桃色空間奮闘記 ~変珍たませがれ~
季節は巡り12月、今日の日付は24日だ。
ベリーメリーなイベント効果もあって、街はいつもの倍以上にあわがしく、煌びやかになっていく。恋人と寄り添っている男女。大きな荷物―プレゼントだろうか―を持って少し急いでいる様子のサラリーマン。サンタクロースの格好でケーキを販売する青年。手を繋ぎ、穏やかな表情で歩く老夫婦。道行く人々は様々だが、それぞれ全員に共通している感情、「幸福」が、華やかな街を一層輝かせているように見えた。
そんな華やかな町並みを僕、古泉一樹は1人決意を胸に秘め、目的の場所まで向かっている。
よく知る街の風景を、目蓋に焼き付けるようにして歩く。もしかしたら、もう二度と見ることもないかもしれないから。いつも歩くこの町並みも、今日で見納めかもしれないから。
今日、僕は戦場へ行く。戦いと呼ぶには相応しくないあまりにも不公平、あまりにも絶望的な戦場へ。
恐怖は、無い。
超能力者をやってる以上、いつかはこんな日が来ることは知っていた。今までだって幾度も生命の危機を感じたことはあったし、酷い怪我を負ったこともあった。一年ちょっと前までは、「なぜ僕がこんな目に?」「僕は超能力者になんてなりたくなかったのに。」「1人の女の子の我侭で、なぜ僕が…」なんて日々自分の体に刻まれていく生傷を見るたびに強い恐怖と憤りを感じていたものだ。
だけど今はもう違う。涼宮さんや彼、長門さん朝比奈さんと出会って一緒に行動するようになってからは、もうそんな事は思わなくなっていた。
SOS団の活動、最初は涼宮さんの監視&ご機嫌とりという任務だったけどいつの日か、僕は彼らと過ごす日常を心から楽しむようになっていた。思えば、ここまで密度の濃い1年半を過ごしたのは生まれて初めてだったしいろいろあったけど、なんだかんだで楽しかった。今では彼や涼宮さんと出会えて良かった。超能力を与えられて良かった。とすら思う。
だから、そんな彼らの為に戦うことは今の僕にと『あんた、なにブツクサ言ってんの?』
熱いモノローグに急に水を差され、一気にテンションが下がる。しかめっ面を作り後ろを見ると、機関の仲間、森さんと新川さんが立っていた。
…こんにちは。「こんにちは。じゃないでしょ。クリスマスだってのに1人沈んだ顔して。」しょうがないじゃないですか。森さんだって実際これから戦場に行くんだし。「戦場って、ちょっと大袈裟じゃない?いつもの桃色空間に行くだけじゃない。」
桃色空間。彼と涼宮さんがゴニョゴニョすることで発生するピンクでキューティクルな閉鎖空間。空間内の空気は甘く、神人は浮かれて悶え踊り狂っている。ここ半年足らずで、幾度となく僕らを疲労のドンゾコに追いやっている、ある意味普通より性質の悪い空間だ。
ただ、もう何度も発生してそのたびに出動しているわけだから、自然とその対応にも慣れてくる。実際、最近は神人が自然消滅する前に撃退することも可能になってきて、そこでの戦闘は特別苦でもなくなってきていた。だから森さんの言うとおり、そこまで構える必要はないはずなのだが…今日はちょっと、事情が違っていた。「そんなこと言っても森さんだって分かってるんでしょ?今日の桃色空間がどれだけのものに なるかってことぐらいは。」
僕がそう言うと森さんは肩をすくめ「まぁ、そうだけどね。今日の為にいろいろ準備してきたんだし。」「だったら…」「だからと言って固く構えててもしょうがないでしょ。 大丈夫よ。最悪世界崩壊はしても、死にはしないでしょ。」…ていうか世界崩壊と死って同列だと思うんですが。
ホンマ大丈夫かいな。と、空を見上げる。今日はちょっといつもと事情が違う。その理由は、今日この日がクリスマスだということ。そして、今から約1ヶ月半前のこんな出来事が原因だった。
桃色空間奮闘記
最終章『デッドマンズ★ギャラクシー★デイズ』の巻
――――――――回想開始。
「なに?あんた団活来ないの?」涼宮さんの不機嫌な声。今は放課後、場所はSOS団部室。いつもの通り、彼と涼宮さんは2人で仲良くこの旧校舎の部室まで来たのだが、涼宮さんをここまで送り終えると彼が突然、今日は帰ると言い出した。
「ああ、今朝も言ったろ?飯屋やってる親戚の伯父さんが倒れちまってな。 しばらく手伝わないといけないんだ。」彼女の頭に手を乗せ、彼が少し申し分けなさそうに言う。「…。」
涼宮さんが若干膨れっ面で押し黙る。彼は困った笑顔を浮かべ「ごめんなハルヒ。まぁ、週3で、それも12月の頭まででだから… 一応バイト代も出るし、その金でなにか奢るからさ、勘弁してくれよ。」「むー。」どこか納得のいかない様子の涼宮さん。事情が事情だけに、いつものように強く言えないのだろう。「…わかったわよ。そういうことなら仕方ないわ。そのかわり、明日はちゃんと来てよね。」「ああ、わかってる。」
…しばらく見つめあう2人。を見つめる僕と朝比奈さん長門さん。
…………いつまでそうしてるつもりなのだろうか。僕(達)がそう思った矢先、その空気に気付いたのか彼がハッとして「じゃ、じゃあそういうわけだから。 …朝比奈さん、長門、ついでに古泉。また明日な。」「は、はいキョン君。また明日ぁ。」「…」「ごきげんよう。」僕達の返事を聞いて満足そうに帰ろうとする彼。
彼を見送る涼宮さんの背中はどこか寂しそうだった。…まったく、今生の別れでもあるまいし…。心の中で苦笑しながら朝比奈さんの淹れてくれたお茶を口に運ぶ。と、そこである違和感に気付いた。
…彼の親戚で、食事処を経営している人なんていたっけ…?
機関内の情報で、彼の親族に関することは全て把握済みだ。彼の家族、親族内では、そういった人はいなかったはず。
…これはなにかありそうですね。
彼が涼宮さんや僕らに嘘をついてまで団活を休む理由。なにか知られたくないようなことでもあるのだろうか。もし、彼と涼宮さんの関係にヒビが入るようなことであるならば迅速な対応が必要になってくる。これは早めに情報を掴む必要があるな。「少し席を外させていただきますね。」
男子トイレに入り携帯を取り出し着信履歴を開く。
11/1 22:35 森さん10/30 21:15 森さん10/27 23:45 森さん10/27 11:05 長門さん10/25 20:35 森さん10/23 21:56 森さん10/22 23:34 森さん
履歴がほとんど森さんからの呼び出し電話で埋め尽くされており、とことん自分の交流関係の無さに愕然とする。ちなみに長門さんからの電話は「FC版グーニーズで監督の出し方がわからない。」といったものだった。…なんでそんな事を僕に聞くんだ。
ってそんなことを考えてる暇は無い。そのまま森さんに電話をかける。
『もしもし。』電話の向こうから聞こえてくる森さんの声はどこか不機嫌だった。
「もしもし森さん。古泉です。…なにやらご機嫌ななめのようですね。」『ああ、ちょっとTVゲームやっててね。これがなかなか難しくって… って、そんなことよりどうしたのよ。あんたまだ学校でしょ?』「ええ、ちょっと『彼』のことで気になることがありまして。」『彼?ああ、『彼』ね。どうしたの?』
――――――
『ふーん、なるほどね。』「ええ、ですからそちらで彼の様子を調べてほしいんですが…」『分かったわ。新川あたりがヒマしてるみたいだから適当に探らせてみる。』「お願いします。」『じゃあなにか分かり次第こっちから電話するわ。』「はい、それじゃあ」『あ、古泉。ちょっと聞きたいんだけど、FC版グーニーズの監督の出し方ってどうやればいいの?』あんたもかい。「…2面のどこかでしゃがんで下さい。『ガチャ』」
ふう、とりあえず後は森さんからの連絡待ちだ。なにか厄介な事にならなければいいが…。
彼がいないことが関係しているのか、今日の団活はわりと早く終わった。「じゃあね、古泉君。」「はい、それでは。」
団員みんなと別れて1人帰宅する。歩いてる最中ポケットの中の携帯が鳴った。
『『『白馬のー王子様ーなんてーし~~んじてるぅ わぁけじゃない~』』』
着信:フォレストさん
来たか。ちなみにこの着信音は長門さんがイタズラしたものではない。僕が自ら設定したものだ。文句ある?
「もしもし」『もしもし、あたしだけど。』「どうでした?彼のほうは。」『うん、別になんてことないみたいよ。』「と、いいますと?」『新川からの情報によると、彼、隣町のファミレスでバイトしてるみたい。』「ファミレスでバイト…ですか。」予想外といえば予想外の情報だったが、特別驚くようなことでもなかった。『ちなみに親戚云々はやっぱり嘘ね。普通のアルバイトみたいよ。』「なぜそんなことを…」『さぁ?高校生だし、なんだかんだでやっぱりお金がいるんじゃない?』バリッ、ボリッ、とせんべいか何かをかじる音。この人昼間はいつもこんな感じなんだろうか。向こうのウブで艶やかな森さんを見習え…と、まぁこの話はいいか。
「でもなぜ僕らに内緒にしてるんでしょうか。」『それを調べるのはむしろあんたの仕事でしょ?直接聞けばいいじゃない。』「まぁそれはそうですけど…」『明日にでも聞いといてよ。どうせ大した事じゃないと思うけど。』「はぁ」『じゃ、頼むわね。』「あ、はい。それでは…」『あ、古泉。』
「はい?」『このDカウンターっていうやつ、どうやったら下げられんの?』グーニーズはどうした。「それ下げられません。『ガチャ』」
やれやれ、やっぱり最終的には僕に仕事が回ってくるんだな。
翌日。
「ちょっとお話があるのですが。」「なんだよ藪から某に。」
昼休み。食事を終えた彼を中庭に呼び出し、胡散臭い笑顔で聞いてみる。
「なにやら我々に内緒でアルバイトをしてらっしゃるようですが…」僕がそこまで言うと彼はしかめっ面を作り、その後深い溜息をついた。「やれやれ、ストーキングが趣味かな古泉君?」「すみません。そういうつもりはないのですが…職業柄、やはり気になってしまいましてね。」「職業柄ってなぁ」頭をボリボリかきながらうんざりした様子だ。
「まぁ、別にお前に隠す必要はないか。…言っとくが、大したことじゃないぞ。」ポケットから財布を取り出し自動販売機の方に向かう彼。コーヒーを購入し、口をつけながら戻ってくる。「…ハルヒには言うなよ。一応長門と朝比奈さんにもな。」笑顔のまま頷く。僕もコーヒー飲もうかな。「あ、俺が買ったので最後だぜ。」…話を聞かせてください。
「来月、クリスマスだろ。」あ、もうわかっちゃった。
「…なんだ、その『あ、もうわかっちゃった。』って顔は。」一瞬でバレた。彼はふぅ、と今度は小さな溜息を吐いている。ようするに…「…察する通りだ。ハルヒのやつにくれてやるプレゼントを買う為に金がいるんだ、ついでに ランクは下がっちまうが長門と朝比奈さんの分もな。」あれ?僕は?っていちいちつっこむのももう面倒くさい。「なるほど。時期的に考えてみれば分かることですね。」「だろ?もしハルヒに『バイトするから。』とか普通に言ったら速攻で勘づかれちまう。 せっかくのクリスマスプレゼントなんだし、やっぱりサプライズ要素は欠かせんからな。」ということは、彼女には結構高価な物を?「まぁ、そこそこ値は張るな。…指輪なんだが、少しベタかな?」言いながらちょっと照れくさそうに笑う。こんな顔も出来たのか。「いえ、十分喜んでくれると思いますよ。前にも言いましたが、彼女はあれでロマンチストですからね。」彼から光輝く指輪をプレゼントされ、必死に喜びをガマンしながら彼に強がる涼宮さんが容易に想像できる。
「そういうことでしたら僕の方からは特に忠告すべきことはないようですね。」「だから言ったろ?たいしたことじゃないって。」カラになったコーヒーの缶をゴミ箱に入れながら、自嘲するように言う。「じゃあ、ハルヒ教室で待たせてるし、俺は戻るぜ。」「ええ、わざわざすみませんでした。」教室に戻る彼の後ろ姿を眺めながら僕は胸をなでおろしていた。まぁ最初からあまり不安は感じていなかったが、なんにしろそういった理由で良かった。しかしクリスマスプレゼントに指輪、しかもその為にバイトとは、彼もなかなか粋な事を考えるものだ。こっそり企画をたてておいてその後一気に公開し必要以上の喜びを誘う。まるで角○書店みたいなやり方だ。…ごめん、最後の無し。
「…と、いうわけでした。心配して損しましたね。」『…』森さんに電話で一部始終を話す。まぁ結果大したことじゃなかったので伝えるか迷ったのだが一応業務連絡ということで電話した。だが、どうしたことか森さんは携帯の向こうで絶句しているようだった。「あの…森さん?」『…これは一大事ね…。』え?一大事?なにが?森さんの言ってる意味がよくわからない。「もしかして、ボッシュ倒して安心してたらその後すぐチェトレ戦に入っちゃ『違うわよ。』」どうやらゲームの話ではないらしい。「じゃあ何が一大事なんですか?」『あんた、気付いてないの?』はぁ、なんのことだかサッパリなんですが。
『桃色空間の特性を思い出してごらんなさい。』え?なにを今更…桃色空間とは涼宮さんが彼と体を重ねることから生まれる喜びやら緊張感やらが原因で発生する普通の閉鎖空間とはちょいと違ったピンキーでハイセンス且つユビキタスなラヴテリトリーです。『…まぁだいたい合ってるわ。じゃあその空間の規模や神人の強さは一体どこで決まるのかしら。』それは…今までの記録だと…「涼宮さんの喜び具合だとか…感激具合?ってとこでしょうか……………」
あああああああああああ!!
『気付いたみたいね。イヴの夜、彼が懸命に働いて用意してくれた指輪。 それを受け取った時の彼女の喜びを想像してごらんなさい。』
そんなもの、いちいち想像するまでもない…っていうか1回想像した。9レス目あたりで。僕としたことが、完全に見落としてた…!
『多分、今までで最大級の規模になるでしょうね。もちろん神人ちゃんの暴れっぷりも。』どどどどどどどどどどうしましょう。まさか彼にプレゼント渡すなとは言えませんし…『あたりまえでしょ。そんな事しちゃったら、それはそれで世界崩壊よ。』あ、でもなんだかんだ言って桃色空間は最後には自然消滅するんだし、そんなに気にすることないんじゃ…『甘いわね。』え?『そりゃ今までは事が済めば一件落着だったけども、もし感極まりすぎて彼女が無意識のうちにでも 「今日が終わらなければいい」とか「ずっとこのまま彼と一緒にいたい」とか願っちゃったら どうなるか想像してみなさい。』あ…『今までだってそう思わなかったわけじゃないでしょうけど、なんたって今回はクリスマス… さらにプレゼントの相乗効果も相まって彼女の能力もパワー3割り増しよ。きっと。』またまた世界改変の危機じゃないですか!あわわわわどうしましょう!!『落ち着きなさい。とにかく、早急に対策を練る必要があるわ。機関の人間集めて緊急対策会議を行うわよ。』
――――――――――回想終わり。
そんなわけで涼宮さんの乙女妄想から世界崩壊を防ぐべく僕ら超能力者一行は今日生存率の極めて低い桃色の戦場へと赴くことになったわけだ。
「はぁ…」「なによ溜息なんかついて。大丈夫だって。今日のためにいろいろ準備してきたんじゃない。」準備って…たかだか鶴岡八幡宮で必勝祈願したり御守り買ったりしただけじゃないですか。しかも僕の御守り安産祈願のやつだったし。「うるっさいわねーそれだけじゃないでしょ。人員増加の為に出来るだけ 超能力者の仲間呼んできてって言ったじゃない。」そんな超能力者なんてそのへんにゴロゴロいるわけじゃあるまいし、簡単に言わないで下さいよ。「…もしかしてあんた、1人も連れて来なかったとか言わないわよね。」いや、一応1人だけ呼べたんですけど…「たった1人なの?あんた友達少ないのねぇ。」ほっといて下さい。そういう森さんは何人呼んだんですか?「1人よ。」僕と変わんないじゃないですか!「いや、だってホラ。ここで下手にオリキャラとか出しちゃうとホラ…ねぇ? あたしもそれだけで萎えちゃう時とかあるし…。」……。
「……。」
テレッテレッテー テレッテレッテー テレッテ テレッテ テッテレテレレー 『叩かれマン』
森さんと話しながら歩いていると例の集合場所が見えてきた。機関の仲間が既に何人か来ており。多丸兄弟と僕が呼んだ助っ人もいた。
「やあどうも、今日はよろしくおねがいします。会長。」僕がそう言うとタバコを加えた彼は露骨にイヤな顔をしながら「オイ古泉。なんで俺まで戦闘に参加しなけりゃならんのだ。 俺の仕事はあくまであの高校の涼宮ハルヒ対応の生徒会長。戦闘はお前達の仕事だろうが。」「まぁそう言わず、今日はちょっとばかり人手が足りないので。」「なによ古泉。あんたの呼んだ助っ人ってソイツだったの。」ええ、我が校の生徒会長様です。キャラ的には使い古されたタイプですが…
「それは俺のせいじゃない。涼宮ハルヒの望んだキャラクターを演じてるだけだ。」まぁそうなんですけど。
「でもよくそんなヤンキーを呼び出せたわね。」ヤンキーという言葉にこめかみをヒクヒクさせる会長。「まぁ、若干高くつきましたけどね。」「なによ、報酬?案外ケチくさいヤンキーだこと。」「…そのヤンキーというのはやめてもらえるか?」
ところで森さんの読んだ助っ人というのは?「うーんとね…あ、いたいた。」こっちこっちーという森さんの声で気付いたのか、相手が近づいてきた。
「紹介するわ。向こう側の超能力者、橘 京子さんよ。」えええええ…橘さんが?森さんに紹介されるとツインテールの彼女はぷりぷりと怒り「ちょっと森さんどういうことですか!今日は一緒に秋葉のラブメルシーに行くっていう約束じゃ…!」「ごめん、アレ嘘。」あんたら仮にも敵同士でどこ行く約束してるんですか。「酷い!騙したんですね! しかもよりにもよって涼宮ハルヒの神人退治だなんて、冗談じゃないですよ!」「別にいいじゃない。あたし達だって前佐々木とやらの神人を退治してやったんだし なによりアンタ、神人に殴られるの気持ちいいんでしょ?」「私が殴られて気持ちいいのは佐々木さんの神人だけなんです!それに、 以前の件はちゃんとあなた方に報酬を渡したはずです!」あ、でも例の会長×喜緑さんSSの続編はまだ…「小泉さんは黙っててください!」古泉です。「…前から思ってたんだけど、あんたちょっと前『かしまし』っていうアニメに出てなかった?」「なんの話ですか?!」いまいち噛み合ってない2人の会話。
「…ちっ、うるさい女だ。」それを横で聞いていた会長が小声でボソッとつぶやいた。それにカチン、と反応する橘さん。「うるさい女ですって…?」橘さんは会長を足元から嘗め回すように見た後「…誰ですか?この時代錯誤の生徒会長キャラは。」「時代錯誤だと?」橘さんに接近し思い切り睨みつける会長。
「これは涼宮ハルヒが望んだキャラだ。俺だって好きでこんな格好してるわけじゃない。 …お前こそなんだそのあからさまなツインテールキャラは、もう他に髪型のレパートリーがなかったのか?」会長のヤンキー独特の絡みにちっとも臆さない橘さん。それどころかますますご機嫌を害された様子で「なんですってコラ、オイコラ、このオールバックがコラ。」今度は橘さんから会長に接近し睨みつける。ヤンキー同士が口喧嘩する際によく見られるあの睨み合いだ。「あ?なんだこのアマ。やんのかコラ?どこの中学だコラ。」会長もヤンキーパワーを本領発揮して対抗する。「上等じゃコラ。ヤレるもんならヤッてみんかい、お前何期生じゃコラ。」完全にキャラを壊しながら罵倒する2人。その距離の近さたるや完全に目蓋が触れ合ってしまっている。この2人、相性悪すぎだ。お互い完全に連れてくる人間違ったみたいですね。「そうみたいね。まぁでも、案外戦闘始まってみると息があったりしてね。」…ありえないと思うんですが…
『『『狡猾の銃が鳴り響くHeadless body !! そうさ笑い狂え!I'm damned !!!』』』
森さんの携帯電話がシャウトした。周りを支配していた仲間達の雑談がピタリと止まる。「来たわね…。」午後10時。どうやら桃色空間が発生したらしい。「よーし野郎共、腹をくくりなさい。最終回だから、きっとロクなこと起こんないわよ。」嫌なこと言わないで下さいよ。
―――――――――
「うわ…。」
絶句。
満を持して桃色空間の中に進入した僕らをまず待ち構えていたのは、それはそれは異様な光景だった。「これは…」「すごいですねぇ。」会長と橘さんがそれぞれコメントする。
足を踏み込んだそこはいつもの桃色空間ではなかった。いや、桃色空間には違いないのだがレベルというか、濃度というか、とにかくいつもとは桃色具合が桁違いなのだ。
空どころか空気まで桃色に染まったかのようにあたり一面ピンク一色。吸い込む酸素すら甘く、呼吸だけで虫歯になりそうなほどだ。周りをよく見てみると駅やデパートの壁に貼ってあるポスターが全て彼の顔、もしくは全体図になっており選挙ポスターも例外ではなく、ご親切に『ハルヒLOVE! SOS党』などという煽りまで入っている。僕としてはものすごく居心地が悪い。…あんのバカップル共め。
「予想通り、やっぱり準備してきてよかったようね。」森さんが言う。「そのようですね。空間からしてこの様子だと神人の強さも異常でしょうから。」一体、どこまでの暴れっぷりを披露してくれるのか想像もつかない。なんとしても、世界の崩壊や改変が始まる前に仕留めてしまわねば。
ズズーーーン!!
遠くから聞こえてくる巨大な足音。僕達からすればおなじみの神人の足音だ。とうとう出現したな…と、声のする方向に振り向く。が、
「来たわね…って何アレ!!」森さんの驚愕に満ちた声。「なんだよありゃあ…!」「涼宮さんの神人ってアレなんですか?!」会長さん&橘も驚きのコメントをしている。今回全然喋らないが新川さん、多丸兄弟も同様に…ていうか超能力仲間全員ビックリしている。それもそのはず、僕達の視線の先にいたのは神人ではなかった。いや違う。あの大きさ、神人には違いない。違いないのだが…
「正直…ここまでは予想してませんでしたね…。」
もみあげだけちょっぴり長いヘヤスタイル、やる気の感じられない表情、間違いない。現れた神人はあろうことか『彼』の姿をしていたのだ。しかも全裸で。
「でか!なにアレ、ペットボトル?!イヤッホーゥ!!」森さん落ち着いて!驚くとこそこじゃないでしょ!どうします?やっぱりアレを倒さなきゃいけないんでしょうか。「…そうね。ちょっとばかしやりにくいけど…ってゲゲェーッ!!」森さんの古臭い絶叫。なんと1体目の彼の後ろから次々と同じ姿の神人が出現したのだ。もちろん全て全裸で。数は軽く20体超えてる。
『ハルヒ。』『やれやれ。』『死刑は嫌だからな。』『ポニーテール萌えなんだ。』『似合ってるぞ。』『くそったれと伝えろ。』『タイラント!オーバー…!!ブレイクゥゥッ!!』しかも喋った!なんか違うの混じってるし!
「すごい数で来たわね…これは総力戦で…って、なんかおかしいわね。」どうしたんですか森さん?「あの神人(ペットボトル)の様子を見てみなさい。歩いてはいるものの、全然暴れだす気配がないわ。」
確かに…今までの神人なら怒ってるにしろ喜んでるにしろ建物だけは壊してましたからね。あの神人(彼)はただもくもくと前進してるだけのようです。「結局どうするんだ?あの神人(涼宮の手下)を倒すのか倒さないのか?」会長が疑問を口にする。「うーんそうねぇ、こんな事初めてだし…なにより『彼』の姿なのが気になるわ。下手に手出しできないわね。」「しばらく神人(ブリット君)の様子を見てみるのはどうでしょうか?」橘さんもよそ者ながら提案してくる。「そうね。それがいいかも。なにも起こらないかもしれないし…神人(ペットボトル)の様子を見てましょう。」どうでもいいけど神人のサブ呼称は統一しませんか?
と、様子を見る方向で話を進めていたとき、新たな異変がおこった。
さっきとは正反対、つまり神人(彼)達がいる逆の方向から新たな足音が聞こえてきた。
「まだ増えるの?!…って…マジ?」新たに現れた神人の姿に再び驚愕する我々超能力者一同。もうお分かりだろう。
『キョン。』『キョン。』『キョン。』『キョン。』『キョン。』
新たに20体近く現れた神人は全て涼宮さんの姿をしており、同じように前進している。キョンとしか言わない。
ちなみにこちらはローブ的なものを見に纏っており、裸ではない。「これは…どうしたものでしょう…。」「うーん…」困る森さん。こちらの神人(涼宮さん)もただ歩いているだけで暴れる様子は少しもない。てっきり暴れた涼宮神人を彼神人がなだめたりするもんとばかり思っていた。
「…ちょっと待ってください。あの神人たち…」橘さんがなにかに気付いたらしい。どうしたんですか?「普通に歩いてますけど、このままだと激突しちゃいますよね?」確かに、双方の神人達はお互い向き合った形で歩いている。この様子だとあと数分後には彼形と涼宮さん形は接触し合うだろう。それが何か?と僕が尋ねようとしたとき…
「ま、まずいわ…!」「森さん?」森さんは顔を青くしてうろたえていた。「様子見るのは中止よ!今すぐ全員、あの神人たちの討伐にあたりなさい!」
きゅ、急にどうしたんですか森さん!「危険なの!危険なのよこの展開は!」と、いいますと?「わからないんですか小泉さん!」古泉です。橘さんは分かっているようだ。
「Aチーム、Cチームは涼宮ハルヒ形の神人を、あたし達とBチームは彼形の神人をやるわよ!!」僕が理解できないまま森さんの支持が飛ぶ。森さんにはなぜか従順な超能力者たちは言われたとおりに神人の退治に向かっていった。「急いで!両方の神人が接触するまでになんとしても全部倒すのよ!!」新川さんと多丸兄弟も理解したのか血相を変えて彼形の神人の方へ飛んでいった。「さあ、あたしたちも行くわよ!」ちょ、ちょっと待ってください森さん。僕いまいち状況を把握できないんですが…「世界崩壊よ!」は?「いい?古泉。物語にはパターンってもんがあってね。」パターン?「そうパターン。状況によって変わってくるけど、それを一瞬で把握するのが真の超能力者ってもんなのよ。」言ってる意味がわかりません。「この場合彼と涼宮ハルヒの神人同士が接触するまでが、なんらかのタイムリミットと考えられるわ。」はぁ…「そして今回は最終回。ここにパターンをあてはめてみると…おのずと答えは見えてくるわ。」…それが世界崩壊だと?「そうよ。」ちょっと無理やりな解釈しすぎじゃないですか?「違うの。世界崩壊なの。絶対そうなの。」いや、でも今の説明じゃ…「古泉。お願いだから理解してよ!そんな細かい設定を理由つけてなんて考えられないの!」ええええ…
「他の作者さんなら、それはもう見事な舞台設定で、ちゃんと筋書きを立ててから書いてるから 若干無茶な展開でも納得できるけど、こちとらそんなスキルは生憎持ち合わせていないのよ!」…「だから分かって。このままだと世界崩壊しちゃうの。神人を倒さないといけないの!分かった?」わっかりましたー!!
森さんの説明で100%納得できた僕は仲間と同じく神人退治へと向かった。森さん、橘さん会長も一緒だ。僕達の相手は彼型の神人だ。これ幸い日ごろのストレスを発散させてもらおう。「足を引っ張らないでよね。」「フン、こっちのセリフだ。」後ろから会長と橘さんの会話が聞こえる。どこのツンデレ同士だ。「幸い今回の神人はおとなしく歩いてるだけみたいだから、数はおおいけど案外倒すのは楽かもね。」森さんの言葉にそうですね。と返事をしようとしたその時
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
前方から絶叫と共になにかがものすごい勢いで飛んできた。飛行中の僕らの間をそのまま通過する。「あれは…多丸(圭)?!」僕らより先に向かっていってた多丸(圭)が吹き飛んでいき、そのまま上半身だけ地面に突き刺さった。「どういうこと…まさか!!」あわてて前方の神人(彼)を見る。なんと飛び掛る超能力者たちをちぎっては投げちぎっては投げ、さっきとは大違いの暴れっぷりを披露していた。顔は無表情のままで。
しかも、戦いながら歩くのはやめない。多分涼宮さん型のほうもこんな感じなんだろう。だとすると…「…前言撤回。これは覚悟して戦ったほうがよさそうね。」そうみたいですね…。「じっくり行きたいけど、時間もないしね…。ここで2チームに分けるわ。」てことは、2人1組か…ちょっと心細いけど仕方ないな。「あたしと古泉。橘はヤンキー君とよ。」「「俺(私)がコイツと?!冗談じゃないぜ(わ)!!」」息ぴったりで反論する2人。言ったあとお互い顔を合わせ「フン!」「ケッ!」などと目を背けている。どこのツンデレ同士だ。
「神人の歩くスピードから適当に計算して、タイムリミットは約20分てとこね。それを過ぎたらアウトよ。」なんかスーパーナントカ対戦みたいな敗北条件ですね。「そうそう、この場合「20分」てとこだけ文字の色が違うのよね。 だいたいブライトさんあたりが…って言ってる場合じゃないわ。」
そんな会話をしてる間に、神人の射程距離のすぐそこまできていた。「じゃあ、それぞれ2人で1体を相手するの。そっちは任せたわよ!」「…。」「…。」チーム分けにまだ納得がいかないのか2人から返事がない。「返事は?」「…はーい。」「…了解。」しぶしぶといった感じで僕らから離れていく会長×橘さんコンビ。
「大丈夫なんですかあの2人?なんならまた僕が橘さんとでも…」「いいのよ。なんだかんだ言ってああいうのに限って息ピッタリだったりするの。」「はぁ…」「それに、こっちも心配してる暇はあんまり無いわよ。」
「え?」「前、くるわよ。」
『ハルヒ。』
ブオッ、と神人(彼)がパンチを放ってきた。ギリギリでかわす。速い!普通の神人の攻撃より速い!サラマンダーより、ずっとはやい!!予想を遥かに超えたスピードに戦慄する。にもかかわらず神人(彼)の表情はいつも通りのちゃらんぽらんとしたやる気のない彼そのまんまでこれがまたムカツク。「ちぃっ、やるわねコイツ。」さすがの森さんも焦りを隠せないようだ。
『似合ってるぞ。』
再びパンチが飛んできた。これも回避。
『ポニーテール萌えなんだ。』
三度攻撃。回避回避。
回避回避回避回避。「くそ、全然近づけない。懐にもぐりこめればこっちのものなのに…!」思わず悪態をつく。やる気ない顔のクセに、攻撃の手をちっとも休めようとしない。やる気ない顔のクセに。「確かに厄介ね。でも、ひとつ弱点をみつけたわ。」「弱点?」
「コイツ。なんかセリフ言いながらじゃないと攻撃しないのよ。」…言われてみれば。
『死刑は嫌だからな。』
神人(彼)の右フック。やっぱり回避。「本当だ。じゃあ喋った後素早く回避運動取りながら接近すれば…!」「確実にもぐりこめるわ。ちょっと危険だけどね。」さすが森さん。やるときはやる人だぜ!「そんなのどうでもいいから。さぁ構えなさい来るわよ!」「はい!」
『古泉お前は黙ってろ。』あ、てんめー!なんでぼくd『バキャ!!』ぐはぁ!!パンチをモロ食らい空中で悶絶する僕。しまった、悪口(?)を言われてついカッとなってしまった。森さんの方は無事神人(彼)の懐に潜りこみ、ヤツの上半身を容赦なく真っ二つにしていた。崩れゆく神人(彼)。ふんだ、ざまあみろ。バーカバーカ。「バーカバーカじゃないでしょ。どんくさいヤツね。大丈夫?」「は、はいすみません。」鼻血を拭って気を取り直す。神人はこれだけじゃない。急いで他のも倒さないと…「そういえば、会長と橘さん、略してカチバナさんの2人は?」「あっち。」森さんが指差す方向を見ると神人(彼)のまわりをビュンビュン飛び回る2人の姿が見えた。「組まされたからには仕方ない!合わせろ!」「それはこっちのセリフです!いちいち指図しないでください!」口喧嘩中に神人(彼)のパンチ。2人はこれを直前で回避する。…大丈夫かな…。
「ちぃっ!おい、橘とやら!」「なんですか!気安く呼ばないで!」「一気に飛び込む。援護しろ!」「だから指図しないで、って…ああもうしょうがないわねぇ!!」会長が神人(彼)に突っ込み、橘さんが神人(彼)の気を引く。神人(彼)が橘さんの相手をしている隙に会長がヤツの頭部に攻撃を仕掛けた。「まだだ、橘、ここに撃ち込め!」「わおわお~ん!」橘さんが下から攻撃を加わえ、神人(彼)が縦に真っ二つになる。そして2人がその場から離れると、2つに分かれた神人(彼)の体が爆発した。…爆発?!
「これがおれ達の……」「ホントの切り札だ…!って感じ?」
爆風を軽く体に浴びながら、2人がなんだかかっこよく決めちゃってる。なんだあの技。森さんの言うとおり、あの様子なら心配ないようだ。
「なにボケッとしてんの。次さっさといくわよ!」「あ、はいすみません!」
呑気に見てる暇はない。早く他の神人(彼)達を倒さないと…。
僕と森さんコンビとザ☆カチバナの奮闘もあって神人(彼)の数は順調に減っていった。向こうの涼宮さん型との距離はまだ余裕がある。このままいけば無事ミッション終了となりそうだ。戦闘開始から10分。僕はそう考えていた。…一体このパターンを何回使用しただろうか。そう、死亡フラグである。
異変はすぐに起きた。「な、なにあれ?!」橘さんの困惑に満ちた絶叫が聞こえる。彼女は空を見上げて驚愕していた。つられて僕らも空を見る。そこには…「あれは…空に亀裂いや…空間?」森さんが呟く。そう、桃色一色に染まっていた空に四角い大きな空間がぽっかりと出来ていた。
「なんでしょうあれ。」「分からないわ。でもなんにしろ、嫌な予感がするってことは確かね。」同感です。
しばらく神人を倒すのを止めてその空の空間の様子を見る。すると、その空間の中になにやら別の光景が映っていることに気付いた。「これは空間じゃなくて、モニター?」空に広がる巨大なモニター。では、そこに映っているものとは…?「あれは…彼の部屋?!」思わず叫ぶ。間違いない。何度も見てる。あれは、あの場所は彼の部屋だ…!だとすると…
「ちょっと待って古泉。アレが彼の部屋だとしてもし、もしモニターに映っている映像がLIVEだったら?」ざわ…ざわ……ざわ…仲間全員がざわつく。もし、もしアレがLIVE映像で、画面がもうちょっと右…つまり彼のベッドの方に向いてしまったら…
マズイ!
『はぁんんん、キョン、キョンッ、キョン~~~!!』
『ハルヒ!はぁ、はぁ…!』
モロ。
モロ映像&音声でした。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあああああああああああああああああああああああ!!」
劇場版エヴァンゲリオンででかい綾波を始めて見たときの碇君みたいな顔になりながら絶叫する。
「うわぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああぁぁフラ○ス書院んんんんんんん!!」「落ち着きなさい古泉!(ぱちん!)」「『ドゴムッ!』ぐっはぁあ!」明らかにビンタではない正気の戻され方をされ、どうにか僕は落ち着いた。もちろん、そうしてる間も上では彼と涼宮さんの御勤めLIVE映像が絶賛公開中だチェキッ!!「まだ正気じゃないみたいね…。」ああああ、正気です正気です。ちょっとふざけただけです殴らないで。
「しかしこれは…色んな意味でスゴイわね。」森さんが空を見上げながら呑気に呟いている。さすが××歳。こういうことには抗体ができてる。僕なんかはウブすぎてとてもその光景を直視できないし耳も塞いでしまう。しかもよりにもよって自分の友達同士の性行為。これは『僕的見たくない聞きたくない光景ランキングベスト10(日常編)』からすれば第3位にあたるものだ。ちなみに第2位が兄弟の性行為で、栄えある第1位は親の性行為だ。
恐る恐る他の仲間の反応を見ていた。
会長は「ふん、くだらん」とかなんとか言って興味なさそうにしている。が、顔は赤いし、なにげない仕草でちゃっかりポケットの中に手を突っ込んでいた。橘さんは「やーん、はずかしー」とか言って両手で顔を覆っているが、完全に指の隙間を全開にして見学を極めこんでいる様子だ。新川さんはその光景をみながら「違う!そうじゃない!」とか「その揉み方にはなんの戦略的有利(タクティカルアドバンテージ)も無い。」とか呟いている。なんのことだろう。多丸(裕)さんにいたっては露骨に前かがみになって股間を押さえている。痛そうだ。
その他の仲間も全員、ある意味で大ダメージを受けたようだ。「…涼宮さんはなぜこんな光景を僕らに?」「さぁ?最終回だからじゃない?」身も蓋もない森さんの返答。それを言われると納得せざるをえない。「ど、どうすればいいんでしょうか。」「うーん。別に気が散るぐらいで他に影響がなさそうだし、放っておけば?」放っておきたいのはやまやまなんですけど…アレ?
そういえば…
「神人(彼)は?!」僕より先に森さんが叫ぶ。それにつられ仲間達もさっきまで戦っていた神人の姿がないことに気付く。
「い、一体どこに……あああああああ!!」あたりを見回す。なんと神人(彼)の一体がいつの間にか神人(涼宮さん)の方へかなり接近してしまっていた。「くっ、しまったわ!画面に完全に気を取られてすっかり忘れてた!」他の仲間も同様だったようで、急いで神人(彼)の所へ飛んでいこうとする。が、両神人の距離はもう既に目と鼻の先、どれだけ急いでも間に合わない。
「くっそぉぉぉ!」「もう、だめです!」「ぬぅぅぅぅぅ!」「股間が、股間が痛い!」
その他4人が急ぎながら叫ぶ。多丸(裕)さん…今回始めてのセリフが「股間が痛い」って…。本当はそんな事つっ込む余裕すらない。僕だって猛スピードで飛んでいるからだ。「くっ、世界崩壊でまさかのBAD ENDなの?」森さんが悪態をついている。まぁ、こんな内容でGOODもBADも無いと思うんですが…。
必死に追いつこうとするも空しく、とうとう彼型と涼宮さん型の神人がお互い触れ合える距離になった。彼型の神人が涼宮さん型の神人の肩をがっちりつかむ。そして…
『俺、実は涼宮ハルヒ萌えなんだ。』
『キョン…』
『いつだったかお前のポニーテールは反則的なまでに似合っていたが、 基本的にお前はどんな髪型でも反則的に似合っているからこれはもう髪型の問題ではなくて つまりどんな髪形も似合うお前の可愛さ自体が反則なのであってつまりこの好きだ!!』
なんだそりゃ。2体の神人は目を瞑り、そっと顔を近づけ合う。
「だめ!間に合わないわ!!」
森さんの叫び声とほぼ同時に、彼型と涼宮さん型の神人は唇を重ねた。
その瞬間。2体を中心とする周りの空間が歪み始めた。「うわわわわわわわわ…」体の中身が全部ひっくり返ったかのような感覚。本当に崩壊ENDなのか。
「ああ、どうせ死ぬなら、せめて『夏合宿』の続きをちゃんと完結まで見て死にたかった…。」森さん…最後までそれですか…。「ちくしょう。キャラ性にしっかり肉付けもされないまま、中途半端な生徒会長のまま死ぬのかよ…。」災難でしたね会長。いきなり登場してこれですもんね。「ああ、佐々木さん。佐々木さん。佐々木さん佐々木さん佐々木さん…」あなたはもうほんとなんなんだ。でもしょうがないよね。そういうキャラなんだし。それぞれの最後の言葉が僕の心に響く。
ああ…刻が見える。
あ?大きな人が点いたり消えたりしている・・・。あははは・・大きい!神人かなぁ? いや違う、違うな。神人はもっとバァーッて動くもんな。 あ・・あぁ・・ 暑苦しいなココ、ふぅ。出られないのかな?おーい、出して下さいよ、ねぇ!
無理矢理古泉精神崩壊END…バカみたいだ。やめよ。そんなものすごく下らないことを考え終えた直後、僕は意識を失った。
―――――――――――
…あれ?ENDじゃないの?
僕が意識を取り戻した時、一番最初に浮かんだ疑問はそれだった。
ゆっくりと目を開ける。目前に広がるピンク色。どうやら僕はまだ桃色空間の中にいるらしい。体を起こし、周りを見渡す。
…ここは…北高だ。なぜこんなところに?あ、そうだ。「森さん?!森さーーーん!!」「橘さん!会長!」「新川さん!多丸兄弟!」へんじはない。ぼくひとりのようだ。
閉鎖空間の中に北高でたった1人。若干違ってはいるものの、このシチュエーションにはものすごい覚えがある。(いや、まさか…でも……なんで僕が?)ここでいつまで考えてても仕方が無い。とりあえず校内に入ってみよう。もし去年の五月に彼が体験した事の焼き増しなら、ヒントを得る方法も少しばかり心当たりがある。
いや、理解するの早すぎだろ。という疑問は受け付けない。だって面倒くさいんだもの。
旧校舎に入り迷わずSOS団の部室に向かう。途中見たあらゆるポスターがやっぱり全て彼の顔だったのは言うまでも無い。
(さて、確かここでの彼の行動は…)
パソコンの電源をいれる。頼む。来てくれ!
YUKI.N>みえてる?
長門さん来たああああああああああああああ!!
YUKI.N>そっちの時空間とは まだ完全に以下略
…なにこの適当さ。
ぼ、僕はどうすればいいのでしょう?
YUKI.N>どうにもならない。 情報以下略
…まぁ、別にそういう説明はいらないからいいんだけどさ…。
YUKI.N>涼宮ハル以下略
省略しすぎだろ!
YUKI.N>おめぇに賭けるっぺや
…コイツ、絶対遊んでやがる…。
YUKI.N>もう一度こちらへ回帰することを 我々は望んでいる わたしという固体も あなたにはともかく、あの2人には戻ってきて欲しいと感じている
………。
YUKI.N>またラーメン甲子園に
僕、長門さんとラーメン甲子園に行ったことなんかないんですけど…
それよりなにかヒントを!この空間から戻るための“sleeping beauty”的なヒントを下さい!!
YUKI.N>FANATIC◇CRISIS
…完全に教える気ないな…。
半ギレでパソコンの電源を切る。時間の無駄だった。長門さんが駄目だとすると後は…
後ろのまどから淡い光が差し込める。そうか、去年の五月でいう僕の出番だ。窓を開け、オレンジ色の小さな球体と対峙する。
「やっほー古泉。」
聞き覚えのある声。思ったとおり、その球体は森さんのようだった。「森さん。どうしましょう…」ふわふわと浮く森玉。「うーん。とりあえず状況的には去年と一緒で、こっちの世界が崩壊寸前って状態ね。」…やっぱり予想通りの展開になりましたね。「ま、今回は桃色の空間だけどね。」なはは、と能天気に笑う森玉。こっちは真剣だというのに。「なによソレ。こんな時こそ笑える度量こそが、これからの超能力社会では必要になってくるんだからね。」…まぁいいです。それより、なにか解決策のようなものはないのでしょうか?「今のところはなんにも…。とにかく、あの2人を探すことがなにより先決じゃない?」うう…やっぱり打つ手無しか。
「第一、なんで僕がこの空間に?涼宮さんが望むのなら彼と2人だけのほうが都合がいいんじゃ…」「それは、一応アンタがこの話の主役だからじゃない?」そんな理屈がまかり通るのも二次創作の魅力のひとつだ!
「今回は彼女の喜びから発生した空間なんだから、普通の手段じゃ帰ってくるのは無理だと思うのよね。 だから、逆に彼女が『現実に戻りたい!』って願うようなことをすればいいんじゃないかしら?」現実に戻りたいって思うこと…ですか…。いっそのこと僕が涼宮さんにキスしてみるか?いや、それだと逆に即効で世界が終わってしまう。我ながら悲しいが…。「あ、駄目だわ。もうもたない。」森さん!「じゃ、気の毒だけどがんばってね古泉。…これは…お前の物語だ!!」ブツンッ
森玉消滅。
…。
結局、どうすればいいんだ…。何ひとつとして情報が得られないまま愕然としていると
ズズーーーーン!!
聞き覚えのある足音。神人の足音だ!ここにも出現するのか!そしてなんだか妙に展開が速い気がする!気のせいだ!急いでグラウンドの方を確認してみる。「ゲゲッ…」
予想通りというかなんというか。現れた神人は先ほどの彼と涼宮さんの姿をしたまんまであり、あろうことか2体で腕を組んでイチャイチャいている。ちなみに彼の方は全裸だ。
しかもそれが3組ずつ、計6体の神人が学校の敷地内でデートしていた。少しでもいいからシリアス臭みたいなものを出してほしい。でないとやる気が出ない。
(ん?あれは…)
ぐったりしていると、グラウンドにある小さな人影に気がついた。2人組みだ。巨大な涼宮さん達から逃げるように、2人で手を繋いで走っている。
本物の彼と涼宮さんだ!
見つけた!急いで部室から出て、下へと向かう。どうすれば元の世界に帰れるのかはまだ分からないが、とにかくあの2人と合流しないことには始まらない。
下駄箱まで到着した。靴を履き替えてる時間はない。そのまま飛び出す。
さっき上からみたところだと2人は運動場を校舎側に走ってきていた。だとすればこの辺で合流できるはずなんだが…
「古泉!」「古泉君?!」聞き覚えのある声。後ろを見ると、正真正銘、本物の彼と涼宮さんが走ってきていた。いそいで表情を作る。「やあ、どうも御2人。おそろいで。」
「なんでお前が?」彼が聞いてくる。彼からしてみれば去年の5月の焼き増しだと思っているだろうから僕がいるのは不自然なのだろう。だが、生憎そんなの僕だって分からない。多分理由もない。
「おかしいわねぇ…去年見た夢だと、あたしとキョンの2人だけだったのに…。 今回の夢は変な巨人もなんだかあたし達がモデルみたいだし…。」涼宮さんが1人でブツブツ考え込んでいる。彼女はこれをまた夢だと思っているらしく、あまり焦っている様子は見られない。「今回はキョンとキスしても目覚めないし…。」なるほど…キスは試したのか。でも、それも今回は効果がなかった、と。ほんとにどうすればいいんだ。
あまり詳しい話は涼宮さんがいる為出来ない。彼とアイコンタクトをとってみる。
(どうすりゃいい?)(わかりません。)(今回は白雪姫の手段ではどうにもならんかったぞ。)(そのようですね。)(…もしかして万事休すか?)(一応、まだ戻れる可能性はあるかと思います。)(どういうことだ?)(森さんの話によれば、涼宮さんが『現実に戻りたい!』と心から願えば戻れるかも。ということでしたが)(現実に戻りたいって…ハルヒはまた現実の世界に嫌気がさしたってのか?)(いえ、そうではありません。彼女はただあなたと一緒にいたいと願っただけです。 彼女からしてみればこれは夢ですから、そのうち覚めるだろう、と思ってるんでしょうね。)(…いっそのこと、全部バラしちまうか?)(それはあくまで最終手段です。まだ試すのは早いかと。)
僕と彼が超高度なアイコンタクトを取り合っていると…
「ちょっとキョン!古泉君!男同士でなに見つめ合ってんの。気持ち悪いわね!」
涼宮さんからつっこまれた。「あ、ああ悪い悪い。」彼が謝っている。涼宮さんも、それぐらいでそんな不機嫌な言い方をしなくてもいいだろうに…
ピキーーーーーーーーーーーーーーーーン!!僕のシナプスに閃光が走る。
ひ、閃いたーーーーーーーー!元の世界に戻る方法!
閃いたーーーーーけど…!
なんてこった。こんな、こんな方法しかないのか…?
涼宮さんに『元の世界に戻りたい』もしくは『こんな夢さっさと覚めちまえ!』と願わせる方法。
確かにある。だが…これはあまりに…残酷だ…!
「古泉?」「古泉君?」
少し難しい顔をしてしまっていたのか、2人から声をかけられる。
………そうだこれは世界のため。そしてなにより、この2人のため。
覚悟を決めろ!古泉一樹!
2人に近づき肩をがっちりつかむ。彼の。「こ、古泉?」「古泉君?」2人の戸惑いの声。
もう一度よく、自分の中で考えを整理してみる。
長門さんは言った。進化の可能性と。朝比奈さんによると時間の歪みで、僕達機関に至っては神扱いだ。では僕自身にとってはどうなのだ?この2人の存在を、僕はどう認識しているのか……?2人はカップルであってバカップルでしかない。なんてトートロジーで誤魔化すつもりはない。だいたいトートロジーってなに?なんかカッコいいな。トートロジー。今度日常会話で使ってみよう。ちょっと賢そうに見えたりして…話がずれた。
「古泉?」お2人…。
「実は僕、ハルヒ×キョン萌えなんです。」
「は?」
「いつだったか、涼宮さんのダイエットの為にあなた方夫婦が5回ぐらいHするみたいなSS。 あれは反則的なまでに甘くてエロくて軽ボッキを禁じ得ませんでしたよ!」
「なに言ってんだお前?」
なにやら反論してきそうな彼の唇を…僕だって嫌だよ?…無理やり自分の唇で防ぐ。
あーあ、やっちゃった。
閉じた目を恐る恐る開いてみる。目の前には顔を青くして白目をむいている彼の顔面アップが。隣を確認すると、口をあんぐりと開けて驚愕している涼宮さんの顔が見えた。
普通の男なら誰だって今の僕と同じこと思うでしょうよ。一刻も早く離したいね。
次の瞬間、空間がなにやらこうグワングワンと文章では表現できない感じに歪み始め
僕の意識は再び暗転した。
―――――――――現実世界。桃色空間発生地。
会長「も、桃色空間が」橘「桃色空間が、沈む。」
森 「古泉がうまくやってくれなければ、あたし達はあの空間の中で糖死していた。」橘「じ、じゃあ、この世界に古泉さんはいないの?森さん。」森 「いないわ。橘さんの方が聞こえるんじゃないの?」橘 「えっ?」
森 「最近になって出番がやたら多い橘さんの方があたし達よりよほどレギュラーキャラに 近いはずよ。捜して、古泉を。」
橘 「で、でも、どうやって?…わからないわ」会長 「古泉だけいないんだ、わからないかって」橘 「そ、そんなこと言ったって」
多丸(圭)「さっき古泉の声聞こえたろ?」多丸(裕)「うん」
橘 「私がこの場所にたどり着くまではあれほどに。古泉さん。人がそんなに便利になれるわけ、ない」
多丸(圭) 「…そう、ちょい右」多丸(裕)「新川。」新川「そう右」多丸(圭)「はい、そこでまっすぐ」
森 「どうしたの?三人とも」新川「そう、こっちこっち、大丈夫だから」多丸(裕) 「すぐ外なんだから」森 「古泉?」橘「わかるの?ど、どこ?」
多丸(裕)「いい古泉?」
多丸(兄弟)+新川「4、3、2、1、0!」
ボカーーーーーン…!
燃え盛る桃色空間から古泉が飛び出してきた。
古泉「僕にはまだ帰れるところがあるんだ。こんなに嬉しいことはない。わかってくれるよね、 まとめには、いつでも載せられるから。」
「古泉…!」「古泉さん!」
こうして、1人の超能力者の活躍により世界崩壊の危機は免れた。少年は、再び仲間達の元へと帰っていき、仲間達もまた、戻ってきた少年を暖かく向かえいれる。
多丸(圭)「オイ、やったなコイツゥー!」多丸(裕)「心配かけさせやがって、コッノー。」
仲間達からの手厚い歓迎。その喧騒の中、1人の女性が同じように彼の元へやってきた。「古泉。」「森さん…。」彼女は優しく微笑み
「よくがんばってくれたわ。あんたのおかげで、世界は救われた。」肩に手を乗せ、暖かな声で呟く。彼は少し照れたあと、「ええ、でも、まだ終わったわけじゃありません。」改めて決意を固めた表情で、彼はそう言った。「どういうこと?」
「僕は、今回の事件で気付いたんです。桃色空間はなにも、涼宮さんと彼だけが 持っているわけではない。ということを。」「……。」「全ての人、いや、全ての生物の心の中にあるんだってことを…。 そこには人種も、国境も、時空も関係ない。あらゆる時代、あらゆる場所に桃色空間は存在するんです!」
「古泉…。」「だから僕、戦います。この世に桃色空間が存在する限り、戦い続けます!」
「…ええ、そうね。」
彼の決意の言葉を、それぞれが胸に強く刻み込む。
「古泉の言う通りよ。まだ戦いは終わってない。 あたしたちの桃色空間奮闘記は今、始まったばかりなのよ!」
「ああ。」「そうだな。」「やろう。俺たちなら出来る。」「まだしばらく、長い付き合いになりそうだな。」「へへ、違いねぇ。」
全員、手をがっちり握り合う。そう、彼らの戦いは始まったばかり。彼らの桃色空間奮闘記は、今、その幕を開けたのだ!「それじゃあいくわよ野郎共!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
FIN...
「という、オチはどうかしら?」
「…もう色んな意味で台無しですよ。」
「ほんとはね。ラストにエンディングのスタッフロールみたいなのを 流そうと思ってたのよ。」
スタッフロールって、出てるの僕らだけじゃないですか。
「そう、つまんないじゃない?だからやめたのよ。」
…ラストにも結局変なパロディいれてるし、他になにかなかったんですか?
「色々あったわよ。ダイの大冒険ENDとかJOJO第2部ENDとか。」
どっちにしろパロディだったんですね。
「まぁいいんじゃない?最終回だし。好きに書いちゃっても。」
最終回だとかっていうトートロジーでごまかすつもりはありません。
「…あんたトートロジーって言葉の意味分かってんの?」
知りません。
桃色空間奮闘記 完
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