前回に引き続き、観測対象が綴った文書から報告する。
最近、朝倉が出てくる夢を見る。
最初は変な空間だった。
「ようこそ、涼宮さん。ここはわたしの情報制御下にある。」
朝倉は、意味不明なことを宣言した。と思ったら、おもむろにごっつい軍用ナイフを取り出した。そして、あたしに向けてナイフを構えた。
「ちょ、ちょっと! 何の冗談よ、それ!? 面白くないし笑えないって!」
朝倉はあたしの呼び掛けを完全に無視すると、一直線にあたしを刺してきた。
「……っ!」
あたしは紙一重で、朝倉の攻撃をかわした。
「性質の悪い冗談はやめて! 玩具でも危ないって!」
あたしは叫びながら、あたしを掠めていった朝倉に向き直った。
……ナニ、コレ。
朝倉のナイフが、何もない空間に突き刺さっているように見えた。
かと思ったら、朝倉のナイフが突き刺さってる辺りを中心に、黒い人型の靄のようなものが現れた。朝倉は、ナイフをその黒い人型の靄に突き刺したまま、靄を払うように振り抜いた。
一刀両断された靄が空気に溶けていった。
………
……
…
なんじゃこりゃ――――!!
ってところで目が覚めた。
マジで、何じゃこりゃ?
最近、朝倉が出てくる夢を見るっていうことは前に書いたけど、この話には続きがあったのだ。いや、本当に続きなのかどうかは分かんないけど。
内容としては、実は前に書いたことがあった。ここから前のどっかのページに書いてある。その内容は、まあ、その……あたしが朝倉の『ぱんつ』見て喜んでるやつよ。
そこ! HENTAIとか言わない! あたしだって自覚してるんだから!
冗談はさておいて。
前にも書いた内容ではあるんだけど、『ぱんつ』だけなのもアレなので、もうちょっと詳しく書いとこう。
状況としては、こう。
あたしは通学路の途中、あの北高前の長い坂を下り、線路沿いにしばらく行った住宅街にいた。街並みは、あたしが知ってる、見慣れた風景。でも、二つ違う点があった。
一つ。空の色がヘン。一言で言うと、色がない。
二つ。物音がしない。本当に、一切、音がしない。完全な無音。
目の前には、人影が二つ。
人影その1。私服姿の朝倉涼子。両手にはなぜか鉄筋を持っている。
人影その2。覆面姿の超能力者。覆面にはなぜかストッキングを使っている。
そんな二人が、あたしの目の前で戦っている。超能力者が空中に鉄筋を発生させて、朝倉に向けて撃つ。朝倉は、両手の鉄筋で、飛んできた鉄筋を残らず叩き落とすと、そのまま間合いを詰めて超能力者に殴りかかる。超能力者はすぐに自分の手の中に鉄筋を出現させ、対抗する。一進一退の攻防。
ああ、なんて現実離れした夢だろうか、とあたしは目の保養に勤しんでたってわけ。夢の中なのに、妙にリアルだったわね、朝倉のスカートの中身(ちなみに『縞パン』よ)。
しばらく攻撃の応酬が繰り広げられた後、両者は間合いを取って睨み合い。
って書くと、互角のように見えるけど、実は超能力者の方は飛び道具持ってんのよね。撃ち出される鉄筋を叩き落としてる朝倉だけど、だんだん押されていく。そして、調子に乗った超能力者は、大量の鉄筋の雨を朝倉に降らせた。
夢の中なのに、思わず叫んじゃったわ。まあ、朝倉は無事だったけど。さすが夢。
その後もすごかった。
地面に磔にされた朝倉の言葉に、あたしは有希の姿を思い浮かべた。
何ということでしょう。
再び降る鉄筋の雨を爆散させて、長門有希が颯爽と現れたのです。
……いや、劇的にビフォーアフターしてる場合じゃないって。自分で自分にツッコミを入れてる間に、有希はヌンチャクで超能力者をしばき始めた。……いつも通りの無表情で。
有希……相当怖いって、それ。
だって、考えてみてよ? ぱっと見は可憐で儚げな美少女が、ストッキングで覆面した変態を、無言で無表情のまま、淡々とヌンチャクでどつき回してるのよ!
こんなシュールな画には、なかなか遭遇できないわね。
それから朝倉は、これまたイメージぴったりな薙刀を装備。あたしの護衛として大立ち回りを披露してくれた。
はっきり言うわ。
激萌え!!
夢の中の二人は、なぜか息もぴったりで、まるで長年付き合った相棒みたいだと思った。
まるで……姉妹みたいに。
夢とは、まこと奇怪なものであることよ。
……古文の直訳風に書き出してみたけど、他意はない。
最近、朝倉が出てくる夢を見るけど、今日のは今までで一番恥ずかしい夢だった。
これを書いてるのは午前五時。あまりの恥ずかしさに目が覚めて、しかもそのまま眠れなくなったってわけ(目が覚めたのは四時頃だったような……うわ、一時間も悶々としてたのか! 重症だ……orz)。
どうにも寝付けないし、悶々として身悶えして仕方がないので、文章を書いて気持ちを落ち着けようと試みるテスト。
ああ、やっぱり動揺してるな。日本語おかしい。「試みる」と「テスト」って、意味一緒やん!
……よし。大分落ち着いてきた。落ち着いてこー!
ああもう。いい加減話を進めよう。書き出してしまわないともう、おかしくなりそうだし。
まず場面を説明するわ。
この夢は、この間見た夢と繋がっているのかいないのか、よく分からない状況。ただ、なんかやたら長い、どこかで見たような包みが壁に立て掛けてあったから、多分続きものじゃないかと睨んでる。
壁、ってことでも分かるように、場所は室内。て言うか部室。
登場人物は、朝倉、有希、みくるちゃん、古泉くん、キョン、それから……喜緑さん? 生徒会役員の。あのクソ生徒会長と一緒に現れた人。SOS団に恋人の捜索依頼をしてきたこともあったわね。
状況は、部室で、あたしと有希が話してて、というか、あたしが有希に語りかけてて、それを登場人物全員に見られてるところ。
こんな大勢の人間に見られながら、あたしは……うわー、やっぱり恥ずかしい!
自分でも分かるくらい、顔が熱い。多分、真っ赤になってるんだろうなあ。でも、これを書かなきゃ、多分ずっとこの顔と身体の熱さは治まらないわ。
こんな衆人環視の状況で、あたしは、有希に、激しく、
告 白 し た
キ ス し た
………
……
…
ぎゃぽ――――!! 死ぬほど恥ずかしい!!
――30分経過。ようやく落ち着いてきたので再開。
あれから30分、あたしは布団でずっとごろごろ転がってた。ていうか、身悶えてた。あひー、とか奇声を発しながら。……こんな姿、人には絶対見せられないな。
夢の話の続きは……
あ゛――――! ダメ! 無理! もうこれ以上詳しく書けない! 書いたら死んじゃう! でも書かないとやっぱり恥ずかしくて死んじゃう!
ギリギリ書ける範囲で書いてみることを試みると、次のようになる。
あたしは有希を正面から見据えた。そして、有希に出会った日からの、あたしと有希の思い出を語った。
最初はやけに無口で変わった娘だと思っていたこと。それがだんだん、どうすれば仲良くなれるかというものに変わっていったこと。文化祭の思い出。体育祭の思い出。雪山の冬合宿。バレンタインデー攻略計画。
要は、あたしの「愛の告白」が延々と続いてたってわけ。
おお、これだけ端折って書くと、書けるもんね。
しかし、ありえない。夢だから、で説明は付くけど。
それにしても、おかしすぎる。違和感ありまくり。どこに違和感を覚えるかって、そら、女が女に告白してる時点でツッコミ入れるやろ! ってなもんだけど、そこだけじゃない。何というか、夢にしては、そしてありえない情景にしては、妙に現実感があることか。
今でも、こう、抱き締めた時の有希の感触とか……うわー! 不用意に書いたら、感触が蘇ってきた――――!
落ち着け落ち着け……こんせんとれーしょん……って、それは「集中」!
アホなこと書いてないで、先に進めよう。
さて。このやたらと恥ずかしい夢は、困った事に、非常に現実感があるのだ。なぜなら、夢の中で有希に熱く語った、あたしと有希の思い出が、どれも実話だからだ。
思い出だけじゃない。あたしの、有希に対する「想い」もまた、現実にあたしが有希に感じてる想いをいろいろと加工したら、わりと無理なく得られるくらいに「それっぽい」のだ。
つまり。
あたしは、有希のことが好き?
……ということは、これはあたしの願望っていうこと?
いつか、有希に告白したい。そしてOKを貰いたいっていう、信じられないような願望だと? ありえなーい。
はあ。明日からどんな顔して有希に接したら良いんだろ? まともに顔見られないかも。
そうだ。試しに有希に抱きついてみて、感触を確かめてみようか。それで「現実は違う」って納得しよう。
……なんてね。アホか、あたしは。
翌日。……結局実行してしまった。アホや、あたしorz
えー、抱き締めた有希の感触は、小さくて、柔らかくて、正直たまりませんでした……
って、違う、そうじゃなくて。
驚いたことに、夢の中と同じ感触だった。
すぐに抱き比べ(!)てみたけど、やっぱりみくるちゃんとは違う感触。主に胸とか。
いやー、有希ってば、やっぱりちっちゃくて可愛いなぁ~!
でも身長は、実はみくるちゃんの方が若干低いのよね。あの巨乳で分かりにくいけど、みくるちゃんの方が、本当は小柄なのよね。抱き締めても、全然そうとは思えないけど。
有希の方が、胸とか小振りで、なんていうかイメージぴったり? って感じ。
みくるちゃんのは「手から溢れ出す」って感じだけど、有希のは「手に収まる」って感じかな。小柄な身体と小振りな胸を、あたしの身体と掌でしっかり掴めるというか。
……とにかく、みくるちゃんの感触を夢で再生してたわけじゃなかった。
何であたしは、有希の抱き心地を知ってたんだろう。まだ抱いたことなかったはずなのに。まさか予知夢?
って、「抱いたことない」って、なんか変な意味にも取れるわね……
うーん……
考えれば考えるほど、分からないや。
【ここから先は、涼宮ハルヒがすべてを思い出した後の話。】
あたしは今、猛烈に困惑している。
何コレ。
「コレ」とは、今この文章を書いている、この日記帳、『涼宮ハルヒの手記』のことよ。
もう一度問う。何コレ。
この手記に書いてある文字は、確かに、あたしの字だ。でも、あたしはこんな手記の存在を知らない。でも、何となく書いた覚えがある。
そしてその内容が、ますますあたしを困惑させる。とても信じられない内容だわ。ぶっちゃけ、ありえない。
だって、だってよ。
あたしが、有希のこと、その……「好き」だなんて。しかも、有希と、その……「一線越えちゃってる」なんて。
あー、やばいやばい。書いてて顔が熱い。いや、全身か。
落ち着いて考えてみなさいよ?
あたしと有希は、女の子同士。
そりゃ、あたしだって、有希と仲良くしたいとは、思うわよ?
あの娘、いつも無口で無表情で、ちょっと変わってるところはあるけど、ああ見えてうちのSOS団随一の万能選手なんだから。団長たるあたしも鼻が高いってもんだわ。それに、確かに有希は、よく見るととても整った顔立ちで、色白で……儚げな中にも、可憐さと凛々しさが同居してる、そんな不思議な魅力があることは認めるわ。
でも、だからって、有希と……「肉体的に」まで仲良くなりたいとは、さすがに思わないわ。
だから、ありえない。それこそ、精神病の一種だわ。
落ち着け、あたし。こんなときは素数を数えるのよ。
1,2,3……しまった、1は素数じゃないわ。
さてと。前のページでは、あのように書いたけど。前言を撤回するわ。
この手記を見付け、読み終わって、前のページを書いてからしばらくの間。
あたしは、心を落ち着けるために、しばらくぼーっとしてた。
物事を考察するに当たっては、先入観や固定観念は最大の障害となる。だから、心を空っぽにするために、ひたすらぼーっとしてた。ある意味放心状態よね。そうやってしばらく放心して、明鏡止水のような心境になって、あたしは再び考え出した。
そうしたら、思い出した。
間違いない。この手記は、あたしが書いたものだわ。朧ながらも、あたしがこれを書いていた頃のことが思い出されてきた。
それと共に、ある「想い」も、思い出した。
あたしは、有希が好き。
まさか自分がこんなことを思ってたなんて、信じたくない、認めたくないけど、もう言い逃れはやめることにするわ。だって、自分の心にはいつまでも嘘をつき続けられないんだもの。
自分の心に嘘をつくのをやめた途端、色々なことが一気に思い出された。
何てことかしら。
あたしは、こんなにも、有希のことが好きだったなんて。
それに……有希と、その……ヤっちゃったのも本当のことだ。
うわ、恥ずかしい! 有希ったら、あんなことやこんなことを……
いや、そもそも、先に手を出したのはあたしなんだけどさ。
てことは、自業自得か、あたし?
あたしは、決めた。もう迷わない。もう忘れない。
あたしは、有希のことが好き。
この気持ちは、まだ明確に伝えてないかもしれない。あの告白が夢だったとしたら。夢じゃないかもしれないけど、それならそれでもう一度、想いを伝えたって良いはずだわ。
だからあたしは、有希に手紙を書くことにした。この際だから、この手記ごと見せるわ。
有希、読んでね。あたしのこれまでの、そしてこれからの気持ちをさ。
有希に読んでほしいこと。
ここまで読んで、あたしはどんなことを思っていたのか思い出した。
不思議なことに、今まで何となく感じていた、心の一部が抜け落ちたような感覚が治まった。まるでパズルのピースがはまるように、抜け落ちていた部分がぴったり埋まったような気がする。
この「手記」を読むに、あたしは色々と大事なことを忘れていたらしい。
あたしの身に何かが起こったのだろうか? その辺りは今でもまだ思い出せない。でも、ある日を境に、心から何かが抜け落ちたような気がしていた。
今なら分かる。その時「何か」があって、あたしはある大切な想いを忘れてしまった。
自分で忘れていたのなら、自分の不甲斐なさを恥じるしかない。でも、なぜかそうじゃない気がする。あたしは、何者かにその想いを忘れさせられたのだと感じている。これは何かの陰謀かもしれない。
とにかく、今はそのことはいい。思い出せた事実の方がずっと大切だから。
思い出した想いを、改めてここに記す。もしもまた、忘れたり忘れさせられたりするようなことがあっても、すぐに思い出すことができるように。
有希へ。
あたしはあんたを愛してる。
あたしもあんたも女の子だけど、そんなことは関係ない。
いろんな意味で、あんたが好き。大好き。
だからあたしは、あんたがいなくなった時、とても寂しかった。苦しかった。
そして、もう二度とあんたを失いたくないって思った。
それなのに、この気持ちを忘れていたなんて、どうかしてる。本当にごめん。
この気持ちを忘れないように、想いを文字にしてここに記す。
願わくば、もう二度とこの気持ちを忘れることがないように。
願わくば、もう二度とあんたを失うことがないように。
そして――願わくば、あんたとずっと一緒にいられますように。
涼宮 ハルヒ
【ここまでが、その時にわたしが見た手記の内容。その後、次の部分が涼宮ハルヒ自身の手によって新たに書き加えられた。】
追伸
有希はあたしの嫁。
「嫁」と書いて「ともだち」と読む。