涼宮ハルヒの感染 エピローグ
エピローグ 終業式の日は、雨だった。去年は快晴だったな。俺は今更ながら、1年前にも大きな選択をしたんだということを思い出した。 あのときは世界そのものの選択。 今回は、誰に世界を託すかの選択。 結局、どちらにしても俺は自分の苦労する選択をしちまったわけだ。ハルヒが暴走して、俺が振り回される。この図式はこれからも既定事項なんだろう。 でも、それもいいだろう? 雨でも早朝サイクリングを続けている俺は、今日もハルヒとともに登校だ。俺の後ろで傘を差しているハルヒも結構濡れるはずなのに、送迎を免除してくれはしない。──まあ、俺も休む気はないのだが。 こんな雨では自転車で会話もままならないので、無言のまま駅に着いた。「さ~て、今日は午前中で学校も終わりよ! 放課後は楽しみにしてなさい!」1週間ほど前まで意識不明だったとは思えない元気さで、ハルヒは言った。そう、放課後は去年と同じくクリスマスパーティin部室らしい。「去年より美味しい物を食べさせてあげるから!」俺は去年の鍋を思い出した。あれは旨かったな。ハルヒがあれより旨いって言うんだからここは素直に楽しみにしておこう。「ああ、期待してるぜ」俺がそういうと、にんまり笑って俺を見たが、ふと目を伏せて言った。「みくるちゃんも鶴屋さんも、今年で最後ね……」ハルヒは寂しげな表情をしていた。あの事件の前までは触れることのなかった話題だが、退院してからは話すようになっていた。俺はと言うと、俺の前では素直に不安なことも話せるのか、と内心自惚れている。そんなハルヒも何というか、まあかわいげがあるしな。「まだ直ぐ卒業式って訳じゃないから、今のうちにたくさん楽しめばいいさ」受験生のお二人、すみません。ハルヒに付き合ってやってください。特に、いつかは本当に分かれなくてはならない朝比奈さんは。「お前なら『もう充分』って思わせるくらいに楽しませるだろうさ」俺のセリフにハルヒは笑顔を取り戻した。「そうよ! だから今年はほんとに豪勢にするんだから! みくるちゃんと鶴屋さんにもびっくりしてもらわなくちゃ!」今年は朝比奈さんには手伝ってもらわない気か。「手伝ってもらうわよ! そっから楽しまなくちゃ損じゃない!」準備も楽しみのうちね。確かにそうかもしれないな。「あんたは今年は一発芸を免除してあげるわ。あんたがやっても寒いだけだし」団長様のありがたいお言葉に俺は苦笑した。俺がお笑いに向いてないことにやっと気がついたか。「その代わりキリキリ働くのよ!」そう言って、100Wの笑顔を俺に向けてきた。 それからふと何かに思いついたような、頭の上に電球がともったような顔をすると、突然話を切り替えてきやがった。「あたしが意識なかったときの夢なんだけどさ」この話をされると俺も警戒する。ボロを出すわけにはいかない。「何だ?」なるべくさりげなく答える。「どう考えても不思議なのよね。夢なのに、細かいところまではっきり覚えてるのよ」うっ やっぱりそうか! なんと言って誤魔化す??俺が焦っていると、ハルヒは勝手に続けた。「だから、あれは夢じゃなくて、宇宙人からのメッセージじゃないかしら」 はい? なんとおっしゃいました?「そうよ、きっとあの山にUFOが墜落したのは本当なんだわ! それで助けて欲しくて、あたしにあんな夢を見せたのよ!!!」おい、ちょっと待て!「SOS団にSOSよ!! これは助けに行かなくちゃならないわ!!」何だそのおやじギャグは!!!「冬休みは裏山探検よ! 宇宙人を捕まえに行くんだから!」助けに行くんじゃなかったのか?……やれやれ、さて、どう止めようかね。 しかし、嬉しそうなハルヒの笑顔を見ていると、まあいいかという気にもなってくる。俺が今回の事件で頑張ったのは、この笑顔を取り戻したかったからなんだ。 だったら、ハルヒの気の済むまで付き合ってやってもいいか。 ──それが今、俺にとっての大切な日常なんだから。
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