第一章「気付かない気付けない」
世界のどこかで涼宮ハルヒが不思議を求めて走り回る。「ほら!キョン!さっさといくわよ!」「やれやれ…もう少し静かにできんのかね…」あなたは呆れた顔で言う。…だけど少し嬉しそう。
夏ですね。涼宮さんが計画したSOS団合宿も無事終了して数日が経ちました。彼が避暑地から帰ってきてなかったというのもありますが、涼宮さんも少し満足したようで最近のSOS団の集まりは皆無でした。まぁ彼がいないこともあってかちょくちょく閉鎖空間が発生しましたが…おや、携帯が鳴ってますね。また閉鎖空間ですか?「あ、古泉くん?」違いました。「涼宮さん?どうしました?」「キョンが帰ってきたことだし、久しぶりにみんなで集まろうと思うんだけど、今日何か予定あるかしら?」「いえ、暇を持て余していたところです」「良かった。じゃあ水着を持って2時にいつもの場所ね!あ、あと古泉くんは自転車で来てね!」「わかりました」そういえば彼の帰宅日は昨日でしたか。時間は…あと3時間。早い内に支度した方がいいですね。さて、水着は…ブーメランパンツしかない…しかも小学生用…機関に入ってから夏休みに遊ぶことはほとんど無かったですしね。新しい水着を買いに行くため僕は近くのスポーツ店まで自転車を漕いだ。
「また2番目でしたか」「………」水着を買ってそのまま集合場所に行くと、そこにはすでに長門さんが立っていました。僕の時計が合っていればまだ集合時間の1時間前なんですが…一体いつからいるんでしょうか?「…秘密」「そうですか」「…あと30分で朝比奈みくるがここに到着し、その10分後に涼宮ハルヒ」「それで最後は彼と言うわけですね」「…そう」これも涼宮さんが望んだことでしょう。しかし…あと30分ですか…「暑いので残りの三人に連絡して、喫茶店で待つことにしましょうか?」「…」「長門さん?」「…そうする」「決まりですね。では、行きましょう」カランカラン待ち合わせ場所から歩いてすぐの喫茶店に入る。蒸し暑い空気が一転して涼やかなものになった。「何を注文してもよろしいですよ。提案したのは僕ですし」「…」あれ?また動きが止まりました。「…あの、何か気に召さないことでも…」「…少し考えごとをしていた」「そうですか。まぁ時間もありますので、ゆっくり決めてください」そう言ってメニューに目を落とす。そう言えばお昼まだ食べてなかった気が…何かお腹に入れておきますか。「長門さんは決まりましたか?」「…もう少し」しかし本当に時間をかけて選びますね。「…初めてだから」「え?」「…なんでもない。このイチゴパフェにする」初めて…メニューを決めるのがってことでしょうか?でも野球大会の打ち上げでもファミレスに行ってますし…この喫茶店にも来てると思うんですが。まぁ気にすることもないでしょう。ウェイターに注文を告げ、のんびりと過ごす。「そう言えば長門さんは手ぶらなんですか?」「…涼宮ハルヒが私と朝比奈みくるの分の水着を選んでくると言っていた」「そうでしたか。水着が必要と言うことはどこかに泳ぎに行くんでしょうかね」「…」しばらくするとサンドイッチとイチゴパフェが運ばれてくる。サンドイッチ…この値段でこの量ですか…ってか長門さんのイチゴパフェ大きくないですか?「…情報操作は得意」「だったら僕のサンドイッチの量も増やして下さいよ」「…太る」「長門さんはどうなんですか」「…私には太るという概念がない」…便利でいいですね。一口サイズのサンドイッチ6切れと、2、3キロはあるんじゃないかと思えるようなパフェがテーブルの上から消えた時、朝比奈さんが到着し、きっちり10分後に涼宮さんが到着した。「あーあ、有希ばっかり奢ってもらってズルいなぁ」「すみません。水着を買ったので、意外と手持ちが少なくなってしまいました」「…払う?」「いえ、いいですよ。このくらいなら払えます」「…ありがとう」「あ、キョンくんが来ましたよ」入り口を見ると…彼がいました。一応集合時間の10分前には到着出来てるんですけど…「遅い!罰金!!」未来風に言うとこれも規定事項なんでしょうかね。
「…お前ら本当にいつ来てるんだ?」「あなたが来る数分前です」「前も同じセリフを聞いた気がするんだが…」彼の分の罰金は今日の予定が終わってからになりました。食事代を払い喫茶店を出ると、また蒸し暑い空気に包まれました。「そういえばハルヒ、今日はどこに行くんだ?」「市民プールよ。水着持って森林浴でも行くつもり?」「自転車二台でか?」彼も自転車で来ていたのですか。「私とみくるちゃんでキョンの後ろに、有希は古泉くんの後ろに乗ればいいじゃない!」「ふぇ?キョンくん大丈夫なんですか?」「当たり前じゃない!団員たるもの、これくらい楽にこなしてもらわないと!」というわけで「ぬおおおぉおおぉあああ!」必死に漕いでいますね。三人乗りなんて初めて見ましたよ。「ほらキョン!しっかり漕ぎなさい!」「あ、あのー…キョンくん?私一旦降りましょうか?」さすがに坂道になるとスピードダウン…というかほとんどストップしてしまうようですね。僕ですか?長門さんの情報操作のおかげでで彼女の重さを感じないようになったので、早々に坂を登って彼らを待っています。「だ…だいじ…ょうぶです!!」見るからに辛そうだ…「…意地っ張り」「確かにそうですね…朝比奈さんの重さだけ軽く出来ますか?」「…出来る。…涼宮ハルヒの分は?」「涼宮さんの分は彼自身に支えてもらいましょう」「…そう」そう言って長門さんは高速詠唱を始めました。彼の自転車を漕ぐスピードが格段に上がる。唱え終わって後ろにちょこんと座る長門さんは少しワクワクしてるように見えますね。市民プールに着いた頃にはいい感じに汗をかいてました。「ダメだ…早く水に浸からないと死んじまいそうだ…」「お疲れ様です。…汗凄いですよ?」「やかましい…」「ほーらキョン!古泉くん!早く!!」プールサイドにはすでに三人が待っていました。水着姿がとても美しいです。「さぁ!じゃんじゃん泳ぐわよ!」勢いよく涼宮さんが飛び込んで、残りの4人もそれに続きました。いや、飛び込みはしませんでしたよ?
「…疲れましたね」「…ああ」プールで盛大に泳ぎ終え、僕と彼はロビーに横たわってました。「…流れるプールの逆走ってするもんじゃないな」「…それよりも市民プールに流れるプールなんてありましたっけ?」「…どうせハルヒが望んだんだろ」「…そうですね」「高校生にもなって他人に叱られるとは思わなかったよ」「なんというか…本当にお疲れ様です」「ハルヒ達はまだ着替え終わってないのか?」「あ、来ましたよ」「あー泳いだ泳いだ!キョン!みんなに一本ずつプリンシェイク買ってきて!!」「なんで俺が」「今日の罰金の分よ!」「…やれやれ」怠そうに腰を上げ、自販機の方に歩いていきました。「とりあえず今後の予定ね!!」涼宮さんが取り出した大学ノートには『夏休み中にしたいこと』夏期合宿プール盆踊り花火大会バイト天体観測その他と書かれていました。「夏期合宿」と「プール」にはすでに丸が付いてます。「…残りの日程で全部やるのか?」「あ、キョン!ジュースありがと!!やっぱり泳いだ後はプリンシェイクよね」「人の話を聞け。それと、その他ってなんだ、まだ何かする気か」「当たり前じゃない!夏は一年に一度しかこないのよ?楽しまなきゃ損するわ!」「…で?次の予定はどれなんだ?」「盆踊りよ!あ、ちなみに明日ね。いい場所見つけたんだから!」「…人の予定も気にしてくれ」結局、明日また同じ時間に集合ということになって解散になりました。まぁ駅までは行きと同じように2人乗りと3人乗りですが。「実は僕、こうやって夏休みを遊んで過ごすのが久しぶりなんですよ」1人分の重さだけかかった自転車のペダルを漕ぎながら長門さんに話しかける。「だからこの夏休みが楽しみです」「…私も」「長門さんもですか」「…そう」どういう風に楽しみなのかは聞かない事にしました。みんな笑って過ごせればいい。100メートル後ろで鬼の形相でペダルを漕ぐ彼を見ながら、なんとなくそう思いました。短いようで気が狂うほど長い夏は、まだ半分しか経ってなかった。つづく
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