 記</p> <p><br> <font color= "#339966">【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】</font></p> <p><br> 追伸</p> <p><br> 有希はあたしの嫁。</p> <p><br> 「嫁」と書いて「ともだち」と読む。</p> </div>