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長門有希の報告Report.23 - (2007/06/16 (土) 09:58:17) のソース

<div style="line-height: 1.8em; font-family: monospace">
<h4>Report.23 長門有希の憂鬱 その12~涼宮ハルヒの手記(後編)~</h4>
<p><br>
 前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。</p>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影I)</h5>
<p> 最近、朝倉が出てくる夢を見る。<br>
 最初は、変な空間だった。<br>
「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」<br>
 朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。<br>
「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」<br>
 朝倉はあたしの呼びかけを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。<br>
「……っ!」<br>
 あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。<br>
「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」<br>
 あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。<br>
 ……ナニ、コレ。<br>
 朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。<br>
 かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。<br>
 一刀両断された靄が空気に溶けていった。<br>
 ………<br>
 ……<br>
 …</p>
<p><br>
 なんじゃこりゃ――――!!</p>
<p><br>
 ってところで目が覚めた。<br>
 まじで、なんじゃこりゃ?</p>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影II)</h5>
<p> 最近、朝倉が出てくる夢を見るのは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。<br>
 内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。</p>
<p><br>
 そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!</p>
<p><br>
 冗談はさておいて。<br>
 前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。<br>
 状況としては、こう。<br>
 あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。<br>
 一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。<br>
 二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。<br>
 目の前には、人影が二つ。<br>
 人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。<br>
 人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。<br>
 そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。<br>
 ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身。<br>
 しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。<br>
 って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。打ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。<br>
 夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。<br>
 その後もすごかった。<br>
 地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。</p>
<p><br>
 何ということでしょう。<br>
 再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。</p>
<p><br>
 ……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。 自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。</p>
<p><br>
 有希……相当怖いって、それ。</p>
<p><br>
 だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!<br>
 こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。<br>
 それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。<br>
 はっきり言うわ。</p>
<p><br>
 激萌え!!</p>
<p><br>
 夢の中のふたりは、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。</p>
<p><br>
 まるで……姉妹みたいに。</p>
<h5><br>
(朝倉涼子の幻影IV)</h5>
<p> 夢とは、まこと奇怪なものであることよ。<br>
 ……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。<br>
 最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番、めっちゃ恥ずかしい夢だった。<br>
 これを書いてるのは朝5時。余りの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ。(目が覚めたのは4時頃だったような……うわ、1時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)<br>
 どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。<br>
 ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!<br>
 ……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!<br>
 ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだわ。<br>
 まず場面を説明するわ。<br>
 この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立てかけてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。<br>
 壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。<br>
 登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉君、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。<br>
 状況は、部室で、登場人物全員に見られてる。<br>
 こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!<br>
 自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。<br>
 こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、</p>
<p><br>
 告 白 し た<br>
 キ ス し た</p>
<p><br>
 ………<br>
 ……<br>
 …<br>
 ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!</p>
<p><br>
 30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。<br>
 あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。<br>
 夢の話の続きは……<br>
 あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!<br>
 ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。<br>
 あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。<br>
 最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それが段々、どうすれば仲良くなれるかに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタイン攻略計画。<br>
 要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。<br>
 おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。<br>
 しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。<br>
 それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。<br>
 今でも、こう、抱き締めた有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!<br>
 落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、これは「集中」! しまった! 孔明の罠かっ!?<br>
 アホなこと書いてないで、先に進めよう。股に枕を挟んでね。こうやって踏ん張ってないと、正気を保てないのさ。<br>
 さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。<br>
 思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「思い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる思いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。</p>
<p><br>
 つまり。</p>
<p><br>
 あたしは、有希のことが好き?</p>
<p><br>
 ……ということは、これはあたしの願望っていうこと?<br>
 いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。<br>
 はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。<br>
 そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。<br>
 ……なんてね。アホか、あたしは。</p>
<p><br>
 ……結局実行してしまった。アホや、あたしorz</p>
<p><br>
 えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……</p>
<p><br>
 って、違う、そうじゃなくて。<br>
 驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。<br>
 すぐに抱き比べてみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。<br>
 いやー、有希ってば、やっぱり小っちゃくて可愛いなぁ~!<br>
 でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。<br>
 有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。<br>
 みくるちゃんのは『手から溢れ出す』って感じだけど、有希のは『手に収まる』って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。<br>
 ……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。<br>
 なんであたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。<br>
 まさか予知夢? って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……</p>
<p> うーん……<br>
 考えれば考えるほど、分からないや。</p>
<p><br>
<font color="#339966">【ここから先は、涼宮ハルヒが全てを思い出した後の話。】</font></p>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの混乱)</h5>
<p> あたしは今、猛烈に困惑している。</p>
<p><br>
 何コレ。</p>
<p><br>
 「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。<br>
 もう一度問う。何コレ。</p>
<p><br>
 この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。書いた覚えもない。<br>
 そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。</p>
<p><br>
 だって、だってよ。<br>
 あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。<br>
 あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。<br>
 落ち着いて考えてみなさいよ?<br>
 あたしと有希は、女の子同士。<br>
 そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?<br>
 あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、良く見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと、凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。<br>
 でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。</p>
<p><br>
 だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。<br>
 落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。<br>
 1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。</p>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの決心)</h5>
<p> さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。<br>
 この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。<br>
 あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。<br>
 物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。<br>
 そうしたら、思い出した。<br>
 間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。おぼろげながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。<br>
 それとともに、ある「想い」も、思い出した。</p>
<p><br>
 あたしは、有希が好き。</p>
<p><br>
 まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。<br>
 自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。<br>
 なんてことかしら。<br>
 あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。<br>
 それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。<br>
 うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……<br>
 いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。<br>
 てことは、自業自得か、あたし?</p>
<p><br>
 あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。<br>
 あたしは、有希のことが好き。<br>
 この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一回、想いを伝えたって良いはずだわ。<br>
 だから、あたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。<br>
 有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ち。</p>
<h5><br>
(涼宮ハルヒの手紙)</h5>
<p> 有希に読んでほしいこと。<br>
 ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。<br>
 不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。<br>
 この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。<br>
 あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。<br>
 今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。<br>
 自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。<br>
 とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実のほうがずっと大切だから。<br>
 思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。</p>
<p><br>
有希へ。<br>
あたしはあんたを愛してる。<br>
あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。<br>
いろんな意味で、あんたが好き。大好き。<br>
だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。<br>
そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。<br>
それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。<br>
この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。</p>
<p><br>
願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。<br>
願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。</p>
<p><br>
そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。</p>
<p align="right"><br>
ハルヒ 記</p>
<p><br>
<font color=
"#339966">【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】</font></p>
<p><br>
追伸</p>
<p><br>
有希はあたしの嫁。</p>
<p><br>
「嫁」と書いて「ともだち」と読む。</p>
</div>