スイング・矛盾? > 光エンド
「答えを、ください」発表会後。楽器片づけ。古泉一樹は横で切れた弦を取り替えている。血の付いたバイオリン。全てを言い終えたという、すっきりした顔。彼に言わなければならない。「あなたの想いに答えることはできない」と。
あなたは空気だった。いて、当たり前、だった。ちょうど、涼宮ハルヒからみた朝比奈みくるがそうであるように。 水のように当たり前の存在。あなたは最初から当然のようにこの団に存在していた。『全ての音に意味があるように、全てのことには必ず理由がある。当たり前など、この世界に存在しない』全ての音に、意味がある。夏合宿の時。崖から落ちた彼に対して何もできない、不安、に答えてくれた。すべてのことに意味がある。自分で、自分に、矛盾していた。揺れる意味なんて。「…」ない。もう何も話せない。ただ、事実だけを言おう。「わたしはフランスへ…親友のためにも、彼のためにも」期待してくれる、彼らのためにも。わたしを試した佐々木さんのためにも、変な谷口くんの応援のためにも。そして、わたし自身の心のためにも。わたしは揺れない。あなたひとりの勝手にはさせない。わたしはもう迷わない。…ごめんなさい。そう、言いかけた、ちょうどそのとき、古泉一樹は指揮者に呼ばれる。
ある晴れた日のこと
矛盾・終
※悪魔のバイオリン:イタリアのバイオリニスト、ニコロ・パガニーニのこと。演奏会にて、弾いている最中に次々とヴァイオリンの弦が切れていき、最後にはG線しか残らなくなってしまったが、それ一本で曲を弾ききったと言われる。その演奏はあまりに人々の心をかき乱したため、悪魔の声とまで言われた。
光
一面のブドウ畑。円形の小さな街。チャーチオルガンの音が教会に響く。鐘が鳴る。教会に群衆が集まる。歌を、歌をください。毎日を営む、私たちの幸せのために。あなたたちの歌を、幸せをください。わたしはフルートを構え、それに答える。後ろでバイオリンが弓を引く。
発表会
曲目:サルバティオ(救い)今、世界は私たちのもの。さあ聞いて。私たちの揺れを。フルートから聞こえる、光の精霊。バイオリンから聞こえる、暗い世界。明るい光は、暗い闇を切り裂く。輝光、暗闇が対立する。揺れる。 二つはやがて和解し、調和する。光り輝く世界。空のような、淡い青色。さあ、復活のときが来た。歌え、喜びのコラールを。全てを受け入る、優しい伴奏。暖かい舞を踊る、強い主旋律。しかし、この世界は終わらなければならない。だから、その前に伝わってほしい。たたきつける弓。輝くフルート。強く、強く。響孔から響く、街に伝えるおと。この揺れよ、伝われ。伝われ…
彼と佐々木さんが共演したときは、こんな感じだったのだろうか。
今となってはもう分からない。ただ、佐々木さんの交換日記には記そうと思う。
わたしがここにいたことを、
ここで喜びを歌ったことを。青い空が見える。あの時の大豪邸ではない。
明らかに昼で、透明な空気がどこまでもどこまでも続いている。先ほどまで音楽だった、普通で、幸せで、そして美しい音が山をこだましていく。まるで、"音楽からの自由"を祝福するように。
Fine
『この物語はフィクションであり実在する人物、団体、事件、その他の固有名詞や現象などとは何の関係もありません。嘘っぱちです。どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です。ちなみにル・シャ(猫)の音楽院はないし、ジロンド県に国立オケはありません。あ、ワインとかは別よ。ボルドーワインをよろしく! じゃんじゃん買いに行ってあげなさい。え? もう一度言うの? この物語はフィクションであり実在する人物、団体…………。ねえ、キョン。何でこんなこと言わないといけないのよ。あたりまえじゃないの』
ありがとうございました。
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